「市場に流通している物件価格の70%程度で、不動産を購入できる可能性がある」として、今、一般の方からも熱い注目を集めているのが「競売」です。

ひと昔前までは、「素人が手を出すものではない」と言われていたこの制度ですが、現在ではマイホームをお探しの一般方や、セミプロの不動産投資家さん等もこぞって入札に参加しています。

しかしながら、こうしたトレンドの中にあっても、プロ中のプロであるはずの不動産業者の中には「競売に決して参戦しない」というポリシーを崩さない方々が多くおられる事実を皆様はご存知でしたでしょうか。

確かに近年では関係法令も整備され、「リスクは大幅に軽減された」とも言われる競売ではありますが、今なお『それなりの危険性が存在している』のは疑いのない事実であり、競売参加に消極的な不動産業者が多い理由も、この点を意識してのことに他なりません。

そして、こうしたリスクのお話を耳にすれば「これから競売に参戦しよう」とお考えの方は、『是非とも詳細を知りたい!』と思うものですよね。

そこで今回は、競売の流れについてのご説明をした前回の記事に引き続き、競売購入の注意点に関してお話をしてみたいと思います。

では、競売物件購入のリスクに関する知恵袋を開いてみましょう。

競売購入の注意点

 

入札の注意点

競売においてまず注意が必要なのが、入札の制度自体に係わる問題となります。

実は競売の入札に際しては、物件の売却基準価額の20%以上の金額を保証金として納付しなければなりません。

そして入札の結果、無事に物件を取得できれば何の問題もないのですが、「銀行に融資を断られ、残代金の資金繰りが付かない」「後から物件に問題あることに気が付いたので、購入を取り止めたい」などの事情が発生し、入札をキャンセルしたい場合には「納付済みの保証金を放棄する」ことでしか辞退ができないシステムになっているのです。

よって、こうした事態に陥らないためにも、競売に参加する際には「綿密な計画を立てた上で、ことに臨むべき」でしょう。

また、時折耳にするのが申込書に記載する金額の「桁」を間違ってしまうというケースです。

当然、後から訂正することできはませんので、落札してしまった場合には「桁を間違えたままの金額で購入するか」「保証金を放棄して辞退する」という選択肢しか残されませんので、この点も注意を払うべきでしょう。

 

物件の瑕疵に関するリスク

通常の不動産売買であれば、基本的には物件の瑕疵(雨漏りなどの物件の隠れたキズ【欠陥】)に対して、『売主が一定期間責任を負う』などの保全措置が施されているものです。

しかしながら、競売の場合には瑕疵に対する保全は一切行われていませんので、全て自分の責任において問題を処理する必要があります。

建物の雨漏りや傾き、地盤の沈下などを物件の内覧も行わずに見抜くことはプロの不動産業者であっても非常に困難ですから、競売に参加する以上はこうしたリスクも覚悟の上で臨む必要があるでしょう。

また建物の瑕疵であれば、建替えにより解消できるケースが多いでしょうが、土壌汚染などが発覚した場合には、土壌の改良に法外な費用が発生する可能性も出て来ます。

こうした被害を防ぐためには、物件所在地近くの図書館などで古い年代の住宅地図を閲覧し、「現在の建物が建つ前にどんな土地の利用がされていたか」等を調べることが有効な対策となるでしょう。

但し、隣接住宅からの配管越境や、古い建物の基礎やコンクリートガラ等の地中埋設物に関する瑕疵については、どのような調査をしても「見抜くことは非常に困難である」と言わざるを得ません。

 

明け渡しに関する注意点

さて、競売物件を購入する最大のリスクとされるのが「物件の明け渡し」に関する事項です。

『日々の生活の拠点が競売に掛けられる』という状況は、所有者・占有者にとって非常に不本意な事態でしょうし、突然現れた競落人から「出て行け!」と言われて素直に応じる訳がないのは当たり前のことでしょう。

そこで頻発する明け渡し関連のトラブルに対処するべく、様々な法整備が行われることになり、現在ではよりスムーズな追い出しが可能となってはいるのですが、まだまだ注意すべき点もありますので、以下でポイントを整理していきます。

空室の場合

物件が空室であれば「何も問題がない」ような気がしますが、『何時の間にか人が住み着いていた』という事態も想定できますので、決して気を抜くことはできません。

また物件を競落したからといって、鍵を渡してもらえる訳ではありませんので、ドアに鍵が掛かっている場合は鍵屋さんに連絡をして、ドアを破らなければならないのです。

そしてドアを破る際には、不測の事態(「侵入者との鉢合わせ」や「室内で事件が発生している」など)に備えて立会人を同行させるのが通常となります。

なお、立合い人については基本誰でも構いませんが、後々の安全を考えるのならば裁判所が紹介してくれる専門業者に数千円の日当を払って同行してもらうのが得策でしょう。

また、ドアが開いてもまだまだリスクはあります。

それは物件の内部に荷物が残されている場合です。

競落人は不動産の所有権を取得してはいますが、中にある荷物に関しては何も権利を持っていません。

よって、荷物を勝手に処分すると後々、大きなトラブルに発展する可能性もありますので、まずは裁判所の資料などを基にに旧所有者に連絡を取り、残置物処分の交渉をしましょう。

但し、上手く連絡が付いたとしても『口頭だけで、撤去する旨の約束をする』のでは不安でしょうから、「立退きの確約(占有解除)」と「荷物の所有権放棄」の二点を謳った覚書などを交わしておくべきです。

なお、旧所有者はお金に窮して「競売という憂き目」にあっている訳ですから、荷物の処分費用が払えない可能性も充分にありますよね。

こうした相手の境遇に気を配り、競落人が処分費用を負担するのが、スムースに交渉を進める秘訣となるでしょう。

但し、どうしても交渉がまとまらない場合には「強制執行」という最後の手段に踏み切ることとなります。(強制執行の費用は競落人負担)

占有者が居る場合

そして更に問題となるのが、入居者がまだ占有を続けている場合です。

ここでまず注意したいのが、占有している者が「旧所有者」なのか、「物件を賃貸で借りている者(賃借人)」であるのかという点となります。

旧所有者であれば「引渡し命令」などを発動することであまり時間を掛けずに退去させることが可能ですが、賃借人に関しては原則として引渡しに6ヶ月間の猶予を与えなければなりません。

実はひと昔前まで、賃借人が物件を占拠している場合の「立退き」は非常に困難なものでした。

これは「短期賃貸借を保護するべし」という法令が存在していたためであり、悪質な賃借人が物件を占有しているケースでは、競落人はその退去に大変手を焼かされていたのです。

そして『この制度のままでは競売に参加する人が居なくなる』との危惧から、2004年に法律が改正され、賃借人に対して「6ヶ月の猶予を与えるが、退去を拒むことはできない」という内容に変更されたという訳です。

但し、法改正後も2004年以前から賃貸を続けている者に関しては、改正前の「短期賃貸借保護の文言」が効果を持つこととなっていますので、契約期間が3年以下の建物賃貸借契約については『期間満了まで明け渡しの請求ができない』ことになります。(契約が更新されている場合には、更新契約が満了するまで)

更に、2004年の法改正の前であろうと、それ以降であろうと『抵当権が設定される前から賃貸借契約を締結している賃借人』については、正当事由なしに退去をさせることはできませんので、競落した物件を自分で利用したい場合などには注意が必要です。

ちなみに2004年の法改正においては、競売に掛けられたアパートなどについて、旧所有者が賃借人から預かっていた敷金の返還義務を、競落人が引き継がなくてよい旨のルール変更が行われました。

よって、賃借人の立退きに際して「敷金を返還しろと」言われても、これに応じる必要はありません。

このように賃借人の立退きについては「一筋縄ではいかないケース」が多々あり、これを解決するために多くの時間を費やしてしまうと、今後のスケジュール(リフォームや解体工事の予定)に大きな影響が出る可能性がありますので、賃借人がいる物件の入札には細心の注意を払う必要があるでしょう。

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立退き交渉

競落した物件に占有者がいる場合には、裁判所の「明け渡し命令」などで退去を迫ることができる旨は、既にご説明いたしました。

但し、これだけで全ての占有者が退去してくれる訳ではありませんし、前項でもお話しした通り、賃貸借契約の状況によっては法的に対抗することが困難な場合もありますから、このようなケースでは交渉によって退去の合意を得るしか方法はありません。

では具体的にどのような交渉を行うべきなのでしょうか。

まず、法的に対処することが難しい賃借人に対しては、現在の住まいと同等の賃貸物件を新たに借りるのに必要な「初期費用(前家賃・礼金・敷金・保険料・仲介手数料等)」「慰謝料的な意味合いの金員数万円」、そして「引っ越し費用」を付加した『立退料』を提示することが交渉の第一段階となります。

但し、これだけですんなりと納得する賃借人は少ないでしょうから、立退料を増やしたり、立退きまでの期間の賃料を減免するなどの条件を提示しながら、根気強く交渉を進めていきましょう。

一方、交渉の相手が旧所有者である場合には、法的に「退去するのが義務」となっていますから、あまり手間が掛からないようにも思えますが、そうとばかりも言えない部分もあります。

旧所有者が競落人の退去の勧告に従わない場合には、裁判所を通して「明け渡し命令」を出し、これにも応じない場合は「強制執行」をすることになりますが、これらの手続きを行うには『当然それなりの費用が必要』となりますから、ある程度の費用を支払って退去してもらえるなら、こちらの方が遥かに効率的なのです。

そこでまずは、「引っ越し費用」を競落人が負担するという最低限の条件を提示して、相手の出方を見ましょう。

ただ、現実的には引っ越し費用のみで退去に応じてもらうのは困難でしょうから、先程の「賃借人に支払う費用」をベースに徐々に立退料の金額を引き上げながら、交渉をしてみる他はありません。

ちなみに、占有者の中には「お金を受け取るだけで退去はしてくれない」という悪質な者もいますので、取り決めた内容をしっかりと書面に残した上、お金の受け渡し時期などにも十分な注意を払う必要があります。(退去前には半金のみを渡し、立退きが完了したら残金を支払うなど)

強制執行

前項では「立退きの交渉」についてお話をいたしましたが、どうしても退去してくれない旧所有者などには、強制執行という最後の手段を講じるしかありません。

なお、ここに至るまでに裁判所からの「引渡し命令」が発動されていれば、強制執行を行うのは決して難しいことではないはずです。

そして、裁判所で執行の手続きを済ませば、2~3ヶ月程で強制的な退去が可能になります。

ちなみに強制執行の断行前には、執行官が占有者に告知を行いますので、執行当日には物件はもぬけの殻ということも珍しくありませんが、場合によっては最悪の結末を迎えることもあるでしょう。

それは、行くあてものなく人生に絶望した占有者が物件で自ら命を絶つというパターンです。

当然、占有は解除さることになりますが、こうした事態を引き起こす原因となったが競落人自身がそこに住むのはとても無理でしょうし、賃貸するにも事故物件扱いとなってしまいます。

立退き交渉をする中で、「この人はやばい!」と感じたら、それなりの費用を支払ってでも引っ越し先の目途を付けさせることが、競売では非常に重要となるでしょう。

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競売の注意点まとめ

以上が競売という制度に隠された注意点となります。

法整備が完了して「誰でも手が出し易くなった」とは言え、まだまだリスクは潜んでいるものです。

また、競落人は法的にかなり優位な立場にありますが、調子に乗ってやりたい放題な振る舞いをしていると、とんでもない憂き目に遭うこともありますので、この点には是非ご注意いただければと思います。

「不動産の取引はあくまでも、人と人との繋がりの上に成り立つもの」となりますから、たとえ競売であってもこれを忘れないようにしたいものです。

ではこれにて、競売購入の注意点についてまとめる知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!