賃貸物件を所有する大家さんにとって、空室を埋めてくれる不動産会社は非常に重要な存在です。
しかし実際に入居者募集を始めると、「管理会社」「元付け業者」「客付け業者」「仲介会社」など、いくつもの言葉が登場します。さらに、「AD50%」「AD100%」といった言葉を耳にして、「結局、誰が何をしているのだろう?」と疑問に感じる大家さんも少なくないでしょう。
そこで今回は、長年賃貸管理の実務に携わってきた経験をもとに、賃貸仲介における元付け業者と客付け業者の関係、仲介手数料、ADと呼ばれる広告料の考え方について、できるだけ分かりやすく解説します。
大家さんが賃貸募集の仕組みを理解しておくと、「なぜ管理会社とは別の不動産会社がお客様を案内しているのか」「空室が長引いたとき、何を確認すればよいのか」が見えやすくなります。
賃貸仲介は複数の不動産会社で行われることがある
まず理解しておきたいのが、賃貸物件の募集は、必ずしも1社の不動産会社だけで完結するわけではないという点です。
一般的な賃貸募集では、大家さんから募集を依頼された不動産会社が物件情報を公開し、別の不動産会社がお部屋を探しているお客様へその物件を紹介することがあります。このとき、大家さん側の不動産会社を「元付け業者」、入居希望者を連れてくる側の不動産会社を「客付け業者」と呼ぶことがあります。
大家さん → 元付け業者 → 客付け業者 → 入居希望者
もちろん、元付け業者自身がお客様を見つけ、そのまま内見・申込み・契約まで進めるケースもあります。この場合には、元付けと客付けを同じ不動産会社が担当することになります。
元付け業者とは
元付け業者とは、一般的には貸主である大家さんから直接、入居者募集の依頼を受けている不動産会社を指します。賃貸管理を管理会社へ委託している物件では、管理会社がそのまま元付け業者になるケースが多くあります。
「元付け業者=必ず管理会社」というわけではありません。物件管理は別の会社が行い、募集だけを依頼された不動産会社が元付けになるケースもあります。
また、元付け業者は必ずしも1社だけとは限りません。大家さんが複数の不動産会社へ入居者募集を依頼している場合には、2社、3社と複数の不動産会社が元付けとして募集しているケースもあります。
管理会社が元付けとなっている場合には、空室が発生すると大家さんと募集条件を確認し、物件資料を作成したうえで、不動産会社向けの情報システムや各種媒体などを利用して、他の不動産会社にも紹介できる状態にしていきます。
もちろん、管理会社自身が抱えているお客様へ直接物件を紹介することもあります。しかし、1社だけですべての空室にお客様を付けるのは現実的ではありません。そこで広く客付け業者にも物件情報を提供し、多くの不動産会社から入居希望者を紹介してもらうわけです。
元付け業者が担当する主な業務
会社や取引形態によって異なりますが、元付け側では一般的に次のような業務を担当します。
- 大家さんとの募集条件の打ち合わせ
- 賃料・敷金・礼金などの条件設定
- 物件資料の作成
- 他の不動産会社への募集情報の公開
- 空室状況や内見方法の案内
- 入居申込みの受付
- 大家さんへの申込内容の報告
- 保証会社への審査依頼
- 契約条件の調整
- 賃貸借契約書等の準備
- 入居開始日の調整
- 鍵の引渡しに向けた準備
実際の業務分担は会社によって異なりますが、物件側の情報を把握し、大家さんと直接やり取りする立場となることが多いのが元付け業者です。
管理会社にとって、「空室をどのような条件で募集するか」は非常に重要な仕事です。単に物件情報をインターネットへ掲載して終わりではなく、問い合わせ数や内見数、申込状況などを見ながら、賃料や初期費用、募集条件について大家さんへ改善を提案することもあります。
客付け業者とは
これに対して客付け業者とは、お部屋を探しているお客様に物件を紹介する側の不動産会社です。
例えば、お客様が駅前の不動産会社へ行き、「家賃8万円くらいで、駅から10分以内の1LDKを探しています」と相談したとします。
客付け業者は、自社で管理している物件だけではなく、他社が募集している物件も含めて条件に合うものを探し、お客様へ提案します。そこで今回の物件を気に入ってもらえれば、元付け業者へ連絡して空室状況や内見方法を確認し、案内を行います。
客付け業者が担当する主な業務
- お客様の希望条件のヒアリング
- 物件検索
- 物件の提案
- 空室確認
- 内見の手配・案内
- 申込条件の確認
- 入居申込書の案内・回収
- 元付け業者との条件調整
- 契約日時などの調整
- 契約に必要な書類の案内
入居希望者が「この部屋を借りたい」と決めた後も、客付け業者の仕事が終わるわけではありません。申込みから契約まで入居希望者側の窓口となり、元付け業者との間で連絡や調整を行う重要な役割があります。
一方、物件の管理状況や設備、契約条件などについて詳しい情報を持っているのは元付け側であることが多いため、審査や契約書類の準備、貸主との調整については元付け側が中心となるケースが少なくありません。
元付けと客付けが同じ会社になることもある
元付け業者自身がお客様を見つければ、当然ながら別の客付け業者は登場しません。例えば、管理会社のホームページや物件広告を見たお客様から直接問い合わせが入り、そのまま内見・申込み・契約となった場合です。
元付け業者自身がお客様を見つけた場合には、物件側と入居希望者側の仲介業務を同じ不動産会社が担当する形になります。
反対に、他社がお客様を連れてきた場合には、元付け業者と客付け業者の2社が関与します。
大家さんからすると、「管理会社に募集をお願いしたのに、なぜ知らない不動産会社がお客様を案内しているのだろう」と感じることもあるでしょう。しかし、これは決して珍しいことではなく、賃貸仲介では一般的に行われている仕組みです。
仲介手数料は誰が支払うのか
次に、賃貸仲介における仲介手数料について整理しておきましょう。
通常の賃貸借の媒介では、宅地建物取引業者が貸主・借主双方から受領できる報酬の合計額には上限があり、原則として賃料1か月分に消費税相当額を加えた範囲までとなっています。
また、居住用建物の賃貸借では、一方の依頼者から受領できる金額は原則として賃料0.5か月分に消費税相当額を加えた範囲までです。ただし、媒介の依頼を受ける際に依頼者の承諾を得ている場合には、一方から0.5か月分を超える報酬を受領することができ、通常は双方から受領する報酬の合計が賃料1か月分に消費税相当額を加えた範囲内となるようにします。
居住用賃貸の仲介手数料について、「借主が必ず家賃1か月分を支払う」と法律で決められているわけではありません。誰がどの割合を負担するかは、法令上の上限や承諾の有無、取引条件によって異なります。
実務では借主から仲介手数料を受領する形が多く見られますが、貸主が一部または全部を負担する形もあります。
2024年7月から、現に長期間使用されていない、または将来にわたり使用の見込みがない「長期の空家等」の貸借には、貸主側から受ける媒介報酬について特例が設けられています。
そのため、仲介手数料の上限を確認する際には、通常の賃貸借なのか、長期の空家等に該当する取引なのかを分けて考える必要があります。
ADとは?賃貸募集で使われる広告料の意味
賃貸管理や賃貸仲介の現場では、「AD」という言葉が頻繁に使われます。ADは「Advertisement(広告)」に由来する業界用語として使われており、「AD50%」「AD100%」「AD200%」などと表現されることがあります。
例えば、家賃10万円の物件について「AD100%」と表現されている場合、実務上は賃料1か月分に相当する10万円を基準として話がされているケースが一般的です。
こうしたADは、空室を早く決めるために、客付けを行う仲介会社へ積極的に物件を紹介してもらう目的で設定されることがあります。特に競合物件が多い地域や、長期間空室になっている物件では、「AD付き」という条件が仲介会社へ案内されることも珍しくありません。
実務上のADは、必ずしも「大家さんが客付け業者へ直接広告料を支払う」という形だけではありません。大家さんから管理会社・元付け業者へ支払われた広告宣伝費などを原資として、元付け側から客付け業者へ支払われるケースもあります。
また、管理会社や元付け業者が自社の営業施策として、自社負担で客付け業者へ広告宣伝費等を支払うケースもあります。このため、現場で「AD」と呼ばれている金銭でも、誰が誰に、どのような理由で支払っているのかは一様ではありません。
ここがADを理解するうえで少し分かりにくいところです。業界では同じ「AD」という言葉が使われていても、そのお金の出どころや支払先、支払いの根拠はケースによって異なります。
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ADと仲介手数料は同じものではない
一方で注意したいのが、「ADという名称を付ければ、仲介手数料とは別に自由に受け取れる」というわけではないことです。
宅地建物取引業者が媒介によって依頼者から受領できる報酬には、宅地建物取引業法に基づく上限があります。その一方で、依頼者の依頼によって行う広告の料金などについては、一定の場合に媒介報酬とは別に受領できるとされています。
「AD」「広告料」「広告宣伝費」と書かれていても、その名称だけで宅建業法上の扱いが決まるわけではありません。実際にどのような広告や業務に対して支払われる金銭なのか、誰から誰へ支払われるのかを確認する必要があります。
例えば、貸主から特別な広告の依頼を受けていないにもかかわらず、通常行うインターネット広告などの費用を「広告料」として仲介手数料とは別に貸主へ請求することについては、不動産適正取引推進機構も、支払う必要はないと考えられる旨を示しています。
つまり、実務上「AD」という言葉が広く使われていることと、宅建業法上どのような金銭を受領できるかという問題は、分けて考える必要があります。
大家さんがADを設定する場合には、「AD100%」という数字だけを見るのではなく、誰が費用を負担し、誰へ支払い、何の対価として支払われるのかまで確認しておくことが大切です。
空室が決まらないときはADだけで考えない
空室期間が長くなると、「もっと広告料を出せば決まるのではないか」と考えたくなるものです。しかし実務では、ADだけが入居を左右しているわけではありません。
例えば、次のような原因によって決まりづらくなっていることもあります。
- 周辺相場より賃料が高い
- 敷金・礼金などの初期費用が高い
- 室内写真の印象が悪い
- 募集図面が分かりづらい
- 設備が競合物件より弱い
- 内見時の室内清掃が不十分
- 入居可能日が遅い
- 保証会社などの入居条件が厳しすぎる
- 募集情報が十分に他社へ公開されていない
問い合わせそのものが少ないのであれば、まず賃料や初期費用、掲載内容などの「募集条件」を疑います。問い合わせはあるのに内見や申込みにつながらないのであれば、物件そのものや条件、写真、案内時の印象などを確認します。
申込みは入るのに審査で落ちる場合には、今度は審査条件や申込者層とのミスマッチを確認します。このように、どの段階でお客様が離れているのかを把握することが重要です。
単純に費用を増やすのではなく、まず「なぜ決まらないのか」を管理会社と一緒に分析することをおすすめします。
大家さんは客付け状況を管理会社へ確認してみよう
空室が長引いている場合には、「募集しています」という報告だけで終わらせず、大家さんから管理会社へ具体的な状況を確認してみるのも有効です。
- 問い合わせは何件くらいあるか
- 内見は何件入っているか
- 内見後に断られた理由は何か
- 周辺の競合物件はいくらで募集されているか
- 他の仲介会社から問い合わせは来ているか
- 募集条件について改善できる部分はないか
きちんと募集活動をしている管理会社であれば、このあたりの情報をある程度把握しているはずです。大家さんと管理会社がこうした情報を共有することで、家賃を下げるべきなのか、初期費用を見直すべきなのか、設備投資を行うべきなのか、といった判断もしやすくなります。
管理会社と客付け業者の関係を知ることも賃貸経営では重要
大家さんからすると、「管理会社に任せているのだから、入居者募集も全部管理会社がやっている」と考えてしまいがちです。しかし実際の賃貸市場では、元付け業者と客付け業者が連携しながら入居者を探しているケースが数多くあります。
つまり、管理会社に求められるのは、自社で入居者を見つける力だけではありません。他の仲介会社が紹介しやすい状態を作り、広く募集情報を届ける力も重要です。
良い管理会社であれば、空室が出たら募集情報を掲載して終わりではなく、反響状況を確認しながら必要に応じて大家さんへ改善策を提案してくれます。
賃貸管理会社がどのような仕事をしているのかについては、次の記事で詳しく解説しています。
また、空室が決まった後の家賃管理については、こちらの記事をご覧ください。
▶ 賃貸管理会社の入金管理とは?家賃の確認から滞納対応まで実務経験をもとに解説
賃貸保証会社の仕組みについてはこちらで詳しく解説しています。
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まとめ|賃貸仲介の仕組みを知れば管理会社との話もしやすくなる
今回は、賃貸仲介における元付け業者・客付け業者・仲介手数料・ADについて解説しました。
- 元付け業者は、大家さん側から募集依頼を受ける不動産会社
- 管理会社が元付けとなるケースは多いが、必ず同じとは限らない
- 客付け業者は、お部屋を探している入居希望者へ物件を紹介する
- 元付けと客付けを同じ不動産会社が担当することもある
- 居住用賃貸の仲介手数料には宅建業法上の上限がある
- 長期の空家等の貸借には、貸主側の媒介報酬について特例がある
- AD・広告料も、名称だけで仲介報酬とは別に自由に受領できるものではない
- 空室対策では、費用を増やすだけでなく決まらない原因を分析することが重要
大家さん自身が細かな仲介実務まですべて覚える必要はありません。しかし、元付けと客付けの仕組みを理解しておけば、管理会社から募集状況の報告を受けた際にも内容が分かりやすくなり、空室対策について相談するときにも話がスムーズになります。
特に空室が長引いている場合には、「もっと広告を出してください」とお願いするだけではなく、問い合わせ数・内見数・断られた理由・競合物件との違いまで管理会社へ確認してみてください。数字を追っていくと、どこで入居希望者が離れているのかが見え、空室の原因を絞り込みやすくなります。
不動産の知恵袋では、これからも大家さんや賃貸管理に携わる方に向けて、実際の管理現場で培った経験をもとに、賃貸経営に役立つ情報をお届けしていきます。
※本記事は一般的な賃貸仲介実務について解説したものであり、個別の契約に関する法的判断を行うものではありません。仲介報酬や広告費について具体的な判断が必要な場合には、契約内容や取引形態を確認したうえで、行政窓口や専門家等へご相談ください。







