不動産関連の業種の中でも「少々異色な存在」とされているのが、建売を分譲する『建売屋さん』と呼ばれる業態です。

そして前回の記事では「建売の土地仕入の様子をレポート!初めての戸建分譲①」と題して、建売用地購入の流れをご紹介いたしましたが、今回はその続きとなる古家の解体、地盤改良の流れ等についてレポートさせていただきます。

では、建売施工管理の流れとポイント、そして管理人が実際に経験した現場管理の様子を見ていきましょう。

建売施工管理

 

建売用地購入後の加工の流れ

建売用地を購入し、決済を終えたなら早速物件の加工に取り掛かり、一刻も早く建売としての商品化を済ませねばなりません。

実は多くの建売業者は用地の仕入れ資金を金融機関からの借入で賄っており、その返済期限は殆どの場合、1年間と定められているのです。

よって当然、1年以内に建物を完成させて売却を終え、借入を一括返済しなければなりませんから、のんびりとしている暇は一切ありません。

では以下で、用地購入後の流れとポイントを見ていきましょう。

近隣への挨拶回り

古家付きの土地を更地にするにしろ、更地に新築工事を行うにしろ、まずは近隣への挨拶回りが何よりも重要となります。

工事が始まれば、騒音や振動等で確実に近隣住民には迷惑を掛けることになりますから、この作業は事業を行う上で絶対に欠かしてはならないイベントとなるでしょう。

また、単なる礼儀上の問題という以外にも

  • 近隣住民とのリレーションを強化してクレーム等を緩和する
  • プロジェクトの障害になり得る危険な住民がいないかの確認
  • 権利関係などに関して今後打ち合わせが必要な住民への顔合わせ
  • 物件を購入したい近隣住民やその親族がいないかの確認

といった目的を持って挨拶回りを行うことになります。

また、挨拶を行う対象は隣接するお宅だけではなく、2〜3軒先くらいまで範囲を広げておくべきです。

騒音や振動は思っている以上に広範囲に及ぶものですし、工事車両の通行や駐車などにおいてもご迷惑をお掛けしますので、後々の苦情を減らす意味でもなるべく広範囲に挨拶を行いましょう。

ちなみにこの挨拶回りにおいては、優しい言葉を掛けてもらえることなど滅多にありませんし、むしろ厳しいお言葉を頂くことの方が多いのが現実です。

更に挨拶回りに際しては

  • 工事時間についての厳しい要求(作業は朝10時から開始して欲しい等)
  • 建築計画の変更の要求(3階建てを2階へ変更して欲しい等)

とった無理難題を押し付けられることも珍しくありませんので、こうした要望をスマートに躱すスキルを身に付けておきたいところです。

解体工事の開始

古家付きの建売用地である場合には、解体作業が必須となりますので

  • 「解体作業によって建物が破損した」という隣家からのクレームに対処するための画像資料等の作成
  • 埃飛散防止のための散水用仮設水道の準備
  • 隣家の所有物や境界標を破壊しないための業者との打ち合わせ

などを忘れずに行うようにしましょう。

※解体作業については別記事「解体工事の流れや注意点を解説いたします!」にて詳細な解説を行っています。

権利関係の整理

建売用地を購入した際には、

  • 隣接地との境界線を跨ぐ、所有者不明のブロック塀の存在
  • 隣接地の建物の屋根や配管の境界線越境
  • 前面私道の権利関係の整理(通行や掘削承諾の取得)

など、権利上の問題となる事項が放置されているケースも少なくありません。

もちろん、契約の段階でこうした問題について「売主側で対処してから引渡し」という条件にできれば問題はありませんが、それでは交渉がまとまらない場合も多いですから、そうなれば引渡し後に処理するしかありません。

まずは権利関係者を訪問して事実関係を確認した上で、問題の処理方法を定めて覚書などを交わして行くことになります。

*私道の問題なら「通行・掘削承諾の覚書」、越境物であるならば「建替えに時に越境を解消する旨を確約する覚書」などを取り交わす。

建築する建物のプランを決定する

素早く建売物件を商品化するためには、なるべく早い時期に建物のプランを決定しておく必要があります。

事業が行われる殆どの地域においては、自治体に対して建築許可の申請(建築確認申請)を事前に行う必要がありますし、この建築確認が取得できていない状態では法令により建売自体の販売も禁じられているのです。

また、許可取得には一定の期間が必要ですし、一度許可を得てしまうと建物のプランを変更するのに、更なる時間と費用が必要となりますから、プランの決定は「素早く、慎重に行わねばならない」でしょう。

水道・下水・ガス等の引込み工事等

建売用地の中には水道・下水・ガス等の配管の引き込みが行われていない土地も珍しくありません。

また、引込菅どころか前面道路まで本管さえ達していない物件さえあるのです。

そして当然、こうした物件においては各種引込菅の敷設、本管の延長工事を行わなければなりませんが、自治体への届出等でかなりの時間を要しますので注意が必要となります。

地盤調査と地盤改良

建築する建物のプランが決定すれば、建物の不等沈下を防ぐための地盤調査とその結果に基づく地盤改良工事を行わねばなりません。

なお、地盤調査の結果が想定以上に悪い場合には、地盤改良に多大な費用を様子することになり、事業計画に大きな影響を及ぼすケースもありますので、ここは建売事業の一つの山場とも言えるかもしれません。

※地盤調査・改良の詳細に関しては過去記事「地盤改良の工法と種類について解説致します!」をご参照ください。

さてここまでが、建売用地購入後の加工の流れ(の序盤)となりますので、ここからは私が実際に経験した現場管理の体験記をお届けしていきましょう。

スポンサーリンク

初めての近隣挨拶と打合せ

無事に物件を購入した後は、いよいよ建築作業に向けての準備を開始します。

まず行うべきは、現地に建っている古家の解体作業と、確定測量の際に発覚した「お隣の敷地との真ん中に入っているブロック塀」の処理です。

とりあえずは、お挨拶用のタオルを持って隣近所へ「解体と新築のご挨拶」に向かいますが、『周りにどんな人間住んでいるか』が全く判らない状況ですから、ここは少々緊迫する場面となります。

そして、一軒一軒にご挨拶を済ませて行きますが、近隣の皆様の反応は「いくらで買ったの?」「工事は何時から何時までやるの?」「建設反対!」など、決して好意的なものではありませんでした。

記念すべき「初めての担当現場」であるにも係らず、スタートから浮かない気分になってしまいましたが、ここは気を取り直して重要な目的の一つである敷地境の真ん中にブロック塀が建っているお宅(Aさん)にお声を掛けます。

「今度、お隣で工事をすることになった●●不動産と申します。ご挨拶に伺いました!」と声を掛けると、玄関先に現れた初老の男性は「ご丁寧にありがとうございます」と笑顔で出迎えてくれましたので、内心「ホッ」としたのを覚えています。

そして、『これはチャンスだ』とばかりにブロック塀に関する説明を始めます。

実はこの敷地境のブロック塀、お互いの土地に跨って建てられているものの、元の土地所有者も「自分の所有物なのか、お隣のものであるのか判らない」という厄介な代物です。

なお、建売の分譲業者の立場としては「物件の購入者に納得の行く説明をすることができて、後々トラブルにならなければよい」だけですから、『ブロック塀の所有権の所在』さえ明らかにすることができれば問題はありません。

例えば、Aさんがブロック塀を「自分の持ち物だ」というのであれば、こちらの敷地に飛び出している「越境物」という扱いになりますし、

反対に「そちら(建売用地側)の持ち物だ」といわれれば、こちらからお隣に対して飛び出している「越境物」という扱いになるだけです。

そして「どちらの持ち物とも決められない」というのであれば、改めて「共有物」という扱いにしてしまうことも可能でしょう。

こうして所有権の所在さえ確定してしまえば、後は「今後の塀の扱いを定めた覚書」を取り交わして、建売の購入者にその内容を引き継ぐのみとなります。

そこで早速、「ブロック塀の扱いについて取り決めがしたい」旨の説明を始めたのですが、Aさんには説明の趣旨がなかなか理解していただけないご様子です。

そして結果的には、「いくら隣りの土地を買ったからといって、ブロック塀が誰のものかを、私とあんただけで決めてしまうのは乱暴だ!」と、意味の判らない理由を述べながら、怒り出してしまう始末でした。

『いやいや、あんたとオレ以外、誰が決めるんだよ!』と心の中でツッコミながらも、これ以上話が拗れないよう「また改めてご相談に伺います」と一端その場を離脱することにします。

なお後日、Aさんの息子さんから電話が入り、「建売用地側からの越境物」ということで決着が付きました。

このように初っ端からグダグダな展開にはなってしまいましたが、「近隣との権利関係の調整」は一応完了しましたので、いよいよ解体作業が開始されます。

初めての解体作業

そして解体作業の当日は、先輩から紹介してもらった解体業者さんが早朝から現場に集結し、一気に解体作業が開始されます。

まずは建物に残された荷物を運び出す作業となりますが、その際、敷地内に先日までは無かった古いテレビや壊れた電子レンジが投棄されていることに気が付きます。

おそらくは、「解体作業が行われる」との噂を聞き付けた近隣住民が不用品を捨てていったものと思われますが、予算はカツカツですから少しでも余分な出費は増やしたくありません。

そこで、恐る恐る解体業者さんに処分費用を尋ねてみますが、「これくらいなら無料で処分するよ」とのお言葉をいただき、心底安堵しました。

その後は、畳の搬出やキッチン・お風呂等の撤去を経て、建物本体の解体が始まりますが、終日解体作業に立ち会っている訳にも行かないので、現場を離れて他の仕事を済ませることにします。

ところが、現場を離れて1時間もしない内に現場からのお呼び出しが入ります。

慌てて戻ってみると、近隣の方から「解体の音が煩い」とのクレームがあり、作業が止まっているとのことでした。

怒りに震える住民を「解体作業は短期間ですから、勘弁してください」と丁寧になだめ、再び作業が開始されます。

以降はあまり問題もなく時間が過ぎて行きますが、工事開始5日目、ほぼ更地になった頃に再び近隣からのクレームで呼び出しを受けます。

『また先日の近隣住人からの騒音クレームかな・・・』と冷や冷やしながら現場に向かうと、更に悪い事態が私を待ち構えていました。

それは現場に隣接するお宅の奥様からの苦情であり、「解体工事の振動で、自分の建物の外壁がひび割れを起こした」という内容でした。

「どうしてくれるのよ!」とまくし立てる奥様の剣幕に、『これは困った』とダラダラ冷や汗を垂れ流していると、所用で出掛けていた解体屋さんの現場監督が帰還。

そして現場の職人から事情を聞くや、監督はデジカメを手にして揉めている私たちの間に割って入ります。

監督「何やらご迷惑を掛けたようですが、施工前に周辺の建物の写真を撮っておきましたので、見比べながら被害状況を確認してみましょう。」

そして、ひび割れしたという箇所と、デジカメの写真を見比べてみると、工事前の写真には既にひび割れがクッキリと映っていました。

隣家の奥様「これ本当に工事前の写真なの?」

監督「違うアングルもありますよ、古屋が映っているヤツ」

監督は次々と写真を見せながら、「これは最初からみたいですね。普段から外壁を注意深く見ている人は少ないですから!」との決め台詞に、奥様は完全に沈黙します。

この時は『監督!スゲェ~!』と心から感心したものですが、後々聞けば解体前に写真撮影を行っておくことは基本中の基本であるとのこと。

この件以降は、私も必ず解体作業前の近隣建物の撮影を行うようにしています。

こうした事件をクリアーしながら、ようやく物件は更地へと戻ります。

初めての建物プラン決定

さて、物件が更地となれば、次は建物を建築することとなりますが、その前に建物のプランを固めなければなりません。

ちなみに、今回は3階建の木造住宅を2棟建築することになりますが、間取りは「物件の売れ行きを大きく左右する重要な要素」となりますから、しっかりとプランを練り込む必要があるでしょう。

なお、私の会社は建築会社を持っている訳ではありませんので、社長が昔からお付き合いのあるハウスメーカーさんに工事をお願いすることになります。

そして、この建築会社には社員として設計士が在籍しているので『間取りのプラン』を作成しもらいましたが、その出来栄えは「今ひとつ」というのが正直なところです。

もちろん、世間にはスキルの高い設計士さんはたくさんいるのでしょうが、私の経験上、建売の間取りについては「満足のいくプランを提案してくれる設計士さんは意外に少ない」ように思えます。

やはり不動産屋さんと設計士さんでは、間取りを見る「目線」が少々違うのかもしれません。

ただ、これからお世話になるハウスメーカーの設計士さんにあまり注文を付けるのも『申し訳がない』ので、私が考えた間取りに対して、設計士さんからアドバイスを頂くという形で、プランを煮詰めていくことにします。

「可能な限り収納のスペースをとり、LDKを広く、そして居室は南側に・・・」などと欲張って間取りを練って行きますが、これは想像以上に難易度の高い作業でした。

先輩社員からの意見なども取り入れながら、どうにか商品化できそう間取りに辿り着くことができましたので、後はこのプランを再び設計士さんに投げて、建築基準法などに照らし合わせて問題がなければ、建築確認の申請をお願いすることになります。

初めての地盤調査と地盤改良

こうして建築確認の申請が完了したら、次に待っているのが地盤調査・地盤改良という仕事です。

この工事は建物が不等沈下(地盤沈下)を起こさないように、地盤を補強するのが目的となりますが、まずは地盤の強さを調べなければなりませんので、専門の業者へ調査の依頼をします。

そして調査の結果と共に、必要な地盤改良工事の内容と見積もりが出て来ますから、後は工事を進めるのみです。

但し、結果によっては想定を遥かに超える規模で、たっぷりと費用の掛かる地盤改良工事を行わなければなりませんから、見積書を開く瞬間はかなりドキドキなのですが、今回はそれなりの工事内容とお値段で済むとの報告でした。

ホッと胸を撫で下ろしながら、早速発注を行って工事を進めてもらいますが、実はこの段階で私は「大きなミス」を冒していたのです。

今回の地盤改良は柱状改良という、コンクリートと土を混ぜた柱を地中に作る作業となります。(この柱の上に建物を建築して、地盤の沈下を防ぐ)

なお、この工事ではドリルで地面を掘り返しながら、土とコンクリートを攪拌して行くのですが、何と現場にはコンクリートを混ぜるのに使う「水」、つまり「水道の設備」が無かったのです。

※元々は古屋があったため水道管の引込み自体はあるのですが、水道を利用するには仮設の水栓を設置しておく必要があります。

慌てて水道屋さんを手配して、「工事用の仮設水栓」を付けてもらいましたが、地盤改良工事の業者さんにはかなりのご迷惑を掛けてしまいました。

こうして、どうにか地盤改良まではクリアーすることができましたので、ここからようやく建物の建設が始まります。

スポンサーリンク

建売施工管理のまとめ

前回に引き続き、私の「建売はじめて物語」をお送りしてまいりました。

当時のメモなどを見ながら、起こった事件を思い出しては記事を書いているのですが、「本当に様々なトラブルに見舞われているな・・・」と我ながら思わず感心してしまいます。

現在ではトラブルに繋がりそうなことは、ある程度事前に察知できるようになりましたが、この時は全てのトラップに引っ掛かっていた感じです。

なお、私の場合は一年に僅かな棟数の現場を担当するだけですが、大手の建売屋さんともなれば「一人で年間50棟」なんてこともあるようですから、これには本当に頭が下がります。

さて私の建売体験記も、ようやく建物の建築の段階に入ってまいりました。

次回は「建売の建築確認取得から完成まで!初めての戸建分譲③」という記事をお届けいたしますので、ご興味がある方は是非お付き合いをいただければ幸いです。