賃貸物件を所有している大家さんにとって、非常に悩ましいのが「いくらで募集すればよいのか」という賃料設定です。
もちろん、現在では不動産ポータルサイトを使えば、周辺で募集されている物件の家賃を簡単に調べることができます。
しかし、そこで表示されている金額を眺めるだけでは、適正な賃料を判断することはできません。
なぜなら、インターネット上に掲載されているのは基本的に「募集賃料」であり、その金額で実際に契約されたとは限らないからです。
また、同じ1Kや2LDKであっても、駅からの距離、築年数、専有面積、建物構造、設備、階数、日当たりなどによって、適正な賃料は変わってきます。
そこで本記事では、賃貸管理の実務経験をもとに、管理会社がどのような考え方で賃料相場を調べ、募集賃料を決めているのかを詳しく解説していきます。
なお、管理会社が行っている業務全体について知りたい方は、賃貸管理の知識カテゴリーも併せてご覧ください。
これから賃貸物件を購入する方や、所有物件の募集賃料を見直したい大家さんにも参考にしていただければ幸いです。

賃料相場は「周辺の募集物件を見るだけ」では分からない
家賃相場を調べようとした場合、まず思いつくのが不動産ポータルサイトで周辺の物件を検索する方法でしょう。
例えば、自分が所有している物件が「駅徒歩8分・築20年・25㎡の1K」であれば、同じ駅周辺にある1Kを検索し、その賃料を比較するわけです。
これは賃料査定の第一歩としては間違っていません。
しかし、実際にはまったく同じ条件の物件など、ほとんど存在しません。
- 駅からの距離
- 築年数
- 専有面積
- 木造・鉄骨造・RC造などの建物構造
- バス・トイレ別か
- 独立洗面台があるか
- 室内洗濯機置場があるか
- オートロックがあるか
- 階数
- 方位や日当たり
- 収納の大きさ
- 周辺環境
こうした条件が少しずつ異なるため、単純に「近所の1Kが7万円だから、この部屋も7万円」と判断することはできません。
賃料査定では「似た物件を探す」だけでなく、対象物件との違いを一つずつ確認しながら賃料を補正していくことが重要です。
募集賃料と成約賃料は別物
賃料相場を調べる上で、まず理解しておきたいのが「募集賃料」と「成約賃料」の違いです。
インターネットで確認できる物件情報の多くは、大家さんや管理会社が「この金額で借りてほしい」と設定している募集賃料です。
しかし、その金額で実際に入居者が決まるとは限りません。
例えば、周辺の1Kが次のような賃料で募集されていたとします。
- A物件 72,000円
- B物件 70,000円
- C物件 71,000円
- D物件 69,000円
これだけを見ると、「このエリアの相場は7万円前後」と判断したくなるでしょう。
ところが、これらの物件が何か月も空室のままであれば、話は変わってきます。
7万円という数字は「市場で成立している賃料」ではなく、単に貸主側が希望している金額である可能性があるからです。
反対に、6万8,000円で募集した物件が短期間で次々に成約しているのであれば、実際の市場はその辺りに存在している可能性があります。
管理会社が本当に知りたいのは「いくらで募集されているか」だけではありません。「実際にいくらで決まったのか」「どのくらいの期間で決まったのか」も非常に重要な情報です。
管理会社が賃料査定で比較する主な項目
では、実際に賃料を査定する際には何を比較していくのでしょうか。
ここからは、私が実務で重視してきたポイントを順番に解説します。
駅からの距離
賃貸物件では、駅からの距離は非常に重要な要素です。
特に単身者向け物件では、駅徒歩5分と徒歩15分では入居希望者からの評価が大きく変わることがあります。
ただし、単純に「徒歩1分につき○円」と機械的に計算できるものではありません。
駅から多少離れていても、商店街を通って帰れる、バス便が充実している、自転車利用がしやすいなど、地域によって評価は異なります。
築年数
築年数も当然ながら賃料に影響します。
ただし、築年数だけで判断するのは危険です。
築30年でも室内を全面的にリフォームしている物件と、築20年でも設備がほとんど更新されていない物件では、前者の方が高く評価されることもあります。
そのため実務では、築年数と併せて室内の状態や設備更新の状況を見る必要があります。
専有面積
私は賃料査定において、専有面積をかなり重要な比較項目だと考えています。
同じ1Kでも18㎡と25㎡では、実際に室内へ入った際の印象はかなり違います。
またファミリータイプの場合も、同じ2LDKという表示だけでは比較できません。
例えば45㎡の2LDKと60㎡の2LDKでは、居室や収納、LDKの広さにかなり差が出る可能性があります。
以前の記事では面積ごとに物件のグレードを区分していましたが、これは全国共通の基準として考えるべきものではありません。
同じ地域・似た間取りの物件を並べ、その中で専有面積の違いが賃料にどの程度反映されているかを見るのが現実的です。
建物構造
木造アパート、軽量鉄骨造、重量鉄骨造、RC造マンションなど、建物構造も比較しておきたい項目です。
特に物件検索では「マンション」と「アパート」を分けて探す入居希望者も少なくありません。
そのため、RC造マンションの賃料をそのまま木造アパートの比較対象とするような査定は避けた方がよいでしょう。
設備
設備についても、入居者が部屋を選ぶ際の重要な判断材料になります。
代表的なものとしては、
- バス・トイレ別
- 独立洗面台
- 室内洗濯機置場
- オートロック
- 宅配ボックス
- モニター付きインターホン
- エアコン
- インターネット設備
- 温水洗浄便座
などがあります。
ただし「この設備が付けば必ず家賃が5,000円上がる」という単純なものではありません。
その地域の競合物件では標準装備なのか、それとも希少な設備なのかによって評価は変わります。
似た物件を複数集めて比較する
実際の査定では、一つの物件だけを見て判断するのではなく、できるだけ複数の比較物件を集めます。
例えば対象物件が、
- 駅徒歩8分
- 築15年
- RC造
- 25㎡
- 1K
- バス・トイレ別
だったとしましょう。
周辺で次のような物件が見つかったとします。
A物件は駅徒歩5分・築20年・24㎡・68,000円。
B物件は駅徒歩10分・築10年・26㎡・72,000円。
C物件は駅徒歩7分・築18年・25㎡・69,000円。
このような事例を並べながら、
「対象物件はAより築浅だが駅から少し遠い」
「Bより築年数は古いが駅には近い」
「Cとはかなり条件が近い」
といった具合に比較していきます。
すると、単なる勘ではなく、ある程度根拠のある賃料帯が見えてきます。
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同じ建物の過去の募集・成約実績は非常に参考になる
賃料査定で非常に参考になるのが、同じ建物の過去の事例です。
同じマンションの同じ間取りであれば、立地・築年数・構造など多くの条件が共通しています。
もちろん階数や方位、角部屋かどうか、室内のリフォーム状況などの違いはありますが、周辺のまったく別の建物と比較するよりも有力な材料になります。
管理会社であれば、自社で過去に募集した履歴や成約状況を確認できるケースもあります。
こうした募集業務を含め、管理会社が実際にどこまで対応するのかについては、「賃貸の管理会社はどこまで対応してくれる?仕事内容と対応できないことを実務目線で解説」でも詳しく解説しています。
ただし、ここでも注意が必要です。
5年前に7万円で決まったからといって、現在も7万円で決まるとは限りません。
周辺に新築物件が増えたり、競合物件の設備水準が上がったり、反対に地域全体の賃料が上昇したりすることもあります。
過去の事例は重要ですが、必ず現在の市場と照らし合わせる必要があります。
問い合わせと内見の反応も「相場」を教えてくれる
募集を開始した後は、入居希望者からの反応そのものが重要なデータになります。
私は賃貸管理の実務において、募集後の反響を見ることも非常に重要だと考えています。
例えば募集を開始しても問い合わせ自体がほとんど入らない場合には、
- 賃料が高い
- 募集条件が周辺物件より悪い
- 写真や募集図面に問題がある
- そもそもその時期の需要が弱い
などの原因が考えられます。
一方、問い合わせも内見も多いのに契約にならない場合には、室内を実際に見た時点で何らかのマイナス要因が発生している可能性があります。
賃料査定は募集開始時に一度行って終わりではありません。問い合わせ数、内見数、申込み状況を見ながら、設定が市場と合っているかを検証することも管理会社の重要な仕事です。
高すぎる賃料設定は本当に得なのか
大家さんとしては、当然ながら少しでも高い家賃で貸したいところでしょう。
しかし、賃料を高く設定すれば必ず収益が増えるとは限りません。
例えば適正な賃料が7万円程度の部屋を7万5,000円で募集し、結果として3か月空室になれば、その間の家賃収入はゼロです。
一方、7万円で早期に入居者が決まれば、空室期間を短くできる可能性があります。
つまり大家さんが考えるべきなのは、単なる「月額賃料の高さ」ではなく、空室期間まで含めた年間の収入です。
「まずは高めで募集して、決まらなければ下げればよい」という方法もあります。しかし募集開始直後は新着物件として注目されやすいため、その大切な時期を相場から大きく外れた賃料で使ってしまうのは、必ずしも得策とは限りません。
繁忙期と閑散期でも反応は変わる
賃貸市場には季節による動きもあります。
一般的には進学、就職、転勤などが増える時期には部屋探しをする人も増えます。
反対に移動が少ない時期には、同じ賃料でも入居者が決まるまで時間がかかることがあります。
そのため、
「前回はすぐ決まったから今回も同じ家賃で大丈夫」
と単純に考えるのではなく、募集時期や現在の競合状況も確認する必要があります。
賃料だけでなく募集条件全体を見る
物件同士を比較する際には、月額賃料だけを見るのも危険です。
例えば、
- 敷金
- 礼金
- フリーレント
- 更新料
- 保証会社の費用
- インターネット無料
- 駐車場料金
など、入居者が負担する費用は物件ごとに異なります。
家賃7万円・礼金1か月の物件と、家賃7万2,000円・礼金なし・フリーレント1か月の物件では、入居時の負担感は大きく違います。
更新時の費用については、「賃貸の更新料について解説いたします!」でも詳しく解説しています。
そのため管理会社としては、月額賃料だけではなく募集条件全体で競争力を考える必要があります。
管理会社によって査定額が違う理由
大家さんが複数の管理会社へ賃料査定を依頼すると、それぞれ違う金額を提示されることがあります。
これは決して珍しいことではありません。
比較している事例が違う場合もありますし、その会社が持っている成約データや地域での経験によっても判断は変わります。
また、募集戦略そのものが違うこともあります。
例えば、
- 多少安くても早期成約を目指す会社
- 一定期間は強気の賃料で募集する会社
- 賃料は維持して礼金やフリーレントで調整する会社
など、考え方はさまざまです。
そのため大家さんが査定を依頼する場合には、金額だけを見るのではなく、
「なぜこの賃料になるのですか?」
と聞いてみることをおすすめします。
比較物件や成約事例、現在の競合状況などを示しながら説明してくれる会社であれば、査定の根拠も判断しやすくなります。
管理会社そのものを選ぶ際のポイントについては、「賃貸管理会社の選び方について解説いたします!」も参考にしてください。
賃料査定だけでは終わらない管理会社の仕事
入居者が決まった後も、管理会社の仕事は続きます。
入金管理を委託している場合には、毎月の家賃入金の確認や、滞納が発生した際の対応なども必要になります。
実際の入金管理業務については、「賃貸入金管理のお仕事レポートをお届け!」で、実務経験をもとに詳しく紹介しています。
また、家賃滞納が発生した場合には、連帯保証人のみの契約なのか、保証会社を利用しているのかによって管理会社の対応も変わります。
詳しくは、「家賃滞納時の管理会社の対応とは?契約内容によって異なる3つのケースを実務経験をもとに解説」をご覧ください。
退去後には再び賃料を査定する必要がある
一度入居者が決まったからといって、その賃料がずっと適正であり続けるわけではありません。
入居者が数年間住んだ後に退去すれば、その時点で周辺の賃料相場や設備水準が変化している可能性があります。
そのため、退去後の新規募集では、前回の賃料をそのまま引き継ぐのではなく、改めて査定することが重要です。
退去時には室内の状態を確認し、原状回復や設備交換の内容によっては募集賃料を見直すこともあります。
退去立会いについては、「大家さん向け!退去立会いの注意点を解説いたします!」で詳しく解説しています。
また、解約通知から退去、精算までの全体的な流れについては、「賃貸契約解約の流れを解説いたします!」も参考にしてください。
収益物件を購入するときも想定賃料を鵜呑みにしない
賃料相場を調べる能力は、すでに物件を所有している大家さんだけでなく、これから収益物件を購入する方にとっても重要です。
収益物件の販売資料には「想定賃料」「想定利回り」などが記載されています。
しかし、想定賃料はあくまで一定の前提に基づいて設定された数字です。
その賃料で現在の市場でも本当に入居者が決まるのかは、購入する側でも確認しておくべきでしょう。
また、現在入居している部屋についても注意が必要です。
長期間入居している部屋では、現在の募集相場より高い家賃が維持されている場合もあれば、逆に現在の相場よりかなり低い家賃になっている場合もあります。
つまり、現在受け取っている家賃がそのまま「次回募集でも取れる家賃」とは限りません。
物件購入時には、現在の賃料だけでなく、退去後にいくらで再募集できるのかまで確認することが重要です。
大家さん自身でも賃料相場を調べてみよう
最終的な査定は地域に詳しい管理会社へ相談するのがおすすめですが、大家さん自身が相場を把握しておくことにも大きな意味があります。
まずは不動産ポータルサイトなどで、
- 同じ駅
- 似た駅距離
- 同程度の築年数
- 同じような間取り
- 近い専有面積
- 似た建物構造
の物件を何件か集めてみてください。
そして単純に平均を取るのではなく、
「この物件は駅に近いから少し高い」
「こちらは築浅だが面積が狭い」
「この部屋は独立洗面台がある」
といった違いを確認していくと、徐々に地域の賃料感覚が見えてきます。
その上で管理会社に査定を依頼すれば、提示された金額についても判断しやすくなるでしょう。
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まとめ|賃料査定は「比較」と「募集後の検証」が重要
今回は「賃料相場の調べ方とは?管理会社が行う家賃査定の方法を実務目線で解説」と題して、募集賃料を決める際の考え方をご紹介してきました。
賃料査定で大切なのは、単純に周辺物件の平均家賃を調べることではありません。
駅距離、築年数、専有面積、建物構造、設備などが似ている物件を複数集め、それぞれの条件差を考えながら比較することが重要です。
さらに可能であれば、現在募集中の賃料だけでなく、過去の成約事例や同じ建物の募集履歴についても確認したいところです。
そして管理会社の仕事としてもう一つ重要なのが、募集を開始した後の検証です。
問い合わせがあるのか、内見につながっているのか、内見後に申込みが入るのか。
こうした市場からの反応を見ながら、必要であれば賃料や募集条件を調整していきます。
賃料査定とは、一度数字を出して終わる作業ではなく、市場の反応を見ながら答え合わせをしていく作業でもあるのです。
大家さん自身もある程度の相場観を持った上で、地域の賃貸市場に詳しい管理会社と相談しながら募集条件を決めていくのがよいでしょう。
現場を知るから、本当に役立つ。







