賃貸物件を所有している大家さんの中には、現在の管理会社について「なかなか空室が埋まらない」「報告や対応が遅い」「管理内容に不満がある」と感じている方もおられることでしょう。
そして、そのような状況が続けば「そろそろ管理会社を変更した方が良いのではないか」と考えるのも当然のことです。
もちろん、管理委託契約の内容に従って手続きを行えば、大家さんは管理会社を変更することができます。
しかし実務上は、単に「今日から別の会社にお願いします」という訳にはいきません。
賃貸借契約書や鍵、敷金、家賃の入金状況、保証会社、修繕履歴、滞納者への対応状況など、旧管理会社から新管理会社へ引き継がなければならない情報は非常に多くあります。
そこで今回は、実際に賃貸管理の現場に携わってきた経験をもとに、賃貸管理会社を変更する際の流れや注意点、実際に経験した管理会社変更トラブルについて詳しく解説していきたいと思います。
・管理会社を変更する前に現在の管理委託契約を確認する
・新しい管理会社を先に選定しておく
・旧管理会社への解約通知は大家さん自身が行うのがおすすめ
・契約書、鍵、敷金、滞納、保証会社、修繕履歴などの引継ぎが重要
・入居者への通知や家賃振込先変更にも注意する

賃貸管理会社は変更できる?
現在の管理会社に不満がある場合、大家さんは原則として管理会社を変更することができます。
ただし、管理会社との間で締結している管理委託契約の内容に従って解約手続きを行う必要があります。
契約書には通常、
- 契約期間
- 契約更新の方法
- 解約予告期間
- 中途解約に関する取り決め
- 違約金等の有無
などが定められています。
そのため「管理会社を変えたい」と思ったら、まず現在締結している管理委託契約書を確認してください。
管理会社の対応に腹が立ったからといって、突然「今月で終わりにしてください」と通知しても、契約上すぐに解約できるとは限りません。まず契約書を確認することがスタートになります。
賃貸管理会社を変更する流れ
管理会社変更は、おおむね次のような流れで進めます。
- 現在の管理委託契約を確認する
- 新しい管理会社を選定する
- 新管理会社と管理内容を打ち合わせる
- 旧管理会社へ解約を申し入れる
- 新管理会社と管理委託契約を締結する
- 旧管理会社から新管理会社へ引継ぎを行う
- 入居者へ管理会社変更を通知する
- 新管理会社による管理を開始する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①現在の管理委託契約を確認する
まず確認すべきなのが、現在の管理会社との管理委託契約です。
特に重要なのが解約予告期間です。
国土交通省が示している標準的な管理受託契約書にも解約に関する規定がありますが、実際の契約条件は管理会社ごとに異なります。
したがって、「管理会社の解約は必ず○か月前」と一律に考えるのではなく、実際に締結している契約書を確認してください。
②新しい管理会社を選定する
次に、新しく管理を依頼する会社を探します。
管理会社を選ぶ際には、管理料の安さだけではなく、
- 賃貸管理を得意としているか
- 地域の賃貸市場に詳しいか
- 空室募集のノウハウがあるか
- トラブル対応を行える体制があるか
- 担当者一人当たりの仕事量が多すぎないか
- 家賃滞納への対応体制が整っているか
- 修繕やクレームについて適切な報告をしてくれるか
などを確認する必要があります。
管理料が多少安くなったとしても、対応力まで落ちてしまっては管理会社を変更する意味がありません。
管理会社を選ぶ際に確認しておきたいポイントについては、「賃貸管理会社の選び方について解説いたします!」でも詳しく解説しています。
③新管理会社と管理内容を打ち合わせる
候補となる管理会社が決まったら、具体的な管理内容について打ち合わせを行います。
確認しておきたいのは、
- 家賃の入金管理
- 滞納督促
- 契約更新
- 解約受付
- 退去立会い
- 原状回復工事
- 入居者からのクレーム対応
- 建物設備の不具合対応
- 新規入居者募集
- 保証会社への対応
- 管理報酬
などです。
現在では、一定の賃貸住宅管理業者について登録制度が設けられており、管理受託契約を締結する際には、管理業務の内容や報酬などについて契約前に説明する仕組みも整備されています。
管理会社を変更する際には、「管理料はいくらか」という点だけではなく、その金額でどこまで対応してくれるのかを確認することが重要です。
④旧管理会社へ解約を申し入れる
新しい管理会社の候補が固まったら、旧管理会社へ管理委託契約の解約を申し入れます。
私はこの解約通知については、できるだけ大家さん自身から旧管理会社へ伝えていただく方が良いと考えています。
新管理会社がいきなり旧管理会社へ電話をして、
「今後はこちらで管理することになりましたので、引継ぎをお願いします」
などと伝えれば、旧管理会社としては決して良い気分ではないでしょう。
依頼者である大家さん自身から、
「これまでありがとうございました。○月○日をもって管理契約を終了したいと思います」
と伝える方が、その後の引継ぎもスムーズに進みやすくなります。
管理会社変更後も、旧管理会社から契約書や修繕履歴などの引継ぎを受ける必要があります。できるだけ不要な対立を生まない方が、結果的には大家さんにとってメリットがあります。
⑤新管理会社と管理委託契約を締結する
旧管理会社との契約終了時期が決まったら、新管理会社と正式に管理委託契約を締結します。
ここで注意したいのが管理期間が重複したり、逆に空白期間ができたりしないようにすることです。
たとえば旧管理会社との契約が3月31日までであれば、新管理会社による管理開始日を4月1日とするなど、管理の切り替え日を明確にしておきます。
管理会社変更では「引継ぎ」が最も重要
管理会社変更において、実務上もっとも重要なのが旧管理会社から新管理会社への引継ぎです。
新しい管理会社がどれほど優秀でも、必要な情報が渡されていなければ適切な管理を行うことはできません。
代表的な引継ぎ項目としては、次のようなものがあります。
- 賃貸借契約書
- 更新契約書・覚書
- 入居者一覧
- 入居者の連絡先
- 連帯保証人・緊急連絡先
- 賃料・共益費等の契約条件
- 敷金・保証金の預かり状況
- 家賃入金状況
- 滞納履歴
- 保証会社の契約情報
- 更新時期
- 鍵・スペアキー
- 設備の取扱説明書
- 過去の修繕履歴
- 現在発生している設備不具合
- 入居者から継続中のクレーム
- 退去予定者の情報
- 現在募集中の部屋の募集条件
特に、滞納・クレーム・設備不具合など「現在進行中の案件」については、できる限り詳細な経緯を引き継いでもらう必要があります。
敷金の引継ぎも必ず確認する
意外と見落としやすいのが敷金です。
敷金を大家さん自身が保管している場合もあれば、管理会社が預かっている場合もあります。
管理会社変更時には、
- 誰が敷金を保管しているのか
- 部屋ごとの預かり金額
- 新管理会社へ資金を移すのか
- 今後の退去時に誰が精算するのか
を明確にしておきましょう。
お金に関する引継ぎについては、「たぶん合っているだろう」で済ませず、部屋ごとに金額を照合することをおすすめします。
賃貸保証会社の引継ぎには注意が必要
管理会社変更で特に注意したいのが、賃貸保証会社の取り扱いです。
管理会社は保証会社と代理店契約を結び、保証契約の申込みや更新手続きなどを行っているケースが多くあります。
ところが、すべての管理会社が同じ保証会社を取り扱っている訳ではありません。
そのため、管理会社を変更すると、
- 新管理会社が既存保証会社の代理店ではない
- 保証更新や事故報告の窓口が変わる
- 新管理会社側で保証契約の取り扱い方法を確認する必要がある
といった問題が発生することがあります。
現在では保証会社自身が更新手続きを行うケースも増えていますので、一概に「管理会社が変わると保証契約を変更しなければならない」という訳ではありません。
しかし、管理変更後に滞納が発生してから「保証会社への事故報告は誰がするのか分からない」という事態になるのは避けなければなりません。
保証会社の仕組みや保証内容については、「賃貸保証会社とは?わかりやすく解説いたします!」でも詳しく解説しています。
既に家賃滞納が発生している入居者については特に注意が必要です。保証会社への事故報告期限などに関わる場合がありますので、管理会社変更前に必ず対応状況を確認しましょう。
家賃滞納時に管理会社や保証会社がどのように対応するのかについては、「家賃滞納時の管理会社の対応とは?契約内容によって異なる3つのケースを実務経験をもとに解説」も参考にしてください。
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問題のある入居者は新管理会社へ必ず伝える
新しい管理会社との契約を急ぐあまり、問題のある入居者について説明をしない大家さんもおられます。
しかしこれはおすすめできません。
たとえば、
- 長期間家賃を滞納している
- 頻繁にクレームを申し立てる
- 騒音トラブルを起こしている
- 近隣住民とのトラブルが続いている
- 契約違反について対応中である
といった案件を抱えているのであれば、事前に新管理会社へ説明しておくべきです。
管理会社側としても、通常の物件を管理するのと、複数のトラブル案件を抱えた物件を引き継ぐのでは必要となる労力がまったく違います。
管理開始後に初めて問題が判明すれば、大家さんと新管理会社との信頼関係にも影響します。
建物の不具合や修繕履歴も重要な引継ぎ資料
建物について過去にどのような修繕を行ってきたかという情報も重要です。
たとえば、
- 過去に雨漏りが発生している
- 給排水管で漏水事故があった
- 特定の部屋で設備トラブルを繰り返している
- 屋上防水工事を行った時期
- 給湯器やエアコン等を交換した時期
などが分かっていれば、新管理会社も今後のトラブル対応を行いやすくなります。
「管理会社が変わったから過去のことはリセット」という訳にはいきません。
入居者への管理会社変更通知も重要
管理会社の引継ぎが完了したら、入居者に管理会社変更の通知を行います。
通知には、
- 管理会社が変更になること
- 変更日
- 新管理会社の名称
- 住所・電話番号
- 設備不具合や解約等の連絡先
- 家賃の支払方法・振込先
などを記載します。
特に注意したいのが家賃振込先の変更です。
振込先が変わる場合には、「いつの家賃から新口座へ振り込むのか」を明確にしておかなければなりません。
口座振替を利用している場合には、新管理会社側で口座振替手続きが必要になることもあります。
退去予定の入居者がいる場合は引継ぎに注意
管理会社の変更時期と入居者の退去時期が重なっている場合には、特に注意が必要です。
解約通知を旧管理会社が受け付けたものの、実際の退去立会いや敷金精算は新管理会社が行う、といったケースも考えられます。
その場合には、
- 解約受付日
- 退去予定日
- 退去立会いの担当
- 入居時の室内状況
- 入居前写真
- 過去の修繕記録
- 敷金の預かり額
などを確実に引き継ぐ必要があります。
退去の手続きについては、「賃貸契約解約の流れを解説いたします!」、退去時の室内確認については「大家さん向け!退去立会いの注意点を解説いたします!」でも詳しく解説しています。
管理料が安すぎる会社には注意
管理会社変更を検討する際、「今より管理料を安くしたい」という大家さんも少なくありません。
もちろん合理的なコスト削減は重要ですが、管理業務にはどうしても人手が必要です。
入居者対応、家賃管理、督促、設備トラブル、業者手配、更新、解約、退去立会いなどを行えば、それなりの労力が掛かります。
他社と比べて極端に管理料が安い場合には、
- 管理業務の範囲が狭い
- 担当者一人当たりの管理戸数が多い
- 修繕工事など別の部分で利益を確保している
といった可能性も考えられます。
重要なのは「何%か」ではなく、その管理料で何をしてくれるのかです。
管理会社を変更する前に一度話し合ってみる
ここまで管理会社変更について解説してきましたが、私は必ずしも「不満があればすぐ管理会社を変えるべき」とは考えていません。
大家さんから見れば管理会社の対応不足に見えていても、実際には管理会社だけでは解決できない問題もあります。
空室が埋まらない原因が管理会社ではなく、募集賃料や物件条件にあるケースもあります。
設備トラブルへの対応が遅いと思っていたものの、実際には部品の納期に時間が掛かっていたということもあります。
まずは現在の管理会社へ不満点を具体的に伝えて、それでも改善が期待できないのであれば管理会社変更を検討する、という順番でも良いでしょう。
実録!管理会社変更で起きた「抜いた・抜かれた」トラブル
ここからは、私が実際に経験した管理会社変更に関するお話をご紹介したいと思います。
賃貸管理を主な業務としている不動産会社にとって、管理報酬は毎月入ってくる非常に重要な収入源です。
そのため他社へ管理物件を移されることを、業界では俗に「管理を抜かれた」などと表現することがあります。
もちろん、管理委託契約に従って手続きを行うのであれば、どの会社へ管理を依頼するかを決めるのは大家さんです。
しかし現実の世界では、必ずしも話がきれいに終わるとは限りません。
ある大家さんから管理変更を依頼された
ある日、以前からお付き合いのある大家さんが当社へ来店されました。
その方は複数の賃貸マンションやアパートを所有しており、当社でもその一部を管理していました。
今回の相談は、
「別の不動産会社に管理を任せている物件についても、今後はこちらで管理してほしい」
というものでした。
当然ながら、大家さんから正式に依頼を受けた仕事です。
ただし私は、
- 現在の管理会社との契約内容に違反しないこと
- 大家さん自身から旧管理会社へ管理を変更する旨を伝えていただくこと
を条件として、この仕事を引き受けることにしました。
突然、旧管理会社の社長が怒鳴り込んできた
その後、旧管理会社との引継ぎについて打ち合わせを行おうと考えていたところ、突然当社へ一人の男性が訪ねてきました。
管理を終了することになった旧管理会社の社長です。
担当者が私だと聞いていたようで、名指しで呼び出されると、
「人の管理物件を抜きやがって!」
という趣旨の猛烈な抗議を受けることになりました。
こちらとしては、大家さんから正式に依頼を受け、旧管理会社との契約にも配慮した上で受託しています。
それでも30分以上にわたって文句を言われ、最後には「この街で商売できると思うなよ」といった趣旨の言葉を残して帰っていきました。
その後、業界の知り合いから、
「あの会社の社長が君の悪口を言っていたよ」
などと聞かされることもありました。
こちらに契約上の問題があった訳ではありませんが、何とも後味の悪い管理会社変更となりました。
こうした経験があるからこそ、私は旧管理会社への解約通知は、新管理会社からではなく大家さん自身から行っていただく方が良いと考えています。管理会社同士を直接対立させないことも、円滑な引継ぎには重要です。
複数の管理会社へ依頼すれば空室が埋まるとは限らない
もう一つ印象に残っている案件があります。
ある大家さんから賃貸物件の管理を依頼され、物件を確認しに行った時のことです。
築年数も比較的浅い綺麗なアパートだったのですが、現地へ到着して驚きました。
敷地のフェンスには、大手不動産会社数社の募集看板が大量に並べられていたのです。
事情を聞いてみると、
「なかなか部屋が決まらないので、複数の不動産会社に頼んだ」
とのことでした。
もちろん複数の会社へ募集を依頼する方法自体がすべて悪い訳ではありません。
しかし、管理や募集の窓口がバラバラになれば、
- 募集条件が会社によって違う
- どこが最新情報を持っているか分からない
- 申込みが重複する
- 現地看板などの管理が統一されない
- 責任の所在が曖昧になる
といった問題が発生する可能性があります。
「空室が埋まらないから管理会社を増やす」というより、まずはなぜ空室が埋まらないのかを分析することの方が重要です。
管理会社変更で失敗しないためのチェックリスト
- 現在の管理委託契約書を確認したか
- 解約予告期間を確認したか
- 違約金等の有無を確認したか
- 新管理会社の管理内容と管理料を確認したか
- 旧管理会社へ大家さん自身から解約を伝えたか
- 管理終了日と新管理開始日を明確にしたか
- 賃貸借契約書を引き継いだか
- 敷金・保証金の金額を確認したか
- 家賃滞納状況を引き継いだか
- 保証会社の取り扱いを確認したか
- 鍵を引き継いだか
- 修繕履歴を引き継いだか
- 継続中のクレーム・トラブルを伝えたか
- 入居者へ管理会社変更を通知したか
- 家賃の振込先変更を正しく案内したか
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まとめ|管理会社変更は「引継ぎ」まで考えて行う
賃貸管理会社を変更すること自体は、それほど特殊な手続きではありません。
しかし実務では、管理会社を切り替えることよりも現在の管理情報を正確に新管理会社へ引き継ぐことの方が重要です。
契約書、敷金、家賃入金状況、保証会社、滞納、クレーム、修繕履歴など、賃貸管理には非常に多くの情報があります。
これらの一部でも抜け落ちれば、管理会社変更後にトラブルが発生する可能性があります。
また、旧管理会社と必要以上に対立すれば、引継ぎそのものが進めづらくなることもあります。
管理会社変更を成功させるポイントは、
「新しい管理会社を選ぶこと」だけではなく、「現在の管理をきれいに終わらせ、新しい管理会社へ正確に引き継ぐこと」
にあると私は考えています。
管理会社の変更を検討されている大家さんは、ぜひ今回の記事を参考に、現在の管理委託契約や引継ぎ内容を一つずつ確認してみてください。
現場を知るから、本当に役立つ。







