以前に書かせていただいた不動産売買の現地調査の記事では、物件所在地にて行う調査のノウハウについて解説をいたしました。
またその際、現地調査に並ぶ重要な事項として、役所や法務局で行う「行政調査」にも言及いたしましたが、記事のボリュームの関係上『行政調査についてはまた後日・・・』とさせていただいていたのを、皆様は覚えておられるでしょうか。
そこで本日は、前回保留といたしておりました行政での物件調査方法について、改めて解説させていただきます。
なお行政調査においては、自治体によって役所の担当部署の名称や、一つの部署が管轄する業務の範囲が異なっていることも多いため、本記事でご説明する手順どおりに調査を進められないケースもあるかもしれませんが、
調査の要点をしっかりと把握していれば臨機応変な対応が可能となるはずですから、手順を丸覚えするのではなく「何を調べるのがポイントであるのか」を意識しながら記事を読み進めていただければと思います。

法務局の調査
最近では登記事項の調査に際して、法務局がインターネットにて提供している「登記情報提供サービス」をご利用の不動産業者さんが殆どであるとは思いますが、実は「法務局に出向いたからこそ得られる情報」も意外に多いものです。
例えば、法務局の窓口において謄本を取得する際に「この土地に他の建物は登記されていませんよね?」と尋ねることにより、取引対象の土地に「既に取り壊し済みにも係らず、滅失がなされていない古い建物の登記が残っている」ことに気が付くことができたなんてお話はよくあるものです。(滅失登記未了の土地に関する詳細については、別記事「建物滅失登記をしていない土地の取引体験記!」をご参照ください)
もちろん、登記情報提供サービスを利用した場合でも「地番から建物を特定」していれば、こうしたミスは防げますが、家屋番号を直接入力して検索をしてしまうとこのようなミスを犯してしまうのです。
そこで今回は敢えて、法務局を直接訪問しての調査を前提にお話をさせていただきます。
※1988年の法改正により、登記事務はコンピューターシステム化されることとなり、コンピューター化が完了した法務局で取得する「登記簿の写し」については、登記簿謄本ではなく登記事項証明書と呼ぶのが正しいのですが、不動産業界では未だに「謄本」と呼ばれることが多いため、本書では敢えて『登記簿謄本』の呼称で統一させていただきます。
なお、不動産調査で取得すべき法務局管轄の資料は以下のものとなります。
- 登記簿謄本
- 公図
- 地積測量図
- 建物図面
ある程度の不動産屋さんとしての経験があれば、これらの書類は難なく取得が可能であると思いますので特にご説明することもないのですが、
某大手不動産会社に勤めるキレ者営業マンである管理人の友人は、この調査に際して物件に隣接する全ての土地・建物に関して登記簿謄本を取得するように心掛けているといいます。
もちろんこの方法を行うとなれば、それなりの費用が発生しますし、「そこまでしなくても・・・」と思われるかもしれませんが、これを行うことで『隣接する土地を少々厄介な団体が所有していることが判明した』なんてケースもありますから、トラブル回避のヒントになることも確かです。
よって法務局の調査では「経費を惜しまず、あらゆる情報を取得しておくことが肝要」となるでしょう。
また建物図面に関しては、売主さんも記憶に無かった増築未登記部分を発見することがありますので、図面と現況の違いをしっかり見比べておくようにしましょう。
法令上の制限の調査
用途地域や防火・準防火地域、都市計画施設(道路計画)などの「法令上の制限」を調べる調査となります。
法令上の制限とは「国や地方自治体などが【目指す街づくり】を実現するために、建物の建築や土地利用に関して、各種の法律によって制限を課すこと」を指しますが、こうした制限を見逃せば『不動産の所有者になったにも係わらず、思うとおりの土地利用ができない』といったクレームに繋がることになりますので、決して油断してはならない調査項目となるはずです。
ちなみに多くの自治体では、これらの法令上の制限を一枚の地図に落した図面(都市計画図)を作成し、インターネット上で閲覧できるサービスを実施していますから、調査を行う上で非常に重宝します。
しかしながら、法令上の制限に係わる法令は50種類近くにも及びますから、都市計画図に全ての制限が反映されている訳ではない上、自治体によって反映される情報が異なっている(A市では掲載されていた制限が、B市では反映されていないといった状態)こともありますので、この点には大いに注意が必要となるでしょう。
なお、このような状況に対応するべく私が行っているのは、調査の際に作りかけの重要事項説明書を持ち歩くようにし、役所の担当者に直接重説の書面を見せながら、説明項目を確認をしてもらうという方法です。
この方法なら、調査漏れを防ぐことができるばかりか、不慣れな地域での調査でも「次はどこに窓口に行けば良いか」を的確に教えてもらえますし、「都市計画図に反映されていない法令上の制限がないか?」などの確認も容易になります。
なお、法令上の制限の中には市役所や区役所では管轄していない、国や都道府県扱いの法令もありますので、こうした官庁の所在地を事前に確認し、立ち寄るのに必要な時間を考えた上で、調査日程を組むのがおすすめです。
その他の調査事項
ここまでの調査で、既にかなりの事項についての調査が完了したことと思いますが、まだまだやるべきことがあります。
具体的な例を挙げれば、
接面道路の調査
不動産の調査においては、物件が面する道路についても充分に注意を払う必要があります。
まず最初に確認するべきは「前面道路が建築基準法上の道路であるか否か」となり、これに該当するのならば「どの道路種別に該当するのか」という点も確認しましょう。
また、建築基準法上の道路には公道も私道もありますから、私道である場合には通行や掘削の承諾についてもチェックが必要です。
なお、道路ごとに舗装等級(舗装の種類)を指定されているケースがありますので、この点も確認をしておくべきでしょう。
水道の引込み工事などを行う場合には、公道の掘削、埋戻しが必要となりますが、大通りに面している場合には、この舗装等級の問題で「再舗装に多大な費用が掛かるケース」もあり得ますし、「そもそも掘削の規制がなされている地域」もあるので注意が必要となります。
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水道・下水・ガスの埋設管調査
日々の生活を送る上で、水道・下水・ガスなどは無くてはならない設備となります。
そして通常、これらの設備は前面道路の地下を走る本管と、そこから分岐した引込管を経由して個人宅に引込まれることになります。(当然、プロパンガスの場合は埋設管が不要)
なお、不動産の調査においてはこれらの本管や引込管についても調査(水道・下水・ガスの埋設管調査)を行う必要があるのです。
ちなみに水道についてはエリアを担当する水道局、下水に関しては下水局等で調査を行うことになりますが、本管の位置や管径については、インターネット上で情報を取得できる自治体も増えてきています。
※水道の引込管や宅地内の配管については、水道局に出向かなければ調査することはできません。
※下水については下水道局に出向いても、本管の位置や管径以外の情報はありません。(水道は工事を行うにあたり図面等の提出を求められるが、下水はこうした手続きがありません)
また、都市ガスについては該当地域のガス会社へ調査を行うことになりますが、こちらはインターネット上で引込管まで調査が可能なケースが多いでしょう。
道路区域線図の取得
調査対象の不動産が公道に面している場合には、自治体の担当部署にて道路区域線図(道路査定図)を取得しなければなりません。
道路区域線図とは「自治体等が管理する道路と、これに接する民間の土地の敷地境界を示した図面」となります。
近年では、境界トラブルを防止するために取引対象物件と隣接地の境界を確定した上で売買を行うのが通常ですが、公道に面した物件については自治体(官庁)とも境界を確定する必要がある訳です。
なお、私道については当然ながら道路区域線図は存在しませんので、私道と取引対象物件の間で民間同士の境界確定を行うことになるでしょう。
取引対象の建物に関する建築確認関係の調査
不動産取引の対象となる地域の多くでは、建物を建築する際に「建築確認」と呼ばれる行政の建築許可を取得する必要があります。
そして、この手続きにおいては、建築計画の申請(建築確認申請)を行った上、完成した物件について検査(完了検査)が行われ、これに合格すると検査済証という書面が交付されます。(建物によっては中間検査が行われることもある)
よって、取引対象に建物が含まれている場合には、こうした手続きが適正に行われているか否かを、行政の担当部署にて確認する義務があるのです。
なお、物件の中には建築確認は取得しているが、完了検査は受けていないという物件もありますので、こうした物件では買主に対してその事実を告知する必要があります。
ちなみに、建築確認は地下車庫や擁壁(土留め)等についても取得しなければならないケースがありますから、これに該当する場合には『工作物についても調査が必要』です。
近隣の建築計画の調査
建築確認などを担当する自治体のセクションに足を運べば、近隣で建築確認が下りている場所を確認することができます。
そして、この調査によって取引対象物件の周辺にある大きな空き地などにマンションの建築計画等があることが判明した場合には、後々日照問題等を巡るトラブルに発展する可能性もありますから、しっかりと告知を行うべきでしょう。
また、たとえ戸建ての建築計画でも、取引対象のお隣りなどの場合には騒音等の問題が生ずることもありますし、買主が新築工事を計画しているケースでは、隣家と施工時期がバッティングして工事に着手できないこともあり得ますので、こちらも重要事項の説明に反映させるべきです。
洪水・液状化などハザードマップ系の調査
近年、世間では災害に対する危機意識が高まっていますが、不動産の取引においても災害に関する告知を行う必要があります。
そして、この告知の根拠となるのが自治体発行のハザードマップ等です。
これらの資料はインターネットなどでも閲覧が可能ですが、地域によって様々なパターンのマップが用意されていますから、くれぐれも説明に「漏れ」が生じないようにお気を付けください。
埋蔵文化財
埋蔵文化財の調査は、「古墳や貝塚などの遺跡が売買対象物件の地下に埋蔵されていないか」のリサーチであり、建築工事中に遺跡が出た場合などは、工事が完全に止まってしまうことになりますので要注意の事項です。
また埋蔵文化財を管轄しているのは、行政の中でも教育委員会などの特殊なセクションとなりますから、見落としが無いようにしましょう。
行政調査まとめ
さてここまで、行政調査に関するポイントや注意点などをまとめてまいりました。
これまでの解説をお読みいただければ、行政調査の流れや要点は一通り網羅したことになるはずです。
但し、不動産の物件調査は非常に奥の深いものとなりますから、この記事で得た知識のみで重要事項の説明に臨むのは「まだまだ危険である」というのが実情でしょう。
そして、「行政調査について更に深い知識を身に付けたい」という方に向けては、管理人が出版しているアマゾン・Kindleの電子書籍がおすすめとなりますので、以下で少々ご紹介をさせていただきます。
まず最初にご紹介する上記の書籍では、法務局・道路台帳・建築確認関連の調査ノウハウを解説したものとなります。
また、記事の中でもお話しした通り、法令上の制限については50種類にも及ぶ法令を解説することになりますので、下記の前編・後編2冊に分けて調査のポイントをご紹介してありますので『調査において失敗をしたくない』という方は、是非一度お目通しをいだだければ幸いです。
行政調査においてミスを犯した場合には、購入者から「これでは物件を購入した意味がない!」というヘヴィなクレームが寄せられることも珍しくありませんから、しっかりと知識を身に付け、自信を持って重要事項の説明にあたりたいものですよね。
ではこれにて、「物件調査方法について(行政調査編)」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。