ご先祖様から代々土地などの不動産を相続して来た地主さんや、不動産投資家の親御さんをお持ちの方が、幼い頃から教え込まれているのが「何が有っても権利証を手放してはならない!」という戒めです。

そして火災などの災害が発生した際には、通帳や実印等と並んで「何をおいてでも持ち出すべき物」とされているのが権利証ではありますが、「そもそも権利証って一体何だろう?」という疑問をお持ちの方も意外に多いようです。

そこで本日は「権利証と登記識別情報について解説いたします!」と題して、権利証についての詳細と、これに代わる制度として現在運用されている登記識別情報に関するご説明をしてみたいと思います。

権利証と登記識別情報

 

そもそも権利証とは?

両親や祖父母、そしてご先祖様から不動産を相続されている方の中には、実際に権利証なる書類を「見たことがある!」という方も多いことと思います。(近年物件を買われた方は登記識別情報となりますので、権利証が手元にあることはないはずです)

なお、この権利証という呼び名はあくまでも通称に過ぎず、「登記済証」というのが正式な名称となります。

さて以前の記事でも折に触れてご説明してまいりましたが、不動産の売買とは「売買代金」と引き換えに「対象物件の所有権を移転(所有権移転登記)」することで成立する取引です。

そして所有権移転登記が行われた際には、

『物件の正式な所有者を公的に証明する書類』として、法務局から「登記済証(登記申請書の控え)」が交付される

こととなり、その後も登記済証は

  • 物件を「売却」する場合(所有権移転をする場合)
  • 土地を分割する場合(分筆する場合)
  • 土地を合体させる場合(合筆する場合)
  • 抵当権の設定(不動産を担保に借り入れなどを行う際に行う登記)を行う場合

などには必要不可欠な証明書類となりますので大切に保管しておく必要があるのです。

ちなみに、土地は筆(地番が振られた区画)ごとに、そして建物は一棟ごとに別々の登記済証が発行されるのが原則ですから、「土地付きの戸建て」をお持ちの方であればそれぞれ一通ずつ権利証が存在することになります。

さて、このように大切な書類となれば「失くして、悪用されたら大変なことになるのでは?」という気がして来ますが、実は権利証のみでは不動産の売買を行うことはできず、

  • 実印
  • 印鑑証明書
  • 身分証明書
  • 売買契約書等の登記原因証明情報

等が必要となりますので、その点はご安心いただければと思います。

但し失くしてしまった場合には、登記を行った法務局に行っても再発行はしてもらえませんので、売買等を行う際には「保証書」という書類を作成しなければなりません。

その上、この保証書を取得するためには、これまでに登記を受けたことのある成人2人を擁立して「権利証を失くした人が間違いなく本人である」旨を証明しなければならず、これは非常に大きな負担となっていました。

更に、その気になれば悪意の第三者が権利証を偽造することも可能な制度となっていたため、こうした問題点を指摘する声も少なくなかったのです。

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新たに設立された登記識別情報制度

そして時代は移り変わり、パソコンを使用した情報処理が当たり前となった2005年、遂に不動産登記法が改正されることとなり「権利証を巡る制度」に大きな変更が行われることになりました。(本改正では登記簿のコンピューター化も行われた)

この改正においては

権利証が廃止されることとなり、以降の登記においては「登記識別情報」というものが、その代わりに発行される

こととなったのです。

さて、このようなお話をすると「それじゃあ、権利証の代わりに登記識別情報が発行されることになっただけなの?」というお声も聞えて来そうですが、この制度改革はそれ程単純なものではありません。

確かに改正後も、登記完了後には「登記識別情報通知書」という書面が発行されますが、これはあくまで「識別情報を紙に書いただけのもの」であり、たとえ通知書を紛失しても権利関係者はそれ程大きな被害を被る訳ではないのです。

それと言うのも、

登記識別情報とは登記識別情報通知書に書かれている12桁の番号のことであり、この番号さえ覚えていれば売買などに支障をきたすことはなく、極端な話しをすれば「通知書を捨ててしまっても構わない」

ということになります。

但し、12桁の番号を暗記しておくのは難しいでしょうし、手帳などに書き写しておいて万が一情報が流失すれば大問題へと発展しますから、新制度開始後も「登記識別情報通知書はまるで権利証と同じような扱いを受け続けている」というのが実情なのです。

なお、「登記識別情報通知書」に書かれた識別情報の番号には保護シールが貼られており、これを剥がさない限りは番号を見ることができない仕組みになっています。

また、シールは一度剥がすと元に戻せないため、多くの方がシールを剥がさない状態で保管し、売買などをする段階で登記手続きを担当司法書士の手で初めて開封されるのが通常です。

登記識別情報の導入に伴う諸手続きの変更について

これまでの解説にて、権利証と登記識別情報の概要についてはご理解いただけたことと思いますので、ここからは制度上の変更点などについてお話ししてまいります。

保証書制度も廃止

さて、この不動産登記法改正に伴い、権利証を紛失してしまった場合の保証書制度も廃止されることとなりました。

そして、新たに導入されたのが司法書士による本人確認制度と呼ばれるものです。

この本人確認制度、「権利証の紛失した者」や「登記識別情報が判らなくなってしまった権利者」に対して

司法書士が「真の不動産所有者であることを確認する(本人確認情報を作成する)ことにより、保証書がなくても(司法書士の)職権で登記が行える」という制度

となります。

よって考え方によっては、「これまで以上に司法書士に重大な権限を与えた」ということになるのでしょうが、

別の見方をすれば、万一、無権利者へ登記が行われてしまった場合には全ての責任を司法書士に負わせて、法務局は一切関知しないという意味にもなりますから、『法務省の責任回避制度』と指摘する声も少なくないようです。

なお、司法書士による本人確認は、特に問題のないケースならば数万円程度の費用で請け負って貰えるのですが、時には高額な費用を請求されるケースも存在します。

例えば、借金まみれで身元が怪しい者が依頼主の場合などは司法書士が負うリスクも高くなるため、本人確認を拒否したり、法外な報酬を要求して来る場合もあるのです。

*本人確認は公証役場にて公証人がこれを行うことも可能であり、司法書士が行うよりもコストを低く抑えることができます。

一方、権利証等を失くしてしまった状態で登記を行うもう一つの方法として事前通知制度というものがあります。

こちらは法務局の登記官が、申請人である登記名義人に通知を行って「登記を行って問題がないかの確認」を行う制度となりますが、

通知を受け取った登記名義人がこれに対する返事をしてからの登記となり、かなりの時間を要することから実務上はあまり利用される機会はないようです。(事前通知制度は法改正前から存在していた制度です)

未だに権利証を持っている方

法改正により新制度がスタートした後も「特に売買などをされていない方」の手元には未だに権利証が存在しているはずです。

もちろん、こうした権利証は今でも従来通りの手続きで登記に活用できますのでご心配は無用となります。

但し、権利証を使って所有権移転登記などを行った場合でも次の所有者には権利証ではなく登記識別情報が発行されることになることだけは覚えておいてください。

また、権利証を紛失してしまっている場合には前項で解説した通り、保証書ではなく「司法書士の本人確認制度」が適用となりますから、手続きの手間に関しては大幅に改善された状況と言えるでしょう。

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権利証と登記識別情報について解説まとめ

さてここまで、権利証や登記識別情報の詳細についてお話ししてまいりました。

制度変更の流れを総括してみれば、登記識別情報により登記の情報がデータ化されたことは画期的なものの、権利者は結局のところ登記識別情報の書かれた通知書を大切に保管する必要があり、得をしたのは法務省ばかりということになるでしょう。

また、本人確認制度に関しても「負担が増えたのは司法書士ばかり」であり、特に取引の安全性が向上した訳でもありませんので、これまた法務局に有利な変更となっています。(法務局の責任は軽減された)

折角、法令や制度を大幅に変更するのであれば「土地の権利者であるユーザーの利益を最優先すべきだったのでは?」というのが管理人の率直な感想です。

ではこれにて、「権利証と登記識別情報について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。