不動産売買の仲介を行う際に最も重要な作業とされているのが、重要事項の説明であると言われています。

このようなお話をすると「最優先すべきは、お客さんに物件を買ってもらうことだよ!」というツッコミも聞こえて来そうですが、重要事項の説明に不備があれば無事に物件の引渡しができないばかりか、その後数年に渡って訴訟を行うことになる可能性もありますから、一番ではないにしても「決して疎かにできないイベント」であることだけは確かなはずです。

また反対に「重要事項説明書の作成に絶対の自信」を持っていれば、どんなに難解な物件の仲介でもストレスを感じることなく販売活動が行えるますから、その結果として「こなせる案件数が増加し、成約率も向上してくる」ことでしょう。

そして、このように考えると『業績を上げたいのならば、まずは重要事項説明書の作成スキルを向上させることが重要』とも言えそうですよね。

そこで本日は、この重要事項説明書の記載内容や注意点についてお話させていただきたいと思います。

なお、重要事項作成において必須となる現地調査や、法務局・都市計画などの役所調査については、過去の記事にて詳細な解説を行っておりますので是非そちらをご参照いただければと思います。(文中のリンクからお進みください)

では、不動産重要事項説明書作成についての知恵袋を開いてみましょう。

不動産重要事項説明書作成

 

そもそも重要事項説明書とは

不動産業者の間では、「重説(じゅうせつ)」などとも呼ばれる重要事項の説明書は、宅地建物取引業法35条にて定められている「不動産の仲介取引を行う際の必須書類」であり、文字通り取引対象不動産についての重要事項が記載された書面となります。

なお書面を交付するだけではなく、その内容ついて宅地建物取引士という資格を有した者による説明も義務付けられているのです。

また、説明のタイミングについては「売買契約締結に先行して(売買契約締結の前に)」と定められており、不動産会社が仲介に入る場合には、買手に対して必ず行うべしとされているのです。

ちなみに、不動産屋さん同士の売買であったり、一般の方から不動産会社へ物件を売却するといった場合には「重要事項説明は不要」とお考えの方も多いようですが、これは誤りとなりますので是非ご注意ください。

2017~2018年の宅地建物業法改正によって、不動産業者が買主の場合には重要事項の「説明は省略可能」となりましたが、『説明書の作成』と『これに対して買主が署名捺印を行う』ことは、引き続き必要とされています。

※2021年より「ネット通信を利用した売買の重要事項説明(IT重説)」が解禁(賃貸は2017年より解禁)、そして2022年からは「説明書の電子交付」も可能となり、ネット上で重要事項説明の全てを完了できるようになりました。

一方、説明を行う内容については、法令やガイドライン等で記載すべき事項が示されてはいますが、買主から「この事実を知っていたら買わなかった!」と言われてしまう事項については、全て網羅していなければなりませんので、物件に関する情報を可能な限り詰め込んでおくべきでしょう。

但し、不動産の取引は案件ごとに大きく内容が変わるものですし、たとえ大手の不動産業者であっても詳細な重要事項説明書の作成マニュアル等が用意されていることは少ないため、新入社員などにとって重説作成業務は非常に強いプレッシャーを感じるものとなるはずです。

そこで次項では、重要事項説明書に記載すべき内容や作成上の注意点などを具体的に見て行くことにしましょう。

 

重要事項説明書の記載事項と注意点

実務上の重説作成においては、「過去に行われた取引で用いられた説明書」を参考にしながら作業を進める方が多いかと思いますが、仕事に不慣れな新入社員さんなどにとっては、難しい文言がピッチリと書き込まれた雛形を見ても「何が何やら解らない」というのが本音でしょう。

そして、このような場合におすすめなのが「重説を内容ごとに分解して把握していく」という方法です。

重説の内容は一見、非常に難解なものに思えますが、大きく分類すれば

  • 仲介会社と物件の表示に関する説明
  • 物件の道路と設備に関する説明
  • 法令上の制限に係わる説明
  • 契約内容に係わる説明
  • その他の事項の説明
  • 備考欄

の6点が主な内容となります。

そこで以下では、これらを一つずつ解説して行くことにいたしましょう。

仲介会社と物件の表示に関する内容

重要事項説明書の雛形のトップに記載されるのが、こちらの「仲介会社の会社情報の表示」と「物件の表示(登記簿の内容や占有状況の説明を含む)」となります。

仲介会社の会社情報の表示

重要事項説明書の冒頭では「如何なる不動産業者が重要事項を作成して、説明を行ったか」を明示する意味で、仲介を行ったか業者の会社情報が表示されます。

なお、売主・買主が一般の方で、仲介業者が1社ならば、ここは1社分の表示となり、仲介業者が2社(共同仲介)であれば2社分の情報を表示することなるでしょう。

また売主が不動産業者の場合には、売主も仲介に入るという扱いになりますから、売主の会社情報もこの欄に加えられることになります。(仲介業者2社、業者売主ならば3社分の情報が必要)

ちなみに、ここで記載されるべき不動産会社の情報は、

  • 免許番号
  • 免許年月日
  • 商号
  • 事務所の所在地
  • 説明を担当する取引主任士の氏名
  • 説明を担当する取引主任士の登録番号
  • 供託金を預けている機関の説明
  • 取引の態様(「売主・媒介【業者】」の別や、「売買・交換」という取引内容)

などとなり、仲介(売主)業者と取引主任者の捺印もここに押されることになります。

物件の表示

そして次に記載されるのが、取引対象の物件に関する説明となります。

取引対象が土地であれば、

  • 土地の地番
  • 面積
  • 公簿、実測面積の別
  • 地目(宅地、雑種地 等)
  • 持ち分
  • 権利の種類(所有権 等)

といった事項となり、これが建物になると、

  • 建物の家屋番号
  • 構造
  • 床面積
  • 建築確認番号
  • 住居表示
  • 付属建物
  • 新築年月日
  • 増築の有無

などを書き込むことになるでしょう。

そして、ここで忘れずに記載しなければならないのが、この重要事項の説明書が「如何なるソースから得た情報を基にしているか」という点です。

土地であれば、登記簿に記された面積(公簿)と実際の面積(実測面積)に違いが出ることは珍しくありませんし、建物においても公簿と、建築確認に記される面積は異なるものとなりますから、今回の説明が「どの情報をベースにしているか」を解り易く、そして誤解が生じないように記載して行きましょう。

登記簿の記載内容

ちなみに、こちらのパートでは登記簿に記された権利に関する事項も、非常に重要な説明事項となります。

所有者の名や権利に係る事項が記されている謄本の「甲区」、そして抵当権の設定などが書かれた「乙区」などの内容を、漏れが無いようにそのまま転記して行きます。

※登記簿に記された情報についての詳細は別記事「不動産の登記簿謄本とは?という疑問を解決!」をご参照ください。

借地権と第三者による占有について

不動産売買の取引対象の中には「借地権付きの建物」というものが存在しています。

※借地権の詳細については別記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」をご参照ください。

一方、土地も建物も所有権であるが、建物が賃貸中というケースもあるはずです。

こうした「借地権」や「建物が賃貸中」の場合には、『第三者の専有状況』という説明事項が設けられ、

  • 占有者の氏名・住所
  • 如何なる権利関係に基づく占有であるか
  • 契約書が存在する場合はその内容

などについて記載されます。

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物件の道路とインフラ設備に関する内容

仲介業者の説明と物件の表示が完了したなら、続いては物件が面する道路と設備についての説明がなされます。

道路に関する説明

物件が接している道路の種類などを記して行きます。(詳細については道路調査に関する記事をご参照ください)

またこの際、対象の土地が幅員何mの道路に何m接しているか、セットバックは必要か、私道である場合にはどのような負担があるかについても説明を行いましょう。

また、この道路の説明を行う際には文字だけの情報によらず、図面(土地と道路の位置関係などを示したもの)を載せるよう心掛けたいところです。

スペース的に図面を載せるのが厳しい時は、「別紙参照」という形式を取るのも有効な手段でしょう。

水道・ガス・電気・下水(インフラ設備)に関する説明

物件にて利用される水道・ガス・下水等のインフラ関係の事項について説明します。

なお、対象物件への「引込みに関する情報」のみならず、「前面道路の本管敷設状況」も記載する必要があるでしょう。

また、単に「配管有り」などの記載しか行わない業者さんも多いですが、可能であれば詳細に「水道管引き込み口径●●mm」、「本管口径▲▲mm」(水道の場合には配管の種類も)まで記載したいところです。

※詳しくは配管調査の記事をご参照ください。

なお、配管の説明においても文字の情報だけでなく、図面の添付を心掛けるようにしましょう。

法令上の制限に係わる内容

国や自治体が定める建築や土地利用上のルールのことを「法令上の制限」と呼び、ここでは対象物件に係わる制限の内容を説明していきます。

都市計画法・建築基準法に関する制限の記載

法令上の制限に関する説明では、まず対象物件が存在するエリアが都市計画区域の内外、市街化区域か調整区域であるかなどについて記して行きます。

なお、物件が都市計画施設等の区域内やその周辺に位置している場合にはその旨、そして都市計画事業の事業地内、地域地区(特別用途地区・特定用途制限地域 等)などに属する場合にも説明が行われます。

また用途地域高度地区・日影規制・斜線制限・絶対高さの制限、そして防火・準防火地域などについても記載していきましょう。

更には、外壁後退・敷地の最低面積、そして建ぺい率・容積率についての制限内容等もここで説明することとなりますが、後々問題が起こり易い分野でもありますから、極力注意を払って説明を行いたいところです。

ちなみに都市計画法・建築基準法に関する事項は、今後建てる建物の形状に大きな影響を及ぼす内容となりますので、徹底的な調査を行って説明を行う必要があります。

※その他にも地区計画・建築協定や風致地区、土地区画整理法に基づく区画整理が行われたエリアであれば、仮換地や換地に関する事項や精算金、割賦金についても記載されます。

なおここでは、原則として役所調査で仕入れた情報の詳細さと正確さが「肝」となりますから、調査はくれぐれも手を抜かないようにしてください。

その他法令上の制限に関する事項

ここまで都市計画法と建築基準法に係わる説明事項を解説してまいりましたが、重要事項説明書で扱うべき法令はまだまだ存在します。

重要事項説明書で取り扱うべき、その他の法令
  • 宅地造成及び特定盛土等規制法
  • /砂防法
  • /地すべり等防止法
  • /急傾斜地法
  • /土砂災害防止法
  • /文化財保護法
  • /農地法
  • /公有地の拡大の推進に関する法律
  • /国土利用法
  • /土地収用法
  • /河川法
  • /水防法
  • /特定都市河川浸水被害対策法
  • /下水道法
  • /道路法
  • /海岸法
  • /港湾法
  • /地域再生法
  • /旧市街地改造法
  • /住宅地区改良法
  • /都市公園法
  • /自然公園法
  • /首都圏近郊緑地保全法
  • /近畿圏保全区域整備法
  • /森林法
  • /都市再生特別措置法
  • /森林経営管理法
  • /生産緑地法
  • /都市緑地法古都保存法
  • /景観法
  • /大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法
  • /地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律
  • /新住宅市街地開発法
  • /新都市基盤整備法
  • /首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律
  • /近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律
  • /流通業務市街地整備法
  • /都市再開発法
  • /沿道整備法
  • /集落地域整備法
  • /地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律
  • /長期優良住宅の普及の促進に関する法律
  • /踏切道改良促進法
  • /重要土地等調査法
  • /航空法
  • /特定空港周辺特別措置法
  • /全国新幹線鉄道整備法
  • /高齢者、障害者等の移動に関する法律
  • /都市の低炭素化の促進に関する法律
  • /マンションの建替え等の円滑化に関する法律
  • /廃棄物処理法
  • /土壌汚染対策法
  • /密集市街地防災街区整備法
  • /災害対策基本法
  • /被災市街地復興特別措置法
  • /東日本大震災復興特別区域法
  • /大規模災害からの復興に関する法律
  • /津波防災地域づくりに関する法律
  • /核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律

あまりの法令の数の多さに「思わず気が遠くなってしまいそう」ですが、「表にある法令の半分以上は係りがない」という地域が殆どですから、あまりナーバスになる必要はありません。

但し、説明を誤れば危険な事項であることに変わりはありませんので、「自分が取引することの多い地域にどの法令が係っているのか?」「そして行政の担当部署がどこであるか?」などの情報を整理しておくことで、ミスのない調査が実現できるはずです。

ちなみに、管理人がアマゾン・Kindleにて販売している下記の電子書籍では、本項にて扱った法令上の制限の調査について詳細な解説を行っておりますので、ご興味のある方は是非ともご購読ください。(全ての法令についてではありませんが)

不動産売買物件調査マニュアル③【法令上の制限・前編】: 物件調査のノウハウ!すべて教えます! Kindle版

不動産売買物件調査マニュアル④【法令上の制限・後編】: 物件調査のノウハウ!すべて教えます! Kindle版

契約内容に係わる内容

重要事項の説明書には「契約書の内容についても、説明を行うべき」とされている部分があります。

そして具体的には、

  • 手付解除
  • 滅失解除
  • 違約解除
  • ローン特約に関する解除
  • 契約不適合責任に関する解除
  • 反社会的勢力に関する解除
  • 手付金等の保全措置
  • 割賦販売について
  • 瑕疵保険等について
  • といった契約書の内容について説明がなされることになります。

    ちなみに、手付解除や滅失解除といった解除条項については、別記事「不動産売買契約の解除について解説いたします!」にて詳細な解説を行っております。

    また、売買契約書の文言の解説については、売買契約書作成の記事をご参照ください。

    その他の事項の説明

    ここまでの解説にて、既に重要事項説明書の記載事項の大部分を網羅しておりますが、本項ではより細かな説明事項を見ていきましょう。

    アスベスト調査、耐震診断、建物状況調査(インスペクション)について

    取引対象の物件における、

  • アスベスト調査
  • 耐震診断
  • 建物状況調査(インスペクション)
  • などの事項についても、重要事項説明書では記載を行うのがルールです。

    なお、これらの調査が行われていない場合には、

  • 情報の照会先(売主のケースが殆ど)
  • 調査が行われておらず、記録も存在しない旨
  • を記載することになりますが、調査が行われている場合には、

  • 調査が行われた年月日
  • 調査を実施した機関名
  • 調査結果の内容
  • を説明することになります。

    ハザードマップ等について

    気候変動等の影響で様々な災害が発生する昨今では、ハザードマップについても説明が不可欠です。

    なお、災害関連の事項で法令によって重要事項説明書での取り扱いが義務付けられているのは、

  • 洪水ハザードマップ(水防法に基づくもの)
  • 内水ハザードマップ(水防法に基づくもの)
  • 高潮ハザードマップ(水防法に基づくもの)
  • 津波ハザードマップ(津波防災地域づくりに関する法律に基づくもの)
  • 土砂災害ハザードマップ(砂防4法に基づくもの)
  • などとなりますが、法令における説明義務はなくとも「知っていたら物件を買わなかった」という事項についてはしっかりと説明しておくのがベストです。

    よって、自治体が発行するあらゆるハザードマップ(液状化マップ等)を添付書類といて加えておく必要があるでしょう。

    添付書類について

    前項でもお話ししたように、重要事項説明書には実に様々な添付書類が付加されますので、そのリストも記載しておくべきでしょう。

    重要事項説明書に添付される主な書類
    • 登記簿謄本
    • 公図
    • 地積測量図
    • 建物図面
    • 建築概要書
    • 建築確認関係書類
    • 台帳記載証明
    • 都市計画図
    • 道路図面
    • 土地建物評価証明
    • ハザードマップ
    • アスベスト調査記録
    • 耐震診断書
    • 建物状況調査記録(インスペクション)
    • 住宅性能評価書

    上記の資料以外にも分譲マンションであれば管理規約等の組合関連書類、アパート等の収益物件であれば賃貸借契約書など、物件ごとに様々な添付書類が必要になることにご注意ください。

    備考欄

    ここまで解説して来た説明事項に関しては、全ての物件に関して共通のものとなりますが、本項で扱う備考欄は「個々の物件ごとに記すべき説明内容が異なる」のが特徴です。

    また、備考欄というとあまり重要では無い内容に思われがちですが、実は非常に重要な説明が列記される場所でもあります。

    そして備考欄の書き方を解説するだけも、かなりウェイトのある説明となりますので、こちらについては別記事「売買重要事項説明書作成について(備考編)」にて改めて解説をさせていただきたいと思います。

    重要事項説明書作成まとめ

    ここまで売買における重要事項説明書作成というテーマでお話をしてまいりました。

    非常に難解に思える重説の作成も、このように分解してその趣旨を丁寧に理解して行けば、決して歯が立たないものではありません。

    とは言え、一歩間違えば取引上の大きな事故に繋がるのが重要事項説明書ですから、恐れず大胆に、そして細心の注意を持って、作成に取り組んでいただければと思います。

    ではこれにて、不動産重要事項説明書作成についての知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!