不動産売買においては、取引上のトラブルを回避するために都市計画や登記上の問題などを調べる役所調査建物の瑕疵や地中埋設物など関しての現地調査など様々な調査が行われます。

そして、こうした調査において「物件の問題点は取引前に全て明らかになる」のが通常ですが、時にはこうしたチェックに漏れが生じることもあり、その中でも意外に多いのが「過去に建っていた建物の滅失登記が行われていない」というケースなのです。

そこで本日は「建物滅失登記をしていない土地取引について解説いたします!」と題して、滅失登記未了物件の問題点や、管理人が実際に経験したトラブル体験記をお届けしてみたいと思います。

建物滅失登記をしていない

 

建物滅失登記について解説

ではまず最初に「そもそも建物滅失登記とは何なのか」という点からお話を進めてまいりましょう。

建物滅失登記とは

不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)は「表題部」や「権利部」というパートによって構成されていますが、その中でも対象となる土地や建物の概要を記載した項目(物件の特定を目的とした項目)を「表題部」と呼んでおり、このパートに係わる登記を表示登記と呼んでいます。

そして、建物が新たに建築された場合などには法令(不動産登記法)によって表示登記を行うことが義務付けられているのですが、実は

「建物が取り壊された場合」や「火災などで焼失してしまったというケース」でも登記が必要とされており、この際に行われるのが『建物滅失登記』

となるのです。

なお、建物滅失登記は不動産登記法第57条にその定めが記されており、

  • 登記を行う期限/解体から1ヵ月以内
  • 未登記の場合の罰則/10万円以下の過料
  • 登記の義務者/建物所有者または登記名義人

というのが運用上のルールとなります。

ちなみに、固定資産税等は1月1日現在の建物登記名義に対して課税されることになりますが、この建物滅失登記が行われると課税台帳からも建物が抹消されることになるのです。

建物滅失登記の手続き

さて、実際に建物滅失登記を行う場合にはどのような手続きが必要になるのでしょうか。

建物滅失登記の名義人は建物所有者等となりますので、もちろん一般の方が自分で登記を行うことができますし、土地家屋調査士という国家資格を有する者に登記の申請手続きを代行してもらうこともできます。

なお、登記の必要書類としては

  • 登記申請書
  • 解体した建物の登記事項証明書
  • 建物滅失証明書/解体業者が発行する証明書
  • 解体業者の印鑑証明書
  • 現地案内図、配置図

以上のものが必要となります。

また、古い建物の場合には「そもそも新築時に表示登記がされておらず、登記事項証明書が用意できない(未登記である)」というケースもあるでしょうが、この場合はそもそも滅失登記を行う必要自体がないものの、自治体に対して「家屋滅失届」を提出して固定資産税等の課税対象から除外してもらう必要があるでしょう。

※「登記がされているか、否か」は固定資産税等の納税通知書への『家屋番号の記載の有無』によって判断できます。

ちなみに、建物の所有者が既に亡くなっている場合には相続人が滅失登記の手続きを行うこととなり、表記の必要書類に加えて「戸籍」等の資料も必要となりますが、新たに購入した土地においては「全く家族関係の無い他人の建物の登記が残っているケース」もあるでしょう。

実はこうしたケースにおいては、

既に現地に建物が存在していないことを条件に、利害関係者(現在の土地所有者など)が「建物滅失登記の申出」をすることにより、法務局の登記官が職権で滅失登記を行うことが可能

となるのです。

建物滅失登記が未了の土地の問題点

ここまでの解説にて建物滅失登記の概要についてはご理解いただけたことと思いますので、ここでは滅失登記が行われていない土地において発生する問題について考えていきましょう。

建物滅失登記が未了の土地で発生する問題
  • 建物滅失登記が未了であることを理由に罰則を受ける可能性がある(10万円以下の過料)
  • 既に存在しない建物について固定資産税等の課税を受ける可能性がある
  • 滅失登記を行う際に、権利関係者が亡くなっていることで戸籍等の取得に手間が掛かる
  • 土地を売却する際に、購入希望者が金融機関からの融資を受けられない

以上が、建物を解体したにも係わらず滅失登記を行わなかった際に発生し得るトラブルの一覧となります。

この内容からすると「建物滅失登記を怠っても、あまり大きな問題に発展することはないな」と思われるかもしれませんが、そもそもが法令違反となりますし、急ぎの不動産売買を行う場合には滅失登記未了が大きな障害になる可能性もありますので、しっかりと手続きを行っておくべきでしょう。

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建物滅失登記未了の土地の取引顛末記

ではここからは、本ブログの管理人が実際に体験した「建物滅失登記未了の土地の取引顛末記」をお届けしてまいりましょう。

トラブル発生の経緯

このトラブルの始まりは、私が賃貸部門で仕事をしている時からお世話になっている地主さんより「土地の売却」を任されたことに端を発します。

売却依頼を受けた土地は現在「月極駐車場」となっていますが、10年程前までは借地として貸し出されており(借主名義の建物の建っていた)、借地権者がご高齢となったために『建物を地主さんが買い取る(借地権を買い取る)ことになった』という経緯があるそうです。

但し、取引対象の建物はかなり老朽化が進んでいたので、買取とは言ってもお金のやり取りだけを行い、建物は借地権者の手配で取り壊されたといいます。

以来、この土地は月極め駐車場として運用されており、その管理を私の会社が請け負っていたのですが、今回は『ご家庭の事情で現金が必要となった』とのことで売却をお任せいただけることとなったのです。

そこでまずは「隣接地との土地境界を確定する」ために測量を行い、元々は借地であったことも踏まえ、地中埋設配管などの調査も念入りに行うことにしました。(借地権の土地は境界線の意識が曖昧であるため、越境が発生している可能性が高い)

なお結果的には、トラブルに発展しそうな問題点も発見できませんでしたので、本腰を入れて購入希望者を探すことになります。

また、通常であればこうした売地物件は「建売屋さんに購入してもらう」のが仲介業者的には有難いのですが、地形や値段の問題で建売用地には適さず、今回の買い手はエンドユーザーがターゲットとなりそうです。(当時はそれ程、建売用地の買い取り価格も高騰していませんでした)

ちなみに土地のスペックは35坪程の整形地で、駅からのアクセスも良いため少々高めの価格設定ではありますが、それ程苦戦を強いられる雰囲気もありません。

そして、レインズ(不動産業者同士の売却情報共有サイト)に物件を登録してみたところ、初っぱなから多くの問い合わせを頂くこととなり、あっと言う間に「注文住宅でマイホームを建てたい」という購入希望者様からのお申込み(買付け証明書)が入って来ました。

更に購入希望のお客様を連れて来てくれたのは、これまでに何度か取引のある知り合いの業者さんだったこともあり、お話はスムーズに進んで行き無事に契約も完了します。

ここまで漕ぎ着ければ、後は「買主様の住宅ローンが承認される」のを待つばかりだったのですが、このタイミングでトラブルが発生することになったのです。

滅失登記未了問題勃発!

トラブル発生の第一報は、買主側の仲介業者さん(客付け業者さん)からの電話連絡によってもたらされました。

売買契約を締結した後、客付け業者さんが金融機関に住宅ローンの申し込みを行ったところ、対象の土地には別の建物の登記が残っているという指摘を銀行から受けたというのです。

一般的に不動産の登記といえば、物件の名義を変更する「所有権移転登記」や、銀行からの借り入れの際に行われる「抵当権の設定」などが頭に浮かびますが、建物を新築した際には「表示登記」と呼ばれるものを行う義務があります。

建物の謄本(登記事項証明書)などを見ると、所有者の名前や抵当権の内容以外にも、「表題部」と呼ばれる建物の構造や面積などが記載されている欄があり、この表題部の内容を定めるために行われるのが表示登記となります。

なお、この表示登記には「対象となる物件を特定する」という意味のみならず、「登記簿自体を新規に作成する」という主旨もありますので、『建物を新築した際には表示登記を行わなねばならない』と定められている訳です。

一方、建物を取り壊した場合には登記簿を閉鎖しなければならず、この際に行われる手続きが「建物滅失登記」であり、こちらも表示登記と同様に『登記を行うことが義務』とされています。

そして解体工事が行われたにも係わらず、建物滅失登記が行われなかった場合には「登記上、現実には存在しない建物が土地の上に残り続けてしまうことになる」のです。

さて、「実際には存在しない建物が登記上存在し続ける」などというお話を聞くと、『とんでもないトラブルが発生している』ような気分になりますが、実はこの状態であっても「あまり実害がない」というケースが殆どとなります。

仮に建物滅失登記をしていない状態の土地を購入したとしても、物件を利用する上では何も問題がありませんし、地主さんが古くから所有する土地などでは登記上古い建物が残っていることも珍しくはありません。

但し、唯一問題となるのがこの土地に対して銀行のローンを組む場合となります。

金融機関は、融資を実行する土地にこうした問題があるのを絶対に認めませんから、このまま状態では土地を担保に入れての借入が不可能となるのです。

そして今回の案件では既に売買契約は完了し、引き渡し日まで決まっていますから、一刻も早く建物滅失登記を完了してローンの承認が下りる状態にしなければ決済は不能となります。

更に、以前の建物の登記が残っていることに気付かなかったのは「完全に仲介業者のミス」となりますから、私が全ての責任を負わねばならないのです。

建物滅失登記未了問題!解決

そこで慌てて買主側の業者(客付け業者)と協議してみることにしますが、注文住宅の着工までにはスケジュールに余裕があるとのことで、「引き渡しを数週間伸ばすのは問題なし」との嬉しいお返事を頂くことができました。

これにて『とりあえずは一安心』といったところではありますが、もしも今回の取引が買い替え案件であり、取引の都合上「引渡しの延長ができない」といったケースであればとんでもない事態に陥っているはずですから、決して素直に喜ぶことはできません。

また、まず行うべきは「売主様・買主様への謝罪」となりますので、直接お会いして心からお詫びを申し上げ、今後の対応を協議して行きます。

ちなみに今回のミスは「良くあるパターン」ではあるものの、かなり初歩的で恥ずかしい部類のものとなりますから『情けないやら』『恥ずかしいやら』で心の痛手は相当なものとなりました。

なお、この局面において最も重要となるのが如何に迅速に問題を解決するかということです。

今回は表示登記の問題なので、早速お付き合いのある土地家屋調査士に相談してみることにしました。

実はこの建物滅失登記、本来は申請に際して建物を解体した業者の「取り壊し証明書」や「印鑑証明書」、そして建物所有者の「委任状」などが必要となります。

しかし建物が取り壊されたのは10年以上前のことですから、解体した業者も、建物の元所有者の居所も一切分かりませんので、『このような状況で本当に大丈夫なのか?』と心配していたのですが、土地家屋調査士曰わく「明らかに該当の建物が無い場合には、法務局の登記官が職権で建物滅失登記を行える」とのことです。

ただ、あくまでも登記官の職権ですから登記官の性格によっては「旧所有者と解体業者を探し出せ」などという無理難題を課せられることもあるといいます。

そのようなことになれば、延長していただいたとはいえ「約束の期限内に引渡しを行うのは絶望的」となってしまいますから、土地家屋調査士からの結果連絡が入るまでの数日間は、正にドキドキの毎日を過ごすことになりました。

そして結果的には職権での滅失が許可され、2週間程で無事に登記を完了することができました。

契約書上の引き渡し期限期間は過ぎてしまいましたが、延長してもらった期限内にはどうにか引き渡しも完了することができましたので、『何とかなった・・・』という安堵感と共に『今後は絶対にミスをしまい』と堅く心に誓う管理人なのでした。

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建物滅失登記をしていない土地取引について解説まとめ

さて、ここまで建物滅失登記が未了の土地の取引をテーマに解説を行ってまいりました。

なお、「建物滅失登記未了」という事実に気が付かないというのは、不動産屋さんとして「少々お恥ずかしいミス」なのですが想像以上に発生件数が多い事故となりますので、業界の方には私の二の轍を踏まないようご注意いただきたいところです。

また、個人間での不動産売買や、相続などでは不動産業者のチェックが入らないことの方が多いでしょうから、尚さら注意が必要です。

相続した土地にローンを組んで、アパートを建てようとした際に「滅失していない建物があった」などという事態は充分あり得ます。

なお法務局へと出向いて、土地の地番を指定した上で「建物の登記が残っていないか?」と尋ねれば直ぐに回答が貰えますから、気になる方は是非確認してみてください。

ではこれにて、「建物滅失登記をしていない土地取引について解説いたします!」を締め括らせていただきたいと思います。