不動産の売買仲介では、購入希望者を探すことに加えて、所有者から売却の相談や依頼を受けることも重要です。そのための営業活動として、不動産業界では「物上げ(ぶつあげ)」という言葉が使われています。
ただし、所有者へ手当たり次第に連絡すれば、売却依頼を獲得できるわけではありません。物件の状況や所有者の悩みを把握し、必要な情報を届けながら、相談してもらえる関係をつくることが大切です。
今回は、不動産の物上げの意味や具体的な方法、売却相談から媒介契約までの進め方について、私の周囲で実践されている営業の事例も交えながら解説します。
物上げでは、所有者が不動産について何に困っているのかを知ることが出発点になります。地域の情報、賃貸管理で築いた信頼、物件調査や査定の知識を組み合わせ、所有者が納得して判断できる提案につなげましょう。

不動産の物上げとは?元付け・仕入れとの関係
物上げとは、土地や建物の所有者へ働きかけ、売却案件を開拓する営業活動を指す業界用語です。特に、まだ売りに出されていない不動産について、相談や提案を通じて売却を具体化させる場面で使われます。
例えば、使っていない土地の管理に困っている所有者に対し、保有を続ける場合の負担と売却する場合の条件を整理し、その結果として売却依頼を受けるケースが挙げられます。単に物件情報を集めるだけでなく、所有者との接点をつくり、取引に向けて話を進めるところに特徴があります。
元付けは売主から直接売却依頼を受ける立場
売主から直接売却の依頼を受けた不動産会社は、一般に「元付け業者」と呼ばれます。一方、購入希望者を紹介する側は「客付け業者」と呼ばれ、同じ会社が両方の役割を担う場合もあります。
元付け業者は、売主側の窓口として価格設定や販売方法を相談し、売却活動を主導する立場になります。自社で買主を見つけるだけでなく、他社から購入希望者を紹介してもらうこともできるため、複数の不動産会社の販売力を生かして成約を目指せます。
客付けでは、紹介した購入希望者が別の会社で購入すれば、自社の成約にはつながりません。一方、元付けでは、他社が買主を紹介した場合でも、売主側の仲介業者として取引に関わることができます。このように、売却依頼を直接確保できることは、売買仲介の営業上、大きな強みとなります。
不動産の物上げ方法
物上げには、広告を通じて広く相談を募る方法と、特定の所有者との関係を深めていく方法があります。得意な地域や物件種別、既存顧客とのつながりに合わせて、継続できる方法を組み合わせるとよいでしょう。
チラシ・DM・個別査定で相談のきっかけをつくる
チラシやDMは、物上げの基本的な方法です。ただ「売り物件募集」と伝えるだけでなく、対象地域の市場動向や、所有者が気にしている問題を具体的に取り上げると、相談する理由が伝わりやすくなります。
- 近隣の成約事例から分かる売却価格の目安
- 空き家を保有し続ける場合の管理負担
- 古いアパートの修繕と売却を比較する際の確認点
- 土地の一部売却を検討するときの注意点
私の知り合いには、対象物件を絞り、定期的に個別の査定資料を送っている不動産業者もいます。件数を追うだけでなく、その物件に合った情報を用意するという考え方は参考になるでしょう。
なお、現地や室内を十分に確認していない場合は、机上査定であることや前提条件を明記します。売出価格と成約価格を混同せず、事例の時期、面積、立地などの違いも踏まえて説明することが大切です。
賃貸管理を通じて所有者との信頼関係を築く
アパートやマンション、月極駐車場などの管理は、所有者と継続的に接点を持てる仕事です。家賃の入金状況や修繕、入居者対応について報告する中で、将来の資産運用や処分について相談されることもあります。
例えば、大規模修繕が必要になったときは、工事をして保有を続ける場合と、現状で売却する場合を比較する機会になります。所有者が高齢になり、管理や相続について不安を感じている場合も、今後の方針を整理する相談につながるでしょう。
ただし、管理を任されているからといって、急いで売却を勧めるのは考えものです。まず管理業務を着実に行い、そのうえで、所有者の希望に応じて売買の相談にも対応できることを伝えておきます。
日頃の管理対応に満足していても、所有者が「売買は別の会社へ頼むもの」と考えている場合があります。売却の話が出てから慌てるのではなく、普段の報告や面談の中で、査定や売却相談にも対応していることを自然に伝えておくとよいでしょう。
空き家・空き地などを確認して所有者へアプローチする
地域を回り、利用されていないように見える土地や建物を把握する方法もあります。ただし、外観だけで空き家と決めつけたり、所有者に売却意向があると判断したりすることはできません。
検討対象を見つけたら、所在地と地番を整理し、登記情報などで所有者や権利関係を確認します。登記上の住所が古い場合や相続登記が済んでいない場合もあるため、資料の記載と現状が一致するとは限らない点に注意しましょう。
連絡する際には、自社の名称と連絡した目的を明らかにし、相手の意向を確認します。現地確認は公道など適切な場所から行い、許可なく敷地へ入ることは避けてください。
なお、広い庭や駐車場の一部を売却できそうに見えても、分筆後の接道、残る建物の敷地条件、配管や通路などの確認が必要です。見た目の広さだけで「ここは売れる」と提案しないことが重要になります。
地域の事業者などに売却相談を紹介してもらう
不動産の物上げでは、自分だけで情報を探すのではなく、地域の事業者などに協力してもらう方法もあります。工務店やリフォーム業者、日頃から地域の家庭を訪問する仕事をしている人などは、所有者から建物の管理や将来の処分について相談されることもあるためです。
私の知り合いには、こうした人たちに「不動産の売却を考えている方がいたら紹介してほしい」と声を掛け、売却依頼や成約につながった場合に謝礼を支払う仕組みを設けている営業担当者もいます。地域に接点を持つ人の協力を得ることで、自分一人では出会えなかった所有者と話をする機会をつくっているわけです。
ただし、紹介者には所有者との顔つなぎまでをお願いし、査定や売却条件の説明、交渉などは不動産会社が担当します。また、所有者の了承を得て紹介してもらうことや、謝礼を支払う条件をあらかじめ整理しておくことも大切です。
地域活動や相談会を通じて相談窓口になる
地域の活動や交流会へ継続的に参加し、不動産について相談できる相手として知ってもらう方法もあります。参加した直後から営業を前面に出すよりも、活動に協力しながら関係を築くことが大切です。
私の知り合いには、地域イベントで主催者の許可を得て、不動産の相談ブースを設けている業者もいます。店舗へ出向くほどではない小さな疑問でも、その場で気軽に相談できる点が入口になっているのでしょう。
相談会では、不動産会社が対応する内容と、税理士、司法書士、弁護士などへ確認すべき内容を分けて案内します。相続や税金の相談から始まった場合も、自社だけで結論を出そうとせず、必要な専門家と連携できる体制を整えておきましょう。
ホームページや記事から売却相談を受ける
ホームページやブログで、所有者の疑問に答える情報を公開することも、売却相談につながる方法です。会社案内だけでなく、実際の相談でよく聞かれる内容を説明すると、対応できる分野や考え方が伝わります。
例えば、「古いアパートは修繕してから売るべきか」「空き家の荷物は売却前に片付ける必要があるか」など、所有者が判断に迷う場面を取り上げます。そのうえで対応地域、相談方法、査定に必要な資料を示しておけば、問い合わせまで進みやすくなるでしょう。
実際の取引事例を掲載する場合は、所有者や物件が特定される情報に配慮します。相談フォームで氏名や連絡先を取得する際には、個人情報の利用目的も明示しておきます。
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売却相談から媒介契約までの進め方
物上げでは、相談を受けた後の対応も重要です。すぐに査定額を提示するだけでなく、所有者の事情と物件の条件を整理し、どのような方法が希望に合うのかを検討します。
所有者の悩みと売却意向を確認する
最初に確認したいのは、所有者が何に困っていて、いつまでにどうしたいと考えているかです。同じ売却相談でも、価格を知りたいだけの場合と、期限を決めて処分したい場合では、提案する内容が変わります。
- 売却を考えた理由と、現在困っていること
- 希望する売却時期と価格
- 共有者の有無や、判断に関わる人
- 居住者・賃借人・荷物などの状況
- 住宅ローンなどの借入残高
- 近隣に知られずに進めたいなどの希望
まだ売るかどうかを決めていない所有者に対して、売却する前提で話を進めると、かえって相談しにくくなります。まずは情報収集の段階なのか、具体的に売却を進めたい段階なのかを把握しましょう。
物件を調査して査定の根拠を説明する
査定では、周辺の取引事例だけでなく、道路との関係、土地の形状、境界、建物の状態、権利関係などを確認します。収益物件であれば、実際の賃料、空室、管理費用、修繕履歴なども価格判断に関わります。
調査前の概算と、資料や現地を確認した後の査定は分けて説明しましょう。価格に影響する未確認事項がある場合には、その内容と、確認後に価格が変わる可能性を伝えることが必要です。
また、査定額、売出価格、最終的な成約価格は同じとは限りません。査定の根拠を示したうえで、所有者の希望と市場の状況を踏まえて販売方針を相談します。
保有継続・仲介売却・業者買取を比較する
所有者の悩みによっては、売却以外の方法で解決できる場合もあります。賃貸管理の負担であれば管理方法の変更、空室であれば募集条件の見直しなども含めて検討すると、判断材料が増えます。
売却を進める場合も、仲介で広く買主を探す方法と、不動産業者による買取では特徴が異なります。価格だけでなく、売却までの期間、引渡し条件、残置物や修繕への対応などをそろえて比較することが大切です。
業者買取は、再販売や工事に必要な費用などを織り込んだ価格になるのが一般的ですが、物件の利用価値や購入目的によって評価は異なります。「業者だから必ず安い」「必ず高く買ってくれる」と決めつけず、具体的な条件で判断しましょう。
所有者が受け取れる金額を考える際には、売却価格から仲介手数料、測量費、解体費などの必要な費用を差し引く視点も欠かせません。費用の整理については、不動産売買の諸費用と計算方法も参考にしてください。
販売方針を説明して媒介契約へ進む
仲介で売却する方針が決まったら、価格、販売方法、広告掲載の範囲、連絡方法などを整理して媒介契約へ進みます。売却依頼を受けるために実現性の低い価格を約束すると、後の値下げ提案や販売長期化で信頼を失いかねません。
媒介契約の種類ごとの違いや、会社が行う販売活動を説明し、所有者が納得できる内容で依頼を受けることが大切です。契約の種類については、不動産媒介契約の種類と確認ポイントで解説しています。
物上げの成果を高めるために準備しておくこと
相談が入ってから調べ始めるだけでは、回答に時間がかかってしまいます。対象地域の相場や買主の購入条件を把握し、相談を受けたときに具体的な動き方を示せるようにしておきましょう。
得意な地域と物件種別を決める
戸建て、土地、区分マンション、一棟アパートでは、所有者の悩みも調査のポイントも異なります。最初からすべてを対象にするより、得意な地域と物件種別を決めたほうが、必要な知識や事例を蓄積しやすくなります。
同じ地域を継続して確認していれば、新たな売出しや成約、空き家の変化にも気付きやすくなるでしょう。集めた情報を、所有者への報告や査定の説明に使える形で整理しておくことが重要です。
買取業者の得意分野と購入条件を把握しておく
物上げで売却の話を具体化させるには、購入先の候補を持っておくことも重要です。普段から建売業者、再販業者、収益物件の買取業者などと関係を築き、購入する地域や規模、価格帯を確認しておきましょう。
さらに把握しておきたいのが、業者ごとの得意分野や購入時の対応力です。例えば、借地・底地の取引に強い、賃借人が入った古いアパートを積極的に購入する、権利関係が複雑な物件も検討できるなど、業者によって扱いやすい案件は異なります。
また、現金購入が可能か、融資を利用する場合には融資特約を必要とするか、短期間で決済できるかといった条件も重要です。売却を急ぐ所有者に対しては、価格に加えて、代金を受け取れる時期や取引の確実性も判断材料になるためです。
こうした特徴を把握しておけば、相談を受けた際に「この物件なら、あの業者に相談できる」と動けるようになります。具体的な購入条件を提示できれば、所有者も売却するかどうかを判断しやすくなるでしょう。ただし、実際の購入可否や価格、決済条件は、物件ごとに確認する必要があります。
継続した付き合いで所有者との信頼関係を築く
不動産の売却は、一度話をしただけで決まるとは限りません。今は売るつもりがなくても、数年後に相続や建物の老朽化、生活の変化などをきっかけに、売却を考えることもあります。そのときに声を掛けてもらえる関係を築いておくことが大切です。
そのためには、相談されたことを調べて返答する、約束した資料を届けるなど、一つひとつの対応を積み重ねていきます。所有者との会話で聞いた悩みや希望も覚えておき、その後の状況を気に掛ける姿勢が信頼につながるでしょう。
また、相手が関心を持っている近隣の取引事例や、不動産の管理に役立つ情報を伝えることも、付き合いを続けるきっかけになります。連絡の時期や頻度は相手の意向に配慮しながら、「この人なら安心して相談できる」と思ってもらえる関係を育てていきましょう。
物上げ営業で注意したいこと
物上げは、所有者の生活や財産に関わる営業です。売却案件を獲得することだけに目を向けず、勧誘の方法、説明の正確さ、個人情報の扱いまで含めて対応を整える必要があります。
会社名と目的を伝え、断られたら勧誘を続けない
勧誘に先立ち、会社名、担当者名、勧誘の目的を伝えることが必要です。「近隣の調査」などとだけ説明し、売却を勧める目的を隠して話を始めることは避けましょう。
また、相手が契約しない意思や、これ以上勧誘を受けたくない意思を示した場合は、勧誘を継続してはいけません。迷惑な時間帯の電話や訪問、長時間の勧誘などにも注意が必要です。
相続や家族の事情を知った場合も、その情報だけで訪問や売却提案を急がないようにします。相談するかどうか、いつ判断するかは所有者の意向を尊重しましょう。
購入希望者や査定価格について誤解を招く説明をしない
「この物件を買いたい人がいる」と伝えるなら、その説明に見合う実際の購入希望を確認しておく必要があります。広い地域で物件を探している顧客がいるだけなのに、特定の物件を購入する意思が固まっているように説明すべきではありません。
価格についても、条件付きの買取査定を確定価格として伝えたり、売却依頼を受けるためだけに高額な成約を約束したりしないことが大切です。根拠、前提条件、未確定の部分を分けて説明しましょう。
登記情報や紹介情報も適切に取り扱う
登記簿などで公開されている氏名や住所も、個人情報であることに変わりはありません。利用目的を特定し、取得方法に応じた通知・公表などの対応や、安全に管理するための運用を整えます。
また、管理業務で得た情報や、紹介者から聞いた家族の事情を、自由に営業利用してよいわけではありません。取得時の利用目的や本人の意向を確認し、社内共有も業務上必要な範囲にとどめましょう。
紹介者の役割と報酬条件を整理する
売却相談を紹介してくれた人へ謝礼を設ける方法もありますが、紹介者が行う業務の範囲は明確にしておく必要があります。連絡の橋渡しと、価格交渉や契約条件の調整まで行うことでは、実際の役割が異なります。
無免許の人が反復継続して実質的な媒介業務を行うような仕組みにならないよう、名称だけでなく業務の実態を確認しましょう。外部の紹介者へ営業を任せる制度を設ける場合は、宅建業法上の扱いも含めて事前に確認することが大切です。
報酬を設けるなら、支払いが発生する条件、金額、支払時期、案件が重複した場合の扱いなどを整理します。他社の従業員などへ依頼する場合には、その人の勤務先の規定にも注意が必要です。
紹介制度には、依頼内容の説明、情報管理、対応状況の確認、報酬の精算などの業務が生じます。紹介者の数を増やすことよりも、所有者が安心して相談できる形で、無理なく運用できる仕組みを整えましょう。
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まとめ|売却を考えたときに相談される関係をつくる
不動産の物上げには、チラシやDM、賃貸管理、地域での紹介、相談会、ホームページなど、さまざまな方法があります。それぞれの方法を、自社の得意分野や継続できる営業体制に合わせて選ぶことが大切です。
そして、相談を受けた後は、所有者の悩みと物件の条件を整理し、保有を続ける場合も含めて判断材料を示しましょう。売却を希望する場合には、調査と査定の根拠を説明し、希望に合う販売方法へつなげていきます。
日々の対応を通じて「不動産のことで困ったら相談しよう」と思ってもらえる関係を築くことが、継続的な売却相談と依頼につながるのではないでしょうか。







