家賃の供託とは?大家さんが知っておきたい仕組みと還付の注意点

家賃の値上げや契約の更新を巡って入居者と話し合っているときに、「家賃を供託しました」という通知が届くことがあります。普段の口座には入金されていないため、大家さんとしては「滞納ではないのか」「預けられたお金を受け取ってもよいのか」と戸惑うことでしょう。

家賃の供託は、受取拒否などの事情で通常の支払いができない場合に、法務局などの供託所へお金を納める制度です。法律上の要件を満たした弁済供託であれば、対象となる家賃について、支払義務を消滅させる効果があります。

ただし、供託されたというだけで、入居者の主張がすべて認められたわけではありません。一方で、大家さんも通常の滞納と同じように対応してよいとは限らず、供託の理由と、何について争っているのかを確認する必要があります。

そこで今回は、家賃の供託が利用される場面から、通知を受け取った大家さんの確認事項、供託金の還付を受ける際の注意点まで解説していきます。

この記事のポイント
  • 家賃の供託には、受領拒否などの法律上の要件が必要です。
  • 供託された家賃を大家さんが受け取ることを「還付」といいます。
  • 家賃の増額や契約終了を争っている場合は、還付の前に主張と受け取り方を整理することが大切です。

家賃の供託通知書を確認する大家さん

目次

家賃の供託が利用されるのはどのような場合か

供託にはさまざまな種類がありますが、家賃の支払いで主に関係するのは「弁済供託」です。これは、支払う側にお金を用意する意思と能力があっても、受け取る側の事情などによって支払いを完了できない場合に利用されます。

家賃の弁済供託が問題になる代表的な場面としては、次のようなものがあります。

大家さんが家賃の受け取りを拒否している場合

例えば、大家さんが家賃の増額を求めている一方、入居者は従来の金額が妥当だと考えているケースです。大家さんが「値上げ後の金額でなければ受け取らない」として受領を拒否すると、入居者が家賃を供託することがあります。

また、大家さんは契約が終了したと考えているものの、入居者は契約の継続を主張している場合にも、家賃の受取拒否をきっかけとして供託が行われることがあります。

ただし、単に値上げを請求したことや、退去について話し合っていることだけで、直ちに供託の要件が整うわけではありません。受領拒否を理由とする供託では、原則として適法な弁済の提供が必要であり、具体的にどのような支払いの申し出と対応があったのかが重要になります。

大家さんが家賃を受け取れない場合

大家さんが行方不明となり、ほかにも有効な支払方法がないなど、家賃を受け取ることができない事情がある場合です。このような「受領不能」も、弁済供託の原因となります。

もっとも、電話が一度つながらなかった、振込先が分からなくなったといった事情だけで、当然に供託できるとは限りません。契約書や過去の案内を確認し、管理会社へ問い合わせるなど、通常の支払いができない事情を確かめることが必要です。

誰に家賃を支払えばよいか分からない場合

大家さんが亡くなり、相続人が誰なのか分からない場合や、複数の人から家賃を請求され、どちらに支払うべきか判断できない場合などです。自分に過失がないにもかかわらず、真の受取人を知ることができないときは、「債権者不確知」を理由とする弁済供託が検討されます。

大家さんが亡くなれば、必ず供託が必要になるという意味ではありません。家賃を受け取る権限のある人や、有効な支払先が確認できているかどうかによって対応は異なります。

供託すれば必ず家賃滞納を避けられるわけではない

供託は、「大家さんと意見が合わないので、今後は自由に法務局へ支払う」という制度ではありません。受領拒否などの供託原因があることに加え、対象となる債務や金額などについても、適切に手続きする必要があります。

値上げに納得できないことと、供託できることは別

建物の家賃増額について協議がまとまらない場合、借地借家法第32条では、増額を正当とする裁判が確定するまで、借主は自分が相当と認める額を支払えば足りるとされています。従来の家賃額を支払う対応が考えられますが、好きな金額に減らしてよいという意味ではありません。

そして、大家さんが支払いを受け付けているのであれば、「値上げに反対だから」という理由だけで供託に切り替えられるわけではありません。値上げを巡る争いと、供託の要件を満たしているかどうかは分けて考える必要があります。

なお、後の裁判で増額が認められ、既に支払った額に不足がある場合には、不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければならないとされています。供託によって、将来の差額精算まで不要になるわけではない点にも注意しましょう。

供託が受理されたことと、争いの解決は別

供託所で手続きが受理されたからといって、家賃の適正額や契約終了の有効性まで判断されたわけではありません。供託の有効性そのものが、後に裁判などで争われることもあります。

大家さんは「供託された以上、何も主張できない」と考える必要はありませんが、反対に「自分の口座に入っていないから滞納だ」と決めつけることも避けるべきです。通知とこれまでの経緯を確認し、必要に応じて弁護士に判断を求めましょう。

大家さんに供託の通知が届いたら確認すること

供託の通知を受け取ったら、まずは内容を保存し、賃貸借契約書や入金履歴と照合します。供託されたという事実だけでなく、「どの月の、何のお金が、いくら納められているのか」を確認することが出発点です。

  • 供託者と被供託者の氏名・名称
  • 対象となる物件と家賃の期間
  • 供託金額と、家賃・共益費などの内訳
  • 受領拒否など、供託の原因として記載されている内容
  • 供託所、供託年月日、供託番号
  • 契約書や実際のやり取りと異なる記載がないか

例えば、家賃だけが供託され、共益費については別に振り込まれていることも考えられます。反対に、入居者が供託したと説明していても、確認できるのは一部の月だけという場合もあるため、月ごとに整理しておくと状況を把握しやすくなります。

管理会社へ委託している場合は、通知の写しを共有し、入金管理上の扱いや入居者への連絡方法を確認しましょう。担当者が供託を把握しないまま通常の督促を続けると、話が食い違う原因になります。

管理上の注意点

「通常の口座には未入金」「供託の通知を確認」「供託金は未受領」というように、事実を分けて記録しておくと整理しやすくなります。通知の確認と、実際に還付を受けたことを混同しないようにしましょう。

スポンサーリンク

供託金の「還付」と「取戻し」の違い

供託されたお金の払い渡しには、「還付」と「取戻し」という異なる手続きがあります。誰が、どのような立場で受け取るのかを区別しておきましょう。

還付は、本来お金を受け取る側が受領すること

家賃の供託であれば、通常は被供託者となっている大家さんが、供託金の払い渡しを請求することを指します。供託金は大家さんの口座へ自動的に入金されるわけではなく、所定の手続きが必要です。

手続きに当たっては、供託金払渡請求書や、還付を受ける権利を確認するための書類などが必要になります。個人・法人の別、相続や代理申請の有無などによって添付書類が異なるため、供託を取り扱っている法務局へ事前に確認しましょう。

取戻しは、供託した側が取り戻すこと

一方、入居者などの供託者が、自分で納めたお金を取り戻す手続きが「取戻し」です。ただし、大家さんが供託を受諾している場合など、取り戻せない場合もあります。

また、民法第496条に基づいて供託物を取り戻した場合には、供託をしなかったものとみなされます。入居者としては、別途適切に支払いを済ませるなどの対応をしなければ、家賃の未払いが問題となり得ます。

家賃の増額や契約終了を争っている場合の還付の注意点

大家さんにとって気になるのは、「供託金を受け取ると、入居者の言い分を認めたことにならないか」という点でしょう。還付を受けることだけで結論が一律に決まるわけではありませんが、争っている内容によっては、受け取り方を慎重に整理する必要があります。

家賃の増額を争っている場合

例えば、月額8万円の家賃を9万円へ増額するよう請求し、入居者が従来の8万円を供託しているケースです。大家さんが増額の主張を続けるのであれば、受領の際にも、その立場が分かるようにしておくことが大切です。

実務では、還付請求の際に「賃料の一部として受領する」旨を留保し、入居者に対しても、その趣旨を内容証明郵便などで通知する対応が取られます。受領した金額だけで家賃の全額が支払われたと認める趣旨ではないことを、明確にしておくためです。

ただし、この対応によって希望した増額が認められるわけではありません。増額の根拠や適正額については、引き続き協議や調停、訴訟などで解決する必要があります。

更新拒絶や契約終了を争っている場合

大家さんが契約の終了を主張し、入居者は契約が続いているとして家賃を供託している場合には、さらに慎重な整理が必要です。通常の家賃として受け取るのか、契約終了後の使用に伴う損害金として受け取るのかという問題が生じるためです。

もっとも、大家さんが一方的に「損害金として受け取る」と記載すれば、契約が有効に終了したことになるわけではありません。契約の種類、終了を求めた理由、通知の内容や時期、その後の対応などを確認する必要があります。

特に普通建物賃貸借の更新拒絶や解約申入れでは、正当事由などの要件が問題になります。還付請求の記載や入居者への通知は、契約終了に関する主張と矛盾しないよう、弁護士と相談してから進めるのがよいでしょう。

立ち退き交渉の実際の流れについては、別記事のアパートの立ち退き交渉に関する体験記事でも紹介しています。

受け取る際の「名目」だけで判断しない

「一部として受領する」「損害金として受領する」と書くだけで、その後の交渉や裁判で必ず不利益を避けられるわけではありません。還付請求の内容、相手への通知、これまでのやり取りを一体として整理することが大切です。

管理会社や弁護士に相談する際に整理しておく資料

供託の通知が届いてから相談する場合でも、これまでの経緯がまとまっていれば、確認を進めやすくなります。特に、家賃の受け取りを拒否したかどうかは、当事者間で認識が異なりやすい部分です。

  • 賃貸借契約書、更新契約書、家賃変更に関する合意書
  • 家賃や共益費の入金履歴、返金した場合の記録
  • 増額請求、更新拒絶、解約申入れなどの通知と到達が分かる資料
  • メール、書面、メッセージなど、入居者とのやり取り
  • 電話や面談の日時・発言内容を記録したメモ
  • 供託の通知、供託内容が確認できる書類
  • 既に還付を受けた場合は、その請求書の控えや通知の記録

例えば、管理会社が入居者へ「従来の家賃は受け取れません」と伝えていたのに、大家さんはその事実を知らないということも考えられます。大家さんと管理会社の認識をそろえ、誰が何を伝えたのかを時系列で確認しましょう。

管理会社には入金状況の整理や連絡経緯の確認を依頼し、供託の有効性、還付の際の意思表示、明渡しや増額請求の進め方など、法的判断が必要な部分は弁護士へ相談することが大切です。管理委託の範囲については、賃貸管理会社の仕事内容を解説した記事も参考にしてください。

スポンサーリンク

まとめ|家賃の供託には、理由と受け取り方の確認が大切

家賃の供託は、受領拒否などによって通常の支払いができない場合に利用される制度です。供託した入居者を、それだけで問題のある人物と判断する必要はありませんが、大家さんとしても、通知を放置せず内容を確認することが求められます。

まずは供託の原因、対象期間、金額を整理し、契約書や入金履歴と照合しましょう。そのうえで、家賃の増額や契約終了について争っている場合には、還付を受ける前に、自分の主張と受け取り方を整理することが大切です。

供託金を受け取る手続きと、当事者間の争いを解決することは別の問題です。管理会社と情報を共有し、必要に応じて弁護士へ相談しながら、支払いの問題と契約上の問題をそれぞれ進めていきましょう。

※本記事は、主に建物賃貸借における家賃の弁済供託について、一般的な仕組みと確認事項を解説しています。個別の供託の有効性や還付時の対応は、契約内容・通知・交渉経緯などによって異なります。手続きは法務局へ、具体的な紛争への対応は弁護士へご確認ください。

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次