賃貸管理会社の仕事をしていると、設備の故障や漏水、騒音、近隣トラブルなど、さまざまなクレームが入ります。
なかには、入居者の話を聞いて補修業者へ連絡すれば解決するものもあります。しかし、状況の把握が不十分なまま業者へ丸投げしたり、入居者の一方的な話だけを聞いて相手方を注意したりすると、かえって問題を大きくしてしまうことがあります。
クレーム対応で重要なのは、単に苦情を処理することではありません。
事実関係を確認し、必要な人へ正確に情報を伝え、解決までの進捗を管理し、最後に記録を残すところまでが管理会社の仕事です。
この記事では、賃貸管理の実務経験をもとに、クレームを受けたときの初動から設備故障、騒音・近隣トラブル、強い要求への対応まで詳しく解説します。

賃貸管理で発生する主なクレーム
賃貸物件で発生するクレームは、大きく次のように分けられます。
- エアコンや給湯器、水回りなどの設備に関するもの
- 雨漏りや漏水、共用部分など建物に関するもの
- 騒音や振動、臭いなど近隣関係に関するもの
- 賃料、更新、退去、敷金精算など契約に関するもの
- 管理会社や補修業者の対応に関するもの
同じ「設備が壊れた」という連絡でも、お湯が出ない、トイレが使えない、漏水が続いているといった場合には、日常生活への影響が大きいため緊急性が高くなります。なお、契約上の設備と残置物では修理時の扱いが異なるため、詳しくは「賃貸の残置物と設備の使い分け」もご覧ください。
一方、騒音や近隣トラブルでは、申告した人と相手方で認識が大きく異なることも珍しくありません。クレームの種類によって確認すべきことや対応方法を変える必要があります。
クレーム対応は最初の聞き取りで大きく変わる
クレームの連絡が入ったら、まずは相手の話を詳しく聞きます。
この段階で「それでは業者へ連絡しておきます」と簡単に話を終えてしまうと、業者も何を確認すればよいのか分からず、訪問後に再手配が必要になることがあります。
発生日時と現在の状況を確認する
最低限、次の内容は確認しておきたいところです。
- いつから発生しているのか
- どこで何が起きているのか
- 現在も症状が続いているのか
- 常に発生するのか、特定の条件で発生するのか
- 日常生活にどの程度の支障が出ているのか
- 入居者自身で行った操作や確認はあるか
- 室内や家財に被害が出ていないか
設備には型番やエラーコードが表示されている場合もあります。可能であれば、機器全体と型番、エラー表示が分かる写真を送ってもらうと、業者へ状況を伝えやすくなります。
写真や動画を送ってもらう
言葉だけでは伝わりにくい不具合もあります。
水漏れの量、異音、設備の動き、壁や天井の変色などは、写真や動画を送ってもらうことで状況を把握しやすくなります。ただし、動画だけで原因を断定することはできません。あくまで緊急性や訪問時に必要な準備を判断するための資料として利用します。
聞き取った内容を細かく記録する
電話を受けた日時、入居者の説明、管理会社から案内した内容、受け取った写真や動画などは、案件ごとに記録します。
担当者の記憶だけに頼ると、後日「言った・言わない」の問題が生じたり、別の担当者へ正確に引き継げなかったりします。
設備や建物のクレームに対応する流れ
設備故障や建物の不具合では、業者を手配して終わりにせず、訪問、見積もり、工事、完了確認まで管理会社が流れを把握することが大切です。
業者へ連絡する前に個人情報の提供を確認する
補修業者から入居者へ直接連絡してもらう場合には、その旨を入居者へ説明します。
そのうえで、携帯電話番号などの連絡先を業者へ伝えてよいか確認します。業者が訪問日時を調整するために必要だからといって、本人への説明もなく個人情報を渡してよいわけではありません。
入居者から了承を得たことについても、対応記録に残しておきましょう。
業者には具体的な状況を伝える
業者には「エアコンが壊れた」「水が漏れている」とだけ伝えるのではなく、入居者から聞き取った内容を具体的に伝えます。
- メーカーや型番
- 使用年数
- エラーコード
- 不具合が発生する条件
- 水漏れや異音の程度
- 写真や動画
- 入居者の在宅可能な時間帯
情報が多いほど、業者も必要な工具や部品、想定される作業を準備しやすくなります。
業者の反応が遅いときは現地へ行く
繁忙期や緊急案件が重なっていると、すぐに業者から返事が来ないこともあります。
しかし、業者からの返答を待つだけでは、入居者から見ると「管理会社が何もしてくれない」状態になってしまいます。修理そのものはできなくても、状況次第では管理会社が現地へ行き、自分の目で不具合を確認します。
現地を確認することで、入居者の説明だけでは分からなかった被害の範囲や緊急性が見えてくることもあります。漏水などの案件では、ほかの部屋や共用部分への影響も確認しなければなりません。
当日中に業者の訪問予定を確認する
業者へ連絡しただけで、その日の対応を終わりにしてはいけません。
クレームの連絡を受けた当日中に、少なくとも次の点を確認します。
- 業者から入居者へ連絡したか
- 現地確認はいつになるか
- すぐに訪問できない場合、いつ連絡できるか
- 応急処置が必要か
訪問日がすぐに決まらない場合でも、「業者へ連絡済みで、明日の午前中までに訪問予定を確認します」など、現在の進捗と次の連絡時期を入居者へ伝えておくことが大切です。
工事が終わるまで業者へ丸投げしない
業者が現地を確認した後も、管理会社は進捗を把握します。
- 不具合の原因
- 修理か交換か
- 見積もりの提出時期
- オーナー判断が必要な内容
- 部品の入荷予定
- 工事予定日
- 再訪問の有無
工事日が決まっているのか、入居者へ連絡が済んでいるのかを確認せずにいると、双方が相手からの連絡を待ったまま案件が止まってしまうことがあります。
完了後の状態を確認して記録を残す
工事が完了したら、施工日、施工内容、不具合の原因、施工業者、入居者の反応などを記録します。修理前後の写真も可能な限り保存します。
生活への影響が大きかった案件、漏水や建物に関係する案件、再発のおそれがある案件では、必要に応じて管理会社も現地へ行き、完了後の状態を確認します。
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騒音や近隣トラブルでは事実確認を徹底する
騒音や近隣トラブルは、設備故障のように原因が目に見えるとは限りません。
音の感じ方には個人差があり、発生する時間帯や室内の位置によって聞こえ方も変わります。そのため、申告した側の話だけで相手方を注意するのは避けるべきです。
申告者から具体的な状況を聞く
まずは、次の内容を確認します。
- どのような音や行為なのか
- 何時頃に発生するのか
- 毎日なのか、特定の曜日だけなのか
- 一回あたりどの程度続くのか
- どの部屋から発生していると思うのか
- 録音や動画、日時の記録はあるか
- 相手方と直接やり取りしたことがあるか
申告者には、今後発生した日時や状況を記録してもらうこともあります。
管理会社が自分の目と耳で確認する
騒音であれば、可能な限り音が発生しやすい時間帯に現地へ行き、実際に聞いてみます。
近隣トラブルであれば、共用部分の使い方、物の置かれ方、当事者同士の位置関係など、問題となっている現場を自分で確認します。
申告された状況を管理会社も体験することで、音の大きさや生活への影響、現実的な改善方法を検討しやすくなります。
最初から相手方を加害者と決めつけない
相手方へ連絡するときは、申告者の言葉をそのままぶつけるのではなく、まず相手方の認識を確認します。
本人が音を出していることに気づいていない場合もあれば、申告者が発生源を勘違いしている場合もあります。また、相手方にも事情や言い分があるかもしれません。
管理会社は、どちらか一方の代理人として相手を責めるのではなく、双方から個別に話を聞きます。
双方の言い分を整理して落とし所を探す
双方の話を聞いたら、次のように情報を整理します。
- 双方の説明が一致している部分
- 認識が食い違っている部分
- 管理会社が現地で確認できた事実
- 客観的には確認できなかった内容
そのうえで、家具や家電の配置変更、防振材の設置、生活時間への配慮、共用部分の使い方の変更、一定期間の経過観察など、双方が受け入れられる落とし所を探します。
近隣トラブルの目的は、勝ち負けを決めることではありません。双方が再び落ち着いて生活できる状態をつくることが大切です。
強い要求や金銭請求にはどう対応するか
クレームを伝える人が、感情的になって強い口調で話すこともあります。
このような場合でも、最初から相手の話を否定せず、まずはしっかり聞きます。不満やこれまでの経緯をすべて話したことで、気持ちが落ち着くケースも少なくありません。
まずは管理会社が大家さんの防波堤になる
入居者から連絡が入るたびに大家さんへ直接対応してもらうと、相手の勢いに押され、その場で金銭の支払いや工事を約束してしまうことがあります。
管理会社が先に話を受け止め、相手の主張と事実関係を整理することで、大家さんが冷静に判断する時間を確保できます。
話を聞くことと要求を受け入れることは別
相手の話は丁寧に聞きますが、その場で補償や金額を約束してはいけません。
「状況を確認したうえで、オーナーへ報告します」「責任の範囲も含めて確認し、改めて回答します」などと伝え、いったん持ち帰ります。
確認する内容は次のとおりです。契約上の責任範囲を判断する際には、賃貸借契約書の本文だけでなく、特約事項の内容も確認します。
- 相手が訴えている事実
- 管理側に責任がある部分
- 実際に発生した損害
- 相手が求めている対応や金額
- 契約書の定め
- これまでの連絡と対応履歴
相手の言い分に理があり、補償を検討すべき事情があれば、その内容を大家さんへきちんと説明します。
大家さんから相談された場合も親身に対応する
大家さんが入居者から金銭を要求され、対応に困っている場合には、管理会社も親身になって相談に乗ります。
賠償義務があると考えられる場合には、その可能性を率直に伝えます。一方、管理側に責任がないと考えられる要求については、安易に応じる必要がないことも説明します。
ただし、損害賠償義務の有無は、原因、契約内容、管理状況、損害との因果関係などによって変わります。管理会社だけで断定できない案件は、弁護士や保険会社などへ確認します。
お見舞金による解決を検討する場合もある
法的な賠償義務が明確ではなくても、入居者が長期間不便を受けた場合などには、心情に配慮して一定の金銭を支払い、早期解決を図ることもあります。
その際に「賠償金」ではなく「お見舞金」などの名目を用いることもありますが、名称を変えれば法的責任の問題がなくなるわけではありません。
金銭を支払う場合には、何に対する支払いなのか、どこまでを解決するのか、追加請求の扱いをどうするのかなどを整理します。金額が大きい場合や将来の請求が懸念される場合には、合意書の作成も含めて専門家へ相談したほうが安全です。
度を越した要求は専門家へ相談する
相手の話を丁寧に聞くことと、度を越した要求を受け入れることは別問題です。
- 威圧的または侮辱的な発言を繰り返す
- 長時間の電話や面談を強要する
- 根拠の確認できない高額な金銭を要求する
- 担当者個人を執拗に責める
- 自宅や勤務先へ押しかけると告げる
- 暴力や危害を示唆する
このような場合は、やり取りの日時、発言内容、要求された内容を記録し、大家さんへ詳しく報告します。管理会社や大家さんだけで抱え込まず、必要に応じて弁護士や警察などへ相談します。
クレーム対応でその場で約束してはいけないこと
クレームを早く収めたいという気持ちから、担当者がその場で結論を出してしまうのは危険です。
特に、次の内容は確認せずに約束しないようにします。
- 修理費用や買い替え費用を全額負担すること
- 家財などの損害をすべて補償すること
- 賃料を減額または免除すること
- 防音工事など大がかりな工事を実施すること
- 特定の入居者を退去させること
- 希望する期日までに必ず工事を終えること
管理会社の担当者が一度約束すると、あとから「オーナーの承諾が得られなかった」と説明しても、入居者の納得を得にくくなります。
すぐに回答できない内容は、確認が必要であることと、いつ頃までに連絡するかを伝えます。
クレームの対応履歴を残す理由
記録を残す目的は、将来のトラブルに備えることだけではありません。
- 同じ設備で不具合が再発したときに過去の履歴を確認できる
- 業者の施工内容や保証範囲を確認できる
- 大家さんへ費用と経緯を説明しやすい
- 担当者が変わっても正確に引き継げる
- 建物ごとの弱点や故障傾向を蓄積できる
- 入居者との認識の食い違いを防ぎやすい
一つひとつの対応履歴は、その物件を今後管理していくための重要な情報になります。
同じ業者に継続して補修を依頼している場合には、業者側にも建物の構造や過去の工事履歴が蓄積されます。原因を特定しにくい漏水や配管、電気系統の不具合では、この蓄積が問題解決に役立つことがあります。
管理会社だけでは対応できないクレームもある
管理会社は、すべての問題を解決できるわけではありません。
次のような案件では、専門家や関係機関への相談が必要になります。
- 犯罪や身の危険が疑われる案件
- 法的責任や高額な損害賠償が争われている案件
- 当事者間の感情的対立が激しく、話し合いが成立しない案件
- 医学的、建築的または法律的な専門判断が必要な案件
- 管理委託契約の範囲を越える案件
管理会社が対応できる範囲を見極め、必要な段階で弁護士、警察、保険会社、建築士、専門業者などにつなぐことも、適切なクレーム対応の一つです。
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賃貸のクレーム対応まとめ
賃貸のクレーム対応では、最初の聞き取り、現場での事実確認、業者や大家さんとの情報共有、解決までの進捗管理、完了後の記録が重要です。
特に設備や建物の不具合は、業者へ手配しただけで終わらせてはいけません。訪問日や工事日を管理会社も把握し、必要に応じて現地を確認したうえで、完了まで案件を追い続けます。
騒音や近隣トラブルでは、一方の主張だけで判断せず、管理会社自身が自分の目と耳で事実を確認します。そのうえで双方の話を聞き、現実的な落とし所を探します。
また、強い要求を受けたときには、まず管理会社が大家さんの防波堤となって話を聞きます。ただし、話を聞くことと、度を越した要求を受け入れることは別です。責任の範囲を整理し、必要な場合は早めに専門家へ相談しましょう。
クレームを完全になくすことはできません。しかし、誠実な初動と細かな進捗管理、正確な記録を積み重ねることで、問題の長期化や再発を防ぎ、入居者と大家さんの双方から信頼される管理につながります。
現場を知るから、本当に役立つ。







