不動産の取引を数多くこなしていると、実に様々なトラブルや困りごとが発生してくるものです。
こうした厄介事の中には「土地を掘ってみたら他人の配管が通過していた」、「基礎工事の際に地下水が湧き出してきた」など、水に係わるものが少なくありませんが、時には「住人の健康に深刻な被害をもたらす水も問題」が潜んでいるケースもあるのです。
そこで本日は「水道鉛管トラブルについて解説いたします!」と題して、未だに使用されていることがある鉛管の危険性や、管理人が実際に経験した鉛管を巡るトラブルの顛末記をお届けしたいと思います。
鉛管を巡る問題
ではまず最初に、鉛管を巡る問題の概要から解説を始めていきましょう。
鉛管とは何か?
上水道は私たちの生活において欠かすことのできない設備ですが、「蛇口を捻れば水が出る」という状態を維持するためには当然ながら『水道管』の存在が不可欠となります。
なお現在はステンレスや塩化ビニールといった素材が用いられている水道管ですが、ひと昔前までは鉄製の「鉄管」が主流となっており、更にその前の時代には鉛(なまり)を筒状に加工した「鉛管(えんかん)」が用いられていたのです。
ちなみにこの鉛管、非常に柔らかいという特性があるため切断などの加工が非常に楽であり、当時は水道工事には欠かせない部材であったといいます。
しかしながら、時代の流れと共に「鉛の毒性」と「健康被害」が明らかになり、使用されなくなっていったという歴史があるのです。
鉛の健康被害
では一体、鉛にはどのような毒性があるのでしょうか。
まず鉛で問題となるのが、その蓄積性であると言われています。
飲料水などに溶け込ん鉛はその多くが体内に残留し、徐々に内臓や骨などへ蓄積していくことになるのです。
そして、体内の鉛の蓄積量が増加するのに伴って
- 倦怠感
- 不眠症
- 頭痛
- 精神錯乱
- 痙攣
- 歩行困難
- 発がん
などの症状が引き起こされ、最悪の場合には「生命に係わる事態」へと至るケースもあるでしょう。
なお、鉛の体内への取り込みは経口摂取が主なものであり、皮膚から吸収されることは殆どありませんので、汚染された水をお風呂などに使用する際にはあまり気にする必要はないようです。
鉛管が使用された時期
このような健康被害を巻き起こす鉛管ですが、いつ頃まで使用されていたのでしょうか。
建築関連の書籍によれば鉛管は古代より利用されており、我が国では昭和初期に多くの建築物で使用されていました。
なお、昭和50年代後半(1980年以降)はその毒性が注目され始め、平成5年(1993年)頃には殆ど使用されることがなくなったと言われています。
こうした背景から考えていくと
1993年以前に設置された水道施設においては鉛管が使われている可能性がある上、昭和50年代以前のものについては高い確率で鉛管が使われている
と考えることができるでしょう。
鉛管の見分け方
では、自分が暮らしている建物や、これから住む建物に「鉛管が使われているか、否か」については、どのように確認すれば良いのでしょうか。
まず事務的な確認作業としては、自治体の水道局などに赴いて「建物の水道配管図」をチェックするという方法があります。
水道については建築工事を行う際に自治体へ図面を申請することが義務付けられているケースが多いですから、極端に古い時代の建物でない限り、殆どの地域で図面が役所に保管されているのです。
そしてこの図面には、配管経路の他に「配管の種類」も記されていますから、図面の閲覧申請をした上で担当窓口に方に『鉛管が使用されているか』を訪ねれば、簡単に回答を得ることができるでしょう。(図面を見ても素人にはあまり内容が理解できないはずです)
※宅地内の配管情報閲覧には物件所有者の承諾が必要となります。
また、鉛管は水道メーターの前後に使用されているケースが多いため、目視でもある程度の確認は可能です。
なお、具体的な確認方法としてはメーターボックスを開けて、メーターの前後の配管の色をチェックして「鈍いねずみ色」をしている場合は鉛管である可能性が高いでしょう。(腐食防止用のテープが巻かれている場合は、これを剥がして確認することになります)
但し、見た目だけでの判断はリスクを伴いますので、自治体での配管図面の調査を優先するべきかと思います。
鉛管への対処法
そして、自宅の水道管に鉛管が使用されていることが発覚した場合には、何を行うべきなのでしょう。
まず、最初に行うべきは水道工事業者へ依頼して「鉛管の撤去、交換作業」を行うこととなります。
但し、調査を行った上で見積書の作成、そして施工という流れになりますから、その間は鉛管を使用し続けなければならないのが現実です。
ちなみに鉛管においては、「長時間水が管内に溜まっている状態」が最も鉛の濃度が高い状態となりますので、「朝一番の水」や「外出から戻った際の水」が最も危険な状態ということになります。
よって、こうした状況においては3分間程度水を流してから水を利用するべきでしょう。
また、鉛は浄水器のフィルターによって除去されやすい物質ではありますので、浄水器を利用するのも一つの方法ではありますが、基本的には交換工事が完了するまでは飲み水として水道水を利用しないのがおすすめです。
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実録!鉛管トラブル顛末記
これまでの解説において「鉛管がどのような問題を引き起こすか」はご理解いただけたことと思いますので、ここからは管理人の私が実際に経験した鉛管トラブルの顛末記をお届けしたいと思います。
鉛管トラブル発生!
この事件が発生したのは、私が売買部門に異動してまだ間もない頃のことあり、エンドユーザー(一般の住宅購入希望者)への仲介をメインに行っていた時期のことでした。
そしてトラブルの発端は、以前に分譲マンションの仲介をさせていただいたお客様からのご紹介で、ある老婦人の中古戸建ての売却依頼をお引き受けしたことに始まります。
こちらのご婦人、25年程前にご自身が所有する土地で戸建ての建て替えを行い、ご主人と仲睦まじく暮らしておられたのですが、数年前に旦那様がお亡くなりになられたとのことです。
その後も奥様がお一人での生活を続けておられましたが、ここに来て体調が優れないとのことで自宅を売却した上、息子さん夫婦とのご同居を決意されたといいます。
また既にお引越しも完了していましたので、「後は物件を売却するだけ」という手の掛からない状態となっていました。
なお今時ならば、こうした築年の経過した物件の殆どは建売屋さんと呼ばれる戸建て分譲業者に買い取られ、新築の建売物件として再販売されることとなるのが定石ですが、当時は建売屋さんの買取価格もそれ程高額ではありませんでしたのでエンドユーザーに向けての販売活動を行うことにしたのです。
さて、通常であればレインズなどを駆使して購入希望者を募るところなのですが、実はこの案件を請け負った時から『私の手持ちのお客様にピッタリのご条件だな』と考えており、まずはその方に物件をご紹介してみることにします。
ちなみにこちらのお客様、まだお若いご夫婦なのですが既に3人のお子様がおられ、当初は「中古マンション」を中心に物件探しをしていましたが『子供たちが騒ぎ盛りのお年頃』とのことで、近隣住民とのトラブルを警戒して「中古戸建て」へとターゲットの変更をされた方でした。
但し、当然ながら戸建て物件は分譲マンションよりも購入価格が高額となるため、「築年の古い中古戸建を買わざるを得ない状況」となっていたのです。
そして今回の物件は築25年と古い建物ながらも、老夫婦がお住いだったということで家の傷みはそれ程でもありませんから、贅沢を言わなければクロス(壁紙)の張替えとルームクリーニング程度で充分に生活は可能なはずです。
そこで早速、このお客様を物件へとご案内してみたところ一目で気に入っていただけ、一気に契約までお話を進めることができました。
「ここまで来れば、後は決済・引渡しの日を待つだけ・・・」などと呑気なことを考えていたのですが、突然私の脳裏にある不安が頭をもたげて来ます。
実は売買契約を終えた数日後、ある報道番組を見ていた際に某国にて発生している環境汚染のニュースが耳に飛び込んで来ました。
「川から検出された汚染物質は、鉛やカドミウム・・・」、こうしたテレビから流れる声を聞いている内に『あの物件、水道管に鉛使ってないよな・・・』という不安が頭をよぎったのです。
こうして翌日、慌てて水道局に出向いて再調査をしてみたところ、敷地内のメーター廻りの一部に鉛管が使用されていることが発覚するのでした。
トラブルの後始末
皆様もご存じの通り、鉛は人体に蓄積することにより様々な害を及ぼす危険な重金属となります。
ここまでのお話を聞いて『そんな危険な物質が水道管に使われているの?』と思われた方も多いかと思いますが、実は50年くらい前までは極普通に水道管として使用されていたのです。
もちろんその後、人体に悪影響があるということで1995年には完全に使用禁止となったのですが、実はこの規制以前の水道管がそのまま使用され続けていることも少なくありません。
なお、今回の取引を行うのに当たっては当然埋設管の調査は行っていたのですが、忙しさにかまけて同僚に水道管の調査を任せてしまっていたのです。
ちなみに、道路に敷設されている「本管」や敷地に配管を引き込むための「引込管」については、同僚がしっかりと「鉛管が使われていない」ことを確認してくれていたのですが、今回問題となったのは水道メーターより先の部分となります。(メーターから建物までの間)
もちろん、こうした部分に関しても水道局へ調査に行くことにより、使用されている管の種類などを確認することはできるのですが、私有地内の配管については個人情報扱いとなり「所有者の委任状の提出」を求めてくる行政も少なくありません。
こうした事情からメーター廻りの配管まで調べる不動産屋さんは意外に少ないのですが、後々鉛管が使用されていることが発覚してトラブルとなるケースも多いため「絶対に手の抜けない要注意ポイント」となっているのです。
そして、事前にこうした事実が判明していれば「売主・買主のどちらが水道管の更新工事費用を負担するか」等の相談も可能ですが、既に契約が終わり、引渡しを待つばかりの本件では最早どうにもできません。
また本来であれば、売主・買主に調査ミスがあったことを謝罪をした上で今後の方向性を決めなければならのですが、買主さんはギリギリの予算で購入資金のやり繰りをしておられますし、売主さんも『体調が優れない』とおっしゃっておられますから、今からこの話を持ち込むのは非常に気が引けます。
そこでとりあえずは、知り合いの業者に水道管更新工事の見積書を作成してもらいましたが、工事費用は3万円程(鉛管の範囲は極一部でした)で済むとのことでしたので売主様に工事の承諾を頂いた上、私のポケットマネーで施工を行うことにしました。
その後、買主様にも工事を行ったことは報告しましたが特に問題となることもなく、ご家族5人で楽しい新生活を始めることができたようです。
今回は少々懐を痛めることとなりましたが、無事に取引が終えられたことを心より嬉しく思いました。
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水道鉛管トラブルについて解説まとめ
さて、ここまで「水道の鉛管トラブル」をテーマに解説を行ってまいりました。
今回お届けした顛末記においては偶然見ていたテレビ番組が切っ掛けで「鉛管の存在」に気付くことができましたが、もしもそのままスルーしていれば『後になって大きな問題に発展していた可能性』もありますので、正に危機一髪な事件でした。
また、「お客様と揉める」ということ以上に『健康に害を及ぼす可能性がある設備をそのまま引き渡すところであった』という点が非常にショッキングであり、この件以来「どんなに忙しくても物件調査は必ず自分で行う」ようにしています。
なお、今回の物件は築25年とそれ程古い建物ではなかったのですが、どうやら建て替えを行った建築会社がメーター廻りの配管をそのまま新築に流用してしまったのが問題発生の原因であるようです。
また既に申し上げた通り、鉛管の使用が正式に禁止されたのは1995年のことですが、私の経験上1970年代以降の建物新築工事において鉛管が使われているケースは少なく、もしあるとすれば本件と同様に『建替えに際して古い建物の水道管を使い回しているパターン』が殆どであるように思います。
よって、クオリティーの低い建築業者に工事を任せきりにしてしまうと、時折こうしたトラブルが発生しますで建替えなどをお考えの方は是非ご注意いただきたいところです。
ではこれにて、「水道鉛管トラブルについて解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。