「マイホームを購入する」となれば、実に様々な事柄に注意を払うことになります。

間取りや立地、学区の問題や周辺環境など「考えるべきこと」の枚挙には暇がありませんが、物件に関する「権利上の問題」や「法令上の注意事項」については、仲介に入る不動産業者の説明を信頼するしかないのが実情ですよね。

しかしながら如何にプロの不動産業者と言えど、時には「間違えた説明をしてしまうこともある」はずですし、説明すべき事項の中には「非常に間違えやすい項目」も存在するものです。

そして、数ある説明事項の中でも特に「誤りが発生する可能性が高い」といわれているのが、セットバックと道路中心線の問題となります。

そこで本日は「道路中心線とは?その決め方や調査方法を解説いたします!」と題して、重要事項説明の中でも指折りの危険項目セットバックラインについてお話をして行くことといたしましょう。

道路中心線とは

 

要セットバック物件の危険な落とし穴

冒頭の解説をお読みになり、「道路中心線て何だろう?」との疑問をお持ちの方も多いことと思います。

確かに耳慣れない言葉であるかとは思いますが、その意味は読んで字の如く「道路の中心となるライン」を指すものです。

そしてこの中心線が特に問題となるのが、物件の接する道路が4m未満(地域によっては6m未満)の狭隘道路物件である場合となります。

なお、過去記事「2項道路とセットバックについてご説明!」でもお話しいたしましたが、我が国の建築基準法においては火災や災害が発生した際の緊急車両の往来に備えて、こうした2項道路に接する物件は建替えの際などにセットバックをするのがルールです。

例えば3mの道幅しかない道路に接する物件で、セットバックの範囲が50cmであったならば、道路境界に接する50cmの範囲内には建物を立てることができません。

また、将来的に道路の反対側のお宅が建替えを行い、こちらも同様に50cmのセットバックを完了すれば、「元々の道幅3m+自分のセットバック50cm+お向かいのお宅のセットバック50cm」で、幅員4mの道路が完成するという訳です。(狭隘道路ではなくなる)

そして、このセットバックの範囲を決定するのが「道路中心線」と呼ばれるもので、建築基準法においては幅員4mを確保できていない道路については、原則として「道路中心線から2mのセットバック」を義務付けています。

しかしながら、自分の物件が3mの道路に接しているからといって、必ずしも道路中心線が3m道路の真ん中(両サイド1.5m幅のライン)のラインであるとは限りません。

場合によっては元々の道幅が2m(道路中心線は中央)であり、お向かいのお宅が建替えに際して1mのセットバックを完了しているならば、こちらの物件のセットバック範囲は「1m」となってしまう訳です。

更には現況の道路幅員は2mであるが、その中心線は道路の真ん中ではなく、極端に片側に寄っているケースだってありますから、自分の土地の敷地から30cmの位置に道路中心線があれば「2m-0.3m=1.7m」、つまり1.7mもの範囲でセットバックを余儀なくされるでしょう。

こうなってしまっては「こうした家を建てたい」と考えていたプランがあっても、実現不能に陥ってしまう場合だってあり得ますよね。

もちろん不動産業者としても、こうしたミスが無いように充分に注意を払っているのですが、取引経験が少ない業者などにおいては「うっかり」という事態も起こり得るのです。

ちなみに道路中心線の判定については、公道ならば「行政の判断」、私道ならば「近隣住人との協議」の結果によって示されることになりますが、判定の根拠となる明確な資料が残されていない場合には、結論が出るまでにかなりの手間と時間を要することになります。

そこで以下では、「道路中心線のトラブルが起こりやすい物件の特徴」と「調査の方法」について解説を行って行くことにしましょう。

 

道路中心線でトラブルが生じやすい物件の特徴

ではまず最初に、道路中心線のトラブルが発生しがちな物件の特徴から見て行きましょう。

まず最初に挙げられるのが、物件の道路向かいが川や水路になっている物件となります。

こうした物件では、水路等を後ろに下げる訳に行きませんから、その反対側の土地がセットバックの義務を一手に担うこととなるでしょう。

また、道路の幅員が一直線ではなく「ガタガタと蛇行しているような道路」も、中心線の判定でトラブルが起こりやすい傾向にあります。

特に新しい家が多いにも係らず幅員に乱れがある道は、元々の道の形状自体が蛇行している可能性が高いですから、より一層の注意が必要となるでしょう。

そして最後にご紹介するのが、道路上にアスファルトなどに「鋲」などが打ち込まれている道路となります。

なお、過去に道路中心線を巡ってトラブルが発生していたり、私道における中心線の協議が行われた道路には、誰もが一目で中心線を見極められるように「目印の鋲が打たれている」ことが多いのですが、時には『全く別の趣旨で鋲が打たれること』も少なくありません。

しかしながら経験の少ない不動産業者ですと、こうした中心線を表していない鋲を勘違いして、「ここが道路中心線です」という説明をしてしまうことも多いのです。

よって、鋲が入っているからといって安易にそれを中心線と思い込まずに、しっかりと裏付け調査を行うべきでしょう。

スポンサーリンク

道路中心線の調査

では、2項道路に面する物件を購入する際には、どのようにして道路中心線の調査を行えば良いのでしょうか。

まず最初に行うべきは、役所に行って購入を検討している物件の両隣、そして道路向かいのお宅、更にその両隣のお宅の建築確認の内容を確認することです。

通常、役所には「建築概要書」と呼ばれる、過去に申請された建築確認の簡単な記録が保存されており、そこには道路中心線の位置とセットバックの範囲が必ず記載されています。

そしてこの建築概要書で周囲のお宅のセットバックの状況を確認すれば、自ずと対象物件のセットバック範囲も見えて来ることになるでしょう。

但し、この調査の結果はあくまでも「周囲の状況から類推されるセットバック範囲の予測」にすぎず、最終的なセットバック範囲の確定は『行政の判断によるものとなる』という点にだけはご注意ください。

*不動産業者が行う重要事項の説明においても、この「周囲の状況から類推されるセットバック範囲の予測」を根拠に説明が行われることが殆どとなりますので、この予測の精度はかなり高いものとなりますが、決定権が行政にある以上は「実際の判定は行政によって行われます」との但し書を付けざるを得ないのが実情です。

また、1970年以前などあまりに建築時期の古い物件についてはこうした資料が残っていませんので、周囲を古い建物に囲まれている場合には、この調査方法は通用しません。

よって、こうしたケースにおいては行政の担当者に「セットバック範囲について質問をしてみる」しかありませんが、周囲のセットバック状況がわからない以上はなかなか明確な回答を得るのは困難でしょう。

そこで最後の手段となるのが、建築確認の事前相談を申し込むという方法です。

さて、このようなお話をすると『担当者へのヒアリングと建築確認の事前相談では何が違うの?』という疑問が沸いて来るでしょうが、単なる質問と正式な事前相談では役所の方の真剣度が全く異なって来ます。(接する道路が公道である場合、道路管理者は行政となりますから事前相談まで行えば、何かしらの結論は出るはずです)

しかしながら、正式な事前相談を行うとなれば「具体的な建築計画」が立てられていないとお話になりませんから、少なくとも建物の図面くらいは用意してから相談に臨むべきです。

 

私道の道路中心線はこうして確定される

ここまで解説した調査を行えば、殆どの物件で道路中心線の位置とセットバック範囲が見えて来ているはずですが、

対象の物件が接する道路が私道である上、近年全く建て替えが行われていないエリアにおいては「未だ手掛かりさえ掴めていないケース」もあるでしょう。(私道の場合には建築確認の事前相談をしても結論が出ない場合もあります)

そして、こうしたケースでは「新たに道路中心線の協定を近隣住民と結ぶ作業」が必須となって来ます。

ここまで調査をしても全く中心線が判らないということは「中心線が決まっていない」ということになりますから、『道路に面する住人が協力して、新たな中心線を決めてしまう他は無い』という訳です。

もちろん私道である以上は権利者全員が承諾すれば何ら問題は発生しませんし、こうした事態に備えて行政も「道路中心線の協定書」のひな形を用意してくれているのですが、道路に接する世帯数が多い場合には非常に困難な作業となるのは容易に想像が付きますよね。

よって、建築を依頼する予定の設計士などにお願いして、協定を結ぶことになる近隣に当たりを付けてもらい、その感触が思わしくない場合には「土地の購入自体を断念した方が良いケース」も出て来るでしょう。

一方、問題なく協定が結べるようであれば行政に協定書を届け出た上で建築に取り掛かることができますから、問題は一気に解決ということになる訳です。

スポンサーリンク

道路中心線とは?まとめ

さてここまで、道路中心線とセットバックをテーマに解説を行ってまいりました。

これまでの解説をお読みくださればご理解いただけたことと思いますが、道路中心線の見極めは非常にデリケートな問題となりますから、不動産業者の説明を鵜呑みにすることなく、購入する方も注意深く確認を行うのがベストです。

そして中心線の位置によっては「物件を購入した意味が全くない」なんてことにもなりかねませんから、納得のいかない調査結果しか得られない場合には、一度立ち止まって「物件の購入をすすめるべきか、否か」を再度検討してみる必要があるでしょう。

ではこれにて、「道路中心線とは?その決め方や調査方法を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。