マイホーム購入を目指して物件探しをしている際、販売図面の備考欄などに時折見かけるのが「建築協定あり」や「地区計画あり」といった文言です。

どちらもあまり聞き慣れない言葉であることは確かですし、「建築に関する制限」という漠然とした内容は理解できても、その詳細についてはなかなか知る機会がありませんよね。

もちろん、これらの制限が掛かった地域の物件を購入するのであれば、重要事項の説明などで仲介業者から詳しい説明を受けられるでしょうが、これらの事項は物件の将来に大きな影響を及ぼす規制となりますから、事前に知っておいて決して損はないはずです。

そこで本日は「建築協定と地区計画の違いを解説いたします!」と題して、この2つの制度の違いや、特性について解説してみたいと思います。

建築協定と地区計画の違い

 

地区計画

ではまず、地区計画の内容からご説明してまいりましょう。

普段、何気なく暮らしている私たちの街にも、様々な「決まり事」があるものです。

ゴミの分別のルールに始まり、小学校や中学校の学区などもそれに当たりますが、実は「街づくり」に関しても自治体が決めた方向性が定められており、これを都市計画と呼んでいます。

そして、都市計画においては「市街化を進める地域」「市街化を抑制する地域」などを定めた上で、更に用途地域高度地区、そして防火地域などを指定して、『目標とする街づくり』の実現を促しているのです。(土地利用に制限を定めることで、都市計画に反した街づくりが行えないようにしている)

しかしながら用途地域などの指定は「ある程度まとまった面積ごとに行うもの」となっているため、『広い範囲にざっくりとしたルール』しか定めることができず、ピンポイントで土地の利用に制限を課することが困難でした。

そこで出番となるのが、非常に小さなエリアでの土地利用や建築への制限を行うのに適した「地区計画」という制度となる訳です。(用途地域等と同じく、地区計画もまた都市計画法上に定められた法令上の制限となります)

*法令上の制限とは、無秩序な街づくりを抑止するために、法律によって土地の利用や建築物の規模などに一定のルールを課する制度のことを指します。

例えば地区計画を利用すれば、「ビルが立ち並ぶオフィス街ではあるが、そこにあるお寺の周辺だけは高層ビルが建てられない」というような自由な街作りも可能となりますから、これはなかなか便利な制度と言えるでしょう。

なお、実際の地区計画の設定については自治体(市区町村)などが主体となっり、建築基準法第68条2の定めに従って手続きを進めていく(自治体が条例で定める)ことになります。(地区計画は都市計画法による制度となりますが、実際の運用上のルールは建築基準法にて定められています)

そして地区計画においては建物に対する建築制限はもちろん、道路や公園などの地区施設(「地区計画版の都市計画施設」とも言うべきもの)の設置を行うことも可能です。

一方、地区計画が定めらエリアで建築等を行う場合には、工事着手の30日前までに自治体への届出が義務付けられることになりますのでご注意ください。

ちなみに、地区計画の設定に際しては地域に住まう方々の賛同が必要となりますが、必ずしも全員の了解は必要としない上、一度地区計画が定められれば、その区域に住まう地権者全員がこれに従う義務を負うこととなるのです。

また、地区計画の設定以後は用途地域などの法令上の制限と同等の扱いを受けますから、廃止や変更には複雑な手順を踏まなければなりませんし、取り決めに反した建築を行おうとする者には「建築確認を下さない」などの制裁措置も可能となります。

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建築協定

これに対して建築協定は建築基準法69条を根拠とした手続きとなり、制度の外観も「地区計画と非常に似たもの」として知られていますが、実は大きく異なる点も少なくありませんので注意が必要となります。

地区計画と同じく、一定のエリアに「最低敷地面積」や「高さ制限」等の建築制限を設ける制度となる建築協定ですが、その最大の違いはあくまで「住人が主体となって制定するもの」であるという点であり、地区計画が都市計画法という公法上のルールであるのに対して、建築協定は「私的な契約(私法上の制限)」となっているのです。

例えばある地域の住民が、自分の住む周りのエリアを田園調布のように『一軒一軒の敷地が広大な高級住宅地にしたい』と考えたとしましょう。

そして周囲で声を掛け合い、このアイデアに賛同する者達が一定数集まったところで具体的なプラン(敷地面積の大きさや、協定の継続期間、違反者への罰則)を取り決め、特定行政庁に認可の申請を行うというのが、建築協定を設定するためのファースステップとなります。

もちろん、特定行政庁が認めなければ建築協定は効力を持ちませんが、もしもここで認可が得られれば、地域住民によるオリジナルの建築制限区域が誕生することになるのです。

さて、このようなお話をすると「高層ビルが建てられる建築協定区域を作り、地価を吊り上げよう!」などという考えを持たれる方もおられるかもしれませんが、原則として『建築協定によって本来定められている用途地域などの規制を緩和することは許されません』から、むしろ「規制を強化する方向のみ」に利用されることになるでしょう。

*例えば「100㎡の最低敷地面積が定められた地域」を、建築協定によって最低敷地面積150㎡とする制限の強化は可能ですが、80㎡とする制限の緩和は許可されない。

なお、協定立ち上げには対象区域の土地を所有する者全員の賛同が必要であり、反対する者が居れば「その者の所有地を避けて設定」しなければなりませんから、実際の協定区域を見ると非常に『いびつ』な形状をしたものも少なくありません。

またこの制度では、「一人協定(いちにんきょうてい)」というパターンが許されているのも特徴的です。

これは不動産業者が50棟、60棟など戸数の多い分譲地を販売する際に利用する制度であり、デベロッパーが自分で作り出した街に「独自のルール」を設けることが可能となります。

さて、このようなお話をすると「そんなことをして何かメリットがあるの?」というお声も聞えて来そうですが、『建築協定がありますから、周囲に高いビルやマンションが建つ可能性は低いですよ』と言われれば、分譲地の購入希望者には非常にありがたいメリットとなるはずです。

ちなみに「指定区域内で建築協定に違反した建物を建ててしまった場合」については、あくまでも民間人同士の協定であるため、地区計画のように『建築確認を下さない』などというペナルティーが課せられることはありません。

但し、協定は一種の契約として解釈されるため、建築協定を運営する側(周辺住民で構成される委員会等)から訴訟などを起こされる可能性が高いでしょう。

また、一度制定された建築協定を廃止するためには、指定区域住人の1/2の賛同が必要となりますので容易にこれを廃止することはできません。(協定の内容を変更する場合には指定区域住全員の賛同が必要です)

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地区計画・建築協定まとめ

さてここまで、地区計画と建築協定の違いについてお話ししてまいりました。

どちらも非常に狭い地域に「一定の土地利用や建築の制限」を加える制度となりますが、その中身については『かなり異なる制度である』ことをご理解いたけたことと思います。

なお、地区計画が「現在でもその指定区域を徐々に増やし続けている状態」であるのに対して、建築協定は全国で年間100ヵ所以上が新規に認可を受けているといいますから、物件を購入する際には是非ともご注意いただきたいところです。

ちなみに「土地利用や建築の制限」という言葉からは、何やら煩わしいイメージを感じられるかもしれませんが、制限の内容次第では快適な住環境を長期に渡って確保することが可能となりますから、『敢えてこうした制限があるエリアを選択すること』もマイホーム選びの一つのテクニックと言えるでしょう。

また、建築協定や地区計画と似た言葉で「紳士協定」というものが存在しますが、こちらは地域住民が自主的に定めるルール(申し合わせ事項)であり、法的な拘束力はありません。

ではこれにて、「建築協定と地区計画の違いを解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたと思います。