不動産会社に勤めている方でも、「経験する人」と「経験しない人」がくっきり分かれるのが『建売』という事業であると言われています。

建売とは読んで字のごとく「土地を購入して、家を建てて販売すること」となりますが、『この事業を行う会社』と『そうでない業者』は不思議とキッパリ分かれているものです。

そこで本日は「建売の土地仕入の様子をレポート!初めての戸建分譲①」と題して、建売という事業の概要と流れを、私の経験談を織り交ぜながら解説していきたいと思います。

建売の土地仕入

 

建売の土地仕入れについて

さて、私の建売用地仕入れの体験記をお届けする前に、まずは土地仕入れのポイントと流れを簡単にご説明しておきたいと思います。

建売事業とは

冒頭でもお話しした通り、土地を仕入れ、そこに建物を建築して「土地付き一戸建て」として販売を行うのが建売事業となります。

よって建売業者の営業マンは日々、商品の原材料ともいえる建売用地(建売を行うための土地)を探し求めて営業活動に励んでいるのです。

ちなみに一口に建売業者と言っても、全国規模の大手企業から中小零細会社まで様々ですが、近年はパワービルダーと呼ばれる超大手企業が土地の仕入れを独占しつつある状況となっています。

※建売業者を取り巻く状況については別記事「建売とは?戸建て分譲の仕組みや舞台裏を解説いたします!」にて詳細な解説を行っております。

土地仕入れの方法について

建売業者の土地仕入れは大きく分けて

  • 他の不動産業者からの紹介(仲介業者を通しての仕入れ)
  • 不動産業者以外の特殊ルートからの仕入れ(金融機関や弁護士などの紹介)
  • 自社での売却物件発掘(業界においては「物上げ」などと呼ばれます)
  • 競売公売での仕入れ

以上の4パターンで行われることが殆どですが、最もポピュラーな方法は「他の不動産業者(仲介業者)からの紹介」に他なりません。

なお、土地情報を紹介する仲介業者としても、売却物件を一般の方に買ってもらうのでは最大でも「売り+買いの手数料収入」しか入りませんが、

建売業者へ土地を卸せば、建築完了後に再び「売り(建売業者からの手数料)+買い(建売購入者からの手数料)」を得ることができますから、そのメリットは絶大なものとなるでしょう。

但し、どこの建売業者も血眼で用地を探していますから、仲介業者からの情報を独占するために

  • 無理をしてでも高く用地を買う
  • 仲介業者を接待しまくる
  • コンサルタント料等の名目で多く報酬を出す

などの努力を、建売業者は日々続けているのです。

用地購入までの下準備

こうした努力が実り、建売用地の情報を入手したなら、続いては「物件の調査」と「事業の試算」を行うことになります。

不動産の購入に当たっては

  • 権利関係上のリスク
  • 法令による建築や土地利用の制限に関するリスク
  • 周辺環境や近隣トラブル等のリスク

といった危険が潜んでいますので、入念な事前調査が必要となるのです。

また、土地を購入した後には土地の分割(分筆)や地盤改良、建物の建築などコストの掛かる加工を施した上で、建売住宅を売却して利益を出さねばなりませんから、事前にしっかりと事業計画を立てておく必要があるでしょう。

そして、「事業として勝算の見込みがある」と判断した場合には、プロジェクト資金の借入を行う銀行へ事前相談を行った上で、購入の意思決定を行うことになります。

建売用地の契約・決済

こうして購入の意思が固まれば仲介業者を通して、売主との「売買契約締結に向けての具体的な条件の擦り合わせ」が開始されることになります。

建売用地の購入に当たっては

  • 確定測量を行うか否か
  • 古屋の解体費用を誰が負担するか
  • 越境物等の処理をどのように行うか
  • 前面私道の通行・掘削の承諾を取得する
  • 物件の欠陥についての責任(契約不適合責任)を売主が負うか否か

といった「様々な取引条件」を定めなければので、こうした問題について一つ一つ打ち合わせを行っていくのです。

そして無事に条件の擦り合わせに成功すれば、売買契約を締結して後日物件の引き渡しを受けることになります。

なお、基本的に建売業者が用地の仕入れを行う場合には、あまり条件的に我がままを言うことはできません(物件を買いたい建売業者が溢れ返っているため)ので、多少のリスクを背負ってでも購入を決断せざるを得ないのが現実です。

さて、ここまでの解説にて建売用地の仕入れについての基礎知識は押さえていただけたことと思いますので、私が実際に体験した初めての用地購入のプロセスをご紹介していくことにいたしましょう。

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初めての土地仕入れ体験記

私が勤める会社は、東京の片隅ながら「それなりに栄えた駅」の近くに店舗を構える小さな不動産屋さんであり、従業員は売買・賃貸を合わせて常に6~7人が在籍しています。

事業内容として特化したジャンルがある会社ではないのですが、社長の「売り上げになるならどんな仕事でも引き受けろ」という拝金主義のために、売買担当である私は仲介から建売、投資物件の買取・売却はもちろん、時には賃貸管理まで幅の広い仕事を押し付けられている毎日です。

そんな私が初めて建売の現場を担当することになったのは、この会社に入ってから4年目くらいの頃だったと記憶しています。

その当時の私は、売買仲介の仕事こそ数件は経験しているものの、簡単な取引でも先輩に何度も質問をしながら「どうにか仕事をこなしている状態」でした。(入社した際は賃貸担当であり、1年程前に売買担当に転属させられたばかり)

よって、「自分に建売の現場担当なんて10年早い」と勝手に決めつけ、用地の仕入れについては積極的な営業をしないように心掛けていました。(社長命令で、業者回りの際に「建売用地あったら紹介してください」という台詞を挨拶代わりに発する程度)

そしてその日も、いつものように朝のレインズチェックなどをこなしていたのですが、不意に携帯電話へ「知り合いの不動産会社さん」からの着信が舞い込みます。

『朝から飲みのお誘いかな?』などと思いながら通話ボタンを押すと、電話の向こうからは「建売用地!出たよ!!」とのお言葉が聞こえてきます。

『あんな営業で仕事が入って来るなんて・・・』と少々驚きながらも、早速、事務所にお邪魔して、物件の資料を頂いた上で現地へ下見に向かいます。(当時はまだ、建売用地の仕入れも楽でした)

但し、この段階では「売りたいとの相談だけ」ということなので、『物件を見に行くなら、道路からチラリと確認する程度してくれ』とのことであり、周囲の住人に気付かれぬように慎重に下見を行いました。

なお、物件のスペックとしては間口10mの奥行き13mの整形地(面積130㎡)、駅から徒歩10分程という立地に、築50年という古家が建っています。

また、近隣は3階建ての建売物件が多い地域ですから、土地を間口5mの2区画に分ければ(分筆すれば)、65㎡ずつ2棟の建売を計画することができそうです。

そこで早速、会社に戻ってこの建売用地の件を報告したところ、社長は明らかにノリノリの反応を示します。

そして、「直ぐ買おう!今買おう!」とはしゃいでおいでなので、『では、購入に向けて契約の段取りを・・・』と動き出そうとすると、先輩社員から『しっかり試算と物件調査をしないとダメだぞ!』とのご忠告を頂いてしまいました。

そうです、当然ながら建売用地を購入する前には「事業内容の精査」や「物件の調査」を行わなければならないのです。

そこで通常の仲介取引と同様に現地調査役所調査を終え、事業計画の試算を進めて行きます。

まずは近隣の取引事例などを調べて、「65㎡の3階建の建売がいくらくらいで売れそうか」を調査し、想定販売価格を算出します。

続いて、「土地の仕入れ価格」に「購入時の仲介手数料」や「建物の建築費」、「建築確認代」「古屋の解体費」「販売時の仲介手数料」など必要となるコストを予測した『原価の計算』を進め、想定販売価格で売れた場合の利益をはじき出すのです。

その結果、一棟に付き250万円くらいの利益が見込めるとの結論に達し、これを社長に報告しますが「それじゃあダメだ!」との渋いご回答を頂いてしまいます。

『あんなにノリノリだったクセに・・・』と心の中で文句を言いながら、経費を削ってみたり、想定販売価格などを調整する作業を進めます。

その後、かなりの試行錯誤を経て「一棟あたりの利益を280万円」まで膨らませることができましたが、これでも社長の承諾は得られそうにありません。

仕方なく物件の購入価格を少し減額することで、どうにか一棟300万円の利益が確保できる試算を作成して、これでようやく社長のOKを頂くことができました。

早速、物件を紹介してくれた仲介業者さんへ連絡を取り、購入価格が下がった経緯などを丁寧に説明した上で「買付証明書」を送り、返事を待つことにします。

初めての用地仕入れ契約と決済

数日後、ようやく仲介業者さんからの連絡があり、提示した金額で売主さんが契約に応じてくれるとのことでした。

どうにかお話がまとまりそうな気配にホッとするのも束の間、今度は契約内容の擦り合わせが始まります。

今回の売主さんは自宅(建売用地)を売り払って、中古の分譲マンションを購入したいと考えている中年の女性です。

そして売買価格については既に合意が取れていますが、新居に持って行けないタンスなどの大型の荷物は、買主の負担にて処分してもらいたいとのご要望があるようです。

『あれれ、荷物の処分費までは試算に入れてないぞ・・・』と一瞬焦りましたが、ここは買わせていただく訳ですから、我慢するしかありません。

一方、こちらからの要望は土地の「確定測量」を売主さん側でお願いしたいというものになります。

確定測量とは、土地の接する「民間の境界」全てと、公道に接する「官地と民地の境界」を確定してもらう作業であり、実際には土地家屋調査士に依頼して、近隣の方と『お互いに境界はここで間違いない』という旨の「境界確認書」を交わした上、道路を管理する地方自治体から境界の確定証明書を交付してもらうという内容です。

この確定測量ができないと、土地を2つに切ること(分筆)自体が不可能になってしまうため、売主と取り交わす売買契約書上も『確定測量が不可な場合には契約を解除できる」旨を盛り込んであります。

ちなみに購入した後で、見ず知らずの不動産屋さんが「境界の立会いをしてください」といっても、近隣の方に応じてもらえない可能性もありますので、売主の責任にて確定測量をしてもらうケースが少なくありません。

こうした条件を互いにクリアーしながら、無事に契約は成立。

後日、私の会社が購入資金の借入れをする銀行に集合して、物件の決済・引渡しを行いました。

売買代金の支払に、固定資産税等の精算などを終え、ようやく物件の鍵を頂きます。

さあ、いよいよ「建売の商品作り」の始まりです。

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土地仕入まとめ

さてここまでが、建売用地仕入れ体験記の第一回目となります。

こうして文章にすると「サラリとお話が進んでいる」ように感じられるかもしれませんが、如何せん初めてのことばかりですから、その裏には様々な苦労がありました。

不動産業界の場合、判らないことがあっても先輩方はなかなか教えてくれません(自分の仕事で手一杯のため)し、当時は今ほどインターネットで閲覧できる情報も多くなかったので、とにかく情報に飢えていたのを憶えています。

ちなみに、物件の引渡し条件に関しては、実は「荷物の処分」以外にも様々な無理難題を売主から吹っかけられました。

「不動産屋さんが買うからには、一般の方が買うよりかなり安くなっているのだろう」という売主さんのお気持ちがこうした条件交渉に繋がっていたのでしょうが、今時の建売用地買取り価格はそれ程安いものではありません。

また、今回のように130㎡(約39坪)と土地が大きい場合は、一般の購入者では持て余す面積(通常、戸建てを建てるなら30坪以上は不要)となりますから、価格が若干安めになるのは致し方ないことなのですが、その点が今一つ売主さんにはご理解いただけなかったようです。

※土地の面積による単価の変動については別記事「マイホームの土地の広さや面積について解説いたします!」にて詳しく解説しております。

そして、こうした誤解を生まないように「自分が仲介業者の立場である場合には、しっかり売主さんのフォローをしなければならないのだぁ・・・」と痛感させられたことを今でもはっきりと覚えています。

さて次回は、古屋の解体と建物の建築編となる「建売施工管理の様子をご紹介いたします!」という記事をお送りいたします。

拙い文章です恐縮ではございますが、ご興味をお持ちいただけたましたら是非とも次回の記事もご一読ください!