2020年は約120年ぶりに民法が大改正されるなど、法律の分野においては正に「激動の年」となりました。
そして、この激動に合わせて「今まで使用していた契約書等の内容変更」を強いられることになった業界も多かったと聞きますが、不動産業界もまた『この激震の影響をもろに受けた職種』の一つであったことは疑いがありません。
また民法改正というビッグなニュースによって全く目立ってはいませんが、2020年の8月には宅地建物取引業法において改正が行われ、不動産取引には欠かせない重要事項説明の内容に変更(追加説明事項)が加えられることになったのですが、この点については『世間一般に殆ど知られていない』というのが実情でしょう。
そこで本日は「重要事項説明とハザードマップについて解説いたします!」と題して、地味な変更ではあるが非常に重要な意味を持つ、宅建業法と水害ハザードマップの扱いについてお話ししてみたいと思います。
宅建業法改正の主旨と内容
ではまず最初に、ハザードマップに係わる宅建業法改正の主旨と内容についてご説明して行きましょう。
この法改正が行われたのは2020年8月28日のことであり、具体的な変更点は宅地建物取引業法施行規則第16条、19条の一部についてとなります。
なお、宅地建物取引業法施行規則においては「不動産取引を行う者の判断に重要な影響を及ぼす事実は説明するべし」と定めていますが、今回の改正ではこの説明事項の中に『水防法におけるハザードマップにて、対象物件の所在地がどのような指定を受けているか』という項目を追加することになったのです。
また、この改正において説明の対象となる取引は、売買・交換・賃貸となりますので、2020年8月28日以降はほぼ全ての不動産取引において、水害ハザードマップの内容を説明することが義務付けられたことになります。
そしてハザードマップについては、本ブログの過去記事「ハザードマップとは?わかりやすく解説いたします!」にて詳しくご説明しておりますが、簡単に申し上げれば「災害による被害の予想地図」という意味であり、市区町村から民間団体が発行するものまで様々な種類が存在しますが、
本改正では『取引対象となる物件が所在する地方自治体の長が水防法施行規則11条1号に基づいて提供する図面』との指定がありますので、説明の根拠とする図面の種類にも注意を払う必要があるでしょう。
ちなみに、これまでも売買の取引などにおいては「仲介業者が自主的にハザードマップを重要事項説明の参考資料として添付している」のを目にすることがありましたが、近年のゲリラ豪雨や台風が及ぼす甚大な被害を受け、遂に法令によって説明を行うことが義務付けられたのです。
さて、ここまでの解説をお読みくだされば、今回の宅建業法の改正の主旨や内容についてはおおよそご理解いただけたことと思いますが、実務を行う上では「まだまだ情報不足の感」が否めないでしょうから、次項では更に具体的なご説明を行っていきます。
実務におけるポイントと注意点
前項でも解説した通り、2020年8月28日以降の売買・交換・賃貸の取引においては『取引対象となる物件が所在する地方自治体の長が水防法施行規則11条1号に基づいて提供する図面』において、物件の所在地を示すことが義務付けられています。
なお、町レベル、村レベルといった具合に各自治体が様々なハザードマップを公開している時代ですから、該当する地域においてどの図面が「水防法施行規則11条1号に基づいて提供する図面」に該当するかを行政にしっかりと確認する必要があるでしょう。
また、一口に水害ハザードマップと言っても「洪水マップ(洪水浸水想定区域)」「内水マップ(雨水出水浸水想定区域)」「高潮マップ(高潮浸水想定区域)」の3種類がありますし、地方自治体によっては『高潮マップだけは、まだ未作成』という場合や、『洪水マップは全部で3種類ある』といったケースも考えられますのでご注意ください。
※未作成のマップについては「未作成の事実をそのまま伝える」しかありませんが、複数の地図が存在する場合にはその全てを資料として添付しておくべきでしょう。
ちなみに、宅建業法上では「ハザードマップ上で所在地を示す」のがルールですから、必ずしも地図上の所在地に『しるし』を付ける必要はありません。
ハザードマップは広い地域の情報をカバーしているケースが殆どですから、広大な地図の中から正確に物件の位置を示すことは困難な作業となりますし、
万が一『しるし』の位置を誤ってしまった場合には「事実と異なる情報を提供した」と言われる可能性もあるでしょうから、指でおおよその位置を指し示した上で、「想定される浸水の被害(「50cm未満」など被害想定の内容)」についても具体的な説明は避けた方が賢明かと思います。
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重要事項説明書・添付資料の作成
では前項の説明のポイントと注意点を踏まえた上で、重要事項説明書や添付資料の作成の要点を見て行きましょう。
まず、重要事項説明書のひな形についてですが、洪水・内水・高潮に関して
- ハザードマップの存在の有無
- マップが存在する場合は、その地図の名称
- マップ上の情報についての紹介先(〇〇市役所△△課など)
などの情報を記入した上で、「詳細については別添(添付)資料(ハザードマップ)を参照のこと」と記載します。
また調査の結果、ハザードマップが存在しない場合には「高潮ハザードマップは未作成(〇〇市役所△△課にて確認)」などの記載をしておくべきでしょうし、マップが存在する場合でも「ハザードマップに記された情報は将来的に変更される可能性があります」などの注意書も加えておくべきです。
続いては添付資料についてですが、まずは該当する全てのハザードマップをプリントアウトして資料の作成を行います。
なお先程もご説明した通り、ハザードマップは広い範囲をカバーしているケースが多いためA4の用紙では物件の位置が把握し辛いですから、可能であればA3の用紙に印刷を行うのが望ましいでしょう。
また、地図上の物件の位置に「しるし」を付けない場合には、物件所在地の周辺部分のみを別紙に拡大コピーして『参考図』として添付するのがベターです。
ちなみに、ここからは宅建業法で義務付けられた内容ではありませんが、物件所在地の地域防災拠点や広域避難場所などを示したマップや、地震や液状化の被害想定を示した他のハザードマップを添付することで、より丁寧な説明となるでしょう。
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重要事項説明とハザードマップまとめ
さてここまで、「重要事項説明とハザードマップ」というテーマで、2020年の宅建業法改正の内容について解説してまいりました。
売買の取引においては、「既に自主的に各種ハザードマップを重要事項説明書の資料として添付している」という方もいらっしゃったことと思いますが、賃貸でもこれが義務化されたのは「管理人的には少々驚き」でした。
ただ、毎年ようにゲリラ豪雨や台風の甚大な被害が発生していますから、「今回の宅建業法改正は避けられないもの」であったのかもしれません。
なお、水害ハザードマップ以外の地図(地震や噴火など)については現在のところ「説明の義務化」といった話題は出ていないようですが、売買の取引においては可能な限りの情報をお客様に提供して、取引上の紛争を回避するよう努めるべきかと思います。
ではこれにて、「重要事項説明とハザードマップについて解説いたします!」についての知恵袋を閉じさせていただきます。