不動産の取引に携わっていると、時折目にするのが「市街地開発事業」なるものです。
また、宅地建物取引士の試験勉強などをしていると、必ず市街地開発事業について学ぶことになりますが、「試験には合格したが、何が要点だったのか判らなかった」という方も少なくないことでしょう。
そこで本日は「市街地開発事業とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、この難解な市街地開発事業というテーマについてお話をしてまいりたいと思います。
市街地開発事業って何だろう?
市街地開発事業を一言で説明するとすれば、「都市計画法に定められた街づくりのための事業」ということになるでしょう。
ただ、こうした簡潔過ぎる説明ではなかなかその本質を捕らえることはできませんので、もう少し話の裾野を広げてみることにいたします。
市街地開発事業について定めている都市計画法が施行された目的は「国土の無秩序な開発を制限し、健全で効率的な都市づくりを実現するため」である旨は、別記事「都市計画とは?わかりやすく解説いたします!」にて解説いたしました。
そしてその目的を達成するための手段として、この法律では地域地区や地区計画、都市計画施設などの制度を設けています。
これらの制度は、ある時は土地の利用方法を制限し、またある時は制限を解除することで、地域が目指す街づくりの理想(マスタープラン)の実現を目指すことになりますが、こうしたソフトな方法(穏やかな方法)だけでは、その理想を実現できないケースもあるものです。
例えば長年に渡り木造の古い家屋が密集している地域を、高層ビル群に改造しようとした場合に、土地の利用に制限を課すだけでは何年経ってもお話が進むはずもありません。
そこで必要となってくるのが、より積極的に用地の買収を行い、目的達成の障害となる土地の売買などに規制を課することができる「事業という手段」であり、この事業をことを市街地開発事業と称しているのです。
なお、都市計画法ではこの市街地開発事業にいくつかの形態を定めている上、その準備段階と呼べるフェーズも用意されておりますので、次項からより具体的にご説明してまいります。
市街地開発事業の準備段階
さて、理想の街づくりを一気に行う市街地開発事業ですが、これを行うためには「それなりの準備段階」も必要となってくるものです。
また、この準備段階にも目指す事業によって様々な種類がありますので、以下で解説を行っていきます。
促進区域
都市計画事業の準備段階の一つとなるのが「促進区域」なるものであり、下記の4種類が定められています。
市街地再開発促進区域
既存都市の再開発などを行う際に計画される「市街地再開発事業」の準備段階となります。
住宅街区整備促進区域
「住宅街区整備事業」という事業計画の準備段階であり、わかりやすく言えばマンション建設をメインに据えた区画整理といったものになるでしょう。
土地区画整理促進区域
名称からすると、皆様お馴染みの「土地区画整理事業の準備段階」と思われがちですが、実は前項でご紹介した住宅街区整備促進区域と同様に「住宅街区整備事業の準備段階」です。
住宅街区整備促進区域は「主にマンション建築を目的としている」とご説明しましたが、『土地区画整理促進区域は戸建てを主に建築するエリア』に設定されるものとなります。
実は住宅街区整備事業では、「マンションを建てるべきエリア」と「戸建てを建てるべきエリア」が共に計画される場合があり、このパターンでは『一つの住宅街区整備事業に対して土地区画整理促進区域と住宅街区整備促進区域の双方が指定される』という訳です。
拠点業務市街地整備土地区画整理促進区域
そして4つめの促進区域となるのが、商業地版の区画整理ともいうべき拠点業務市街地整備土地区画整理促進区域となります。
さて、ここまで促進区域の種類を見てまいりましたが、これらの区域では土地利用の制限も開始されることとなっており、「市街地再開発促進区域」においては建物の新築に際して知事の許可が必要となります。
一方、「土地区画整理促進区域」「住宅街区整備促進区域」「拠点業務市街地整備土地区画整理促進区域」に関しては、建物の新築・増改築等に加え、土地の開発行為についても知事の許可が必要です。
予定区域
促進区域に続いてご紹介するのが、もう一つの市街地開発事業の準備段階となる「予定区域」なる代物です。
※促進区域と予定区域の違いは事業の手法の差によって生じるものとなりますが、それぞれ「促進区域→事業開始」「予定区域→事業開始」といった具合に、市街地開発事業の準備段階として指定される区域となります。
また、予定区域には6つの種類がありますので、以下で解説してまいります。
新住宅市街地開発事業予定区域
ニュータウン開発を目指すために設定されるのが、こちらの予定区域となります。
工業団地造成事業予定区域
近畿圏および首都圏にて工業団地を造る目的で設定される予定区域です。
新都市基盤整備事業の予定区域
住宅だけでは収まらず「新しい街を丸々一つ造ってしまう計画」に用いられる予定区域となります。
20ha以上の一団地の住宅施設予定区域
広大な住宅地(20ha以上=200000㎡以上)の建造を目指して設定される予定区域です。
一団地の官公庁施設の予定区域
役所などが一団となっている官庁施設を建造するための予定区域となります。
流通業務団地の予定区域
物流ターミナルなどで働く方々のための団地を造る際に設定される予定区域です。
そして、これらの予定区域でも土地利用の制限が課せられることとなっており、一定の開発行為や建物の建築、工作物の設置にも知事の許可が必要となります。
また、「予定区域の不動産を売却する際には、事業者に対して届出を行うルール」となっており、届出を受けた『事業者は優先的に土地の購入が可能』です。
一方、土地所有者が事業者に対して「買取りを求めた場合」には、『時価でこれを買取らなければならない』と定められています。
促進区域や予定区域を指定しないケース
ここまで「促進区域」と「予定区域」という事業準備段階についてお話ししてきましたが、実はこの2つの区域を設定せずに「市街地開発事業の準備を行う方法」も存在しており、これを「事業の計画決定」と呼んでいます。
なお事業の計画決定については、下記の制限が計画対象地域に課せられます。
- 建物の新築・増改築に対して知事の許可が必要
- RC造(鉄筋コンクリート造)やSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)での建築は不可
- 地階を含む階数3階以上の建物は建築不可(但し、条例にて3階建てを許可している自治体もあります)
※上記の制限は別記事「都市計画道路の土地売買を徹底解説!」にてご紹介した都市計画施設の計画決定時の制限と同様のものです。
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市街地開発事業の開始(事業決定)
ここまでお話ししてきた事業の準備段階(予定区域・促進区域等の指定)を経て、事業認可の告示が完了すれば、いよいよ市街地開発事業が開始される段階(事業決定)となります。
そして事業が始まるとなれば、準備段階以上に厳しい制限が加えられることとなり、『建物の新築や増改築、工作物の建設および5トン超の物件設置、開発行為等に知事の許可が必要(すべての事業共通の制限)』です。
また予定区域と同様、土地譲渡にあたっては優先的に事業者がこれを購入できることに加え、所有者は事業者へ時価での土地買取請求を行うこともできます。
なお、都市計画法に定められた市街地開発事業等は以下の7種となりますが、先程ご紹介した「すべての事業共通の制限」の他にも「各事業特有の制限」がございますので、ご紹介してまいりましょう。
新住宅市街地開発事業
新住宅市街地開発事業にて土地を取得した者は3年以内(建物の規模次第では5年以内のケースもある)に建物を建設する義務を負う(後から土地を購入した者も同様)上、事業完了後10年間は不動産取引に際して知事の承認が必要です。
工業団地造成事業
この事業が終了した後も、10年間は「造成工場敷地」の不動産取引に際して知事の承認が必要となります。
防災街区整備事業
防災街区整備事業では工事完了の公告までの期間、「個別利用区」の使用収益ができない期間があります。
市街地再開発事業
市街地再開発事業については、前述の「すべての事業共通の制限」以外が課せられることはありません。
土地区画整理事業
本事業については換地や仮換地等に際して、「従前地の使用収益が不能」等の制限が課せられます。
住宅街区整備事業
前項の土地区画整理事業と同様に、換地に係わる土地利用の制限が発生します。
新都市基盤整備事業
新都市基盤整備事業にて、共同利便施設(売店など)として使用するべき土地を得た者は2年以内に建物を建設する義務があります。
なお、本事業で定められる開発誘導地区に関しては、換地処分後10年間、不動産の売却・賃貸について知事の承認が必要です。
ちなみに本事業でも、仮換地、換地処分などが行われますので、これに伴う土地の利用制限が課せられます。
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市街地開発事業まとめ
さてここまで、市街地開発事業というテーマにて解説を行ってまいりました。
都市の在り方を激変させる市街地開発事業では、他の法令上の制限とは異なる様々なルールがあることをご理解いただけたことと思います。
また不動産業者さんの中には「市街地開発事業に係わる土地の取引は未経験」という方が多いはずですし、こうした取引が非常にレアなケースであることは間違いありませんが、万が一こうした物件の取引に遭遇した場合には是非とも本記事をご参考にしていただければ幸いです。
ではこれにて、「市街地開発事業とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。