「家の建替え」や「更地渡しが条件の不動産売買」に付き物となる作業といえば、解体工事ですよね。
その名の通り、「今ある建物を取り壊す工事」という単純な内容ですから『その気になれば誰にでもできる』と思われがちですが、スムーズにこれをこなすのにはそれなりのノウハウが必要となります。
また、依頼する業者の選定を誤れば、法外な費用を請求されることもありますし、場合によっては大きな近隣トラブルに発展する可能性もありますから、工事の着手に当たっては充分な注意を払わなければなりません。
そこで本日は「解体工事の流れや注意点を解説いたします!」と題して、解体工事のあれこれを解説してみたいと思います。

解体は厄介な作業
ではまず、解体工事に潜むリスクについてお話ししてみたいと思います。
冒頭でも申し上げた通り、「建物を取り壊すのみ」という単純な作業ですから『リスクなど存在するの?』と思われる方も多いでしょうが、この工事には実に多く危険が潜んでいるものです。
法律上のリスク
「解体工事と法律に何の関係があるの?」というお声も聞こえて来そうですが、実は大いに関係があります。
解体工事については、建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)という法律が適用されることになりますが、この法律では施主が行政に対して「工事開始前に届出」を行うことを義務付けており、これに違反した場合には20万円以下の罰金に処される可能性があるのです。
また、この法律では「解体工事に際して発生した産業廃棄物の処理を適切に行わなかった業者」に対して厳しい罰則(5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)を設けているのですが、破棄物の処理費用は非常に高額となるため、この法律を無視して不法投棄を行う業者が未だに存在しています。
※建設リサイクル法では「産業廃棄物管理票(別名・マニュフェスト)」と呼ばれる、廃棄物の処理方法を明示した書類の作成も排出事業者に義務付けています。
もちろん、依頼した業者が不法投棄を行ったからといって、施主に罰則が課せられることはありませんが、こうした行為を平気で行う業者であれば「施主に事前届出を行う義務がある」といった重要な事項についてアナウンスをしてくれるはずがありませんよね。
よって、価格の安さに惹かれて怪しい業者に解体工事の依頼を行うと、施主も思わぬ罰則を受ける可能性があるという訳です。
更に、工事を依頼する施主には「発注者責任」という責任が発生します。
例えば、工事に危険が伴うことを承知しながら、施主がこれを放置した場合には、損害を受けた相手(怪我をした作業員など)から損害賠償を請求される可能性があるのです。
不法投棄などを平気で行う業者となれば、相当無茶な工事を行う可能性がありますから、状況によっては施主が発注者責任を負わされる場合があることを理解しておくべきでしょう。
工事業者とのトラブル
前項にて悪質な業者に関するお話をしましたが、こうした業者に発注を掛けた場合には、他にも様々なリスクが生じることになります。
例えば「相場から逸脱した高額な費用請求される」「着手金を持ち逃げされた」などはよく耳にいたしますし、「処分したはずの廃材が実は地中に埋められていた」など、想定されるトラブルには様々なパターンがあるでしょう。
また悪質業者ではないにしても、「技術が未熟だったり、経験が不足している業者に依頼をしてしまうケース」も多く、こうした場合には「誤ってお隣の建物に傷を付けてしまった」「土地同士の境目を示す境界標を破壊してしまう」などのトラブルも珍しくはありません。
なお、解体業者によるトラブルについては、他にも以下のようなケースも考えられます。
- 当初は安価な見積もりが提示されていたのに、後から法外な追加費用を請求してくる
- 注文通りの工事を行わない(撤去するはずの地中の埋設物を放置する等)
- 「あいさつ回り」や「クレーム対応」等の近隣対策を行わない
このように解体業者を巡って発生する問題は多岐に及びますので、工事業者の選定は非常に重要な作業となるのです。
近隣とのトラブル
解体工事といえば、大きな音や振動が付き物である故に「近隣とのトラブル」に発展することも珍しくありません。
特に早朝や夕方以降の音出し作業についてはクレームとなることが多いですし、振動や臭気、埃の飛散に対する苦情が寄せられることもあります。
また、解体対象物件が通学路に面している場合などでは、工事車両の出入りや、現場の養生(現場の安全を図るための保護作業)に関してご意見をいただくこともあるはずです。
更に台風などによる突風で廃材が吹き飛ばされたり、足場が倒壊して、近隣の建物に傷を付けてしまうこともありますし、工事完了後に「お宅の工事の振動のせいで、自分の家の外壁にヒビが入った」などのクレームが入ることも珍しくありません。
解体工事で注意すべき点
前項にて、解体作業に伴って発生し得るトラブルについて解説をさせていただきましたが、こうしたトラブルの発生を防ぐには何をすればよいのでしょう。
まず重要となるのが、質の良い工事業者を選定することです。
工事価格だけに囚われず、充分な実績を持ち、ユーザーからの評判の良い業者を選定すれば、「法律に関するトラブル」や「技術・経験不足によるトラブル」も回避できるでしょう。
また解体工事においては、施主自身にも「やっておくべきこと」が多数存在します。
例えば、優良業者に工事を依頼すれば「近隣へのあいさつ回りは必ず行ってくれる」はずですが、施主自身も独自にあいさつ回りをすることは、近隣のトラブルを回避する上で非常に重要です。
そして可能であるならば、解体業者が挨拶に行くよりも先に、施主が近隣に声を掛けておくのがベターでしょう。
更に、近隣に問題のある住人(気難しい住人など)がいるのならば、その旨を解体業者に伝えておくことも大切です。
なお、工事が始まる前に隣接するお宅の外壁の写真を撮影しておくことも忘れないようにしましょう。
「近隣とのトラブル」の項でもお話しした通り、工事完了後に『解体の衝撃で建物が傷付いた』というクレームが入ることは珍しくありませんから、工事前の写真を撮っておけば『解体工事のせいではない』との反論が可能になります。
ちなみに、解体工事では『壊してはマズイものを壊してしまう』というトラブルも少なくありません。
お隣との地境を示す境界標や、境界線上に建てられた「お隣と共有のブロック塀」に、自分の敷地内を通過する他人の配管(水道や下水)などを破壊してしまうと大問題に発展する可能性がありますので、壊してはマズイものがある場合には図面に書き込みを行い、これを施工業者に渡しておくなどの配慮が必要になります。
解体工事の流れ
では、前項の注意点を踏まえながら、解体作業の流れについて解説を行っていきましょう。
工事業者の選定が完了し、発注を済ませたならば、まずは率先して施主自らが近隣のあいさつ回りに行きましょう。
丁寧な解体業者であれば、必ずあいさつ回りはしてくれるはずですが、まずは施主自身がこれに先行して「近隣への声掛け」をすることが重要です。
また、電気やガスが建物に供給された状態で工事を始めることはできませんので、施主が使用停止の連絡を行います。
※通常は解体業者から「電気・ガス・水道等の使用停止連絡をしてください」との指示がありますし、配管の切断や電線のカット等の作業については工事業者が手配を行います。
※解体工事では埃の飛散を防止するために、水を巻きながら作業をしますので水道は使用可能な状態とするのが通常ですが、水道料金については工事業者の負担となります。
更に解体対象の建物の面積によっては行政への届出が必要となりますので、業者が用意する委任状に署名・捺印を行うことになるでしょう。
そして、着工前に近隣の建物の外壁写真の撮影、撤去してはならないもの(境界標や共有のブロック塀、隣地の配管など)を再度業者と確認した上で作業開始となります。
工事については、まず足場や養生シート(埃の飛散などを防ぐシート)の設置を行った上、屋根材や室内の設備(畳やキッチンなど)を撤去した後、重機による本格的な解体作業が開始されるのが通常です。(隣家とあまりに建物が近接している場合には、手作業による解体となります)
その後、建物に基礎部分を解体、地中埋設物の撤去等を行い、整地をして作業は完了となります。
なお、更地となった状態ですと不法投棄の被害を受ける可能性が高いので、土地の周辺にロープを張るなどの養生作業も必須となるでしょう。
ちなみに、建物を建てた際には法務局に対して表示登記を行う義務がありますが、解体が完了したからといって登記が勝手に抹消(滅失登記)される訳ではありません。
よって、解体業者から建物滅失登記に必要な書類一式を受取り、登記の申請を行うことも忘れずに行いましょう。(滅失登記を行わないと、対象の土地に対して住宅ローンなどを申請できない場合があります)
解体工事まとめ
さてここまで、解体工事というテーマでお話をしてまいりました。
解体工事は「建物を壊す」という単純な作業でありながら、プロの不動産業者であっても『非常に気を遣うデリケートなもの』となりますので、決して油断することなく工事の手配を進めてください。
また、工事を成功に導くためには「業者の選定が何よりも重要」といわれていますから、本記事を参考にして信頼の置ける業者を見付けていただければ幸いです。
また解体業者の選定も重要ですが、発生する問題の多くは「近隣関係に起因するもの」となりますから、普段からご近所とお付き合いを密にして、良好な関係を築いておくことも大切であるかと思います。
ではこれにて、「解体工事の流れや注意点を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。