アパートや賃貸マンションを貸出して、賃料収入を得ている大家さんにとって『更新料』は物件を運用する上での貴重な収入源となりますが、物件を借りている賃借人にとっては「契約更新時に発生する大きな出費」に他ならないでしょう。

そして賃貸借契約書を見れば、『契約更新時、賃料の1ヶ月分を支払うこと』などの取り決めがなされていますが、「本当に更新料は払わねばならないの?」「そもそも更新料と何なの?」などという疑問が頭をよぎるはずです。

そこで本日は「賃貸の更新料について解説いたします!」と題して、更新料にまつわるあれこれを解説してみたいと思います。

更新料と賃貸

 

更新料の性質と相場

ではまず、「そもそも更新料とは何なのか」という点からご説明を始めましょう。

更新料とはその名の通り、

期間の定めのある賃貸借契約が満期を迎え、貸主と借主の合意の上で契約更新手続きを行う際に、借主から貸主に支払われる「返還されない金銭」

を意味します。

ちなみに「いつの時代から更新料を支払う習慣が定着したか」については諸説があり、はっきりとはしませんが『古くから一部の地域にて商慣習として根付いている制度』であることは間違いありません。

なお、一般的に知られる更新料授受の意味合いについては、契約締結時に支払われることの多い礼金や権利金と同様、大家さんに対する「更新してくれて、ありがとう」という感謝の気持ちを示したものとされています。

一方、法律的に更新料の性質を説明すると

法律的な更新料の意味

「安過ぎる賃料の補てん分」としてや「契約継続の対価(更新の事務手数料)」など、複数の意味合いを総合的に有する費用

と解されているようです。

そして、ここで気になるのが「果たして自分がこれまで支払って来た更新料は、適正な価格だったのだろうか?」という点であるかと思います。

近年の賃貸借契約では「賃料の1ヶ月分を更新料と設定している」というケースが殆どですが、2ヶ月分、3ヶ月分といった『多額の更新料を請求された』という経験をお持ちの方もおられるはずです。

実は更新料の相場には、地域によって大きな差が存在しており、世間的に最も多いのは「賃料の1ヶ月分」という更新料の金額設定ではあるものの、関西の一部の地域では「2ヶ月分が当たり前」というエリアも存在しています。

また反対に、商慣習上1ヶ月が当たり前のエリア内でも、新興住宅地や大規模な開発行為によって誕生した街などでは0.5ヶ月分がスタンダードとなっているケースも少なくないようです。

このように更新料の相場には「地域ごとの大きな差」があることを知れば、益々自分の支払っている更新料の金額に疑念が生じてしまうはずですし、『そもそも法律的に更新料って認められているのだろうか?』などという点も気になって来ますよね。

そこで次項では、「更新料を法律がどのように扱っているか」について解説して行きましょう。

更新料を巡る法律問題

更新料を巡る法律問答を始める前に申し上げておきたいのは、民法などあらゆる法律を見ても「借主は更新料を支払わなければならない」などという条文は一切存在していないということです。

よって、これまでにも「更新料を支払う義務があるのか?」という疑問や、「更新料が高額過ぎるのではないか」という不満から、様々な裁判が繰り返されて来ました。

そこでこの項では、過去の判例が更新料をどのように扱っているかを解説して行きましょう。

更新料の支払義務について

さて、まず一番気になるのが「そもそも賃借人に更新料を支払う義務があるのか」という点です。

そして、この疑問にお答えするには、

自分が締結した賃貸借契約書に「更新料の支払が取り決めてられているのか、いないのか」というのがポイント

となって来るでしょう。

裁判所の判決を見て行くと、契約書などに「更新料の支払い条項が無い場合」には、原則として『支払の義務はない』との判断をしています。

これに対して、

契約書に「更新料支払いの特約などがあった場合」には『支払い義務あり』との判決を行っている

のが実情です。

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更新契約を行っていない場合は?

さて、賃貸物件の契約更新のお話に際して、法律に詳しい方々には「ある疑問」が浮かぶことと思います。

それは「新たに更新契約を結ばなければ、更新料は発生しないのではないか?」という疑問です。

このようなお話をすると『更新契約をしないと部屋から追い出されるのでは?』とお思いになられるかもしれませんが、

法律上ではたとえ契約が満期を迎え、新たな契約を締結していない場合でも、入居者保護の観点から「契約は自動的に更新される(法定更新)」

と解されます。

また、たとえ賃貸借契約書に更新料支払いの特約が入っていても「契約更新時、借主は貸主に更新料を支払うものとする」といった表現であった場合には、『更新契約に応じず、法定更新をしている状態なら支払い義務は生じない』との解釈も成り立つ訳です。

実はこうした考えを根拠にした訴訟は現実に数多く起こされており、

「法定更新となった場合の更新料の要否」に関する裁判所の判断は『五分五分(認められる場合と、認められない場合がある)』

というのが実情となります。

よって、法定更新に持ち込んでから更新料の支払いを拒むために訴訟を起こせば、『認められる可能性もある』と言えるでしょう。

但し、契約書を作成する不動産業者もプロフェッショナルですから、「法定更新による更新料支払い拒否」に対抗できる条項を加えた契約書式を用意している会社も少なくないようです。

更新料の金額は?

ここまでの解説にて「更新料の支払いの特約」や「法定更新でも更新料支払義務が生じる特約」がある場合には、入居者はその支払いを拒めないとのお話をしてまいりました。

なお、この記事を読んで慌てて賃貸借契約書の内容を確認し直した大家さんも多いかと思いますが、そこに「更新料3ヶ月分を支払うこと」などという文言があった場合には少々問題があります。

本記事前半の「更新料の性質と相場」の項でもお話しした通り、法律上更新料は「賃料の補填や大家さんの負担の軽減」という意味を持っているため、設定金額についても一定の上限があると解釈されているのです。

よって、これまでも様々な裁判で更新料の金額の妥当性が争われて来ましたが、2011年ついに最高裁判所が決定打ともなる判決を示します。

その判決の内容によれば、

居住用物件で2年間という契約期間のケースであれば「更新料が賃料1ヶ月分というのは妥当であり、有効」

とのものでした。

また判決は、1ヶ月分は妥当との判断を示したのと同時に「不当に高額でなければ良い」との認識も示しているため、場合によっては2ヶ月というのも「妥当」と判断される可能性があります。

但し、過去の事例を見ても「3ヶ月分以上」については認められていませんから、1ヶ月分は確実、2ヶ月分は五分五分くらいの理解がよろしいのではないでしょうか。

実務上の更新料の扱い

では最後に、賃貸契約の実務における更新料の取り扱いについて解説させていただきましょう。

通常、賃貸管理会社は更新時期が近づくと、物件オーナーへ連絡を入れて「更新手続きを進めて良いか」の確認を行うことになります。

※借地借家法上、貸主からの更新拒絶は正当事由(止むを得ない事情)が必要となるため、大家は更新に応じるしかないのが現実です。

なお、更新手続きに着手する時期は管理会社によっても異なりますが、『借主からの解約予告に必要な期間』が確保できるように配慮されますので、居住用物件の多くは賃貸借契約満了時期の1ヶ月以上前に「契約更新のご案内」が入居者へ送られることになります。(居住用物件の殆どが「借主からの解約に1ヶ月前の予告が必要」なため)

さて、具体的な更新手続きとしては

  • 更新契約書(更新承諾書)への署名・捺印
  • 連帯保証人承諾書、保証人の印鑑証明書の提出(保証人擁立の場合)
  • 賃貸保証契約の更新(賃貸保証会社利用の場合)
  • 借家人賠償保険の契約更新
  • 身上書の提出(勤務先や家族構成に変更があった場合)
  • 更新料、賃貸保証料、保険料等の納付

以上の内容となることが多いようです。

ちなみに「賃貸保証会社が対象物件に「差押え」などの登記がされているのを確認せずに更新契約を締結してしまった場合」には、『注意義務違反』を理由に入居者から損害賠償請求等を受ける可能性がありますので、契約前の登記事項調査は必須となるでしょう。

一方、借主から支払われた更新料は物件オーナーに支払われることになりますが、更新料の半月分程が「更新事務手数料」として賃貸管理会社の報酬となるケースが殆どとなります。

また、更新に際して問題になることが多いのが「賃貸借契約満了の直後に契約を解除したい」という借主から申し出となります。

もちろん、契約上は『契約更新を行い更新料等を支払った上で解約手続きを行う』のがルールとなりますが、「契約満了日から数日で退去するのだから、更新料等を免除して欲しい」との要望が出るのは無理もありません。

こうしたケースにおいては「大家さんの判断」に全てが委ねられることになりますが、借主が腰を低くして「お願いベース」で申し出を行えば、許可されることも少なくないでしょう。

但し、取引の安全を担保する意味で「借家人賠償保険や賃貸保証契約だけは更新料して欲しい」との要望が出ることも少なくありませんので、ここは素直に貸主の意向に従うべきです。

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賃貸の更新料について解説まとめ

さてここまで、賃貸借契約には付き物の更新料についてお話ししてまいりました。

大家さんにとっては、賃料以外の貴重な収入源となる更新料ではありますが「取り過ぎは不可」となりますし、「特約などの根拠も必須」である旨をご理解いただけたことと思います。

また近年では、アパートや賃貸マンションが供給過多となっている傾向もありますから、大家さんや投資家様の中には「更新料0.5ヶ月分」や「更新料無し」という条件を物件のセールスポイントとして掲げている方も多いようです。

そもそも更新料は「入居者からの大家に対する更新のお礼」という意味合いが強いですから、ライバル物件ひしめく現在の市況の中では徐々に廃れて行く商習慣なのかもしれません。

そして逆を返せば、「契約を更新してもらえて嬉しい」と入居者に喜ばれるような物件を供給することこそ、不動産投資で勝利を収める秘訣となるのではないでしょうか。

ではこれにて、「賃貸の更新料について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。