地球に暮らす多くの動物は、それぞれに「自分自身の縄張り(テリトリー)」を有しているものです。

そしてこうした意識は「人間についても例外なく備わっている」ようで、現代でも国家規模、行政規模での縄張り争いが各地で展開されています。

また、自身の身の回りを見渡せば「個人間での縄張り争い」も決して珍しいことではなく、その最たる例とも言えるのが「不動産における境界争い」なのではないでしょうか。

そこで本日は「境界問題の解決法について解説いたします!」と題して、誰の身にも降り懸かって来る可能性がある境界トラブルの解決法についてお話をしてみることにいたします。

境界問題

 

境界問題って何だろう?

ではまず最初に、「境界問題とはどのようなものか?」という点からお話を始めて行きましょう。

過去記事「土地の境界線について解説いたします!」でも既に触れていますが、我が国では「土地と土地との境界線」を境界標と呼ばれるもので識別することとなっています。

なお、境界標には「石杭」や「プラスチック杭」、「金属鋲」「金属プレート」など、様々な種類が存在していますが、これらの表面(杭や鋲なら頭の部分)には「+」や「↑」などの刻印がなされており、その表示によって土地の切れ目(筆界)のラインを示すことになっているのです。

そして、一団の大きな土地から、一部を切り分ける作業(分筆)をする場合などには、土地家屋調査士という専門の資格を持った者が、法務局にその旨の登記(分筆登記)を行うと同時に「地積測量図」という図面を提出することとなっており、そこには現地に設置された境界標の位置や素材を示すルールとなっています。

こうした作業の積み重ねによって、たとえ将来的に建築工事などで境界標が紛失してしまった場合でも地積測量図を基に境界標の復元が可能となる処置が執られているのです。

ただ、今でこそこうした厳密な手続きが行われるようになった分筆等の作業ではありますが、50年、60年と時代を遡って行けば「境界に関する確かな証拠が残されていないケース」も存在しており、一体どこからが自分の土地で、どこまでがお隣の土地なのかが「サッパリ判らない」ということも珍しくないのです。

ちなみに境界には「筆界」という法務局が定める(公法上の)境界線と、「所有権界」という隣接する土地所有者同士が定める(所有権などの私法上の)境界線の2種類があり、

所有権界については、お隣同士で話し合って自由に境界線を決めることができますから、近隣と良好な関係が築けていれば大きな問題にはならないはずなのですが、

中には強引に自分の土地の拡大を図ろうとする者や、難癖を付けてくる不届者も少なくありませんから、こうしたケースでは境界を巡っての紛争へと発展して行くことになるでしょう。(筆界については後述する筆界特定制度で法務局が境界線を示してくれます)

また、近年の不動産売買では引き渡しを行うまでに、売主が境界を明示することが当たり前となっていますから、生活している分には問題がなくとも不動産の売却等に当たって、一気に境界問題が表面化してくることもあるのです。

では、こうした境界紛争を私たちはどのように解決して行けば良いのでしょうか。

次項ではその具体的な解決手段について解説をしてみることにいたします。

境界問題の様々な解決手段

前項でお話しした通り、近年では境界を巡る争いが増加傾向にありますから、国や行政もこうした紛争の解決に向けての制度を幾つか用意してくれています。

筆界特定制度

まず最初にご紹介するのが、2006年から導入されることになった筆界特定制度というものです。

この制度は不動産登記法の定めを根拠に運営されているもので、土地の所有者等から依頼を受けた筆界特定登記官(法務局の職員)が、筆界調査委員と呼ばれる外部委員(弁護士や土地家屋調査士)と連携しながら境界の争いを解決してくれる制度となります。

なお、こうしたご説明をすると「そんな便利な制度があるなら、境界争いも楽勝だね!」などという気にもなってしまいそうですが、この制度には大きな問題も存在しています。

筆界特定制度が利用された場合、一定の期間をおいて「ここが境界線である」との見解が示されることになるのですが、実はこの結論はあくまで「筆界(公法上の境界)」であり、その効力は「所有権界(私法上の境界)には及ばないもの」となっているのです。

つまり、法務局的には「ここが境界線だ」という結論に至ってはいるものの、お隣さんとの所有権の問題(土地をどの部分まで利用できるかという権利関係の問題)には、その効力が及ばないということになります。

これではお隣の人に「法務局が何と言っても、そんな境界線は認めない!」と言われてしまえば、それ以上は何もできませんよね。

もちろん、通常の隣人であれば「法務局の判断を知って納得するケース」も少なくありませんし、その後に裁判などに発展した場合も筆界特定制度の結果は有力な証拠となりますから、決して意味のないことではありませんが、少々心許ない制度であることも確かでしょう。

ちなみに、筆界特定制度は非常に安価な料金で利用できる点が大きな魅力となっています。

申請料金については固定資産課税台帳の土地価格を基準に算出されますが、評価額3000万円の2つの土地の境界について筆界特定制度を利用する場合の費用は1万円程度となるでしょう。(筆界特定制度の申請料金は自分の土地と相手方の土地の評価額、筆の数などによっても変動します)

※法務局のホームページには申請費用のシュミレーターが用意されている場合もあります。

但し、測量費用などは別途必要となりますので、この点にはご注意ください。

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境界問題相談センターによる調停(ADR)

さて続いてご紹介するのが、土地家屋調査士会が運営する「境界問題相談センター」にて行っている調停制度(ADR)についてとなります。

ここまでの解説でも、既に土地家屋調査士の名は何度も出てまいりましたが、土地家屋調査士は法務省が監督官庁を務める不動産表示登記の専門家のことであり、簡単に言えば国家資格を有する境界問題のプロフェッショナルということになるでしょう。

そしてこの土地家屋調査士の協会が主催しているのが境界問題相談センターであり、境界争いについて専門家として介入してくれるのが、この調停制度となります。

また実際に調停を行う際には、弁護士会とも連携を取りながらの対応となりますから、言わば境界のプロと法律のプロがタッグを組んで、問題解決に当たってくれることになるのです。

なお、この調停では筆界特定制度では触れられなかった「所有権界の問題」に関しても切り込んでくれますので、これは実に頼もしいですよね。(筆界特定制度とも連携しての利用が可能)

ちなみにADRとは「Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続裁判)」の略称であり、裁判によらず、公平な立場の専門家が介入する話し合いによってトラブルの解決を図る制度であり、「司法型」「行政型」「民間型」の3種類が存在しますが、土地家屋調査士会の境界問題相談センターは民間型に分類されます。

そして、ADRにおいては

  • 助言/文字通り、専門家が境界紛争について助言を行う
  • あっせん/境界問題の専門家があっせん人として、話し合いに介入する
  • 調停/調停人が話し合いに介入し、具体的な解決策の提示などを行う(裁判所における調停とは別物)
  • 仲裁/当事者同士が合意した場合にのみ可能で、仲裁人が判断を下すことで、裁判における判決と同様の効果を得ることができる

以上のような問題解決に向けての手段を講じることができます。

そして、仲裁において下された判断については仲裁法の定めにより、異議申し立てはもちろんのこと、同様の内容について改めて訴訟を提起することも不可能となりますので、この点については充分に注意が必要でしょう。

調停や裁判による境界問題の解決

そして最後にご紹介するのが、裁判所の手続きを利用した紛争の解決方法となります。

裁判所を頼るとなれば「訴訟」という言葉が頭に浮かんで来ますが、『まずは調停を行う』という手段もあるでしょう。

なお、ここで言う調停は前項でご紹介した「境界問題相談センターによる調停」とは全く異なるものであり、裁判所からの調停の呼び出しを正当な理由もなく無視すれば5万円の過料という罰則がありますし、この調停によって決まった内容は裁判の判決と同等の効力を有することになりますから、上手く話し合いをまとめることができれば非常に効果的な手段となるはずです。

また調停で決着が付かないケースや、いきなり訴訟に持ち込むべき案件の場合には、裁判所に出向いて民事訴訟の申し立てを行うことになります。

ちなみに境界問題については大きく分けて2つの訴訟メニューが用意されていますので、以下ではその詳細を解説してまいりましょう。

境界確定訴訟

境界確定訴訟は、裁判所が筆界(公法上の境界)を判断する訴訟となります。

そして通常の裁判とは異なり、勝訴・敗訴といった概念は存在せず、裁判所が一方的に公法上の境界を判決によって示し、これに対して当事者は一切異議を申し立てることができません。

なお既にお話しした通り、この裁判で示されるのは筆界(公法上の境界)のみとなりますので、所有権界(私法上の境界)を定めるためには次項で解説する所有権確認訴訟にて決着を着けることになります。

ちなみに、境界確定訴訟はこうした性質の裁判となりますので、一度裁判が開始されれば裁判所は必ず判決を出さねばならないルールです。

所有権確認訴訟

所有権確認訴訟は文字通り、境界トラブルにおける所有権界(私法上の境界)についての判断を行う裁判となります。

よってこの裁判においては、土地利用の履歴や専有の状況などについての証拠を提出し合い、これらを基に裁判所が判決を下すことになります。

そして、こうした性質の裁判となりますので当事者が互いに十分な証拠を揃えられない場合には、訴え自体が棄却されてしまうこともありますし、判決に納得がいかない場合には控訴を行うことも可能です。

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境界問題まとめ

さてここまで、不動産の境界紛争の解決手段について解説を行ってまいりました。

もちろん、ご紹介して来たような方法を用いらずに「穏便にお話し合いで解決」できるのが一番なのですが、どうしても応じてくれない相手の場合には、是非これらの手段をお試しください。

また話し合いで決着が付いた場合でも、しっかりと証拠は残しておくべきですから、司法書士や弁護士などに依頼して、話し合いで決まった内容を覚書などに残しておく方が無難でしょう。

※公証人役場に出向き、公正証書にて文書を交わすという手段も有効です。

境界の争いは自分のみならず、子孫たちにも大きな影響を及ぼす由々しき問題となりますから、是非早期の決着を目指していただければと思います。

ではこれにて、「境界問題の解決法について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきます。