「家の建替え」や「更地渡しが条件の不動産売買」に付き物となる作業といえば、解体工事ですよね。

その名の通り、「今ある建物を取り壊す工事」という単純な内容ですから『その気になれば誰にでもできる』と思われがちですが、スムーズにこれをこなすのにはそれなりのノウハウが必要となります。

また、依頼する業者の選定を誤れば、法外な費用を請求されることもありますし、場合によっては大きな近隣トラブルに発展する可能性もありますから、工事の着手に当たっては充分な注意を払わなければなりません。

そこで本日は「解体工事の注意点や流れについて解説いたします!」と題して、解体工事のあれこれを解説してみたいと思います。

解体工事

 

解体工事に潜むリスク

ではまず、解体工事に潜むリスクについてお話ししてみたいと思います。

冒頭でも申し上げた通り、「建物を取り壊すのみ」という単純な作業ですから『リスクなど存在するの?』と思われる方も多いでしょうが、この工事には実に多く危険が潜んでいるものです。

解体作業と近隣トラブル

解体工事といえば、大きな音や振動が付き物である故に「近隣とのトラブル」に発展することも珍しくありません。

特に早朝や夕方以降の音出し作業についてはクレームとなることが多いですし、振動や臭気、埃の飛散に対する苦情が寄せられることもあります。

また、解体対象物件が通学路に面している場合などでは、工事車両の出入りや、現場の養生(現場の安全を図るための保護作業)に関してご意見をいただくこともあるはずです。

更に台風などによる突風で廃材が吹き飛ばされたり、足場が倒壊して、近隣の建物に傷を付けてしまうこともありますし、工事完了後に「お宅の工事の振動のせいで、自分の家の外壁にヒビが入った」などのクレームが入ることも珍しくありません。

解体業者とのトラブル

解体を請け負う業者(解体業者)の中には、様々なトラブルを巻き起こす「質の低い業者」が一定数存在するのも現実です。

例えば「相場から逸脱した高額な費用を請求された」「着手金を持ち逃げされた」などはよく耳にいたしますし、「処分したはずの廃材が実は地中に埋められていた」など、想定されるリスクには様々なパターンがあるでしょう。

また悪質業者ではないにしても、「技術が未熟だったり、経験が不足している業者に依頼をしてしまうケース」も多く、こうした場合には「誤ってお隣の建物に傷を付けてしまった」「土地同士の境目を示す境界標を破壊してしまう」などのトラブルも珍しくはありません。

なお、解体業者によるトラブルについては、他にも以下のようなケースも考えられます。

  • 当初は安価な見積もりが提示されていたのに、後から法外な追加費用を請求してくる
  • 注文通りの工事を行わない(撤去するはずの地中の埋設物を放置する等)
  • 「あいさつ回り」や「クレーム対応」等の近隣対策を行わない

このように解体業者を巡って発生する問題は多岐に及びますので、工事業者の選定は非常に重要な作業となるのです。

解体工事の法律的リスク

「解体工事と法律に何の関係があるの?」というお声も聞こえて来そうですが、実は大いに関係があります。

解体工事については、建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)という法律が適用されることになりますが、この法律では施主が行政に対して「工事開始前に届出」を行うことを義務付けており、これに違反した場合には20万円以下の罰金に処される可能性があるのです。

また、この法律では「解体工事に際して発生した産業廃棄物の処理を適切に行わなかった業者」に対して厳しい罰則(5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金)を設けているのですが、破棄物の処理費用は非常に高額となるため、この法律を無視して不法投棄を行う業者が未だに存在しています。

※建設リサイクル法では「産業廃棄物管理票(別名・マニュフェスト)」と呼ばれる、廃棄物の処理方法を明示した書類の作成も排出事業者に義務付けています。

もちろん、依頼した業者が不法投棄を行ったからといって、施主に罰則が課せられることはありませんが、こうした行為を平気で行う業者であれば「施主に事前届出を行う義務がある」といった重要な事項についてアナウンスをしてくれるはずがありませんよね。

よって、価格の安さに惹かれて怪しい業者に解体工事の依頼を行うと、施主も思わぬ罰則を受ける可能性があるという訳です。

更に、工事を依頼する施主には「発注者責任」という責任が発生します。

例えば、工事に危険が伴うことを承知しながら、施主がこれを放置した場合には、損害を受けた相手(怪我をした作業員など)から損害賠償を請求される可能性があるのです。

不法投棄などを平気で行う業者となれば、相当無茶な工事を行う可能性がありますから、状況によっては施主が発注者責任を負わされる場合があることを理解しておくべきでしょう。

解体工事で注意すべき点

前項にて、解体作業に伴って発生し得るトラブルについて解説をさせていただきましたが、こうしたトラブルの発生を防ぐには何をすればよいのでしょう。

解体業者の選定

無事に解体工事を完了するために、何よりも重要なことは「質の良い解体業者」を見付けることです。

本記事では解体工事に関する様々な情報を皆様にお届けしておりますが、クオリティーの高い業者さんに依頼することができれば、こうした下知識がなくても難なく工事を終えられるはずです。

但し、真面目で親切な解体業者さんが多い反面、とんでもない業者も少なくないのがこの業界となりますので、ここからは質の高い解体業者さんの見分け方についてお話ししていくことにいたしましょう。

解体業者のホームページを確認

質の良い解体業者を見付けるためには、まずホームページを確認しましょう。

今やホームページを持っているのが当たり前の時代ですし、事業に力を入れているのであれば、それなりのクオリティーのページを作成しているはずです。

*老舗の有料業者の中にはホームページを持っていない会社もありますが、初心者がこうした業者を探し出すのは至難の業ですので、今回は敢えて除外いたします。

そして、ホームページを開いたら

  • 電話連絡先
  • 解体業の免許の有無
  • 会社概要

以上の3点を確認しましょう。

電話連絡先が携帯電話になっているようでは会社の規模が小さ過ぎますし、いざという時に連絡が取れなくなる可能性があります。

また、解体業を営むためには行政の許認可が必要となりますので、ホームページ内に認可を受けている旨の記載がある否かもチェックしておくべきでしょう。(解体業の許認可についての詳細は後述いたします)

そして、会社概要を確認して「どれくらいの歴史がある会社なのか」「従業員は何人いるのか」といった情報も得ておくべきです。

更にはストリートビューなどを確認して、会社所在地の状況を見ておけば万全でしょう。

解体業者の許認可について確認

前項で申し上げた通り、解体業を営むためには行政による認可(免許や登録)が必要であり、正式な認可が下りている会社であれば、

  • 解体工事の建築業許可(建設業法)
  • 土木工事または建築工事の建築業許可(建設業法)
  • 解体工事業の登録(建設リサイクル法)

のいずれかを受けているはずです。

なお、「解体工事の建築業許可を有している会社」だけは500万円以上の高額な工事を引き受けることが可能であり、

「土木工事または建築工事の建築業許可」や「解体工事業の登録」のみの業者は500万円未満の工事しか請け負うことができません。

更に、建築業許可には都道府県知事許可と国土交通大臣許可の2種類があり、国土交通大臣許可を受けている業者は日本全国どこでも作業が可能となりますので、より規模の大きな会社である可能性が高いでしょう。

解体業者へ電話で問い合わせ

続いて行うべきなのは、解体業者への電話での問い合わせとなります。

昨今ではメールなどでの問い合わせが主流となりますが、これでは業者の人柄や誠実さを判断することができませんので、面倒でもここは必ず電話で直接話をしましょう。

そして、問い合わせの際には

  • 物件の所在地を伝えた上で、無料見積もりが可能か
  • 作業によって損害が発生した場合の賠償保険に加入しているか
  • 工事請負契約書の取り交しを行うか
  • 近隣への挨拶や工事に係わる各種手続き(水道・電気等の停止手続きや行政への届出)を代行してもらえるか

以上の点を確認した上で、見積もりの作成依頼をしましょう。

*表記4つの質問に対しては「全て可能」という回答の業者にのみ見積もりの作成依頼をしてください。

*見積もりの作成は複数の業者に依頼する(相見積もりを取る)べきですので、少なくと2社以上に声を掛けるようにしましょう。

解体業者の現地調査

見積もり作成の依頼を行うと、多くの解体業者が調査(下見)のために現地を訪れることになります。

なお、業者の中には下見をせずに見積書を提出してくるところもありますが、こうした会社には依頼を行わない方が無難でしょう。

そして、この現地調査に関しては依頼者自身が立ち会うのがおすすめです。

解体業者の社員と直に会うことができれば、その服装や立ち振る舞い、会話の内容から会社の姿勢も見えて来るものです。

また、この際に以下の事項についても確認しておくのが良いでしょう。

  • 足場の設置位置と隣地への越境の有無
  • 粉塵、防音、振動等の対策ついて
  • 交通誘導員等の安全対策について
  • アスベスト対策について
  • 廃棄物の処分方法について
  • 工事スケジュールについて

解体工事に際しては建物の周りに足場を組みますが、敷地ギリギリまで建物が建っているような物件においては足場が敷地内に収まりきらず、お隣の敷地にはみ出してしまうこともあります。

よって事前に足場の予定位置を確認し、越境して設置しなければならない場合には「早めに業者から近隣住民へのお声掛け(越境設置の承諾のお願い)」をしておかねばなりません。

なお、解体作業に際しては粉塵や騒音、振動が発生しますので、これらに対してどのような対策を講じるかも事前に確認しておくべきですし、

前面道路の通行量が多い場合や通学路となっているケースでは交通誘導員の手配を予定しているか、また道路使用許可の申請を行うかについても聞いておきましょう。

更に、解体工事は開始された後に建物にアスベストが使用されていることが発覚すると工事費用やスケジュールに大幅なズレが生じることになりますので、見積もりの段階でこうしたリスクの有無をチェックすると共に、

「アスベストを除去する際の届出」や「解体工事開始の届出」、「産業廃棄物管理票」の発行についても適法に行ってもらえるか(廃棄物の処分を適法に行なってもらえるか)を確認しておくべきです。

ちなみに、工事期間についてもヒヤリングしておくべきですし、工程表を作成してもらえる業者を選ぶのが望ましいでしょう。

解体業者からの見積書の精査と発注

こうして現地調査での打ち合わせが無事に終われば、後は見積書が届くのを待つのみとなりますが、1社のみの見積もりでは工事費用の比較ができませんから、少なくとも2社以上に相見積もりを依頼しましょう。

そして各社の見積書が出揃ったならば、解体費用の総額を見るだけではなく、その中身をじっくりと比較することが重要です。

解体費用の総額が安くとも、防音や粉塵への対策が不十分であれば近隣へ迷惑を掛けてしまうことになりますし、他の業者に比べて廃材の処分費が異常に安価な場合にはしっかりと理由を確認してから発注しなければなりませんよね。

なお、これは私の経験則ではありますが、各項目の内容が詳細に書かれている見積書を作成してくる業者ほど、優良な会社が多いように思えます。

解体業者の中には、工事項目の欄に「工事一式」としか書かれていないシンプル過ぎる内容の見積書を出してくる会社もありますが、これでは必要となる部材の数や単価の計算もいい加減なはずですし、

どんぶり勘定であるが故に結果的に追加費用が発生する可能性が高まってしまいますので、こうした業者が低評価となってしまうのは当然の結果なのかもしれません。

こうして見積もりの精査が完了すれば、後はこのセレクションを勝ち抜いた解体業者に発注を掛け、工事請負契約を締結するのみとなります。

さてここまで見てきたように、解体業者選びに当たっては多くのチェックポイントがありますので、これらをしっかりと実践していただければ、冒頭でお話ししたような解体工事に関わる様々なトラブルを回避することができるはずです。

施主としての義務を果たす

また解体工事においては、施主自身にも「やっておくべきこと」が多数存在しています。

例えば、優良業者に工事を依頼すれば「近隣へのあいさつ回りは必ず行ってくれる」はずですが、施主自身も独自にあいさつ回りをすることは、近隣トラブルを回避する上で非常に有効です。

そして可能であるならば、解体業者が挨拶に行くよりも先に、施主が近隣に声を掛けておくのがベターでしょう。

更に、近隣に問題のある住人(気難しい住人など)がいるのならば、その旨を解体業者に伝えておくことも大切です。

なお、工事が始まる前に隣接するお宅の外壁の写真を撮影しておくことも忘れないようにしましょう。

「近隣とのトラブル」の項でもお話しした通り、工事完了後に『解体の衝撃で建物が傷付いた』というクレームが入ることは珍しくありませんから、工事前の写真を撮っておけば『解体工事のせいではない』という反論が可能になります。

ちなみに、解体工事では『壊してはマズイものを壊してしまう』というトラブルも少なくありません。

お隣との地境を示す境界標や、境界線上に建てられた「お隣と共有のブロック塀」に、自分の敷地内を通過する他人の配管(水道や下水)などを破壊してしまうと大問題に発展する可能性がありますので、

壊してはマズイものがある場合には「図面に書き込みを行い、これを施工業者に渡しておく」などの配慮が必要になります。

解体工事の流れ

では、前項の注意点を踏まえながら、ここでは解体作業の流れについて解説を行っていきましょう。

工事業者の選定が完了し、発注を済ませたならば、まずは率先して施主自らが近隣のあいさつ回りに行きましょう。

丁寧な解体業者であれば、必ずあいさつ回りはしてくれるはずですが、まずは施主自身がこれに先行して「近隣への声掛け」をすることが重要です。

また、電気やガスが建物に供給された状態で工事を始めることはできませんので、作業開始前に改めて解体業者に使用停止の連絡をしたかの確認を行います。

※解体工事では埃の飛散を防止するために、水を巻きながら作業をしますので水道は使用可能な状態とするのが通常ですが、水道料金については工事業者の負担となります。

更に解体対象の建物の面積によっては行政への届出が必要となりますので、業者が用意する委任状に署名・捺印を行うことになるでしょう。

そして、着工前に近隣の建物の外壁の写真撮影を行った上、撤去してはならないもの(境界標や共有のブロック塀、隣地の配管など)を再度業者と確認してから作業開始となります。

工事については、まず足場や養生シート(埃の飛散などを防ぐシート)の設置を行った上、室内の造作や設備(ユニットバスやキッチンなど)を可能な限り撤去した後に、

重機による本格的な解体作業(躯体の解体)が開始されるのが通常です。(隣家とあまりに建物が近接している場合には、手作業による解体となります)

その後は、建物の基礎部分を解体、地中埋設物の撤去等を行い、整地をして作業は完了となります。

なお、更地となった状態ですと不法投棄の被害を受ける可能性が高いので、土地の周辺にロープを張るなどの養生作業も必須となるでしょう。

ちなみに、建物を建てた際には法務局に対して表示登記を行う義務がありますが、解体が完了したからといって登記が勝手に抹消(滅失登記)される訳ではありません。

よって、解体業者から建物滅失登記に必要な書類(建物解体証明書)を受取り、登記の申請を行うことも忘れずに行いましょう。(滅失登記を行わないと、対象の土地に対して住宅ローンなどを申請できない場合があります)

解体工事まとめ

さてここまで、解体工事というテーマでお話をしてまいりました。

解体工事は「建物を壊す」という単純な作業でありながら、プロの不動産業者であっても『非常に気を遣うデリケートなもの』となりますので、決して油断することなく工事の手配を進めてください。

また、工事を成功に導くためには「業者の選定が何よりも重要」といわれていますから、本記事を参考にして信頼の置ける業者を見付けていただければ幸いです。

また解体業者の選定も重要ですが、発生する問題の多くは「近隣関係に起因するもの」となりますから、普段からご近所とお付き合いを密にして、良好な関係を築いておくことも大切であるかと思います。

ではこれにて、「解体工事の流れや注意点を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。