売買を扱う不動産の営業マンにとっての「仕事の山場」は、何と言っても売買契約の締結と重要事項の説明です。

契約をする前であれば、物件にどのような問題点が発見されても「嫌なら契約しなければよい」で済むことですが、これが契約後となれば、時には訴訟などにも発展しかねない「大変な問題」となりますから、

売買契約と重要事項説明は、取引の結末を「天国」にするか「地獄」にするかのボーダーラインとも呼べる重要なイベントとなります。

以前にも「不動産売買の仕事内容」の記事において、売買契約の注意点などについてお話ししましたが、「契約時の流れについて、更に詳細に説明をして欲しい」とのご要望を多く頂戴いたしましたので、改めて記事を書かせていただきたいと思います。

では、不動産契約の注意点に関する知恵袋をスタートさせましょう。

※本記事では新築一戸建ての売買契約について、仲介業者の目線にてご紹介いたします。

不動産契約の注意点

 

契約の準備

ご紹介していた物件に対して、お客様が購入意思を固め、買付証明書が売主に受理されれば、その次に待っているのが売買契約の締結というイベントとなります。

冒頭でも申し上げた通り、契約前なら「取引上の重要な注意点」や「物件の瑕疵」についてお客様が把握していなくとも、大きな問題にはなりませんが、契約の場において『誤解を生じさせる説明』や『伝えるべき情報の不告知』があった場合には、後々非常に面倒な事態を招くことになりますから注意が必要です。

なお、こうしたトラブルを防ぐためには「適切な重要事項の説明」と「隙の無い契約書の作成」が最も重要なポイントとなりますので、この2点は契約の事前準備の中でも『最大限に力を注ぐべき事項』といえるでしょう。

そして重要事項説明書に関しては、現地調査行政調査を納得いくまで行った上で、収集した情報を漏れなく説明書に盛り込んで行きます。

一方、売買契約書に関しては、お客様の購入条件(手付金の額、融資の申込み先金融機関名、引渡し希望日)をしっかり反映させた原案を作成することになりますが、ここでのポイントは、作成した重要条項説明書と契約書を『まずは売主(建売屋さん)に確認してもらう』ことです。

※重要事項説明書の作成方法については別記事「不動産重要事項説明書作成について!」を、契約書作成については「不動産契約書作成のポイントを解説!」の記事をご参考になさってください)

当然ながら、売主である建売屋さんもプロの不動産業者ですから、提示する原案については様々なツッコミを受けることになりますが、大切なのは手数料をもらう立場だからと言って、売主の言いなりにはならないということです。

もちろん売主もお客さんなので、譲るべきことは譲らなければなりませんが、「後々トラブルになりそうな問題を隠して欲し」「買主に極端に不利になるような契約条項を加えて欲しい」などの要望については、「無理なものは無理!」としっかり伝えましょう。

そして、こうしたやり取りを経て完成した重要事項説明と売買契約書の原案を、最終的に買主に確認してもらいます。

この際、ドサッと書類を渡すだけでは読んでくれない買主さんも多いですから、要点は口頭でしっかりと説明を加えることも忘れないようにしましょう。(ここで重要事項の説明を行ってしまうのも、一つの方法です)

※新築戸建の場合(建売物件の場合)には、契約書に建物の消費税額を明記する必要がありますので、こちらも事前に売主から教えてもらいましょう。

なお、契約書・重要事項の説明以外にも用意すべき書類や準備は多々あります。

その他の書類作成

売買契約に際して必要なその他の書類は、下記の通りとなります。

媒介契約書

売主からは「売却の依頼」を、買主からは「購入の依頼」を受けたことを証する書面です。

よって、「売主と仲介業者」間で交わす書面、「買主と仲介業者」間で交わす書面を2通づつ作成する必要があります。

なお媒介契約には一般・専任・専属専任がありますが、建売物件にお客様を付けた場合(客付けの場合)は、売主用・買主用共に一般媒介となるのが通常でしょう。

※媒介契約に関する詳細は別記事「不動産媒介契約の種類と運用について解説!」をご参照ください。

仲介手数料支払い承諾書

決済時に頂く仲介手数料の支払いを確約してもらう書面となります。(契約時に仲介手数料を頂いてしまう場合には不要)

こちらについても、売主分・買主分それぞれを作成する必要があるでしょう。

なお、仲介手数料は物件の売買価格から建物の消費税額を引いた金額をベースに算出します。

また、書面を作成したら「手数料額に間違いがないか」を売主・買主に確認してもらう作業も忘れないようにしましょう。

物件状況報告書

物件に関する売主からの告知事項(雨漏りや、シロアリの被害、近隣との紛争の有無など)を記載してもらう書類となります。(建売の場合は新築ですのから、告知事項がないケースが殆どですが)

この書類には重要事項説明書と重複する内容も多く含まれるはずですが、売主が説明を行い、買主が承諾したことを証する書面となりますから、取引においては非常に大きな意味を持つものとなり、売主・買主署名捺印の上、互いに一部づつを保管することとなります。

なお、契約の場で物件状況報告書を売主に書いてもらうのは手間なので、雛形をメールなどで事前に送り、記載済みのものを契約に持って来てもらうようにしましょう。

付帯設備表

売買対象となる物件には土地や建物以外にも、様々な設備や工作物などが含まれることになりますので、付帯設備表では「どのような設備等が存在しているのか」「その故障の有無」などを明らかにすることになります。

「設備等」と言っても、あまりピンッと来ない方もおられるかもしれませんが、建物に備えられたインターフォンや給湯器、テレビアンテナなどが設備として扱われ、門柱やカーポートの土間、車止めなどが工作物です。

売買完了後、建物本体には問題がないものの、使えると思っていた給湯器が故障していた場合などには、買主は想定外の費用を負担することになりますから、売主は契約の段階でこうした設備等の有無、故障の程度などを、付帯設備表を用いて告知しておく訳です。

手付金の領収書

売買契約では手付金の授受が行われますが、買主は一般の方なので領収証の準備は仲介業者の役目となります。

領収書の作成においては、金額の記載や収入印紙の貼付まで済ませ、契約時には署名・捺印をもらうだけの状態にしておきましょう。

印紙の購入

売買契約書に貼付する収入印紙となります。(印紙税に関する詳細は別記事「不動産の印紙税について解説致します!」をご参照ください)

買主に対しては必要な印紙代を知らせ、その費用を現金でお持ちいただきくことになりますが、印紙自体は仲介業者が事前に購入しておくのが通常です。

また売主分については、印紙代節約のため契約書を2部作らない建売屋さん(原本を買主が保有し、売主はコピーのみを受け取るパターン)も多いので、事前の確認を必ず行うようにしましょう。

なお2部作る場合でも、売主分の印紙を「仲介業者に用意して欲しい」という建売屋さんは稀です。

その他の打ち合わせ事項

契約日を迎えるに当たっては、下記の事項についても打ち合わせを行っておく必要があるでしょう。

契約時間の決定

売買契約締結においては、重要事項の説明を終えた後に、契約書の読み合わせを行い、これに署名・捺印を行うという段取りになります。

但し、重要事項の説明には売主が立ち会わないのが通常ですから、例えば18時からの契約予定なら、17時には買主に来店をお願いして重要事項を説明を開始し、18時までにこれを終えましょう。

そして18時に売主が登場して、契約書の取り交わしを行うというのが一般的な流れとなります。

説明する内容の分担

重要事項説明は仲介業者の仕事となりますが、建売屋さんが売主の場合には、売主も重要事項説明書の説明者として署名・捺印を行います。

また説明する内容によっては、「売主が直接買主に説明した方がスムーズな事項」もありますので、例外的に重要事項説明に売主が立ち会ったり、契約書の読み合わせの前に売主から説明が行われる場合もあるでしょう。

なお建売住宅の場合には、瑕疵担保(建物の隠れた傷)に関する保険に加入するのがルールとなっていますが、保険に関する説明は売主が自ら行うことも多いため、「どの説明を誰が何時のタイミングで行うのか」も、売主と事前に打ち合わせておくとスムーズです。

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重要事項の説明

さて契約締結の当日、最初に行うべきは買主に対する「重要事項の説明」となります。

まずは宅地建物取引士証を提示し、「宅建業法35条における重要事項説明を行います」と宣言した上で、重要事項説明書を読み上げて行くことになるでしょう。

この際、単に文言を読んでいくだけの方も多いようですが、大切なのは後でトラブルにならないことです。

いくら正確に記載し、これを大きな声で読み上げても、お客様が理解していなければ意味がありません。

よって、説明書の文言を自分の言葉で噛み砕き、誰が聞いても誤解のない説明を心掛けましょう。

また、不明点があるのに話が先に進んでしまうと「お客さんはなかなか言い出せない」ものですから、一定のスパンで説明を区切り、質問が無いかを確認しながら話を進めましょう。

なお、自分が知らない点を買主にツッコまれた場合には適当な回答はせず、「売主さんが到着したら聞いてみましょう」などの言葉で切り抜けるのがおすすめです。

※契約時に取り交わす書類は山程ありますので、売主の到着が遅れたり、重要事項説明が早く終わってしまった時には、買主が行うべき署名・捺印をできる限り済ませておくのが得策でしょう。

 

契約書の読み合わせ

重要事項の説明が終わり、売主が到着すれば売買契約書の読み合わせとなります。

こちらも重要事項の説明と同じく、文言を読み上げるだけではなく、契約内容を正確に理解してもらうことが重要です。

よって、一つの条項を読み上げたら、自分なりの言葉で簡単に契約条項の要点を解説するなどの方法がおすすめでしょう。

そして読み合わせが終わり、買主からの質問が無いようなら、各書類(売買契約書・重要事項説明書・媒介契約書・仲介手数料支払い承諾書・物件状況報告書・付帯設備表・手数料領収証)の署名・捺印作業に取り掛かります。

なお、取り交わすべき書類はかなりの数に及びますので、売主・買主の手が止まらないように「次々と書類を回して行く」のがスムーズな進行のコツとなるでしょう。

また、まずは全ての書類に「署名だけ」を頂き、次に「捺印だけ」を頂くという順序で効率的に署名・捺印の作業を完了させてください。(一つ一つの書類に順番に署名・捺印を行っていると非常に時間が掛かります)

ちなみに、仲介業者はこの際に売主・買主の本人確認書類(免許証・会社謄本)などのコピーを取ることも忘れないようにしましょう。

※売主からの媒介契約書・仲介手数料支払い承諾書は、買主からなるべく見えない場所で行いましょう。売主・買主両者から手数料をもらうことに不満を感じる買主も存在します。

 

その他取り交わす書類と解散まで

契約書等の読み合わせ、署名捺印が完了したら手付金の支払と、領収証の受け渡しを終えて契約は終了です。

少し談笑をした後、融資関係書類を金融機関に持ち込む予定日や建物の内覧会の日程打ち合わせなどをして、解散となります。

但し、売主はここで退席しますが、買主は住宅ローンの本申込み書類の作成などが残っていますので、申込み書類への記入と金銭消費貸借を行う日取りの打ち合わせをして、買主も退席という運びになります。

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不動産契約の注意点まとめ

さてここまで、不動産売買契約の流れや注意点を解説してまいりました。

冒頭でもお話した通り、大切なことは「後でトラブルとならないよう、ガッチリと誤解のない説明をすること」ではありますが、売主・買主共にお客様ですから、契約をスムーズな流れで進めることも重要なポイントです。

よって、大切な説明にはしっかりと時間を掛けながらも、素早く進められる作業についてはスピーディーに、そして、たとえ不測の事態が発生しても仲介業者がパニックに陥ることがないように万全の準備を心掛けましょう。

ではこれにて不動産契約注意点の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!