前々回の記事においては「建売用地の仕入れ」から「古屋の解体」、前回の記事においては「建物プランの決定」に「地盤調査・改良」までの流れをご説明してまいりました。

そしてここからは、いよいよ本格的建築工事の開始、建売の完成へとお話は進んでいきます。

では早速、建売の建築確認取得から完成までの流れを見て行くことにいたしましょう。

建売の建築確認取得

 

建売の建築確認取得から完成までの流れとポイント

ではまず最初に、建売物件における建物着工から完成までの概要と流れをご説明していきましょう。

建築確認申請と請負契約の締結

建売物件においては、用地仕入れの段階からハウスメーカーと密に連携しながら、建物のプランや工事費用についての擦り合わせを行いつつプロジェクトを進めていくことになります。

※売主と価格交渉をするにしても、どれくらいの予算で如何なる間取り・仕様の建物が建てられるかを把握しておくことは非常に重要です。

そして無事に物件の購入が成功すれば、最終的な建物のプランを決定した上でハウスメーカーとの請負契約の締結、建築確認の申請という流れで事業は進んでいきます。

ちなみに請負契約においては、通常の注文住宅と同様に

  • 着手金
  • 中間金
  • 残代金

というステップで支払いが行われることになりますが、建売屋さんとハウスメーカーはビジネスパートナーとなりますので、一般の方に比べてかなり支払い条件が優遇されているケースも多いようです。

なお、これまでの記事でも解説してきたように「建売物件は1年以内に引渡しを終えなければなりません」ので、建物のプランが決定した段階で地盤調査や地盤改良まで済ませてしまうのが通常でしょう。(地盤調査・改良などはハウスメーカー以外の会社へ依頼するケースが多い)

但し、建築確認申請後は色々な意味で後戻りができなくなりますので、遅くともこの段階で請負契約を締結して本格的な建築作業へ入って行くことになります。

着工から上棟まで

一戸建ての建築作業の前半部分となるのが着工から上棟までの工程となります。

着工直後は基礎工事、建方工事という順番で進められ、上棟(屋根と建物の骨組みが出来上がった状態)まで約1ヵ月程度の期間を要します。

なお、1ヶ月で屋根まで出来るというと、非常に早いように感じられるかもしれませんが、この骨組みの状態から完成までには更に3〜4ヶ月を要しますから、ここでようやく全体の工事の1/5が完了したことになるのです。

ちなみに建て方工事は全体の工程の中でもかなり音の出る工事であるため、解体に続いて非常にクレームが発生しやすい時期と言えるでしょう。

建物の仕様打ち合わせ

建物の上棟が近付いてくると行われるのが、建物の仕様の打ち合わせとなります。

請負契約においては建物の設計図のみが添付されているだけですから、

  • 外部/屋根、外壁、サッシ、玄関ドア 等
  • 内部/フローリング、建具 クロス 等
  • 設備/システムキッチン、ユニットバス、トイレ、洗面化粧台 等

以上の仕上げについて、品番からカラーに至るまでこの時期に決定しておく必要があるのです。

ちなみに注文住宅の場合ですと、こうした仕様の決定に数日を費やすことも珍しくありませんが、建売においてはこの作業に時間を掛けている訳にはいきませんので、2~3時間ほどで一気に仕上げを決めていくのが通常でしょう。

なお、建売については厳しい予算の制限がありますので、選べる商品はかなり限定されてしまい「あまり迷う余地もない」というのも実情かもしれません。

ちなみに、この打ち合わせでは「コンセントや電気スイッチの位置」、「ドアの開き方向」や「窓の種類(透明、曇りガラス)」なども決定しなければなりませんが、これらの事項は建物の使い勝手に直接影響を及ぼす問題となりますので、迷った際にはハウスメーカーの意見も十分に取り入れて判断を下すべきでしょう。

外装・内装の仕上げ工事から完成まで

こうして建物の仕様が決定すれば、いよいよ工事は仕上げの段階に入っていきます。

但し、この時点で建物は屋根が付いただけの骨組みの状態ですから、屋根工事にサッシの取付け、断熱材を貼った後に外壁の仕上げを行っていきます。

そして外装が完成したならフローリングや壁の工事、そして建具やシステムキッチンなどを設置して、最後にクロスは貼って完成となります。

なお、3階建て物件の場合には工事中に建築確認に関連した「中間検査」という検査を受ける必要がありますし、建物の階数を問わず完成後には「完了検査」を受けて、建築確認どおりに建物が仕上がっているかのチェックを受けることになるのです。

工事期間中のトラブルやクレームについて

さてここまで、建売住宅が完成するまでの流れを見てきましたが、工事期間中には以下のような問題やクレームが発生してくるものです。

  • 工事時間に関するクレーム(朝が早過ぎる、遅くまで作業が続き過ぎる)
  • 窓やバルコニーの位置についてのクレーム(隣家と視線がバッティングする)
  • 現場の安全管理に関するクレーム(部材搬入時に誘導員を付けていない等)
  • 作業員の行動に関するクレーム(喫煙、ゴミの片付け、会話の内容等)
  • 配管の問題で床が高くなる、または天井が低くなる
  • 予期せぬ追加工事の発生
  • 工期の遅れ
  • 設計に問題があり、プラン変更を余儀なくされる

こうした問題の中には経験を積むことで回避できるものが少なくありませんが、熟練の営業マンでもどうにもできないケースもありますから、トラブル発生時に少しでも時間の余裕が持てるように、できることはなるべく早めに片付けておくスタンスが重要となるでしょう。

ここまでの解説において、建築確認取得から完成までの流れはご理解いただけたことと思いますので、次項からは私が実際に経験した建築工事の体験記をお届けしたいと思います。

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初めての建売、建築確認から上棟まで

「仮設水道を設置し忘れる」というミスを冒しながらも、どうにか地盤改良が完了し、いよいよ建物の建築が始まります。

まずは、既にハウスメーカーの設計士さんにお願いしていた建築確認申請の手続きの進捗状況を確認しなければありません。

そこで担当者に連絡を入れてみると、どうやら「数日中に確認が下りる状態」であるとのことなので、ハウスメーカーとの建物請負契約を締結することにします。

ただ契約締結とはいっても、建物二棟分の見積書に建築確認申請中の図面が添付された契約書が郵送で送られて来るだけですから、これに署名・捺印をして返送を行い、手付金を振込めば作業は完了です。

そして予定通りの日程で建築確認も下りて来ましたので、晴れて着工の日を迎えることができました。

まずは建物の建築予定部分に糸が張られ(地縄)、重機で基礎が造られる箇所を掘削していきます。(根切り)

続いて、基礎用の型枠が設置され、中に入る配筋の組立てが完了すれば、枠の中にコンクリートを流し込んで基礎(ベタ基礎)工事は完了です。

これまでも仲介という立場で完成済みの建売は何棟か売って来たのですが、工事をリアルタイムで見るのはこれが初めてでしたから、興味深々で毎日のように現場に足を運んでいました。

なお基礎工事が終われば、次は骨組みとなる材木がガンガン搬入され、徐々に建物の形が出来上がって行きます。

ちなみにこの段階ともなると、材木搬入用のトラックが一日に何度も往復することになりますから、現場の前の道路はトラックだらけ。

「その内クレームが来そうだ・・・」と冷や冷やしながら工事を見守る毎日でした。

そして遂に、建物の屋根が完成!(上棟)

一般のお宅の場合ですと、工事着手前に地鎮祭、屋根が付いた時には上棟式などが催されますが、建売屋さんの工事でこれらのセレモニーが行われることはまずありません。

但し、建築前の段階でお客が付いており、地鎮祭等の希望があった場合には「対応する」という業者が多いようです。

仕様の打ち合わせ

さて、建物は毎日の工事で着々と完成に近づいて行きますが、建売屋さんにはまだやるべきことがあります。

それは、建物の内装や外壁の部材を選ぶ作業(仕様の打ち合わせ)です。

※建物の建築中に購入者が決まれば、部材の選択はお客様に任せるのが通常ですが、今回は分譲主である私自身がこれを行います。

ハウスメーカーの営業さんから「建材のサンプルを揃えてあるので、事務所に来て欲しい」と言われ、何も考えずに打ち合わせに向かったのですが、これが大失敗の素でした。

到着するや否やプランナーの方に「それじゃ、外壁から決めようか!」といわれ、まずは外壁をサイディングにするか、モルタルにするかの選択を迫られます。

外壁はサイディングと決めていたので、これは難なくクリアーできたのですが、「どの品番を指定(模様と色が品番によって異なる)し、それらを如何に貼り分けるか」等は何も考えていなかったので、決めるのにかなりの時間を要してしまいました。

そしてお次はサッシや玄関ドアを選択し、床に貼るフローリングの種類も決めなければなりません。

続いて建具やクロス(壁紙)を決定したら、システムキッチンの色や種類、風呂・トイレの部材を選択し、挙句はコンセントや各種設備のスイッチの位置まで決めなければならず、何と終了までに5時間を要してしまいました。

すっかり呆れ顔のプランナーさんからは「初めてとはいえ、最長記録です」などといった『嫌み』までお土産に頂いてしまいましたが、どうにか全ての仕様を決定することができました。

もちろん今では、かなり早く建物の打ち合わせを完了させられるようになりましたが、初めて建売事業にチャレンジされる方は、事前の準備をお忘れなきようにご注意ください。

日々、是建設工事

さてここで、再びお話は現場の方に戻りますが、上棟を迎えて建物の形がようやく見えて来たら、今度は外装と内装工事が始まります。

実は上棟までの期間は意外に早く、着工からここまで1ヶ月程度といったところなのですが、その後、外壁や屋根を仕上げる外装工事、床や階段を作る内装工事が4カ月以上続くことになるのです。

ただ、内装工事の段階ともなれば、ある程度建物の形ができているので、「近隣からのクレームも無くなるのでは・・・」と思っていたのですが、これは考えが甘過ぎました。

まずやって来たのがトイレに関するクレームです。

当然ながら、骨組みだけの家にはトイレがありませんので、建築現場で見掛ける仮設トイレを設置しているのですが、季節も夏に近かったため「臭い!」とのお叱りを受けてしまいました。

現場監督に相談してみたところ、現在は汲み取り式の仮設トイレを使っているので、水洗式に交換してくれるとのこと。

『水洗の仮設トイレってあるんだ!っていうか早く教えてくれ!』と心の中で毒づきながらも、どうにか問題をクリアーすることができました。(当時はまだ汲み取り式が一般的でした)

 

そして次にクレームを頂いたのが、ブロック塀の扱いについて協議をしたお隣のお爺さん(Aさん)であり、徐々に出来上がりつつある建物を見ている内に、「自分の建物の窓」と「建売の窓」の位置がバッティングすることに気付いたので、「建売の窓をずらして欲しい」というのです。

『今更そんなことできるのか?』と現場監督に相談してはみますが、建築確認の変更届を出さない限りは変更は不可能であり、これを行うとなると時間も費用もかなり掛かるとのことでした。

またバッティングするとは言っても、お互いの窓の位置が30%くらい重なるだけなので、Aさんを説得に掛かりますが、どうしても受け入れてもらうことができません。

『困ったものだ・・・』と事務所に戻って頭を抱えていたところ、先輩社員から「こちらの建物の窓を曇りガラス(擦りガラス)にすると提案してみれば?」とのアドバイスを頂き、どうにかAさんにこの提案を承服してもらうことができました。

結果的としては、先輩社員の助言に救わることになりましたが、どうも不動産業界の方々は「人が本当に困るまではアドバイスをくれない」という特性があるようです。

 

さてお次は、「毎日、工事が終わる時間が遅過ぎる」とのクレームが舞い込みます。

夏場で明るい時間が長いため、「少しでも作業を進めたい」と職人さんが夜の7時過ぎまで釘を打っているようなのですが、どうやらこれが気に入らないとのことです。

この件についても現場監督に相談してみましたが、「他の現場との関係で、時間短縮は勘弁して欲しい」と言われてしまいました。

そこで仕方なく、「とりあえずしばらくの間は5時で作業を止め、ほとぼりが冷めたら少しずつ時間を延長していく」という作戦を執ることにします。

そして「また怒られた、5時で工事を切り上げ、再び少しずつ時間を延長していく」という『なかなかにせこいプラン』ではありましたが、この作戦でどうにか危機を回避することができました。

こうしたドタバタを4ヶ月以上経験し、遂に建物が完成を迎えます。

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感動の完成

建物が完成すれば、『ハウスメーカーさん立会いの下、傷や施工ミスのチェックを・・・』と思っていたのですが、実は建売の場合には「このチェックを行わないのが通常」であるとのことです。

ハウスメーカー側である程度のチェックは行いますが、基本的には購入者が決まってから、まとめて対応するのが一般的なやり方であるといいます。

こうして完成した初めての建売の出来栄えに、我ながら惚れ惚れとしていたのですが、こんなタイミングで社長からのお呼び出しが入ります。

「もしや物件の出来栄えを褒めてもらえるのか?」と社長室を訪ねてみましたが、「販売活動はどうなっている?」とのお叱りを受けてしまいました。

そうです、通常建売の場合は完成前に販売活動を開始して、完成と共に引渡しを終えるのがベストな流れなのですが、この時の私は建築に夢中になり過ぎて、販売に向けたアクションを殆どしていなかったのです。

そして「これはヤバい!」と慌てふためきながら、本格的な販売活動へと着手していくことになります。

さて、お話もかなり長くなってまいりましたので、この続きは次回の「建売、引渡しまでの流れをレポート!初めての戸建分譲④」の記事にてお届けすることといたしましょう。