不動産売買の総仕上げとも言えるのが、「決済・引渡し」と呼ばれるイベントとなります。
なお、マイホームをお持ちの方や不動産投資様にとっては「既に経験済みのイベント」ということになるでしょうが、その流れを全て理解できたという方は数少ないでしょうし、これから初めての決済に臨むという方の中には『何が行われるのだろう』と不安なお気持ちになっている人もおられるはずです。
そこで本日は「不動産決済日の流れについて」の知恵袋をお届けしたいと思います!
不動産の決済・引き渡しとは
決済・引き渡しの流れをご説明する前に、まずはこの決済というイベントの主旨や概要について解説をしておきたいと思います。
決済の目的
そもそも『決済』とは「取引の完了」や「精算」を意味する言葉であり、不動産取引においては売買契約が締結された不動産について「残代金の支払い」と「所有権の移転登記」、そして「物件の引渡し」を同時に行って、取引を終了させることが目的となります。
また一つの売買案件の「最後の場面」ともなりますので、「各種の精算金の授受」や「物件の鍵の引渡し」など、取引の総仕上げ的なやり取りも多く含まれることとなります。
決済の場所と開催時間
決済が行われる時間設定については金融システム上のトラブルなどに備える意味合いと、司法書士が法務局へ登記を持ち込む作業との関係で、平日の午前中とされるのが一般的です。(どうしても都合付かない場合は午後のできるだけ早い時間となる)
また場所については、買主がローンを利用する場合には金融機関の応接室などが用いられることになります。
※融資利用がない場合やネット銀行から融資を受ける場合には、不動産会社や司法書士の事務所などで行われることもあります。
決済に参加するメンバー
決済に参加するメンバーは以下の通りとなります。
- 売主
- 買主
- 司法書士
- 仲介業者
- 売主が借入れをしている金融機関の担当者
売主と買主はご説明するまでもなく売買の主役となります。
そして司法書士は残代金の授受の後に、所有権移転登記や抵当権抹消登記を行う役割を担います。
なお、取引に関して不動産業者が仲介を行っていれば仲介業者が同席することになりますし、物件に売主の借入れが残っている場合には、借入先の金融機関の担当者が決済の場に同席するケースも稀にあるでしょう。
決済時の持ち物
既に申し上げたとおり、決済においては残代金の引き渡しと登記申請、そして物件の引き渡しが同時に行われるため、売主・買主・仲介業者それぞれに必要な持ち物が多々ありますので以下で解説してまいりましょう。
- 権利証(登記識別情報)
- 実印
- 印鑑証明(発行より3ヶ月以内のもの)
- 固定資産評価証明書
- 残代金領収書、固定資産税領収証 等
- 抵当権抹消書類(引き渡す物件に抵当権が設定されている場合)
- 物件の鍵等、引き渡すべき物品
- 写真付き身分証明書
- 仲介手数料
- 登記費用/抵当権抹消登記費用
- 住民票
- 実印/融資利用の場合
- 印鑑証明/融資利用の場合(発行より3ヶ月以内のもの)
- 銀行届出印
- 残代金、固定資産税等の精算金(分譲マンションの場合は管理費等の精算金)
- 写真付き身分証明書
- 仲介手数料
- 登記費用/所有権移転登記費用
- 取引完了確認書
- 仲介手数料領収証
- 各種精算金の計算書
ではここからは、それぞれの持ち物について解説を行ってまいります
権利証(登記識別情報)
権利証や登記識別情報は売主の必要書類であり、売買対象物件の登記に際して欠かせないものとなります。
なお、権利証等を紛失してしまっている際には、司法書士が職権で本人確認を行うことで登記が可能となりますが、別途費用が発生する上、事前の確認作業が必要なケースもありますので早めに失くしたことを申告するべきでしょう。
実印・印鑑証明書
実印と印鑑証明は売主・買主共に必要となる可能性がある持ち物です。
売主については所有権移転登記に際して、実印と印鑑証明書は必須となりますので必ず用意する必要があります。
なお、登記されている住所と印鑑証明書の住所が異なる場合には住所移転登記が必要となりますので、買い替えなどで決済の前に住所変更をしなければならないケースでは、旧住所の印鑑証明書を事前に取得するという方法が用いられます。
一方、買主に関しては物件購入に際して借入れを行い、抵当権設定登記を行う場合のみの持ち物となりますので、現金購入の場合は不要な持ち物となるでしょう。
ちなみに印鑑証明書の使用期限は3ヶ月以内となりますので、決済に際してはこの期限内のものを用意してください。
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は売買対象物件の価格を証明する書類であり、売主の決済時必要書類となります。
物件が所在する自治体の担当窓口にて取得が可能であり、決済においては登記に際して課税される登録免許税を算出するために必要となります。
残代金領収書、固定資産税領収証 等
決済は残代金の受領と所有権移転、物件の引き渡しを同時に行うイベントとなりますので、売主は買主に対して残代金を受け取ったことを証明する領収証の発行を行う必要があります。
また、固定資産税や都市計画税はその年の1月1日現在の所有者に対して課税される税金となりますので、たとえ売却が行われたとしてもその年の固定資産税等は売主が支払うことになります。
そこで決済日には、買主が負担分を日割で売主に支払うことになりますので、固定資産税等の精算金の領収証も必須です。
更に分譲マンションであれば管理費と修繕積立金の精算金なども発生しますので、決済に際して売主が用意しておくべき領収証は少なくありません。
なお、仲介業者が介在する取引であれば不動産業者が各種の領収証のひな型を用意する(これに売主が署名捺印を行って、買主に交付する)のが通常ですが、個人売買などの場合には忘れることがないようにご注意ください。
抵当権抹消書類
売却する物件にローンが残っており抵当権が設定されている場合には、売主はこれを解除してから買主に引き渡すのが通常ですから、抵当権抹消書類の準備は売主の責務です。
もちろん抵当権の解除にはローンの返済が必須となりますから、決済で売主に支払われた残代金にてローンを完済すれば、借入先の銀行から抵当権抹消書類の交付を受けることができるようになります。
但し、決済当日に突然返済を行って「抵当権抹消書類が欲しい」と言っても対応できるはずがありませんから、売主は売買契約締結後速やかに借入先の銀行へ書類の準備を依頼しておくべきです。
なお実務上は、決済が完了した後に司法書士が借入先の銀行を訪問して抵当権抹消書類を受け取るのが通常ですが、金融機関によっては担当者が決済の場まで書類を持参して来ることも稀にあります。
物件の鍵等、引き渡すべき物品
決済においては物件の引き渡しが行われますので、売主から買主へ交付する品々も数多く存在します。
以上が一般の方が売主の場合の引渡し物品の主なものとなりますが、売主が不動産業者である新築の建売物件においては上記の物品に加えて、
などが交付されることになるでしょう。
写真付き身分証明書
写真付き身分証明書は売主・買主共に必要な書面となります。
近年では地面師や反社会的勢力の資金洗浄等への対策に、本人確認作業が厳格化されていますので、写真付きの証明書が必須となりつつあります。
仲介手数料
取引に仲介業者が介在した場合、仲介手数料は売主・買主の双方が用意すべきものとなり、支払いに関しては現金が原則となります。
なお、契約締結時に仲介手数料を請求してくる業者も存在しますので、こうしたケースでは当然ながら決済時の支払いは行われません。
ちなみに仲介手数料の金額については物件の価格によって上限額が定められており、
- 200万円以上300万円未満/売買価格の5% × 消費税
- 300万円以上400万円未満/(売買価格の4%+2万円)×消費税
- 400万円以上/(売買価格の3%+6万円)×消費税
表記の計算式で上限額を求めることができます。
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登記費用
所有権移転登記費用は買主が負担するのが通常ですから、買主は決済に際して必ず登記費用を準備する必要があります。
一方、取引対象物件に借入れが残っている場合には、売主に抵当権抹消登記を行う義務がありますので、このケースでは売主も登記費用を用意する必要があるでしょう。
登記費用の支払先は司法書士となりますが、原則として現金で費用を用意する必要があります。
住民票
所有権移転登記に際しては買主の住民票が必要となります。
また、登記に際して登録免許税の減免が受けられる住宅用家屋証明書の発行に際しては、新居の住民票が必要となりますのでご注意ください。
銀行届出印
融資が実行された際の住宅購入資金は一度買主の口座に入金されますので、買主はここから売主の口座へと支払い手続きを行う必要があります。
そして先程の解説にて「買主は融資の利用があれば実印の持参が必要」とのご説明いたしましたが、このケースで入金口座の届出印と実印が異なる場合には、買主は実印のみならず銀行届出印も決済に持参しなければなりませんのでご注意ください。
残代金、固定資産税精算金 等
残代金や固定資産税等の精算金を支払うのは当然ながら買主となりますが、融資を利用しない場合には現金または預金小切手にてこれを用意する必要があります。
なお近年ではネットバンキングの普及により、振込みにて残代金の支払いを済ませるケースも増えつつあります。
取引完了確認書
仲介業者が用意する書面であり、売主・買主が互いに取引の完了を確認し合うために取り交される書面となります。
なお、「鍵の引き渡し」や「境界の明示」等が完了しているかを確認する内容のものが一般的でしょう。
仲介手数料領収証
仲介業者が用意する売主・買主宛の仲介手数料の領収証となります。
各種精算金の計算書
決済に際しては残代金や固定資産税精算金、管理費・修繕積立金の精算金など様々な費用の受け渡しが行われますので、仲介業者は混乱を避けるために各種精算金の計算書を用意するのが通常です。
決済の場においては、この計算書を売主・買主と確認しながら、資金の流れをチェックする必要があります。
決済の事前準備について
さてここまで決済時の持ち物について解説を行ってまいりましたが、「このイベントを成功させるためのポイントは90%以上が事前の準備に掛かっている」と言っても過言ではありません。
そこで本項では、売主・買主、そして仲介業者が行うべき事前準備について解説していくことにいたしましょう。
抵当権の抹消準備と司法書士の手配
決済の準備は、売買契約が完了した時点から開始しなければなりませんが、一番最初に着手すべきは、対象物件に抵当権が設定されている場合の抵当権抹消書類の準備です。
よって売買契約の締結が完了したなら、売主は借入れを行っている金融機関に連絡を入れて「物件を売却することが決まったので、抹消書類の準備をお願いしたい旨」を伝えましょう。
金融機関にもよりますが、書類の準備に3週間以上掛かる場合もありますので、「決済日までに抹消書類が準備できない」という失敗をしないように充分な注意が必要です。
さて、次に行うべきは登記を担当する司法書士を決定し、打ち合わせを行うこととなります。
なお、取引に仲介業者が介在していれば司法書士の紹介を受けることができるでしょうし、売主が不動産業者の建売物件の場合などでは「売主指定の司法書士に依頼すること」などの特約が契約書に定められているケースも多いでしょう。
なお、司法書士と行う打ち合わせの内容は
- 決済の時間や場所の伝達
- 買主に融資利用がある場合は「融資の内容」と「借入先銀行の担当者・連絡先」の伝達
- 物件に残債がある場合は抵当権抹消書類の受け渡し方法の相談
- 登記の内容についての説明(「共有名義になる」「売主の住所変更登記が必要」等)
- 登記費用の見積書の作成依頼
- 登記に際して必要となる書類の確認
- 住宅用家屋証明書の取得依頼
以上が主なものとなります。
ちなみに、売主に対して決済当日の金種を確認することも忘れないようにしましょう。
売主の中には「残代金の一部を現金にて出金して欲しい」という方も少なくありませんが、この現金の金額が数百万円となると銀行に事前の連絡を入れておく必要があります。
売買契約に定められて約定の履行
売買契約書においては「引渡しまでに売主が行うべき事項」についての取り決めがなされているものです。
なお、約定の内容については物件によって異なるでしょうが、
- 物件の確定測量の完了
- 越境物の除去
- 越境物について関係権利者と覚書の取り交し
- 前面私道の掘削、通行承諾の取得
- 古屋の解体
などが主なものとなるでしょう。
不動産の売買契約においてはこうした約定事項を決済日までに履行する取り決めになっていますので、契約違反とならないようしっかりと作業等を終えておく必要があります。
但し、筆界確定や覚書の取得などは相手方のあることですから、「決済日までに履行が困難である」という場合にはなるべく早めに申し出て、問題の処理方法(決済の延期や売買代金の減額、契約を解除する等)について協議を行うべきです。
引き渡しの準備
決済日を迎えれば、当然ながら物件を引き渡さなければなりませんので、売主には様々な準備が必要となります。
引き渡しと言えば、まず頭に浮かぶのが「引越し作業」となりますが、今の住まいを売却して新たなマイホームを購入するのであれば、引越のタイミングには十分な注意が必要です。
新たに購入する物件が新築で未完成であったり、中古物件でも持ち主の都合によって、「現在の住まい」の引き渡しが先行してしまう場合には、一時的に賃貸物件を借りるなどして『仮住まい』の用意をしなければなりません。
なお、買主と協議を行って「決済後も数日間は、引越のタイミング調整のために今の家に住まわせてもらう特約(引渡し猶予の特約)」を取り交わすことができるケースもありますので、こうした事情が発生する場合には早めに仲介業者や買主へ相談するべきです。
また、「決済時の持ち物」の項でも解説した通り、「売却する物件に登記されている住所」と「決済に持参する印鑑証明書」の住所が異なる場合には住所変更登記を行う必要が出てきますので、引越前に旧住所の印鑑証明書を取得しておかねばなりませんし、
買い替え先の物件で登録免許税の減免を受けたい場合には、引越し前に住民票の移動を行っておく必要があるなど、決済に向けての引越準備には注意するべき点が多数あります。
決済当日の流れを解説
ここまでお話ししてきた様々な準備を経て、いよいよ決済当日の朝を迎えます。
※今回の解説は買主が融資を利用し、借入先の銀行の一室を借りて決済が行われるパターンとさせていただく上、決済の流れが最も理解しやすいであろう仲介業者の目線にてお話を進めてまいります。
まず仲介業者は、誰よりも先に決済会場に到着している必要があるでしょう。
そして会場に一番乗りできたなら、売主から買主に支払われる残代金や精算金を振り込むための「振込伝票」や「引出し伝票」を作成しておきます。
※各種伝票への署名・捺印等は本人が行う必要がありますが、金額や振込口座などは事前に書いておいて上げるの親切です。
※近年では銀行が用意するタブレット端末を利用して振込手続きを行うのが一般的です。
こうした作業をこなしている内に時間は過ぎ去り、「取引の主役たち」が到着する時刻を迎えます。
この際同席する可能性があるのは、売主・買主・司法書士、物件に抵当権が付いている場合は稀に借入先の銀行マン(抹消書類を持参するため)の4名となります。(但し、「物件が共有名義なので売主が3人」、「夫婦でお金を出し合うので買主が2人」といった理由で人数が増えるケースも多々あります)
こうした方々と素早く名刺交換を終え、初めて会う者同士の紹介などを済ませたなら、売主・買主に必要書類を出してもらい、司法書士に確認をしてもらいます。
そして登記に必要な書類が揃っていることが確認できたなら、売主・買主は「登記委任状(担当する司法書士に登記を委任するための書面)」に署名・捺印を行います。(登記委任状は司法書士が用意しています)
なお、この際に先程作っておいた「銀行の伝票類」に買主からの署名・捺印をもらっておくと、その後の決済の流れがスムーズに運ぶでしょう。
さて、ここまでの手順を終えたなら、銀行の担当者を呼び出し「融資の実行をお願いします」と告げます。
この掛け声により、銀行は融資する資金を一旦、買主の口座に振り込み、改めてここから売主の口座へと振込がなされることで、売買代金の支払いが完了する訳です。
※「振込に際しての振込手数料を誰が負担するか」を事前に打ち合わせしておくとスムーズです。
ちなみにこの融資実行の際には、振込伝票のコピーを3部取ってもらうことを、銀行の方にお願いしましょう。
コピーは売主、司法書士、仲介業者が受け取り、原本は買主に渡します。
また、融資の実行には少々時間が掛かりますので、この隙に取引完了確認書・残代金等の領収書の署名捺印、売主から買主に渡す鍵や物品の受け渡しと説明等を終えておくのがベストです。(通常決済は1時間~1時間半で完了します)
※新築建売物件の決済の場合はこの時間を利用して、各種保証書等の受け渡しやアフターサービス基準の説明などが行われます。
融資の実行が終われば銀行員がその旨を報せに来ますので、残代金領収書や固定資産税等精算金の領収証の受け渡し、登記費用や仲介手数料の支払いを済ませて、取引は終了となります。
※司法書士・買主が残代金の領収証のコピーを欲しがる場合がありますので、その際は銀行にお願いしてコピーを取ってもらいましょう。
※買主からの振込後は、売主の口座に残代金が着金したかの確認(「ネットでの確認」や「口座のある支店への電話確認」など)が行われますが、月末などは着金までに長い時間を要する場合もあります。
そして全ての行事が完了したなら、仲介業者は「これにて全ての取引が完了しました!」と声を掛け、取引は終了、解散となります。
※場合によっては買主のみ残ってもらい火災保険の手続きなどをすることもあります。
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決済日の流れまとめ
さてここまで、不動産売買の総仕上げとなる決済、引渡しの流れを解説してまいりました。
決済の場は不動産業者の営業マンでも「身の引き締まる思いがする場」となりますから、これから初めての決済に臨むというかたは、この記事で十分に予習を行っていただければと思います。
ちなみに冒頭でも申し上げた通り、決済を成功に導く最大のポイントは「万全な準備」に他なりません。
よって、当日失敗したくないという方は「頭の中で当日の流れを事前に何度もシュミレーション」したり、決済時の「書類やお金の流れを図にしたカンペの作成」などをすることで、『必要書類等の漏れ』や『現場でのパニック』を防ぐことができますので、自信が持てないという方は是非これらの方法をお試しいただければと思います。
では、これにて「不動産決済日の流れについて解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきます。