不動産売買の対象となる物件の中には、その権利について「借地権」と表示されているものが存在します。
ちなみに市場に流通する物件の多くは「所有権の不動産」となっており、こうした物件については「マイホームを買った友人」や「自宅を売却した親戚」など、身の回りに取引経験者が必ず居るものですから、たとえ自分に経験が無くとも「何となく取引のイメージが付く」ものかもしれません。
しかしながら、これが冒頭にてお話しした「借地権の物件」ともなれば、『一体どのようなものなのだろう?』と頭を抱えてしまう方が殆どなのではないでしょうか。
また「地主さん」など多くの不動産をお持ちのご家庭に育った方であれば、幼い頃に親御さんから『あそこは借地だからな!』と聞かされてはいたものの、大人になった今でも『詳しいことはサッパリ解らない』という方も多いかもしれません。
そこで本日は「借地権とは?わかりやすくご説明致します!」と題して、不動産を扱う上で避けては通れない『借地の問題』について解説させていただきたいと思います。

そもそも借地権とは
アパートやマンションのお部屋を借りることを「建物賃貸借」などと呼びますので、その言葉のニュアンスから「借地権とは単純に土地を借りる権利のことなのでは」とお考えの方も多いことと思いますが、これは少々誤った解釈となります。
もちろん、不動産の賃貸借契約の中には資材置き場とする目的などで「単純に土地を貸し出すケース」もありますが、こうした場合には借地権という言葉を用いることはありません。
では、一体どのような場合に借地権という言葉を用いるのかと言えば「建物を建てることを目的に土地を借りるケース」ということになるでしょう。
ちなみに借地権の中には大きく分けて「賃借権に基づくもの」と「地上権に基づくもの」の2種類がありますが、一般的には「賃借権に基づくものが殆ど」となりますので、以下では賃借権による借地権について解説していきます。
さて建物を建てる目的で土地を借りたとしても、長い年月が経過すれば地主さんなどから「立ち退いて欲しい」と言われてしまう可能性がありますから、設定された借地権を確固たるものにしておく必要があります。
そして、権利を保障する制度と言えば「法務局で行う登記」ということになりますが、土地に対して賃借権の登記を行うことは不可能ではないものの、地主さんの許可が必要となるため簡単にこれを行うことはできません。
そこで法律は、建築する建物の名義を土地を借りている者(借地権者)とすることで「対象の土地に借地権が設定されるとみなす」というルールを定めました。
よって借地権とは、土地を借り、その上に借主名義の建物を建築することを目的に設定される権利とも言い換えることができますから、借地権が設定された土地には建物が存在しているのが通常となります。
一方、裁判などで借地の返還等について争われる場合には「借地人名義の建物が存在しているか?」という部分が大きな争点(地主に対する対抗要件)となりますので、借地権とは『建物があって初めて成立する権利』とも言えるでしょう。
このように借地権の物件においては「建物は借地権者の所有物」「土地は地主の所有物」といった少々複雑な権利関係が生じることになり、これに伴って
- 借地契約の内容(地代・契約期間など)に関する問題
- 更新料に関する問題
- 譲渡・建替え等、各種承諾に関する問題
といった『借地権ならではの問題』が発生することになるのです。
さて、このようにお話しすると「借地権は厄介だな・・・」と思われるかもしれませんが、しっかりと要点を押さえておけば大きなトラブルに発展することはありませんし、借地権者の権利もしっかりと守ることができますから、決して避けて通る必要はありません。
そこで次項では、実際に借地権がどのように設定され、運用されて行くかについて解説して行くことにいたしましょう。
*本項で取り扱った賃借権に基く借地権が「債権」であるのに対して、地上権は「物権」と解釈されるため、同じ借地権でも『地上権の方がより強力な権利』となります。
実際の借地権
さて、「借地権がどのようなものか?」については、ここまでの説明でポンヤリとはご理解いただけたかと思いますので、ここからはより実務的なお話をしてまいります。
ではまず、借地権をより深くご理解いただくために、地主さんが借地人に土地を貸すプロセスを追いかけてみることにいたしましょう。
ある地主さんが空いている土地を、借地人へ建物を建てる目的で貸出すことになりました。
もちろん口約束で貸す訳には行きませんので、土地の賃貸借契約(借地権の契約)を締結することとします。
そしてそこに定める内容は、
- 貸出す土地の範囲(面積)
- 貸出す期間
- 月々の地代
- 権利金・敷金などの定め
- 契約更新や土地を返還する際の取り決め
等の契約条件です。
こうして土地の賃貸借契約が成立しましたので、借地人は自分の費用で家を建築し、建物の名義も自分の名前で登記を行います。
以上が借地権が設定され、運用されるまでのおおよそのプロセスです。
後は取り決められた地代を月々しっかりと支払い、借地人は新生活をスタートさせるのみとなります。
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ここが違うよ借地権
前項でお話しした借地権設定のプロセスを見ると、借地権は非常にスッキリとした権利関係のように思えてしまいますが、既に解説した通り所有権(土地を買った場合の権利)と比べて「かなり異なる点」があるのも確かです。
では次に、借地権だからこそ発生する問題についてより詳しくご説明させていただきたいと思います。
地代以外にも様々なコストが掛かる
借地に住まう上で、まず発生して来るのが契約期間を満了した際の更新料の問題です。
借地の契約期間は法律により最低20年以上(非堅固な建物・旧法「借地法」の場合)と定められていますので、それ程頻繁に更新が発生することはありませんが、契約が満了となった場合には、借地人は更新料を地主に支払う義務を負っています。(新法「借地借家法」の場合には初回更新で最低30年以上)
※法律上、賃借人に更新料の支払い義務が生じるのは「賃貸借契約書に更新料支払いの文言が入っている場合」または「過去に更新料を支払った事実がある場合」となっていますが、契約書の雛型にはほぼ間違いなく更新料についての記載があるものですし、たとえ記載がなくても地主との円滑な関係を保つために更新料を支払っているケースが多いので、ここでは敢えて「義務」という表現を用いています。
ただ、ここで問題となるのが、この更新料について具体的な価格が定められていない借地契約が殆どであるという点です。
このようなお話をすると「どうして定めないの?」と疑問に思われる方もおられるかもしれませんが、『20年後の日本がどのような経済状態になっているか』などということは誰にも予測が付きませんから、これはこれで致し方ない面もあるでしょう。
そして結果的には、更新料を巡って地主と借地人が相談を行うことになるのですが、この段階になって「金額を巡るトラブル」が発生することになる訳です。
また、更新料以外にも
- 借地権(建物)の譲渡
- 大規模な改築
- 建替え
- 契約条件の変更
については、承諾料という名目で地主へ費用を支払わなければなりません。
※更新料や各種承諾料の相場については、別記事「借地権更新料の相場と他の承諾料について」にて詳しい解説を行っております。
※表記承諾料については更新料と異なり、契約書に記載がなくとも、支払い義務が生じます。
建物(借地権)の売却には様々なハードルが存在
先の解説でもサラリと触れましたが、借地の上に建てられた建物を売却(借地権譲渡・名義変更)するには、地主の承諾と承諾料が必要とされています。
もちろん承諾料については、ある程度の相場(借地権価格の10%程度)は存在しているのですが、地主が法外な承諾料を提示して来た場合などには、裁判(借地非訟)で争うしか方法が無く、速やかな売買を行うことは困難となってしまいます。
また建物自体は借地人のものでも、土地は借り物ということになりますから、その評価は低く、所有権価格の60%程度で売れればラッキーというのが現実なのです。
更には、建物の売買が成立しても借地契約はこれまで通りの期間で継続されることになりますので、更新が間近に迫った物件については更新料分を売買価格に含める必要(更新料分も含めた価格設定をする必要)がありますし、
建物が老朽化しており、購入者が建替えを前提としている場合には、建替え承諾料の支払いが不可避となりますから、承諾料を差し引いた売買価格の設定を余儀なくされることになるでしょう。
一方、借地を購入する側にとっても、金融機関によっては借地物件への融資を行っていないところもありますし、融資が可能であっても地主からの承諾書や印鑑証明書の提出(融資が焦げ付いた場合、銀行は建物を売却して新たな買い手を見付けることになりますが、その際に購入者が物件を利用できる旨の承諾書)を義務付けられることになります。
※地主が承諾書等の提出を拒めば、融資は受けられません。
ちなみに、第三者への売買ではなく、相続の場合には原則として「承諾料無しでの名義変更」が可能となりますので、その点はご安心いただければと思います。
旧法借地権と新法借地権
ここまで借地権をテーマに解説を行ってまいりましたが、借地権には「旧法」と「新法」という異なる法律に基づく2つの種類が存在します。
実は1993年に借地権に関する大規模な法改正が行われ、これ以降に設定された借地権については借地借家法(新法)の支配を受けることになりますが、法改正以前から存在した借地権については借地法(旧法)という法律に基づいた運用がなされるルールとなっているのです。
なお、旧法と新法の主な違いについては
旧法借地権(借地法に基づく借地権)
- 建物に堅固建物・非堅固建物の2種別が存在
- 契約期間は堅固建物/30年以上、非堅固建物/20年以上(更新時も同様)
- 朽廃(きゅうはい)による契約の終了あり
新法借地権(借地借家法に基づく借地権)
- 建物についての種別なし
- 契約期間は初回30年以上、1回目の更新20年以上、2回目以降10年以上
- 朽廃という概念は消滅
以上のようになっています。
※旧法と新法の違いについての詳細は別記事「旧法借地権と新法借地権について」をご参照ください。
定期借地権
前項で解説した借地借家法(新法)の施行に伴い、新たに導入されたのが定期借地権という制度となります。
借地権という言葉のニュアンスから「土地は所詮借り物、何時かは地主に解約を迫られるのでは・・・」とお考えの方も多いかもしれませんが、実は地主側の都合で契約を解除するには正当事由(やむを得ない事情)が必要であり、『土地を別の用途に使用することになった』等の事情では、まず契約の解除が認められないのが通常です。(地代の滞納等、借主に契約違反等がある場合は別ですが)
また、強引に地主が契約の解除を求めた場合には、借地権者は借地権(建物)の買取りを地主に請求することも可能となりますので、借地権はある意味で「非常に強硬な権利」ということができます。
こうした事情から、近年では「土地を貸したくない」という地主も増えつつあり、これを放置すれば不動産の流通にも大きな影響が出かねない状況となっていました。
そこで借地借家法の導入に際して、一定の期間が経過すれば確実に契約を終了することが可能な「定期借地権」という制度が誕生することとなり、以下の3種類が運用されています。
- 一般定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 事業用借地権
なお、この3つの定期借地権にはそれぞれ異なるルールが定められていますので、その詳細については別記事「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」をご参照いただければと思います。
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借地権とは?まとめ
さてここまで、借地権に関する概要を「わかりやすさ重視」でお話ししてまいりました。
全体を眺めてみると、借地権者は非常に不利な立場に立たされているようにも思えますが、不動産屋の立場としては「そうとばかりも言えない」というのが率直な感想です。
地代の設定額は一坪「数百円」という格安な地域が多いですし、土地の固定資産税の支払いは地主の負担となりますから、地主にとって地代での収益は殆ど無いというのが現実でしょう。
また、建物が存在する限りは地主からの解約はまず不可能ですし、地代の値上げも難しいとくれば、更新や建替えのタイミングで収益を得たいという気持ちは、充分に理解できる部分もあるのです。
このように考えて行くと、「借地権は所有権とは全くの別物であり、借地ならではの煩わしい点も多いものの、住み続けて行く上では全く支障のない盤石な権利形態」という言い方もできるのかもしれません。
ではこれにて、「借地権とは?わかりやすくご説明します!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。