不動産業や不動産賃貸業を営んでいると、避けては通れないのが物件内での「病死」や「自ら命を絶つ」といった事故となります。

最近では、事故物件という言葉もすっかりメジャーとなり、インターネット上にはこうした経緯を持つ物件を検索するサイトまで存在しているようです。

もちろん、自分が物件を買ったり、借りたりするのであれば、こうした物件は極力避けたいところですが、もっと避けたいのが「自分が所有する収益物件において、こうした事故を起こされること」でしょう。

また、万が一自分の物件で事故が発生してしまった場合には、「その後、どんな事態が待ち受けているのか」などの情報は是非事前に知っておきたいところですよね。

そこで本日は、意外に知られていない事故物件の扱いや告知義務、そしてこうした物件を投資に役立てる方法などについてお話ししてみたいと思います。

では、事故物件の告知義務と、不動産投資での活用法に関する知恵袋を開いてみましょう。

事故物件の告知義務

 

事故物件を取り巻く状況

ネットニュースなどを見ていると、毎日のように目に飛び込んでくるのが人の命を奪ったり、自ら命を絶つといった哀しい報道です。

こうしたニュースを見ていると、それらの事件が「何処か遠い世界の出来事」であるような印象を持たれる方も多いとは思いますが、

私の不動産業界の友人の中には、テレビで中継されるような大事件の現場となったマンションやアパートを管理していたという方が結構おられますから、事件は極身近な場所で起きているのです。

また近年多いのが、高齢者が物件内で孤独死しているというケースであり、「高齢化社会」と言われる時代の現実を不動産屋さんは日々身を持って思い知らされています。

さて、事故物件に関して最も気になるのが、事故があった物件に対する「告知義務」に関してなのではないでしょうか。

怪談話の中などでは、「格安の物件を借りたらおばけが出て、調べてみたら事故物件であった」というパターンをよく耳にしますが、『告知されることなく物件が貸出されることが現実にあるのか?』という点は非常に気になりますよね。

この質問に対する答えは「事件発生の状況や経緯による」というのが適切であるかと思います。

実はこれまでも事故物件の告知義務については、裁判にて何度も争われて来ました。

その判決をまとめてみれば、東京や地方の大都市など「都会」においては、事故発生から6年以上、そしてその間に3回以上入居者の入れ替わりがあれば、告知義務なしと判断されるケースが多いようです。

但し、これが所謂「田舎」と言われる地域になると、事件の風化に時間が掛かるとの理由から、たとえ20年が経過しても「告知義務あり」と判断される場合もあると言います。

つまりは、事件の内容、そしてその後の時間経過と物件の使われ方、そして物件が所在する地域により、告知や説明が必要とされる期間は大きく異なるという訳です。

ちなみに宅建業法では、お客様が「知っていたら借りなかった、買わなかった」という事実については告知すべしと定めていますから、『どの段階で告知を止めるべきか』は不動産屋さんも大いに頭を悩ます問題と言えるでしょう。

ただ、「これは告知しなくて良い」と、はっきり判例が出ているケースもいくつかあります。

まず告知が要らないパターンの代表的な例は、一般的な病死のケースです。

但し微妙なのは、病死であっても孤独死のように発見が遅れたケースであり、判例を見る限りは1~2日程度であれば説明義務なしと判断されることが多いでしょう。

また、自ら命を断とうとしたがその場では死にきれず、病院で亡くなった場合には、これも告知義務なしと判断されています。

売買と賃貸では告知の要否が異なる

さてここまで、「確実に告知義務がないケース」について解説をしてまいりましたが、状況によっては更に微妙な判断を迫られる場合もあります。

そして、このような状況で大きな意味を持ってくるのが、対象となる取引が「売買であるか」「賃貸であるか」という点です。

このようなお話をすると「売買でも賃貸でも、同じように告知を行うべきなのでは?」と思われるでしょうが、判例を見て行くと『実は結構な違いがある』ことに気付かされます。

例えば、自殺があった物件の両隣や上下階の部屋を貸し出す際に「事件についての告知をするべきだったのではないか?」という問題が争点になった裁判においては、『告知の義務はない』との判決が下されているのです。

もちろん、事件発生の経緯やその後の状況によっては賃貸物件でも告知が必要となるケースがあるでしょうが、もしもこの取引が売買であったならば「確実に告知をするべきである」と考える専門家が大多数のようですから、やはり売買と賃貸では告知義務にも差異があると考えるべきでしょう。

なお、過去の判例から類推すれば「共用部分での自殺」についても、売買では同じマンションのどの部屋を取引するにしても告知が必須となるのに対して、賃貸では告知が不要と判断される可能性が高いと考えられます。

ちなみにバルコニーも共用部分と解釈されますが、流石に賃貸であっても部屋のバルコニーから飛び降りなどがあった場合には、告知が必要になるはずです。

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事故物件も悪いことばかりではない

このように事故物件とその告知義務を取り巻く状況を見て行くと、やはり「事故物件を購入するなど、とんでもない!」「自分の物件で事故を起こされるなんて状況は論外だ!」と感じてしまいますよね。

しかしながら不動産業界に身を置いていると、こうした物件を扱うことも少なくありませんから、「事故物件の意外な利用法」や「賃料の下落を防ぐ裏技」も見えて来るものです。

まず申し上げておきたいのは、先に述べた「告知が必要か不要か」の判断は非常に微妙であり、『不動産業者同士でも意見が分かれる問題である』ということです。

また、告知を行わずに罰せられるのは「あくまでも説明義務のある不動産業者」ですから、収益物件のオーナーとしては「不動産業者へは事故のことを伝えたのだから、その事実を入居者に告知するか否かは不動産屋さんの判断に任せる」というスタンスで良い訳です。

そして不動産業者の中には、利益が優先であり「こうした告知を全くしない業者」も存在しますから、このタイプの不動産屋さんを選べば、それ程入居者の募集に苦労することはないでしょう。(事故物件サイトなどに情報が掲載されている場合は厳しいでしょうが)

更には、借りる側の人間も一様に事故物件を拒絶するかと言えば、そんなこともありません。

学者タイプの方などは、こうした過去の事件に全くこだわらないという人も少なくありませんし、宗教などにハマっている方々も、意に介さない者が意外に多いのです。

ちなみに不動産屋さんの中には、事故物件を激安で購入して徹底的な供養(御祓い?)を行い、「御祓い済み!」という宣伝文句を掲げ、堂々と売りに出している方も時折見かけます。

もちろん、「どんなにお祓いをしようとも、そんな家には住めない」という方もおられますが、価格が相場より安く、御祓いという安全装置が付けられていることで、事故物件に対する嫌悪感が薄れてしまうタイプの方も確実に居られるのです。

なお、こうした事故物件を不動産投資に利用しようとする投資家さんも存在しています。

事故物件が市場に出回る際には、売るにしろ、貸すにしろ、相場より割安となるのが通常ですから、その差額で収益を上げようというのが彼らの狙いです。

そして「ウィークリーマンション」や、大型の物件を細かく仕切っての「トランクルーム」「短期の貸しのオフィス」「シェアハウス」等として貸し出すのであれば告知をする必要もありませんから、投資家としては『事故である』というデメリットよりも、物件を安く仕入れることができるというメリットの方が勝ることになるという訳です。

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事故物件まとめ

さてここまで、事故物件に関する告知義務や、その後の物件活用法についてお話をしてまいりました。

事故物件は確かに忌むべき存在かもしれませんが、人間が生まれて来る以上、亡くなるのは当たり前のことですし、不動産が人々の暮らしに密着しているものである限り、事故物件の発生を避けることはできないのです。

よって万が一、自分の物件が事故物件になってしまった際には、ただ気を落とすのではなく、その活用法をしっかり見定めることこそが大切なのかもしれません。

ではこれにて、事故物件の告知義務と、不動産投資での活用法に関する知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。