街中を歩いていると「戸建ての建築現場」を目にすることがよくありますが、実はその多くが『建売』と呼ばれる戸建て分譲物件となっています。

また、マイホーム選びに際して「戸建ての新築を購入する」となれば、その対象は『100%建売』となりますから、建売物件は「私たちの生活とは切っても切れない関係にある」といっても過言ではありません。

しかしながら、実際に建売住宅を購入し、そこで生活を送っていても「建売事業の仕組み」や「その裏側」については、全く知らないという方が大多数であるはずです。

そこで本日は「建売とは?戸建て分譲の仕組みや舞台裏を解説!」と題して、マイホーム探しには欠かせない戸建て分譲に関する知識をお届けしてみたいと思います。

建売とは

 

建売って何だろう?

ではまず、「そもそも建売とは何か?」という点から解説を始めていきたいと思います。

建売を判りやすく言い換えれば「戸建ての分譲」という意味となりますから、『土地を仕入れて戸建てを建築し、土地と建物をセットで販売している物件』とも言い換えることができるでしょう。

なお、『不動産を不特定多数に反復継続して売買する』には不動産業の免許が必要となりますから、建売の分譲主は必然的に「不動産業者」ということになります。(戸建て分譲を行う業者を不動産業界では「建売屋さん」などと呼びます)

そして、戸建ての分譲を行う不動産業者は建売用地と呼ばれる土地を仕入れ、土地を分割するなどの加工を施した後に建物を建築し、これを一般ユーザーに売却して売却益を得るのです。

ちなみに、過去には質の悪い建売業者から物件を購入してしまったユーザーが雨漏りなどの欠陥を巡って、売主とトラブルになるケースも少なくありませんでした。

しかし近年では、こうした問題を解決するべく法改正が進められ、建売の分譲主には「建物の主要な部分に生じた欠陥に対して10年間責任を負うルール」や「建物の欠陥に備えた保険(瑕疵保険)への加入義務」などが課されることとなり、現在では建売住宅を巡るトラブルは大幅に減少しているのが実情です。

さてここまで、建売の概要についてザックリとご説明してまいりましたが、以下では更に掘り下げて戸建て分譲の事業内容に迫ってみたいと思います。

分譲業者について

前項にて、「建売事業を行うのは100%不動産業者」とお話ししましたが、一体どのような不動産屋さんがこの事業に参入しているのでしょう。

「戸建て分譲」という言葉の響きからは、潤沢な資金を持った大手の不動産業者をイメージされる方も多いでしょうが、建売分譲を行う不動産屋さんの規模は実に様々です。

もちろん中には、テレビCMをバンバン流しているような大手の戸建て分譲業者(業界では「パワービルダー」と呼ばれます)も存在していますが、地域密着型の中小規模の不動産業者も少なくありませんし、中には社長さん一人で営業している会社が分譲主になることもあります。

なお、戸建ての分譲を専門としてしている企業も多いですが、普段は仲介業務を専門としている会社が「時折建売に挑戦する」というケースも珍しくありません。

さて、ここで疑問に思うのが「土地を購入し、建物を建てて転売を行う事業資金はどこから出ているのか?」という点なのではないでしょうか。

確かに規模の大きな不動産業者であれば、それなりの資金力があるでしょうが、中小零細企業や仲介を専門としている業者にそれ程潤沢な資金があるとは思えません。

実はこうした建売事業の資金は「金融機関からの融資に頼っている」という企業が殆どであるはずです。(当たり前のことかもしれませんが)

一般的な企業の場合には、銀行からの融資を受けるためにはそれなりの実績と信用が必要となりますが、建売事業の場合には用地として仕入れた土地を担保に入れることが可能であるため、通常の事業用ローンを組むよりも遥かに容易く事業資金を調達することが可能となります。

また金融機関としても、物件さえ売れてしまえば短期間で貸付金の回収が可能となりますから、建売事業に対する融資は銀行にとっても「決して悪い話ではない」のです。

こうした事情を背景に多くの不動産業者が建売事業へと参入を果たしているのが実情となります。

建売事業の流れ

ではここで、具体的に建売事業の流れを見て行くことにいたしましょう。

建売事業を始めるに当たっては、まず建物を建てる用地(土地)を確保しなければなりません。

また建物を建てるとはいっても、あくまでも転売事業となりますから、それなりに安価で建売用地を仕入れる必要がありますので、建売業者の営業マンは日々血眼になって土地の情報を漁ることになります。

※戸建て分譲業者の営業マンの仕事内容については、別記事「不動産営業の仕事内容!建売屋さん編」をご参照ください。

ちなみに土地の仕入れ先については、仲介を専門とする業者からの情報に頼ることが殆どですが、建売屋さん自身が一般の売主から土地を買い上げることもありますし、競売公売などを利用することもあるでしょう。

さて、このようなお話をすると「仲介業者はどうして自分で建売事業を行わずに、他の会社に物件を紹介してしまうの?」と思われるかもしれませんが、自身の手で建売を行うと『販売後に様々な責任が降り懸かってくる』ことになりますし、物件が売れ残れば事業資金の返済に追われることもありますので、これを「良し」としない不動産業者も決して少なくはないのです。

更に建売用地として土地を戸建て分譲業者に卸せば、建築完了後の再販売も任せてもらえるケースが多いため、上手く立ち回れば「建売用地の購入手数料(建売業者からの報酬)」「建売の販売手数料(建売業者からの報酬)」「建売の購入手数料(建売購入者からの報酬)」といった具合に、二重三重に仲介手数料を稼ぐことが可能となるため、仲介業者としても『決して悪くない仕事である』という側面もあります。

こうして建売用地の購入に成功したならば、続いては行うべきは物件の加工です。

先程、建売用地を戸建て分譲業者に卸すことは『仲介業者にとってもメリットがある』旨はお話ししましたが、仲介業者がどんなに頑張っても「一般の売主さんに安く土地を売ってもらうのは至難の業」となるでしょう。

よって建売用地となる物件は「権利関係が複雑」であったり、「土地の面積が大き過ぎて一般の方には向かない」など、『何かしらの訳』があることが殆どとなります。

※近年では大手建売業者の高額買取が行われているため、「訳のない建売用地」も少なくありませんが・・・。

そこで建売業者は、土地を購入した後に権利関係を整理したり、土地の分割(分筆)、建物の取り壊し、宅地造成工事などの加工を施して、一般の方が買いやすい物件にするべく手を加えていくのです。

そして加工が完了したなら、建物を建築しながら販売活動を行い、これを売り切って借入金の返済を済ませて事業は完了となります。

なお、引渡し後は購入者へのアフターサービスも必要となりますから、保証期間が切れるまでお客様との付き合いは続いていくことになるでしょう。

※建売事業の流れについて更に詳細に知りたいという方は、別記事「建売の土地仕入の様子をレポート!初めての戸建分譲①」をご参照ください。

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建売物件の取引について

前項では分譲業者の仕事の流れをご紹介いたしましたので、本項では建売物件の取引についてお話をしていくことにいたしましょう。

皆様が建売物件を購入する際には、「建物が完成済み」「建物が未完成」、そして「建築条件付き売地」という3つ取引のパターンが考えられます。

「建物が完成済み」「建物が未完成」の2つについては、単純に建物が完成しているか否かという問題ですが、この違いは取引の流れにも少なからず影響を及ぼすことになるでしょう。

まず、建売物件は行政からの建築許可(建築確認)を取得した段階でなければ、売買契約を締結することができないのが原則です。

よって、建売業者が土地を仕入れたばかりで「如何なる建物を建てるか」が決まっていない段階では、通常は建売を購入することができません。(建売業者によっては様々な手法を用いて、売買契約を締結してしまうケースもありますが)

一方、建築の許可さえ取得してしまえば、たとえ着工前の更地の状態であっても売買契約を締結することは可能となりますが、既に建築確認を所得済みですから「建物の間取りを変更したい」などの要望は通常認められません。

但し、建物の仕様(外壁の種類や内装部材等の選択)については、工事の進捗状況次第で「買主の要望」をある程度盛り込むことも可能です。(分譲業者が定める基本仕様よりも高額な部材を選ぶ場合には追加料金が発生しますが)

そして建物が殆ど完成している物件や、既に完成している物件においては、購入者の意見が殆ど反映されることなく、物件を現状のままで取引することになります。

※建物が完成した場合、3ヶ月以内に建物の表示登記を行うのがルールですが、建売の分譲主の多くは、この登記を購入者の名義でおこなうべく「未登記のままの状態にしているケース」が殆どです。

さて、最後に残ったのが「建築条件付き売地」という取引のパターンになりますが、こちらは少々毛色の異なるものです。

既にお話しした通り、建売住宅は建築確認を取得した後でなければ原則として売買契約を締結できませんが、これでは購入者の「間取りの希望」などを叶えられません。

そこで、まずは土地の売買契約だけを締結し、その後一定期間内に「分譲業者指定の建築業者」と「購入者」が建物の請負契約を新たに締結することによって、『実質建売ではあるが、建築確認取得前に契約をすることが可能』となり、この取引形態が適用される物件を「建築条件付き売地」と呼んでいるのです。

ちなみに「建築条件付き売地」では、先行して土地契約を締結していても、その後の請負契約が成就しなかった場合には、土地契約も解除できるルールになっていますから、購入者の取引上の安全は確保されていることになりますが、質の悪い業者の中には払う義務のない違約金などを請求してくるケースもありますので注意が必要でしょう。

 

建売事業の舞台裏

ここまでの解説にて「戸建て分譲の概要」についてはご理解いただけたことと思いますので、本項では建売事業の裏側をご紹介していきたいと思います。

「分譲業者について」の項では、様々な規模の戸建て分譲事業者が存在する旨をお話ししましたが、現在では大手業者(パワービルダー)の圧力の前に、中小の事業者は劣勢に立たされているのが実情です。

大手の分譲業者は海外から木材を大量に安価で輸入し、建物の建築も自社で行っているのに対して、中小の事業者は工務店などに外注して建築を行っています。

この違いによって、大手企業と中小事業者の建築費用には大きな差が生じ、『大手の独り勝ち』という状況が続いているのです。(建築費が安い分、土地の高額買取が可能となるため、中小企業は土地の買取価格で大手に太刀打ちできない)

更に、大手企業同士での『土地の仕入れ価格競争』も熾烈さを極めていますから、今や建売用地の買取価格は一般ユーザーの土地購入価格をも上回る勢いであり、不動産市場には「殆ど土地売り物件が存在しない状態」にまでなりつつあります。

但し、中小の分譲業者もそのまま姿を消す訳にはいきませんから、様々な工夫を凝らしながら大手企業に対抗するための努力を続けているのです。

なお、こうした建売業者同士の苛烈な競争は、結果として多くの建売物件を生み出すこととなり、土地売り物件の減少に反比例して、建売物件が不動産市場を埋め尽くす状況が続いています。

しかしながら、多くの建売業者がその事業資金を銀行からの融資に頼っている上、原則として融資期間は1年以内となりますので、苦労して建売用地を仕入れたものの物件が売れ残ってしまい、返済に追われて「夜も眠れない」という業者も少なくありません。

また、建売事業者同士の熾烈な仕入れ合戦により、建売用地の市場は完全な「売り手市場」となっていますから、物件情報をもたらす仲介業者を建売屋さんが接待する姿も、夜の街ではしばしば見受けられます。

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建売とは?まとめ

さてここまで、「建売とは?」というテーマで建売事業の裏側などを解説してまいりました。

本記事をお読みいただければ、「建売物件がどのようなプロセスを経て販売されているか」をご理解いただけたことと思います。

また、現在マイホームをお探し中の方については「売主が何を考え、どのような状況で販売活動を行っているのか」を知るヒントにもなったかと思いますので、値引き交渉などを行う際には是非本記事の内容を思い起こしながら話し合いに臨んでいただければ幸いです。

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という故事もありますから、建売業者の立場や考え方をしっかりと理解した上で、マイホーム購入の意思決定をなさってください。

ではこれにて、「建売とは?戸建て分譲の仕組みや舞台裏を解説!」の記事を締め括らせていただきたいと思います。