一戸建てや土地を購入するとき、前面道路が公道ではなく「私道」になっている物件は珍しくありません。私道だからといって、それだけで問題のある物件というわけではありません。
しかし、私道に接している不動産では、公道接道物件にはない確認事項があります。たとえば、私道の所有者は誰なのか、自分の私道持分はあるのか、車で通行できるのか、水道・下水道・ガス工事のために道路を掘削できるのか、私設水道管を利用している場合には将来も同じように利用できるのか、といった点です。
現在問題なく住宅として使用できていても、建替えや売却をするときに権利関係の問題が表面化することがあります。
この記事では、私道に接する土地や戸建てを売買するときに確認したいポイントを、不動産実務の視点から詳しく解説します。
私道接道物件の売買では、「現在道路として使えているか」だけではなく、「どのような権利によって通行・工事・ライフライン利用ができているのか」まで確認することが重要です。

私道接道物件では「道路種別」と「所有者」を最初に確認する
私道とは、国や自治体ではなく、個人や法人などが所有している道路状の土地です。ただし、「私道であること」と「建築基準法上の道路であること」は別の問題です。
個人が所有している私道でも建築基準法上の道路として認められているものがありますし、反対に見た目は道路でも建築基準法上の道路ではない通路もあります。そのため売買調査では、所有者だけでなく、建築基準法上の道路種別、道路幅員、接道長、セットバックの有無などを確認します。
私道そのものの種類や仕組みについては、別記事「私道とは?種類・権利関係・トラブルと対策を解説」 で詳しく解説しています。
私道はどのように所有されているのか
売買調査では、道路の所有形態も確認します。代表的なのは次の3つです。
一つの私道を複数人で共有している
住宅地でよく見られるのが、一つの道路敷を複数人で共有しているケースです。たとえば100㎡の私道について、A・B・C・Dの4人がそれぞれ4分の1ずつ持分を所有するといった形です。
宅地を売却するときには、通常、宅地と一緒に私道持分も買主へ移転します。
道路を分筆してそれぞれが所有している
見た目は一本の私道でも、登記上はいくつもの土地に分筆され、それぞれ別の所有者が所有している場合があります。自宅前の道路部分を自分が所有しているとは限らず、道路の途中や反対側の土地を所有して、お互いの土地を道路として利用しているケースもあります。
第三者が私道全部を所有している
昔の地主、分譲会社、近隣所有者などが道路全部を所有し、宅地所有者は私道持分をまったく持っていないケースもあります。この場合には、現在通行できているという事実だけではなく、地役権、契約、分譲時の取り決めなど、何を根拠として道路を利用しているのかを確認します。
古い分譲地では、宅地は何度も売買されているのに、私道持分だけ昔の所有者名義のまま残っていることがあります。宅地だけでなく、私道部分についても登記事項証明書を確認します。
私道持分がある場合は何を確認する?
私道持分を所有しているからといって、それだけで調査終了ではありません。まず確認したいのは、その私道持分が宅地と一緒に売買対象になっているかという点です。
売買契約書や重要事項説明書では、私道部分の地番、地積、持分割合などが正しく記載されているか確認します。また、現在の所有者が持っている持分を買主へ確実に移転できる状態かも確認します。
私道持分は「価値の低い土地」と考えない方がよいでしょう。道路部分そのものの価格は高くなくても、通行・配管・道路管理・建替え・将来売却などに関係する重要な権利です。
私道持分がない物件は特に慎重に調査する
私道に接しているからといって、必ずその道路の持分を所有しているとは限りません。古い住宅地では、宅地だけを所有していて前面私道の持分をまったく持っていないケースもあります。
ただし、持分がないからといって直ちに通行できないという意味ではありません。地役権、契約、分譲時の取り決め、その他の法律上の権利などによって道路を利用できるケースもあります。
「私道持分なし=購入不可」と単純に判断するものではありません。徒歩・車両通行・道路掘削・ライフライン利用などが、どのような権利関係になっているかを一つずつ確認します。
通行承諾と掘削承諾は分けて考える
私道接道物件でよく出てくる書類に「通行・掘削承諾書」があります。一つの書類にまとめられていることも多いのですが、実務上は通行と掘削は別の問題として考えた方が分かりやすくなります。
通行について
住宅として利用するためには、通常、私道を通って敷地へ出入りします。徒歩だけでなく自動車を利用するのであれば、車両通行についても確認しておきたいところです。
古い承諾書では、単に「通行を承諾する」とだけ記載され、車両通行について明確になっていない場合もあります。
掘削について
水道、下水道、ガスなどの工事では、私道を掘削しなければならないことがあります。道路を通行できることと、道路を掘削できることは同じではありません。
既存の承諾書や協定書がある場合には、どのような工事まで認められているのか、その内容まで確認します。
共有私道は「何でも全員承諾」ではない
共有私道では、「工事をするには共有者全員の承諾が必要」と思われることがありますが、現在の民法では工事内容によって扱いが異なります。共有物の保存行為は各共有者が単独で行うことができ、管理に関する事項や形状・効用の著しい変更を伴わない軽微な変更については、原則として持分価格の過半数で決めることができます。
私道の機能を維持するための舗装補修などが保存行為に該当する場合があります。ただし、工事の規模や内容によって管理行為や変更に当たる場合もあるため、個別の確認が必要です。
一方、形状や効用を著しく変更する行為については、原則として共有者全員の同意が必要になります。
「持分があるから自由に工事できる」「私道だから必ず全員承諾」と決めつけないようにしましょう。実際に工事を進める場合には、工事内容や私道の所有形態、既存の協定書・覚書なども確認し、判断に迷う場合は司法書士や弁護士など専門家へ相談する方が安全です。
水道では「道路掘削」と「分岐」を分けて確認する
私道調査で特に見落とされやすいのが水道管です。前面道路に公設の水道管が入っていれば比較的分かりやすいのですが、古い住宅地では道路内に私設の給水管が入っていることがあります。
さらに、その一本の給水管から複数の住宅へ枝分かれしている場合もあります。
私設管から水道を分岐しているケース
他人が所有する給水装置から分岐して自宅へ給水している場合には、その管を利用・分岐することについて確認が必要になることがあります。水道については、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
- 前面道路の水道管は公設管か私設管か
- 私設管の場合、誰が所有しているのか
- 自宅の給水管はどこから分岐しているのか
- 土地使用承諾や分岐承諾の書類があるか
- 将来の建替えや口径変更時に新たな手続きが必要か
掘削承諾だけで十分とは限りません。私道を掘ることに問題がなくても、そこにある水道管が他人所有の私設管であれば、その管を利用する問題は別に残ります。
「現在水道が出ているから大丈夫」で終わらせず、将来の建替えや給水管更新まで考えて調査します。道路所有者と水道管所有者が別人というケースもあります。
下水道やガスの配管も確認する
水道だけでなく、下水道やガスについても確認します。私道内に共同排水管や私設管が設置されている場合がありますし、排水管が道路ではなく隣地を経由していることもあります。
そのため、公共桝や本管の位置を見るだけでなく、宅地からどのような経路で排水されているのかまで確認しておきたいところです。
私道では現地の「利用状況」も重要
私道調査というと、登記や役所資料ばかりに目が行きます。しかし、実際の売買では現地調査が非常に重要です。
私道部分には、次のようなものが置かれているケースがあります。
- 植木鉢やプランター
- 自転車やバイク
- 物置
- ゴミ箱
- 駐車車両
- 看板
長年住んでいる人にとっては「昔から置いている」という感覚でも、新しい買主から見れば道路利用の支障となることがあります。
図面上の道路幅と実際に通行できる幅は異なることがある
地積測量図や道路関係の図面では一定の道路幅が確保されていても、現地ではセットバック部分に古い塀が残っていたり、植木鉢や自転車などが置かれていたりして、実際に通行できる幅が狭くなっていることがあります。普通乗用車は通れても、引越しトラックや建築工事車両の進入が難しいケースもあります。
図面上で必要な道路幅が確保されていても、現地が同じ状態とは限りません。セットバック部分に塀や工作物が残っていないか、道路上に通行を妨げる物が置かれていないかまで確認することが重要です。
道路を駐車場代わりに使っているケース
私道の一部に日常的に車が駐車されているケースもあります。長年、共有者同士で黙認されていたとしても、所有者が変われば同じ状態が続くとは限りません。
売買時には、誰がどのように道路を利用しているのかも確認しておきたいところです。
私道全体、道路幅、駐車車両、植木鉢、側溝、電柱、舗装状態、段差などは写真を残しておくと、後から確認するときに非常に役立ちます。
私道の維持管理は誰がする?
私道では、公道と違って所有者側で維持管理を行うことがあります。たとえば、舗装補修、道路の陥没、側溝や排水設備の修繕などです。
共有私道の場合、管理費用については持分に応じた負担が基本となりますが、住宅地ごとに別の取り決めがされていることもあります。売買時には、道路管理に関する協定書や覚書の有無だけでなく、これまで実際にどのように費用を負担してきたのかも確認しておくとよいでしょう。
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私道共有者に所在不明者がいる場合
古い私道では、登記事項証明書を確認すると、現在の近隣所有者とはまったく違う人物が登記名義人になっていることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
- 所有者が死亡したまま相続登記されていない
- 登記住所から転居している
- 相続が何代も発生している
- 共有者の一部と連絡が取れない
ただし、登記名義人と連絡が取れないだけで直ちに法律上の「所在等不明共有者」になるわけではありません。裁判所の制度を利用する場合には、必要な調査を行っても氏名や所在を知ることができないなど、一定の要件があります。
一人所在不明でもすべての管理が止まるとは限らない
現在の民法では、所在等不明共有者がいる場合に、裁判所の決定を得たうえで、その共有者を除いて共有物の管理や一定の変更について決定できる制度があります。
現在は、裁判所を利用して共有関係を整理したり、一定の管理や変更を進めたりするための制度が用意されています。
所有者不明土地管理制度という方法もある
土地の所有者またはその所在が分からない場合には、所有者不明土地管理制度を利用できるケースもあります。利害関係人の申立てによって裁判所が管理人を選任し、その土地を管理させる制度です。
どの制度を利用できるかは土地の所有状態や目的によって異なるため、司法書士や弁護士など専門家を交えて検討することになります。
相続登記されていない私道にも注意
古い私道では、登記名義人がすでに亡くなっているにもかかわらず、そのままになっていることがあります。2024年4月から相続登記は義務化されましたが、既存の住宅地では今後も古い名義の私道に遭遇する可能性があります。
売買調査では、単に登記名義人を見るだけでなく、現在その人物と連絡が取れるのか、相続が発生していないかまで確認が必要になる場合があります。
私道持分だけが昔の所有者名義になっている場合
実務で意外と厄介なのが、宅地は現在の所有者名義なのに、私道持分だけ以前の所有者名義になっているケースです。過去の売買時に私道持分の移転を忘れていたような場合に起こります。
以前の所有者がすでに死亡していれば、その相続人との手続きが必要になることもあります。さらに相続が何代も続いていれば、関係者が増えて処理が難しくなります。
宅地売買では「私道持分も一緒に移転されているだろう」と思い込まず、登記を一筆ずつ確認します。売買時に処理しておけば簡単だった問題が、何十年か後には非常に面倒になることがあります。
私道持分を売ってほしいと言われたら?
私道を所有していると、近隣所有者から「私道持分を売ってほしい」と相談されることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
- 以前の土地売買で私道持分を取得していなかった
- 自宅を売却しようとしたところ持分がないことを指摘された
- 住宅ローンの審査で道路関係を確認された
- 建替えを予定している
- 通行・掘削等の権利関係を整理したい
私道持分そのものも所有権ですから、売買することは可能です。ただし、相手から頼まれたからといって安易に全部売却するのは避けた方がよいでしょう。
まず「なぜ持分が必要なのか」を確認する
相手が解決したい問題によっては、私道持分の売買以外に、通行や掘削について権利関係を整理する方法が考えられる場合があります。まずは、なぜ持分が必要なのかを確認します。
自分の持分を全部売ると自分が「持分なし」になる
特に注意したいのが、自分の持分全部を売却するケースです。たとえば自分が4分の1の私道持分を持っていて、その全部を近隣所有者へ売却すれば、その後は自分自身が私道持分を持たない宅地所有者になります。
自宅もその道路を利用しているのであれば、将来の通行・掘削・建替え・売却に影響しないかを検討する必要があります。
私道持分を手放す場合には、自分の宅地に必要な権利が残るのかを先に確認します。
持分の一部だけを譲渡する方法もある
状況によっては、自分の持分全部ではなく、その一部だけを譲渡する方法も考えられます。共有私道では、持分を有している共有者は、その持分に応じて私道全体を使用することになります。
そのため、持分の一部を譲渡したからといって、通常は直ちに通行できなくなるわけではありません。ただし、持分割合は私道の管理や軽微な変更についての意思決定にも関係します。
また、共有者を増やすことで将来の意思決定や管理が複雑になる場合もありますので、持分売買を行う場合には将来の道路利用や売却まで考えて判断することが重要です。
私道持分と住宅ローンの関係
私道に接する物件では、金融機関から道路の権利関係について確認されることがあります。私道持分がないから必ず融資を受けられないというわけではありません。
しかし、通行や掘削等の権利関係が不明確な場合には、金融機関から追加資料や説明を求められる可能性があります。
自分自身が現金で購入できても、将来の買主が住宅ローンを利用しにくい物件であれば、売却条件に影響する可能性があります。
私道接道物件を購入するときのチェックリスト
最後に、私道接道物件を売買するときに確認したい項目をまとめます。
- 前面道路が公道か私道か
- 建築基準法上の道路種別
- 道路幅員
- 接道長
- セットバックの有無
- 私道の地番
- 私道所有者
- 共有の場合の持分割合
- 宅地と私道持分がセットで売買されるか
- 私道持分だけ古い名義になっていないか
- 私道持分がない場合の通行権原
- 徒歩・車両通行に問題がないか
- 通行・掘削承諾書の有無
- 水道管が公設管か私設管か
- 給水管の分岐位置
- 私設管利用に関する承諾等の有無
- 下水道・ガス管の状況
- 地役権等の登記の有無
- 植木鉢・自転車・車などによる道路占有がないか
- 実際に利用できる道路幅
- 工事車両が通行できるか
- 共有者に所在不明者がいないか
- 死亡した所有者名義のままになっていないか
- 道路管理や補修費用の取り決め
- 将来の建替えに支障がないか
- 住宅ローンに問題がないか
- 将来売却するときに説明できる状態か
私道売買では「道路だけ」を見ないことが大切
私道調査では、道路の所有者や持分だけに目が行きがちですが、実際の不動産は、宅地・建物・道路・上下水道・ガスなどが一体となって利用されています。
私道持分を持っていても、水道管が他人所有ということがあります。反対に、私道持分を持っていなくても、通行について明確な権利を持っている場合もあります。また、書類上問題がなくても、現地へ行けば私道が植木鉢や車で占有されていることもあります。
したがって、私道接道物件では、役所調査・登記調査・現地調査・上下水道等の配管調査・承諾書や協定書の確認を組み合わせて判断することが重要です。
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まとめ|私道売買は「持分があるか」だけでは判断できない
私道に接する不動産は珍しいものではなく、権利関係が整理されていれば通常の住宅として問題なく売買されています。一方で、私道には公道にはない確認事項があります。
誰が道路を所有しているのか、どのような権利で通行しているのか、掘削できるのか、水道管を利用できるのか、道路が実際にどのように使われているのか。さらに、共有者の所在、道路管理、将来の建替えや売却まで確認して初めて、私道の状況を把握したといえます。
特に中古住宅や古い分譲地では、「これまで問題が起きていないから大丈夫」という説明だけで判断しないことが大切です。
私道接道物件では、「今使えるか」だけではなく、次の所有者へ問題なく引き継げる状態になっているかまで確認することが重要です。







