不動産の取引と言えば、「売買」または「賃貸」が主な取引の形態となります。

なお、非常にレアなケースとして「交換」というものもありますが、実際に行われる取引の99%以上は売買・賃貸のどちらかとなるでしょう。

そして取引件数自体を見れば、当たり前のことかもしれませんが賃貸の取引が圧倒的に多いのが現実です。

しかしながら、このような現状であるにも係わらず不動産業界に身を置いていると「賃貸の契約は楽勝だ!」「賃貸は初心者向けの取引である」などの『賃貸契約を軽んじる風潮』を肌で感じることが多々あります。

そこで、前回の記事「賃貸借契約書の雛形を解説致します!(居住用・前編)」では、こうした不動産業界の雰囲気に警鐘を鳴らす意味も込めて『賃貸借契約の条文についての解説』をしてまいりましたが、今回はその続きをお届けしたいと思います。

では、賃貸契約書の注意点の解説を始めましょう。

※本記事は居住用物件あり、且つ借主が個人であることを前提とした契約書の解説となります。

賃貸契約書の注意点

 

賃貸契約の条項解説

前回の記事にて、「賃貸借契約書に盛り込むべき内容」の半分程は解説させていただきましたので、今回はその続きから解説をスタートいたしましょう。

物件への立入りに関する条項

賃貸物件の運用を行っていると、様々な事情で賃貸中の物件の室内へ立ち入りを行わなければならない状況も出て来るものです。

そんな事態に備えての取り決めを事前に定めておくのが、本条の目的となります。

通常の立ち入りは建物のメンテナンスや修繕がメインとなるでしょうから、こうした際には「修繕等が必要となった場合には借主の立合い下、物件内に立ち入ることがあるので作業に協力すること」という条項を入れておきましょう。

但し、災害発生時など急を要する場合には「承諾を得ずして立ち入る場合がある」旨も加えておくべきです。

契約解除に関する条項

「こうした行為を行うと賃貸借契約が解除になります」という事項について定める条項となります。

なお、この条項では「解除となる様々なケース」を定めることになりますので、箇条書きにして判りやすく記していきましょう。

なお、一口に『解除になる』と言っても「即時解除となる事項」と「猶予期間(催告期間)を設けた上で解除となる事項」がありのますので、二通りに分けて記載を行います。

即時解約事項

  • 申込書への虚偽記載
  • 暴力団事務所としての物件利用や、暴力団に類する団体に所属する人物を出入りさせた場合
  • 覚醒剤・危険ドラッグの使用や製造
  • 信義則違反や社会的信用失墜行為を行った場合

 

催告後(猶予期間後)の解約事項

  • 賃借人の義務条項違反、その他契約条項への違反があった場合
  • 賃料の2ヶ月滞納(判例上1ヶ月滞納は解約要件になりませんので、ご注意ください)
  • 建物に損害を与えたにも係らず、修繕費の支払いを怠った場合

以上が、一般的な記載内容となるでしょう。

解約予告に関する条項

「借主から契約解除を申し出る場合のルール」を取り決める条項となります。

そして居住用物件の契約においては「解約予告日から1ヶ月分の賃料は理由の如何を問わず支払義務がある」と定めるのが通常です。(所謂「1ヶ月前予告のルール」です)

よって、退去日まで1ヶ月を切った時期に解約予告をした場合には、たとえ引っ越しが先行しても、予告日から1ヶ月分の賃料を支払わなければなりません。

一方、解約予告日を過ぎても入居を続けた場合(退去をしない場合)に備えて、「退去が遅滞した場合には通常の日割り賃料の2倍の賃料が発生する」などのペナルティーを付加する条項を加えておくのがお勧めです。

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賃貸借契約終了時の取り決めに関する条項

さて、この条項においては、まず最初に契約終了時に借主が原状回復義務を負う旨を明記しておきましょう。

なお具体的な原状回復の方法については、前回の記事にて解説した「修繕費の負担に関する条項」にてクロスや畳・襖など設備ごとに細かい取り決めを記した「別表(別紙)」を添付しておけば、後々の紛争を予防できるはずです。

別表の記載事例

  • クロス(経年劣化/貸主負担、故意過失による汚損/借主負担)
  • 床・建具(日焼け/貸主負担、汚損・傷/借主負担)
  • ガラス(熱割れ/貸主負担、故意過失による破損/借主負担)

また、「借主には未納賃料の支払いや、水道・電気代等の精算を行う義務があること」「残置した荷物を貸主が任意で処分できる(但し撤去費用は借主に請求する)旨」もこの条項に加えておくべきでしょう。

更には、「天災地変による建物滅失や、都市計画上の収容などの事態が発生した場合には契約が終了する旨」と「貸主の都合によらない契約終了に際しては、立ち退き料等の請求ができない旨」も組み込んでおけば完璧でしょう。

連帯保証人に関する条項

賃貸借契約における連帯保証人に関する取り決め事項となります。

通常の契約書の雛形ですと、「連帯保証人は借主が負担すべき一切の債務を定められた極度額の範囲内で保証する」という程度の文言となりますが、万全を期するならば、借主との連絡が取れなくなった場合に備えて「契約の解除権」「返還敷金の代理受領権」「残置物の処分権」などを連帯保証人に与える旨の条文を加えておくのがよいでしょう。

賃貸保証会社について

近年の賃貸借契約では賃貸保証会社を利用することも少なくありませんので、保証会社利用についてのルールも定めておきます。

そして、まずは謳っておくべきなのが「貸主が指定する保証会社を借主が利用すること」が賃貸借契約成立の前提であるという旨です。

また万が一、利用する賃貸保証会社が倒産した場合などには、借主は新たな保証会社と再契約を行うか、連帯保証人を擁立しなければならない等のルールを定めておきましょう。

信義則に関する条項

あらゆる契約書の雛形にほぼ確実に記されているのが、こちらの「貸主・借主は互いに誠意を持って契約を履行しましょう」という条項になります。

一見、あまり役には立たない条文であるようにも思えますが、借主が不法行為などを行った場合に威力を発揮することになりますから、念のために組み込んでおきましょう。

管轄裁判所に関する条項

こちらもお約束の条項となりますが、退去後に訴訟を起こされた場合などに備えて、「物件所在地の裁判所にて訴訟を行う旨」を記しておくのがおすすめのです。

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賃貸契約書解説まとめ

さて以上が、居住用個人向け賃貸借契約書の内容解説となります。

なお、記事を前編・後編の2回に分けてしまったため、少々読み辛くなってしまったことをお詫び申し上げます。

不動産業界においては「賃貸の契約なんて楽勝!」などといった言い方をする人もいらっしゃいますが、賃貸借契約書の作成においてミスをしたばかりに、大家さんに甚大な損害を与えてしまったり、訴訟に巻き込まれてしまったりする可能性は充分に有り得ますから、しっかりと練り込まれた契約書を作成していただきたいものです。

ちなみに、今回ご説明した「ベースとなる条文」と並んで、賃貸借契約書の中で非常に重要なものとなる「特約事項」へ記すべき内容につきましては、次回の記事「賃貸契約書の特約事項の作り方を解説致します!」にて詳しく解説をさせていただきたいと思います。

ではこれにて、賃貸契約書の注意点を解説いたします!(居住用・後編)の知恵袋を閉じさせていただきます。