不動産の購入や売却にあたり、売買契約書とは別に締結することとなるのが「媒介契約」と呼ばれるものです。

これまでに不動産を売ったり、買ったりした経験をお持ちの方ならば、一度は媒介契約書を目にしたことがあるかとは思いますが、印鑑は押したものの「その正体をいまひとつ把握していない・・・」という人も多いことでしょう。

そこで本日は「不動産媒介契約の種類や要点について解説いたします!」と題して、「各種媒介契約の特色」や「どの契約を選択するべきなかの?」等についてご説明していきます。

不動産媒介契約の種類

 

媒介契約とは?

それではまず、「そもそも媒介契約とは何なのか?」という点からご説明して行きたいと思います。

媒介契約とは「不動産業者が売買(交換)の仲介を行うにあたり、依頼者と締結しなければならない」と宅地建物取引業法にて定められている『契約』を指す言葉です。(宅地建物取引業法34条2項)

また皆様もご存知の通り、不動産屋さんが物件の仲介を行った場合には報酬として「仲介手数料」を受け取ることとなりますが、この媒介契約こそが「報酬発生の根拠」ともなっています。

さて、ここまでの解説をお読みになり、「どうしてわざわざ、そんな契約を結ぶ必要があるの?」と疑問に思われた方も多いかと思いますが、一般に行われる商取引であれば、目に見える商品がありますから、お客も納得して代金の支払いを行うことができますよね。

一方、これが仲介手数料となると「一体に何に対して対価を支払っているのか」が明確ではないため、過去には仲介手数料を口利き料的なものと考えた依頼者が「支払いを拒む」といったケースや、「報酬を得る根拠を示せ」などと、無理難題を突き付けてくる場合も多かったようです。

そこで先人たちはこうした問題を解決するべく、仲介手数料を「物件の売買を円滑に進めるための準委任契約の対価」と位置づけ、取引を行う際には媒介契約(準委任契約)を締結することとしました。

※更に媒介契約を簡単にご説明するならば、「売主や買主に代わって、不動産取引に係わる各種業務(「物件探し」や「購入者探し」、「物件調査」など)を仲介業者に委任する契約」ということになるでしょう。

そして現在では、不動産業者を監督する宅地建物取引業法において、取引に際しての媒介契約の締結が義務化され、報酬額にも上限を設けるといった法整備が行われているのです。

参考資料/仲介手数料の上限計算式
  • 物件価格200万円以下      ・・・物件価格×5%+消費税
  • 物件価格200万円超~400万円以下・・・物件価格×4%+2万円+消費税
  • 物件価格400万円超       ・・・物件価格×3%+6万円+消費税

媒介契約の種類

こうして誕生した媒介契約の制度においては、現在3つのタイプの契約形態が存在しています。

それは「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3つであり、種類の違いによって運用のルールも大きく変わってきますので、以下では各種媒介契約の特色について解説を行ってまいりましょう。

一般媒介契約

一般媒介契約は3種の媒介契約の中で、最も依頼者(売主・買主)に対する拘束度が弱い媒介契約とされています。

この契約を不動産業者と締結した依頼者は、他の不動産業者にも重ねて売買の依頼ができるというのが、一般媒介契約の特徴です。

つまり、家を売りたいのであれば、複数の業者に売却依頼を行うことが可能となりますし、購入希望であれば様々な業者から物件情報の紹介を受けることができます。

なお、一般媒介契約には「明示型」と「非明示型」の2種類があり、明示型の場合には「他に依頼した業者のデータを契約の相手方に通知する義務」を負うことになります。(非明示型の場合には、通知なく複数の業者に依頼をすることが可能です)

ちなみに「契約の期間」については特に定めがありませんので、半年間、1年間といった長期の契約も可能です。

一般媒介契約のメリット

一般媒介契約の最大のメリットは複数の不動産業者へ自由に依頼できることで、購入や売却に際しての門戸を広げられるという点になります。

他の媒介契約は1社に依頼先を絞り込まなければならないため、依頼する業者の質を見極める必要がありますが、一般媒介であればこの点は非常に気軽です。

また売却依頼について言えば、複数の業者へ声を掛けられるということは「広告活動を行わなくても、購入希望のお客様の情報を保有している不動産業者を売主が自ら探せる」ことにもなりますので、秘密裏に売却を進めたいという方には大きな利点となるでしょう。

一般媒介契約のデメリット

一般媒介契約の一番の問題点となるのが、複数の業者への依頼が可能であるが故に「不動産業者のモチベーションが低下する」ことです。

多くの業者が一気に活動を開始するとなれば、早い者勝ちとなってしまうため成約できる可能性は当然低くなります。

そうなれば「あまり営業活動に力を入れるべきではない」「経費はなるべく掛けないようにしよう」となってしまうのが道理でしょう。

但し、明らかに相場よりもリーズナブルな物件や希少価値の高い物件などは、一般媒介契約であっても不動産業者のモチベーションが維持できるはずです。

専任媒介契約

専任媒介契約は、一般媒介契約よりもかなり強力な拘束力を持つ契約形態であり、依頼者は他の不動産業者に重ねて、売却・購入の依頼を行うことができません。(専任媒介契約を結んだ1社以外には売り買いの依頼ができない)

但し、依頼者が自力で売り手、買い手を見つけ出すこと(自己発見)は可能とされているのも、この専任媒介契約の特徴です。

よって、この専任媒介契約を締結すると「売却や購入の窓口となる媒介業者が1社のみという状態」になってしまうため、契約先の業者が仕事をサボっていると『いつまで経っても取引の相手方を見付けることができない』ことになってしまいます。

そこで、こうした問題を回避するべく、専任媒介契約を締結した不動産業者には依頼者に対して2週間に1回以上の書面(電子メールも可)による業務内容の報告が義務付けられると共に、媒介契約締結から7日以内に指定流通機構へ物件情報の登録を行うルールが定められているのです。

※指定流通機構とは通称「レインズ」と呼ばれる『不動産業者間の売物件情報共有媒体』のことであり、ここに情報を登録することで物件情報が全国の不動産業者に拡散されます。

なお、専任媒介は依頼者を強く拘束する契約形態であるため、契約期間についても3ヶ月以内としなければならないのがルールです。(但し、3ヶ月の期間を終え、新たに3ヶ月の期間で契約を更新することは可能です)

専任媒介契約のメリット

専任媒介契約の締結する最大の利点は、仲介業者が緊張感を持って業務にあたる環境を作れるという点です。

既にお話ししたように、仲介業者にとって一般媒介は成約率が極端に下がる契約となりますから、「売却依頼については専任以上の媒介契約を締結することで、初めて仕事をしたと評価される」というのが不動産業界の常識となります。

よって、専任媒介を受けた以上は「お客様の期待を裏切ってはならない」という気分になるものですし、同じ会社の社員に対しても「一度専任をとったのに、専任契約を解除された」というのは非常に恥ずかしいことなので、否が応でも成約に向けて全力で努力をせざるを得ない状況となるものなのです。

また、こうした専任媒介契約の性質から、不動産会社は専任媒介契約を締結してくれる顧客に様々な特典を用意しています。

特典の内容は会社ごとに異なりますが、

  • インスペクション(物件状況調査)の費用が無料
  • 瑕疵保険の加入料が無料
  • 成約に時間を要した場合の物件買取サービス
  • 買い替えに際しての仲介手数料値引き
  • 引渡し前のルームクリーニングサービス

など、その内容は多岐に渡る上、現金換算した場合に10万円以上の価値がある特典もありますので、これは実にありがたいところでしょう。

※インスペクションや瑕疵保険はついては別記事「インスペクションとは?不動産取引の新たな潮流を解説します!」および「インスペクションと瑕疵保険について解説致します!」をご参照ください。

専任媒介契約のデメリット

ここまで専任媒介の利点を見てまいりましたが、仲介業者の中には「専任媒介を締結してもらった」という事実に全く感謝の念を抱かない者たちがいるのも確かです。

そして、必死で業務を続けているフリをしながら、

  • 成約しやすいように、売主へジリジリと販売価格を下げるように仕向けてくる
  • レインズ登録を行わず、売却と購入手数料の両取りを画策する
  • 他の業者が物件に買い手を付けることを妨害する(狙いは売却・購入手数料の両取りのため)

以上のような不正行為を働く仲介業者も存在します。

また、こうした悪意こそないものの不動産業者としてのスキルが不足しているために

  • お客(買主)を逃がしてしまう
  • 客付業者(買主側の業者)と揉め事を起こす
  • 成約には至ったが、物件についての調査説明不足でトラブルになる

というケースもありますから、専任媒介契約を締結する仲介業者の選定には細心の注意を払うべきです。

なお、専任媒介契約の期間は3ヶ月が上限となりますから、契約更新を行わないことで他の業者への乗り換えも可能ですが、急ぎの売却などの場合には3ヶ月の拘束期間は非常に厳しいものがあるでしょう。

専属専任媒介契約

3種の媒介契約の中でも「最も拘束力が強い契約形態」となるのが、この専属専任媒介契約です。

この契約では他の不動産業者への依頼はもちろん、自分で売り手・買い手を見付ける(自己発見)ことも禁止されることになります。

なお、その厳しい内容に伴って「不動産業者が負う義務」も重いものとなっており、1週間に1回以上の書面(電子メールも可)による業務内容の報告と、契約締結から5日以内の指定流通機構への物件情報登録が必要となります。

なお、専属専任媒介契約においても契約期間は3ヶ月以内としなければならないのがルールです。

専属専任媒介契約のメリット

専属専任媒介は専任媒介以上に「依頼者が受ける拘束力」が強いため、仲介業者が受けるプレッシャーも抜群のものとなります。

よって、お尻に火が点いた状態で業務に励まなければなりませんので、仲介業者のやる気を最大限に引き出すことができるという点が最大のメリットとなるでしょう。

また、仲介業者には1週間に1回以上の業務内容報告の義務がありますので、物件の販売状況等をリアルタイムに実感することができる上、専任媒介と同様に仲介業者が用意する様々なサービスを受けられるのも専属専任媒介契約の利点と言えるでしょう。

専属専任媒介契約のデメリット

専属専任媒介契約のデメリットは何と言っても、依頼者が受ける強大な拘束力となります。

他の業者に依頼ができないばかりか、たとえ自力で買主を見つけてたとしても(親戚や隣家の方が物件を買いたいと言ってきたとしても)、必ず仲介業者を通さなければなりません。

そして、こうだけ強い拘束を受ける一方で「その分だけ買い手が早く見つかるか」と言われれば、そうも言い切れないのが現実です。

まともな仲介業者の立場からすれば、専任媒介の段階で可能な限りの成約に向けての努力は行なっているはずですから、更なるスピードアップが望めるかと言えば、それは少々厳しいものがあるでしょう。(逆を返せば、サボる業者は専属専任であってもサボります)

よって、専属専任媒介は依頼者自身の拘束力を極度に高める代わりに、仲介業者へのプレッシャーを強める程度の効果しかない契約という側面もあるのです。

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実務上の媒介契約の運用

さて、媒介契約の概要についてご理解いただけたところで、本項では実務上の媒介契約の運用についてお話ししてみたいと思います。

但し、媒介契約締結の目的が「購入依頼」であるのか、「売却依頼」なのかによっても様々な違いが生じてまいりますので、各々のパターンに分けてご説明させていただきます。

購入依頼における媒介契約

媒介契約は「売り・買い」どちらの場合にも締結が義務付けられてはいますが、その目的が『物件を買うため』であり、未だ購入対象物件が定まっていない段階(つまり、物件探しを依頼しているだけの段階)では、依頼者もなかなか媒介契約の締結に応じてはくれないものです。

このような事情から、購入に際しての媒介契約は「物件を発見し、売買契約が成立した後に締結する」のが一般的です。

※法律上は媒介契約を先行させる必要がありますので、本来は売買契約の直前に媒介契約の締結を行うべきです。

なお売買契約の成立後であれば、お客様が他の仲介業者に依頼をすることはありませんので、改めて強い拘束力を持つ媒介契約を締結する必要はありません。

よって、この時に交わされる媒介契約は「一般媒介」となるのが通常です。

売却依頼における媒介契約

前項でお話しした「物件購入に際しての媒介契約」とは異なり、売却依頼を引き受ける際の媒介契約の締結はなかなかシビアなものとなります。

不動産業者は売却の依頼を受けた場合、様々な広告媒体を使用して宣伝活動を行わなければなりませんが、成約することができなれば『ギャラ(報酬)は一切もらえない』のがルールです。

よって一般媒介契約を締結して、他の業者に買手を見付けられてしまっては堪りませんので、殆どの不動産業者が専任媒介・専属専任媒介の締結を求めて来ます。

さて、このようなお話をすると「複数の不動産業者と一般媒介契約を締結して、幅広く購入者を募集したい・・・」と考える依頼者の方も多いかと思いますが、正直この方法はあまりお勧めできません。

売却依頼に際して一般媒介しか結んでくれない依頼者に対しては、「頑張って仕事をしても、他の業者にお客を付けられてしまう可能性が高い」との思いから、不動産業者も積極的な販売活動を行うことができませんので、結局は「売却に時間が掛かってしまう」という結果に終わるはずです。

但し、一般媒介契約のメリットの中でもお話しした通り、お買い得感のある物件や希少性の高い物件についてはこの限りではありませんし、広告活動を行って欲しくない場合には一般媒介を利用し売主が足で仲介業者を巡って買い手を見付けるというのも一つの方法でしょう。

このように売却に際しては専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結する方が、より積極的に仲介業者を動かすことが可能となり、それが早期の成約にも繋がってくるはずです。

ただ、既にお話ししたようにレインズ登録を行わないなどの「囲い込み」と呼ばれる不正行為を行う仲介業者も存在しますし、悪意はなくともスキル不足によって成約に結びつかないケースもあるでしょうから、

「最長でも3ヶ月」という専任媒介契約や専属専任媒介契約の特徴を活かして、『原則3ヶ月刻みで媒介業者を変更するが、頑張り次第で契約を更新する』というスタンスをとることで、常に不動産業者のモチベーションを高く維持する方法がおすすめです。

また、「それでも不安」という方には1ヶ月や2ヶ月というより短い期間で媒介契約を締結し、仲介業者のクオリティーをチェックするという方法もあるでしょう。

なお、殆どの業者は専任媒介契約の締結で、最大限の販売活動を行ってくれるはずですから、専任専属媒介契約までは締結する必要はないはずです。

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媒介契約まとめ

以上が、不動産の媒介契約の概要と種類、そして実務上の運用に関する解説となります。

なお、売却依頼に際して「質の悪い業者」と契約してしまうと、3ヶ月もの期間を無駄に費やしてしまうばかりか、広告の方法によっては「物件情報としての鮮度」を著しく低下させてしまう危険もありますから、この点には是非ご注意いただきたいとところです。

ちなみに、不動産業者のクオリティーを見極めるのはなかなか難しい作業であるとは思いますが、以前お届けした「悪徳不動産会社の見分け方」「不動産の査定方法について!」などの記事を参考にしていただければ幸いです。

ではこれにて、「不動産媒介契約の種類や要点について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!