これまで3本の記事に渡って「建売の土地仕入の模様」「施工管理の様子」「建築確認取得から完成までの流れ」などについてをお話をしてまいりましたが、遂にこの記事にて最終目的となる「完成させた建売物件の引渡し」を迎えることとなります。

では早速、建売、引渡しまでの流れと、実際に私が経験した建売分譲のフィナーレをレポートしてまいりましょう。

建売、引渡しまでの流れ

 

建売、引渡しまでの流れを解説

ではまず最初に、建売物件完成から引き渡しまでの流れを見て行くことにいたしましょう。

売買契約締結まで

建売物件が完成すれば、後は購入希望者が現れるのを待つことになります。

なお、後程詳しくご説明いたしますが、建売業者(売主)が自ら積極的に建売物件の販売活動を行うことはあまり多くありません。

建売用地の仕入れに際しては「仲介業者からの物件紹介」が最も有力な情報源となりますので、物件への客付けを任せる(売主が直接販売を行わない)ことで、『仲介業者への配慮を欠かさない建売業者であることをアピールする』という訳です。

そこでまずは、お付き合いのある仲介業者へ秘密裏に物件情報を提供(未公開物件情報)したり、現地販売会を行ってもらうなどしますが、これで成約できない場合にはレインズへの登録を行い、物件情報を市場へ広めていくことになります。

*どうしても物件が売れない場合には、やむなく売主である建売業者が現地販売会等を行うこともあります。

そして、物件を購入したいとの申し出が入れば、購入希望者の財務状況などを確認した上で売買契約を締結することになります。

なお、売買契約締結に至るまでの流れの詳細は別記事「不動産売買契約の注意点や流れを解説いたします!」にて解説を行っておりますので、是非こちらをご参照ください。

表示登記の申請

売買契約が締結された後、一つの山場となるのが「住宅ローンの借入先の銀行から融資承認が得られるか、否か」という点になります。

不動産の売買契約書においては、買主が金融機関から融資を断られた場合に備えて、融資特約と呼ばれる「一定期間内に融資の承認が得られない場合には、契約を白紙解約できる条項」が組み込まれているのです。

よって、この条項の期限を迎えるまでは売主である建売業者としても、引渡しへ向けた準備が一切できない状況となってしまいます。

そして融資承認が下りた場合にまず行うのが、表示登記の申請です。

不動産登記法においては、建物完成後3ヶ月以内に表示登記という「建物の概要を表す登記」を行うことが義務付けられていますが、買い手が付く前にこの登記を行うと「建売業者の名前」が登記簿に残ってしまいます。

もちろん名前が残っても実害はないのですが、可能であれば買主の名前で登記を行いたいところですから、建売においては「買い手が現れるまで表示登記を行わなずに待っている」のが通常なのです。

なお、融資の承認が下りれば売買契約が解除される可能性が極端に下がりますので、このタイミングで買主名義の表示登記を行うこととなり、

  • 住民票
  • 認印を押した委任状

を買主より預かって、土地家屋調査士へ表示登記の申請を依頼することになります。

※建物が未完成であり、外壁や内装の部材について買主の希望が反映可能な場合には、この表示登記と同じタイミングで「仕上げ工事や外構工事(エクステリアの工事)の打ち合わせ」を行うこともあります。

内覧会の開催

表示登記が完了すれば、物件の引渡しは最早目前となりますから、売主・買主・仲介業者が物件へ終結して、「建物の最終確認と傷のチェック」、そして「設備の説明」等を行うための内覧会が開催されることになります。

ちなみに、売買契約書においては「境界の明示」などの売主が引渡し前に行う義務が定められているはずですから、この内覧会の場を利用して、こうしたイベントも一気にこなしてしまうのが通常です。

決済・引渡し

こうして物件の引渡し準備が完了すれば、

  • 買主から売主への残代金の支払い
  • 売主から買主への土地・建物の所有権移転登記
  • 物件(鍵)の引渡し

を一気に行う、決済という言うイベントが開催されることになります。

なお、建売の決済においては売主である建売業者から

以上のものが交付されることになります。

なお、決済については別記事「不動産決済日の流れについて解説いたします!」にて詳細な解説を行っておりますので、こちらも是非ご参照ください。

さてここまで、建売引渡しまでの流れを解説してまいりましたので、ここからは管理人が経験した建売売却の体験記をお届けしたいと思います。

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販売活動開始・好調な滑り出し

社長からの『お叱り』も受けてしまいましたので、「ここは一発気合を入れた販売活動を!」と行きたいところなのですが、実は建売屋さんが自ら販売を行うことは滅多にありません。

詳しくは「不動産営業の仕事内容!建売屋さん編」の記事にて解説しておりますが、まずは物件を買わせて(卸して)くれた仲介業者さんへ優先的に販売活動をお願いするのが業界の暗黙のルールとなっているからです。

これは物件を紹介してくれた仲介業者さんに「可能な限りのお礼をする」という意味合いがあり、物件を仕入れた際の手数料に加えて、建売分譲の際の手数料収入も獲得していただき、『次の仕入れもよろしくお願いします』という気持ちを伝えることになります。

また通常であれば、土地を卸してくれた仲介業者さんも「早く再販売(建売の販売)をさせてくれ!」と煽ってくるものなのですが、今回の業者さんは他の仕事が忙しく、手が回っていなかったご様子です。

とりあえずは「販売が遅くなってしまったこと」をお詫びした上で、改めて『現地販売会等をやる気があるか』を打診してみます。

すると、他の仕事も一息付いたタイミングであるとのことで、「しばらく間、販売会をやらせて欲しい」とのお返事を頂きました。

以来、週末には現地で売出し(現地販売会)を行ってくれたのですが、開始から2週目にして、2棟中の1棟にお申込みが入って来ます。(それも値引き交渉なし)

この滑り出しの良さに、社長は「値段が安過ぎたのでは!」と嘆いていましたが、私自身も「このペースなら、あっという間に販売終了だな」などという甘い考えを抱いていました。

その後、申込みを入れて来たお客様とは無事に売買契約を完了できましたので、外構工事などを打ち合わせをしながら、決済(引渡し)を待つだけの状態です。

そして『残り一棟も直ぐに・・・』と思っていた矢先、売出しをお願いしている仲介業者から「現地販売会に来場するお客様の数が激減している」という衝撃的な報告がもたらされます。

物件を卸してくださった仲介業者さんは、これ以降も根気よく売出しを続けてくれたのですが、既に前述の報告から2ヶ月以上の時間が経過していました。

苦 戦

建売業者の立場としては「建売用地を買わせてくれた仲介業者さんには、気の済むまで販売活動を行っていただき、成約すれば建売販売分の仲介手数料もお支払いする」のが当たり前です。

また成約に至らなかったとしても、多くの購入希望者が現地販売会を訪れることになりますから、この来場者を顧客として捕まえていただければ、それはそれで『建売屋さんから仲介業者への恩返し』ができたことにもなるでしょう。

但し、売出しに全くお客様が来ないのでは、これはお礼どころか「ただ時間を無駄に使わせている」ことになってしまいます。

更に、仲介業者さんも自分が物件を卸した手前、「販売活動を降りたい」とはなかなか言い出し辛いものがあるはずです。

そこでやんわりと、私の方から「現地販売会が負担になってはいませんか?」と水を向けてみることにしました。

すると「うーん、できればもう一棟も売りたいんだけど、他の仕事が忙しくて・・・」とのお返事でしたので、毎週の売出しをストップしていただき、新たな現地販売業者を探し始めます。

さて、このようなお話をすると「この期に及んで、まだ自分で売らないの?」というお声も聞えて来そうですが、こうしてフリーになった現場について『現地販売会をやらせて欲しい』という会社は意外に多いものなのです。

そして、ここで売出しを任せ、物件にお客様を付けてもらえれば、新たな仲介業者との『ご縁』が誕生することになりますから、まだまだ自社での販売は行いません。

とりあえず、知り合いの不動産屋さんに声を掛けたところ、2社程が手を上げましたので、1ヶ月交代で販売会をお願いすることにします。

しかし残念ながら、その結果は『惨敗』に終わります。

このように苦戦を強いられている間に、時間はドンドン過ぎ去り、既に完成から5ヶ月が経過しようとしていました。

実は不動産の広告を行う際には、完成から1年以上経過した物件は、未入居のものでも「中古」と表示しなければならないというルールが存在します。

また、プロジェクトの資金を借りている銀行に対しても借入れ期間は1年と設定するのが通常です。

よって、「完成から1年が経てば、たとえ販売が終了していなくても借りた資金全額を返済しなければならない」というのがルールとなります。

『これはヤバいぞ!』と気持ちばかりが焦りますが、その後も買い手は現れず、遂に完成から8ヶ月が経過。

「借入金の一括返済日」と「新築なのに中古の烙印が押される日」が目の前まで迫り、社長からのプレッシャーが日を追うごとに増加して行きます。

そして遂に、「自分で販売せよ!」とのお達しが下りますが、世の中は不思議なもの。

売出し中の業者から、絶好のタイミングで「買付証明(申込み書)」が送られて来ました。

祝!販売完了

「これは天の助け!」とばかりに買付証明書の内容を確認したところ、購入希望価格は定価の200万円ダウンという内容です。

仕入れの際の試算では1棟あたりの利益は300万円、2棟で600万円の儲けを見込んでいましたから、これでは予想利益の1/3を失うことになってしまいます。

この買付証明に対して『社長は一体どんな判断を下すのだろう?』と心臓をバクバクさせながら書面を手渡したところ、しばらく考えた後に「これで売ってしまえ!」との指示が出ました。

確かに、200万円の値引きは痛過ぎますが、残り4ヶ月でこれ以上のお客様が見付かるとは思えません。

『普段はえばってばかりだけど、こういう思い切りの良さがあるから、社長なのだな・・・』と改めて感心しながら、仲介業者に「OK」の返事をします。

そして、このお客様との契約も無事に完了。

実は収入の面などで、あまり内容の良いお客さんとは言えず、「ローン解除になったらどうしよう」と夜も眠れない日々が続きましたが、このピンチもどうにか回避に成功し、無事に物件の引き渡しを終えることができました。

そしてこの瞬間、遂に初めて担当した建売現場の仕事がフィナーレを迎えたのです。

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初めての建売まとめ

さて、ここまでが私が初めて経験した建売事業の体験記となります。

世間では「不動産屋さんは儲かる!」「建売屋さんの利益は凄い!」などと言われていますが、今回のケース以上に利益が少ない現場も経験して来ましたので、これが建売屋さんの現実なのでしょう。

また、売上げを上げたいばかりに薄利で多くの棟数をこなし、少しでも建物代を安くするために粗悪なハウスメーカーに依頼をしてしまうという「悪循環」に陥り、最終的には廃業を余儀なくされた不動産屋さんも何社か目にしています。

建物代をケチれば、クレームや改修工事も増えて来ますし、無理な仕入れを続ければ、売れ残りのリスクも高まりますから、これは当然の結果ですよね。

不動産の世界でも、焦らず堅実に、そしてコツコツと努力を積み上げていくのが、何よりも大切なようです。

ではこれにて、初めての建売体験記を締め括らせていただきたいと思います。