賃貸物件や分譲マンションにお住いの方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、土地には「境界」というものが定められています。

そして境界とは、文字通り「土地の境」を表すものとなるのですが、我が国ではその境界ラインを明示するために『境界標』という石杭や鉄鋲が設置されており、その先端には「↓」や「+」「-」といった記号が刻まれています。

※「↓」は矢印の先端が、「+」は中心点、「-」は線の中心が境界のラインです。

さて、このようなお話をすると「そういうものなのね・・・」という漠然とした印象しかお持ちいただけないかもしれませんが、実はこの境界なる代物、資産を維持していく上で非常に重要なものとなりますし、時にはとんでもないトラブルの火種となることさえあるのです。

そこで本日は、「不動産の土地境界線とは何か?」というテーマにてお話をさせていただきたいと思います。

不動産土地境界線

 

境界ってどんなもの?

冒頭でも述べた通り、境界には「土地と土地の境を明らかにする」という意味があります。

例えば土地と建物の売買を行う際に、建物については外観だけで取引対象の特定が可能となりますが、土地については『一体何処から何処までが、売買の対象であるのか』が非常に判り辛いですよね。

そこで冒頭でもお話しした「境界標」という目印を設置することによって、土地の所有権の境を明らかにし、越境などによる権利の侵害(境界線をはみ出し、お隣の土地を利用する行為)を防ぎ、不動産売買などを円滑化に行えるようにしているのです。

境界標

 

なお、境界標は土地の境が接する者同士が合意すれば、自由に設置できるものとなっていますが、無秩序に境界標が設置されても不要な混乱が生じてしまいますよね。

そこで法務省が管轄する「法務局」という行政機関では、一つの土地から一部を切り取る登記(分筆登記)や、土地の面積を変更する登記(地積更正登記)を行う際に、地積測量図と呼ばれる図面の提出を義務付けており、その図面内には「土地の寸法」と共に「境界標の位置や種類」が示されることになっているのです。

※法務局とは「国民の権利などに対して証明を与えることを目的に設置された機関」であり、『登記』と手続きを行うことで、第三者に対して法的な対抗力を備えることができます。

※例えば、代々自分の一族が利用してきた土地でも、自分が真の所有者であることを証明することは困難ですが、法務局にて登記を行えば、国家から「土地の所有者である」というお墨付き(証明)がもらえることになるのです。

よって、民間人同士が話し合って設置した境界標も無効ではありませんが、法務局に備えられた図面に境界標の記載があれば、その証拠能力はより高いものとなるでしょう。

また、登記は自分のために行うものであれば、誰でも自力で行うことができますが、地積測量図などを作成するには専門的な知識や機器が必要となるため、土地家屋調査士という国家資格を持った専門家に依頼して、これを行うのが通常です。

但し、今でこそ「こうしたルール」が確立されていますが、ひと昔前までは境界に対する意識は非常に低く、所有者が異なる土地の境であるにも係らず、境界標が設置されていなかったり、建築工事などで境界標が破壊されたのに、そのまま放置されているというケースも数多く存在していました。

 

存在しない、失われた境界標は新設・復元!

では、「最初から境界標が存在していない」、もしくは「工事などで境界標が失われてしまった」場合については、どのように対処すればよいのでしょうか。

先程もお話した通り、土地同士の境界を管轄する法務局には過去の膨大な土地の測量データ(地積測量図)が保存されています。

よって、たとえ境界標が失われていてもこうしたデータを基に土地家屋調査士が再調査を行い、隣接地権者の合意さえ得られれば、比較的簡単に境界標の復元や設置は可能です。

一方、隣地の地権者がこれに同意してくれず、揉め事となってしまった場合には、訴訟(筆界確定訴訟)という手段を用いて解決を図ることになります。

但し、訴訟を行うとあまりにも時間が掛かり過ぎてしまう上、弁護料等を含めた裁判費用も負担しなければならないなど、難点も少なくありませんでした。

そこで近年創設されたのが、「筆界特定制度」というものになります。

この制度では法務局が中心となり、過去の公的な資料などを基に調停を行い、境界線の判定を行ってくれますので、これまで裁判で争うしかなかった境界紛争の新たな解決手段として注目を集めているのです。

※この制度を利用すれば、法務局が認定する境界線を決定することはできるものの、土地をどこまで利用できるかという「所有権界(所有権の境界)」までは、その効力は及びません。

また、土地家屋調査士会が運営する「境界問題相談センター」でも、境界紛争を解決するための制度(調停制度)を設けていますが、筆界特定制度と同様に法的な拘束力は有していないため、これらの手段を講じても解決できない問題は「結局、訴訟を起こすしかない」というのが実情なのです。

※境界トラブルについては別記事「境界問題の解決法について解説いたします!」にて詳細な解説を行っております。

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もう一つの境界線

さて、これまで行って来た解説はあくまでも「民間人同士の土地境界」に関するものでした。

しかし境界にはこれ以外にもう一つ、民間と官庁との境界、つまり「官民境界」というものが存在します。

官庁との境界といっても「ピンッ」と来ない方も多いかもしれませんが、自分の土地が公道に接している場合や、河川、公園に接しているケースを考えれば、この問題をもっと身近に感じていただけるはずです。

なお、相手が官庁であっても「互いの合意の下に、境界を定める」という原則は同じなのですが、少々異なる点もありますので、以下でご説明してまいりましょう。

まず、官庁を相手に境界の確定をするとなれば、その担当部署を特定しなければなりません。

例えば県や市といった、同じ地方自治体が所有するものであっても、道路と河川、公園などでは、担当となる部署が全く異なってきます。

また、境界の確定については「依頼をした者(境界の確定を求めた者)が費用を負担する」のが原則であり、このルールは民間人同士の場合でも同じなのですが、測量の対象が道路などになると「遥か彼方のポイントから長距離の測量をしなければならず、その費用はかなり高額なものとなってしまう」のです。

その上、お役所の判断となりますから、結論が出るのにも時間が掛かりますし、揉め事となった場合には地方自治体等を相手に訴訟を起こさなければなりませんので、これはかなり厄介ですよね。

一方、境界線の確定ではなく、自分の家の工事などに際して「誤って官民の境界標を破壊してしまった」という場合には、かなりの手間と時間、そして費用が掛かる復元作業を求められることとなりますし、黙って復元した場合には罪に問われることさえあるのです。

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土地境界線と不動産取引

さてここまで、土地の境界線というテーマでお話をしてまいりましたが、最後に不動産取引と境界の係わりについて解説をさせていただきたいと思います。

これまでご説明してきた通り、土地の境界線は土地所有者の権利を守るために非常に重要なものとなりますから、不動産売買においても決して無視できる事項ではありません。

よって、近年の不動産売買においては売買を行う前に「筆界確定測量(境界線がどこであるかを決定する測量)」を済ませるのが通常です。

※筆界確定測量では、土地家屋調査士等が行った測量結果を基に、隣接地の所有者と筆界確認書(「測量結果の境界ラインで間違いがない旨」を確認した書面)を交わすことになりますが、登記は伴わないため、法務局に地積測量図が備えられることはありません。

また、時にはこの筆界確定測量で境界トラブルが発生し、隣接地の方に筆界確認書に印鑑を押してもらえない場合もありますが、こうした物件は後にトラブルを生じさせる可能性が高いですから、購入に際しては充分な注意が必要となります。

一方、官民境界についても行政と境界線の確認(道路区域線図などの取得による)をしてからの売買が通常となりますが、やはり時として『境界が確定できていない物件』も目にすることがあります。

本記事の「もう一つの境界線」の項でもお話しした通り、官民境界が定まっていない物件は、その確定に手間と時間が掛かるものですし、道路境界については「自分以外の同じ道路に面する土地所有者が自治体と揉めているために、境界が定まらない」という場合もあるでしょう。

そしてこのケースでは、「既に発生している揉め事が解決しない限り、半永久的に自分の官民境界を確定できない」という悲惨な状態になる可能性もありますから、こうした物件については購入を見送るのが得策かもしれません。

ではこれにて、「土地の境界線について解説いたします!」の記事を締め括らせていただきたいと思います。