不動産における取引の態様の中でも「最も取引件数が多い」とされるのが賃貸借契約となります。
そして不動産業者が賃貸の仲介を行う場合には、当然ながら売買契約と同じく「重要事項の説明」が必須となるのですが、その内容について『あまり深く考えたことがない・・・』という方も多いはずです。
そこで本日は、賃貸借契約における重要事項説明に必ず書いておくべき事項や作成のポイントについて解説してみたいと思います。
では、賃貸重要事項説明書の記載事項に関する知恵袋を開いてみましょう。
賃貸重要事項説明書の記載事項一覧
では早速、賃貸の重要事項説明書に記するべき事柄を見て行きましょう。
なお、今回は取引対象が居住用物件であり、且つ個人契約を前提にお話をさせていただきます。
取引に係る不動産業者のデータ
「客付け業者」「元付け業者」共に仲介に入る業者の基本情報を重要事項説明書の冒頭に記するのが通常です。
※客付け業者と元付け業者の詳細については別記事「賃貸仲介の仕組みを知り、投資を有利に進めよう!」をご参照ください。
そして書いておくべき内容は、
- 会社の商号と住所
- 免許番号
- 電話番号
- 取引士の氏名と登録番号
- 取引の態様
等となるでしょう。
物件の表示
続いては賃貸借契約を締結する物件のデータを記していきます。
- 所在地
- 物件名と部屋番号
- 物件の種類と間取り
- 建物の構造
- 専有部分の面積
- 大家さんの氏名と住所、電話番号
などがその記載内容となります。
法令上の制限について
売買の重要事項説明書でも法令上の制限に関する記載欄がありますが、賃貸の契約において説明する内容は「非常に簡素なもの」となります。
まず、「土地収用に係る法令」については
- 新住宅市街地開発法32条1項
- 新都市基盤整備法51条1項
- 流通業務市街地整備法38条1項
以上の3法における制限の有無について説明が必要です。
また、崖崩れや津波など災害に係る以下の法律において、
表記の区域指定がされている場合も制限の内容等についての説明が必要となります。
また、2020年8月の宅地建物取引業法改正により、『水防法におけるハザードマップ上において、物件所在地を示す』ことが義務付けられましたので、
以上、3つの水害ハザードマップが「作成されているか否か」、作成されている場合は「マップの名称」を記載しておきましょう。
なお、説明義務があるのは水防法上のハザードマップ(地方自治体の長が水防法施行規則11条1号に基づいて提供する図面)のみとなりますが、未だにマップが作成されていない地域も多い上、水防法に基づかないマップを作成している自治体も存在します。
もちろん、マップが存在しない場合には「作成されていない」旨を記するしかありませんが、水防法に基づかない図面がある場合には「水防法によらないハザードマップであることを明示した上で、参考資料として添付する」のがベターでしょう。
登記簿謄本(登記事項証明書)に関する事項
物件の登記簿に記された内容を書く欄となります。
そして、ここは非常に重要な部分となりますから以前に物件の謄本を取得していても、必ず再取得して記載内容の確認をしましょう。
※登記簿のデータ化に伴い「登記簿謄本」ではなく、「登記事項証明書」とするべきところですが、不動産業界では未だに『謄本』という呼び方が主流となりますので、本ブログでは敢えてこの呼び名で統一させていただきます。
そして重要事項説明書の作成においては、所有権に関する内容を記した「甲区」、その他の内容について書かれた「乙区」の内容をしっかり表示します。
なお、特に注意するべきは甲区に「仮差押え」や「差押え」、乙区の「抵当権」の設定が有る場合です。
例えば、乙区欄に抵当権が設定された物件を借りた者は、物件が競売にかけられた際、競落人に対しての対抗力がありませんから、
6ヶ月の猶予期間の後、強制的に退去させられ、敷金の返還を受けることもできないことになりますので、こうした事実は絶対に説明しておくべき事項となるはずです。(競売についての詳細は「競売購入の流れ、注意点について解説いたします!」の記事をご参照ください)
ちなみに、抵当権が設定されている物件自体は数多く存在しており、大家さんが借入返済を滞納しない限りは問題がありませんので、悪戯に不安を煽るような説明の仕方をする必要はありません。(土地や建物を担保に入れた借入れを行えば、抵当権は必ず設定されるものです)
但し、甲区欄に「差押」が設定されていれば『既に競売が目の前に迫っている』ことのシグナルとなりますし、「仮差押」ならば『競売に向けて準備中の状態』ということになりますので、これらの権利の記載がある物件の取引を行う場合には充分な注意が必要となります。
インフラ関係の表示
電気・ガス・水道などに関する設備状況を説明します。
水道については公営水道、電気は電力会社、下水に関しては公共下水(地域によっては浄化槽の場合も)と記するのが通常ですが、ガスについては都市ガス・プロパンという選択肢が出て来るはずです。
また、使用料の請求が「専用メーター(お部屋ごとにメーターが設置されて状態)」によるものなのか、「共同メーター(建物全体でメーターを共有している状態)」なのかも忘れずに記載しましょう。
※共同メーターの場合は、オーナー様や管理会社が各住戸ごとに使用料を計算して個別に料金の精算を行うのが通常です。
建物の設備
物件内に設置されている設備の一覧を表示することとなり、
- キッチンやトイレ、風呂などの基本的な住宅設備の有・無
- コンロの有・無
- エアコンの有・無
- 照明器具の有・無
- カーテンレールの有・無
といった具合に、細かな設備状況を記載して行きます。
なお、過去記事「賃貸の残置物と設備の使い分けについて!」で記した『設備』に属するものがある場合には、必ずここで「有り」と書いておきましょう。
また反対に『残置物』の扱いにしたい物品に関しては、たとえお部屋に備え付けられていても、ここでは「無し」と記載を行います。
賃料等の表示
月額賃料や管理費、敷金・礼金などがある場合はここに記しておきます。
また、賃貸借契約の更新ごとに支払うべき借家人賠償保険の保険料や賃貸保証会社の保証料、町内会費など不定期に徴収される費用についても漏れなく記載する必要があります。
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工事完成時の形状や構造
説明対象の物件が完成済みの場合には「建物完成済みにつき、説明を省略します」と記載しますが、問題は建物が建築途中である場合となります。
このケースにおいては、建築確認上の図面などを重要事項説明書に添付して完成時の形状についての説明が必要です。
なお、説明に際しては寸法が記載された平面図や立面図を用いることになりますが、大切なのは「建物完成時のお部屋の状態を如何に具体的にお客様の頭にイメージさせることができるか」という点になるでしょう。
契約期間と更新
契約の始期と期限を記する欄となりますので、●●●●年●月●日~▲▲▲▲年●月●日と具体的な日付を書きましょう。
また、更新に関する事項もここで触れるべきですから、「更新料の金額」や更新時に発生する「借家人賠償保険の保険料」などについても記載しておきます。
物件の用途
今回のケースでは「居住用物件」となりますから、『居住以外の目的では利用できない』ことを明記します。
また、分譲マンションなどで「管理規約により利用法に制限がある場合」はその旨も書いておきましょう。
更には、物件使用上の注意として賃貸借契約の「賃借人の義務」を遵守することを書き添えておけば完璧です。
契約の種類
「一般的な賃貸借契約」か、「更新がない定期建物賃貸借」などの契約であるのかを記載する場所となります。
定期借家契約について
借地借家法の施行により、更新契約のない定期借家契約を締結することが可能となりました。
そして、定期借家契約の場合には
- 定期借家契約の終了時期
- 途中解約に関する事項
- 契約終了通知書に関する事項
- 公正証書による契約であるか否か
などについて記載しておきべきでしょう。
敷金に関する事項
賃貸借契約書に定められた敷金に関する事項について記することになります。
入居者が物件に与えた故意過失による損害は敷金から差し引かれる旨、特約によりルームクリーニング費用が必要となる場合にはその旨も書いておきましょう。
解約予告について
契約を解約する場合の取り決めについて記する欄となりますので、居住用物件であれば入居者からの解約は1ヶ月前予告となる旨を書くことになるでしょう。
契約の解除について
「どのような行為を行うと契約が解除となるか」を記することになりますので、基本的には『賃貸借契約書の解除事項を参照』と書けば充分ですが、賃料の滞納や迷惑行為、暴対法絡みなど、「これは特に重要」という内容については改めて書いておいて損はないでしょう。
支払金・預り金等の保全措置について
重要事項説明書では50万円以上の支払金・預り金等の受け渡しがある場合には、その保全措置の内容(保全措置を行うか否か、そして措置を行う機関名)を記するのがルールです。
但し、居住用物件で支払金等の保全措置が行われることは滅多にないでしょう。
管理の委託先について
対象物件の管理委託先についての説明事項となります。
分譲マンションの一室である場合には、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」による登録を受けている会社が、マンション全体の管理を請け負っている場合が多いでしょうから、その商号や免許番号、連絡先等を記載することになります。
なお、分譲マンションであるか否かを問わず、お部屋自体を管理している賃貸管理業者(不動産業者)が存在するならば、その商号や免許番号、連絡先、「賃貸住宅管理業務等の適正化に関する法律」上の登録番号等を記載することになるでしょう。
借地権の場合
説明対象物件が借地権付き建物である場合には、借地権の種類(普通借地権など)や契約期間などを記載しておく必要があります。
※借地権についての詳細は別記事「借地権とは?わかりやすくご説明いたします!」をご参照ください。
損害賠償について
こちらも契約書に記されている内容ですが、重要な部分となりますのでしっかりと書いておきます。
「故意・過失による損害は入居者負担となる旨」「地震や火災、盗難などは大家さんに責任を追及できない旨」を書いてておけば十分でしょう。
アスベスト・耐震診断・インスペクションについて
アスベストについては、物件において調査を実施している時は「その結果」を書きます。
一方、調査をしていない時は「調査未実施」と記せばOKです。
耐震診断については、建築基準法の耐震基準に改正があった「昭和56年以降の建物であるか否か」によって書き方が変わります。
昭和56年以降の建築であれば「説明事項義務なし」となりますし、それ以前の建物である場合にはアスベストと同様に調査をしているか否かを書くことになるでしょう。
調査していない場合は「未実施」と書けばそれ以上の説明義務はありませんが、調査をしている場合はその結果を説明する必要があります。
更に近年ではインスペクション(建物検査)の実施状況についても重要事項の説明において取扱うのがルールです。
インスペクションが実施していなければ「未実施」、既にこれを行っていれば「その結果」について説明しなければなりません。
備考欄
これまで記して来た記載事項以外に告知することがあれば、ここに書いておきましょう。
基本的には賃貸借契約書の特約事項を念押しのために書いておいたり、物件の周辺環境などに係る事柄が記されることが多いはずです。
以下に記載するべき事項の「カテゴリー一覧」を示すと共に、関連記事へのリンクを貼っておきますので、備考欄作成時の参考になさってください。
なお、リンク先の中には売買についての記事も含まれていますが「備考欄に何を書くべきか」のヒントにはなるはず。
仲介手数料の支払承諾
そして最後に記載することになるのが「借主が仲介手数料の支払いに同意しているか」の確認欄になります。
ここでは具体的な手数料の金額を書いた上で、署名捺印を頂きましょう。
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賃貸重説まとめ
さて、ここまで解説して来たた内容が「賃貸の重要事項説明にて記載しておくべき内容」となります。
「たかだが賃貸の契約」などと馬鹿にする方もおられますが、意外に賃貸の重要事項説明書作成は手間が掛かるものです。
また、この記事に記載がないことでも「これを知っていたら借りなかった!」と後々お客様が言い出しそうなことは、包み隠さず書いておくべきでしょう。
なお、賃貸の契約であってもトラブルに発展すれば「仕事どころではなくなります」から、細心の注意を払って重要事項の作成に当たりたいところです。
ではこれにて、賃貸重要事項説明書、記載事項を解説の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。