不動産の物件調査や重要事項説明書の作成をしていると、都市計画情報の中に「市街地開発事業」という言葉が出てくることがあります。
市街地開発事業には、土地区画整理事業や市街地再開発事業など複数の種類があり、事業の種類や進行段階によって、建築や土地の利用、売買に関する取扱いも変わります。
また、「都市計画として決定された段階」と「都市計画事業の認可・承認が告示された段階」では、確認すべき規制が異なります。この違いを理解せずに調査を進めると、重要な制限を見落としかねません。
この記事の要点
- 市街地開発事業は、市街地を面的かつ計画的に整備する事業
- 都市計画法に定められた市街地開発事業は7種類
- 促進区域・予定区域は、事業そのものとは別の都市計画上の仕組み
- 都市計画決定後と事業認可後では、建築等の制限や許可の根拠が異なる
- 不動産取引では、事業の種類だけでなく現在の進行段階まで確認することが重要
本記事では、市街地開発事業の基本から7種類の事業、促進区域・予定区域、土地や建物に関する規制まで、不動産実務の視点からわかりやすく解説します。

市街地開発事業とは
市街地開発事業とは、都市計画法に基づき、市街地を面的かつ計画的に整備する事業です。
用途地域や高度地区などの地域地区は、建築物の用途・高さ・規模などのルールを定め、土地利用を誘導する制度です。一方、市街地開発事業では、道路や公園などの公共施設を整備しながら、宅地の形状を整えたり、建築物と敷地を一体的に再編したりします。
ただし、市街地開発事業のすべてが、事業区域内の土地を買収して進められるわけではありません。
例えば、土地区画整理事業では「換地」という方法を用いて土地の配置や形状を組み替えます。市街地再開発事業では、従前の土地・建物の権利を再開発後の建物や敷地に移す「権利変換」が用いられることがあります。
現場メモ
市街地開発事業は「行政が土地を買い取って街を造り直す制度」と一括りにはできません。用地買収、換地、権利変換など、事業ごとに整備手法が異なります。
都市計画法に定められた市街地開発事業は7種類
都市計画法第12条では、次の7種類が市街地開発事業として定められています。
- 土地区画整理事業
- 新住宅市街地開発事業
- 工業団地造成事業
- 市街地再開発事業
- 新都市基盤整備事業
- 住宅街区整備事業
- 防災街区整備事業
それぞれの特徴を見ていきましょう。
1.土地区画整理事業
土地区画整理事業は、道路や公園などの公共施設を整備・改善しながら、宅地の区画や形状を整える事業です。
代表的な仕組みが「換地」と「減歩」です。土地所有者から事業に必要な土地を単純に買い取るのではなく、従前の土地に代えて整理後の土地を割り当て、各所有者が少しずつ土地を提供することで公共用地などを生み出します。
事業中は、仮換地の指定や使用収益の停止によって、従前の土地を自由に使用できない期間が生じることもあります。
2.新住宅市街地開発事業
新住宅市街地開発事業は、人口が集中する市街地の周辺などで、まとまった規模の住宅地を計画的に整備する事業です。
住宅用地だけを造成するのではなく、道路、公園、学校などの公共施設や公益的施設を含め、新しい住宅市街地を一体的に整備することを目的としています。
造成宅地の処分や、取得後の建築義務、一定期間の権利処分などについて、個別法による規制が設けられる場合があります。
3.工業団地造成事業
工業団地造成事業は、工場敷地と道路などの公共施設を計画的に整備する事業です。
首都圏や近畿圏における工業都市の整備などに関する法律に基づいて行われ、造成後の工場敷地については、一定期間、所有権移転などに承認が必要となる場合があります。
4.市街地再開発事業
市街地再開発事業は、老朽建築物が密集している地域や、土地が細分化され有効利用が進んでいない地域などで、建築物と敷地、道路・広場などの公共施設を一体的に整備する事業です。
従前の土地・建物の権利を、再開発後の建物の床や敷地に移す「権利変換」が用いられるのが代表的な特徴です。
一般に「駅前再開発」と呼ばれる事業の中には、この市街地再開発事業として行われるものがあります。
5.新都市基盤整備事業
新都市基盤整備事業は、大都市圏における新しい都市の基盤を整備し、人口や都市機能の適正な配置を図るための事業です。
道路などの根幹的な公共施設を整備しながら、開発誘導地区などを定め、計画的な市街地形成を進めます。換地の仕組みが用いられ、土地の利用や処分について個別法上の制限が関係することがあります。
6.住宅街区整備事業
住宅街区整備事業は、大都市地域において、住宅や住宅地の供給と公共施設の整備を一体的に行う事業です。
共同住宅を整備する区域と、それ以外の宅地、道路や公園などを計画的に配置し、換地などの手法によって住宅街区を整備します。
単に「マンション建設を目的とした区画整理」と説明するのではなく、住宅・宅地と公共施設を一体的に整備する制度として理解する必要があります。
7.防災街区整備事業
防災街区整備事業は、老朽化した木造建築物が密集し、火災時の延焼など防災上の危険性が高い地域において、防災性能の高い建築物や道路・公園などを整備する事業です。
密集市街地の防災性を高めることを目的として、建築物や敷地、公共施設を一体的に整備します。
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促進区域とは
促進区域とは、一定の市街地開発事業を計画的に促進するために、都市計画で定める区域です。
促進区域には次の4種類があり、それぞれ対応する事業が異なります。
| 促進区域 | 対応する事業 |
|---|---|
| 市街地再開発促進区域 | 市街地再開発事業 |
| 土地区画整理促進区域 | 土地区画整理事業 |
| 住宅街区整備促進区域 | 住宅街区整備事業 |
| 拠点業務市街地整備土地区画整理促進区域 | 土地区画整理事業 |
促進区域は、市街地開発事業そのものではありません。また、単に「事業開始前の準備区域」とだけ説明すると、制度の位置付けを正確に表せないことがあります。
促進区域内では、建築行為や土地の形質変更などに許可が必要となる場合があります。ただし、対象となる行為や許可権者は、区域の種類と根拠法によって異なります。
注意点
「土地区画整理促進区域」は土地区画整理事業に対応する区域です。住宅街区整備事業に対応するのは「住宅街区整備促進区域」であり、両者は別の制度です。
市街地開発事業等予定区域とは
大規模な市街地開発事業や都市施設を計画的に実施するため、将来の事業区域をあらかじめ都市計画に定める仕組みが「市街地開発事業等予定区域」です。
都市計画法第12条の2では、次の6種類が定められています。
- 新住宅市街地開発事業の予定区域
- 工業団地造成事業の予定区域
- 新都市基盤整備事業の予定区域
- 区域の面積が20ヘクタール以上の一団地の住宅施設の予定区域
- 一団地の官公庁施設の予定区域
- 流通業務団地の予定区域
このうち、最初の3つは市街地開発事業の予定区域です。一方、一団地の住宅施設、一団地の官公庁施設、流通業務団地は都市施設に関する予定区域です。
流通業務団地は、そこで働く人の住宅団地ではありません。トラックターミナル、卸売市場、倉庫などの流通業務施設を計画的に集約するための団地です。
予定区域内では、土地の形質変更や建築物の建築、工作物の建設などについて許可が必要となる場合があります。また、土地の有償譲渡について届出や先買いに関する規定が適用されることがあります。
市街地開発事業と規制の進み方
市街地開発事業に関係する土地を調査する際は、「市街地開発事業の区域に入っているか」だけでは足りません。現在、どの段階まで進んでいるのかを確認する必要があります。
都市計画決定後の建築制限
市街地開発事業が都市計画として決定されると、原則として、その施行区域内で建築物を建築する場合には、都市計画法第53条に基づく都道府県知事等の許可が必要になります。
都市計画法第54条では、許可しなければならない建築物の基準として、主に次の条件が定められています。
- 階数が2以下で、地階を有しないこと
- 主要構造部が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造などであること
- 容易に移転または除却できるものであること
ただし、これは「この条件を外れる建物が法律上一律に建築禁止になる」という意味ではありません。区域や事業の状況、自治体の運用によって取扱いが異なるため、許可権者への確認が必要です。
また、自治体の条例によって、階数に関する基準が緩和されている場合もあります。
事業認可・承認の告示後の制限
都市計画事業の認可または承認が告示され、対象地が事業地となった後は、都市計画法第65条に基づく制限が関係します。
事業地内で次のような行為を行う場合、原則として都道府県知事等の許可が必要です。
- 土地の形質変更
- 建築物の建築
- その他の工作物の建設
- 移動が容易でない物件の設置または堆積
都市計画決定後と事業認可後を混同しない
都市計画決定後の都市計画法第53条による建築許可と、事業認可・承認の告示後の第65条による許可では、対象となる行為や審査の考え方が異なります。重要事項説明書を作成する際は、現在の事業段階と申請窓口を確認したうえで記載する必要があります。
土地・建物を売買するときの取扱い
予定区域や事業地内では、その段階や適用条文によって、土地・建物等の有償譲渡に関する届出や、事業施行者による先買いなどの規定が関係する場合があります。
一方で、「区域内であれば、所有者がいつでも事業者に時価で買い取らせることができる」と一律に説明することはできません。建築許可が得られない場合の土地の買取りに関する制度などもありますが、適用要件や申出先は個別に確認する必要があります。
売買対象地が市街地開発事業に関係する場合は、都市計画図だけで判断せず、自治体の都市計画担当部署と事業担当部署の双方で確認することが大切です。
不動産取引で確認したいポイント
市街地開発事業に関係する物件を調査する際は、少なくとも次の項目を確認します。
- 市街地開発事業の種類
- 都市計画決定の有無と決定年月日・告示番号
- 事業認可または承認の有無と告示年月日
- 対象地が施行区域・事業地に含まれるか
- 事業施行者と担当窓口
- 建築や土地の形質変更に必要な許可
- 仮換地指定、使用収益停止、権利変換などの状況
- 土地・建物の譲渡に関する届出や制限
- 事業完了の見込みと換地処分・工事完了公告の状況
現場メモ
都市計画担当部署では都市計画決定の内容を確認できても、仮換地や補償、工事工程などの詳細は別の事業担当部署で管理していることがあります。「都市計画課で確認したから調査終了」とせず、施行者や事業担当部署にも確認することが重要です。
市街地開発事業についてのよくある質問
市街地開発事業の区域に入ると、土地は必ず買収されますか?
必ず買収されるわけではありません。土地区画整理事業では換地、市街地再開発事業では権利変換が用いられることがあります。事業の種類、施行方式、個別の事業計画によって取扱いが異なります。
都市計画決定されると、建物はまったく建てられませんか?
一律に建築禁止となるわけではありません。都市計画法第53条の許可が必要となるのが原則で、建築物の構造・階数や事業の進捗などによって判断されます。
促進区域に指定されると、すぐに事業が始まりますか?
促進区域の指定だけで、市街地開発事業の工事が直ちに始まるわけではありません。事業の都市計画決定や認可など、その後の手続と進捗を確認する必要があります。
流通業務団地は、物流施設で働く人の住宅団地ですか?
違います。トラックターミナル、卸売市場、倉庫などの流通業務施設を計画的に集約するための団地です。
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市街地開発事業まとめ
市街地開発事業とは、道路や公園、宅地、建築物などを面的かつ計画的に整備する事業です。都市計画法では7種類が定められていますが、整備の目的や手法はそれぞれ異なります。
また、促進区域や予定区域の指定、事業の都市計画決定、都市計画事業の認可・承認と進む中で、土地や建物に関係する制限も変化します。
不動産取引で重要なのは、区域に該当するかどうかだけでなく、次の3点を分けて確認することです。
- どの事業・区域に該当するのか
- 現在どの段階まで進んでいるのか
- その段階で、誰の許可やどのような届出が必要なのか
市街地開発事業は複数の法律が関係する複雑な制度です。実際の取引では、自治体の都市計画担当部署、事業担当部署、事業施行者などに最新の状況を確認したうえで判断しましょう。
現場を知るから、本当に役立つ。
主な参考資料
※本記事は市街地開発事業の一般的な制度を解説したものです。実際の規制内容や手続は、事業の種類、進行状況、地域、条例等によって異なります。個別の不動産については、関係行政庁や事業施行者へご確認ください。







