賃貸経営を行う上で、大家さんを最も悩ませる問題のひとつが「空室」です。どれだけ表面利回りの高い物件を所有していても、入居者が決まらなければ家賃収入は発生しません。
空室期間が長くなると、「賃料を下げるべきなのか」「設備を新しくするべきなのか」「リフォームをするべきなのか」「募集条件を変更するべきなのか」「管理会社を変更した方がよいのか」など、さまざまな選択肢が頭に浮かんできます。
しかし、実際の賃貸管理の現場では、いきなり賃料を下げたり、高額なリフォームを行ったりするとは限りません。まず必要なのは、「なぜ、この部屋が決まらないのか」という原因を整理することです。
この記事では、賃貸管理の実務経験をもとに、管理会社が行う空室対策の考え方と、私自身が実際に経験した「12戸中6戸まで空室が増えた物件を、半年後に満室まで戻した事例」をご紹介します。
空室対策は、すぐに家賃を下げたり高額なリフォームをしたりすることではありません。賃料、募集状況、内見状況、物件の状態、募集条件などを確認し、「どこに原因があるのか」を見極めてから対策することが重要です。
空室対策で最初に確認したいのは賃料
空室がなかなか決まらない場合、最初に確認するべきなのが募集賃料です。当然ながら、周辺の競合物件と比較して明らかに賃料が高ければ、入居希望者から選ばれにくくなります。
ただし、単純に同じ間取りの物件と家賃だけを比較すればよいわけではありません。実際には、次のような条件を総合的に比較します。
- 駅からの距離
- 築年数
- 建物構造
- 所在階
- 日当たり
- 専有面積
- 間取り
- 収納量
- オートロックの有無
- 宅配ボックスの有無
- インターネット設備
- 浴室・トイレなどの設備
- 駐車場・駐輪場
- 敷金・礼金などの募集条件
例えば同じ「家賃8万円」であっても、駅徒歩5分の築浅マンションと、駅徒歩15分の築20年の物件では条件がまったく異なります。
そのため空室対策の第一歩は、「現在の募集条件が、周辺の競合物件と比較して妥当なのか」を確認することになります。
何でも家賃を下げればよいわけではない
ここで注意したいのが、「決まらないなら、とりあえず家賃を下げましょう」という考え方です。もちろん、明らかに相場より高いのであれば賃料の見直しは必要です。
しかし、すでに相場並みの賃料なのに、原因を分析せず5,000円、1万円と値下げしていく方法には注意が必要です。
例えば8万円の部屋を5,000円値下げすれば、5,000円 × 12ヶ月=年間6万円の収入減になります。仮に5年間入居すれば30万円です。
それならば、10万円程度の設備投資によって早期成約につながり、従来の賃料を維持できるのであれば、そちらの方が有利な場合もあります。
空室対策では「家賃をいくら下げるか」だけではなく、その値下げが入居期間全体の収入にどれだけ影響するかまで考えることが重要です。
問い合わせがないのか、内見後に決まらないのか
空室の原因を考える上で非常に重要なのが、「どの段階で止まっているのか」を見ることです。
例えば、募集を開始しているにもかかわらず問い合わせそのものがほとんどないのであれば、次のような原因が考えられます。
- 賃料が高い
- 募集条件が弱い
- 写真が良くない
- ポータルサイト上で魅力が伝わっていない
- 物件情報が十分に流通していない
一方、「内見はかなり入るのに申し込みがない」のであれば話は違います。その場合には、次のように実際の物件を見た時の印象に問題がある可能性があります。
- 室内が暗い
- 臭いがする
- 清掃状態が悪い
- 共用部分の印象が良くない
- 実際に見ると設備が古い
- 他の競合物件に負けている
問い合わせ → 内見 → 申し込み
このどこで止まっているのかを確認すると、空室対策の方向性が見えやすくなります。
募集図面やインターネット広告を確認する
意外に大家さんが確認していないのが、実際にどのような募集が行われているかです。管理会社へ募集を任せている場合でも、一度は募集図面やインターネット上の掲載内容を確認してみるとよいでしょう。
確認したいポイントには、次のようなものがあります。
- 写真の枚数は十分か
- 室内が明るく撮影されているか
- 間取り図は見やすいか
- 物件の長所が記載されているか
- 古い写真が使われていないか
- リフォーム内容が反映されているか
- 設備情報に漏れがないか
- 募集条件に間違いがないか
せっかく宅配ボックスを設置したのに広告に記載されていなかったり、リフォーム前の写真がそのまま掲載されていたりしては、工事を行った意味が薄れてしまいます。
また、客付け会社へ物件情報が適切に流れているかについても、管理会社へ確認しておきたいところです。
共用部分の管理状態も立派な空室対策
お部屋の中だけきれいにしても、建物の入口が汚れていては印象がよくありません。内見者は室内だけでなく、次のような共用部分もしっかり見ています。
- エントランス
- 集合ポスト
- ゴミ置場
- 廊下
- 階段
- 駐輪場
郵便受けからチラシがあふれている、共用廊下に私物が大量に置かれている、ゴミ置場が荒れている、照明が切れている。こうした状況では、室内に入る前に物件への印象が悪くなってしまいます。
これは高額なリフォーム以前の問題です。
空室が長引いている時は、募集担当者自身が一度現地を歩いてみることが重要です。募集図面だけを見ていても分からない問題が、現場へ行くと簡単に見つかることがあります。
空室になっている部屋も定期的に確認する
長期間空室になっている部屋では、室内の管理にも注意が必要です。例えばキッチンや洗面所、浴室などでは、長期間水を使わないことで排水トラップの封水が減り、下水の臭いが上がってくることがあります。トイレについても同様です。
また、長期間人が出入りしないことで、次のような状態になることもあります。
- ホコリが溜まる
- 小さな虫の死骸が落ちている
- カビが発生する
- ポストにチラシが溜まる
内見の直前だけ確認するのではなく、空室期間が長引いている場合には定期的に室内を確認しておくことが大切です。
少額の設備投資で改善できるケースもある
空室対策というと大規模なリフォームを想像される大家さんも多いですが、必ずしも大金を掛ける必要はありません。物件によっては、比較的小さな設備投資によって競合物件との差別化ができることもあります。
- LED照明
- 温水洗浄便座
- モニター付きインターホン
- 室内物干し
- 無料インターネット
共用部分であれば、宅配ボックス、防犯カメラ、人感センサー照明なども検討対象になるでしょう。
ただし、「人気設備だから付ければよい」というものではありません。周辺の競合物件にすでに付いている設備なのか、ターゲットとなる入居者が本当に求めているものなのかを確認した上で判断することが重要です。
敷金・礼金・フリーレントも選択肢のひとつ
設備だけではなく、募集条件を変更する方法もあります。例えば、礼金を下げる、敷金を見直す、フリーレントを付けるといった方法です。
特に引越し時には、新居の契約金、引越代、家具家電など、入居者にも大きな費用が掛かります。そのため初期費用を抑えられる条件は、物件によっては募集上の強みになります。
ただし、当然ながらオーナー側にも負担が発生します。「とにかく無料にする」のではなく、「いくら負担すれば、どの程度募集力が上がるのか」という視点で検討するべきでしょう。
募集条件を緩和することと、入居審査を緩くすることは別問題です。保証会社の利用や入居審査などによって、契約上のリスク管理はしっかり行う必要があります。
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AD(広告料)を活用する方法もある
賃貸募集では、物件によって「AD」と呼ばれる広告料を設定する場合があります。これは、客付けを行う不動産会社への募集促進策として利用されるものです。
競合物件が非常に多い地域などでは、募集戦略のひとつとして検討されることがあります。例えば1ヶ月分程度の賃料相当額を募集促進のための費用として使ったとしても、何ヶ月も空室が続くことと比較すれば、結果として損失を小さくできるケースもあります。
宅地建物取引業者が受け取る仲介手数料には法令上の上限があります。一方、依頼者から特別に依頼された広告などに関する費用は、仲介手数料とは別の考え方になります。ADの金額や支払方法、広告業務の内容については、管理会社と事前に確認するようにしてください。
リノベーションは最後に検討する
築年数の古い物件では、リノベーションによって商品力を大きく向上させる方法もあります。例えば、和室を洋室へ変更する、古いキッチンを交換する、3点ユニットをバス・トイレ別にする、間取りを変更するといった方法です。
確かに効果が大きいケースはあります。しかし、工事費が数十万円、数百万円となれば、その費用を家賃で回収できるかを考えなければなりません。
仮に100万円掛けて家賃が月額5,000円しか上がらないのであれば、単純計算でも回収には200ヶ月掛かります。
まずは募集方法や管理状態、募集条件、少額の設備投資を確認し、それでも競争力が足りない場合にリノベーションを検討するくらいの順番がよいと私は考えています。
実録!12戸中6戸が空室になった物件
ここからは、私が実際に管理していた物件で経験した空室対策をご紹介します。
私が賃貸部門で仕事をしていた頃、地域の地主さんが所有する12戸のRC造ファミリーマンションを管理していました。築年数は当時15年ほどで、物件そのものは決して悪くありませんでした。
ただし、大きな弱点がありました。駅から徒歩約18分という立地です。
さらに周辺では分譲マンションの建築が相次いでおり、「住宅を購入するので退去します」という入居者も少しずつ増えていました。
そんな状況の中、近隣で比較的価格の安い分譲マンションが販売され、さらにファミリータイプの新築賃貸物件も複数棟で募集を開始します。嫌な予感はしていましたが、その予感は的中します。
退去が続き、まず5戸の空室へ
もともと2戸空いていたところへ退去予告が入り、空室は3戸。さらに約2週間のうちに2戸の解約が入り、12戸中5戸が空室となりました。
さすがに、このままでは放置できません。そこでオーナーさんと相談し、最初に次の対策を行いました。
- 賃料を5,000円値下げ
- 礼金なし
- フリーレント1ヶ月
募集条件を大幅に緩和し、さらに募集広告にもかなり力を入れました。「これなら決まるだろう」と思っていたのですが、結果は思ったほど伸びませんでした。
さらに退去が発生し、ついに半分が空室に
問い合わせや申し込み自体は入りました。しかし、オーナーさんの審査基準に合わない申し込みが続き、契約には至りません。
そんな最中に、さらに1戸の退去予告が入りました。ついに12戸中6戸、物件全体の半分が空室という状況です。これはさすがに緊急事態でした。
値下げ以外の方法を探す
そこで私は、賃貸管理物件を多く扱っていた同業者などに相談しながら、改めて空室対策を考えることにしました。
物件の状況を整理していくと、次のような方向性が見えてきました。
- もともとの賃料が極端に高いわけではない
- 室内が競合物件と比較して大きく劣っているわけでもない
- 単純な値下げだけでは問題が解決していない
- 物件に付加価値を付ける余地がある
- 客付け会社への募集促進も必要
そこで、単純な値下げを続けるのではなく、募集方法そのものを大きく変更することにしました。
設備を追加して付加価値を高める
まず、オーナーさんにお願いして各居室へ照明を設置し、さらにトイレへ温水洗浄便座を設置しました。
また、建物に隣接してオーナーさんが所有する月極駐車場に空きがあったため、入居者については駐車場料金を大幅に優遇することにしました。
駅から遠いという弱点がある物件です。ならば、「車を利用するファミリーにとって魅力的な物件にしよう」という発想です。
物件の弱点そのものを消すことが難しくても、別の強みを作ることはできます。駅から遠い物件なら、駐車場や車利用の利便性を強みに変える。これも立派な空室対策です。
管理会社も負担して客付けを強化
そして、もうひとつ行ったのが客付け会社への募集強化でした。
ただし、設備投資や駐車場料金の優遇など、すでにオーナーさんにもかなりの負担をお願いしています。そこで私は、「大家さんだけに負担してもらうのではなく、管理会社側も負担しよう」と考えました。
本来、管理会社側が受け取る予定だった広告料の一部を減らし、その分を客付け促進のために回す方法を会社へ提案しました。当然、当社の収入は減ります。
しかし、「長く管理を任せてもらっている大家さんなのだから、痛みは分け合うべきではないか」というのが私の考えでした。
社内の了承を取り、オーナーさんにも説明した上で、この募集方法を実行することになりました。
2ヶ月で3戸成約。半年後には満室へ
募集方法を変更した結果、わずか約2ヶ月で3戸の契約が決まりました。その後は繁忙期の後押しもあり、約半年後には満室まで戻すことができました。
もちろん、すべての物件で同じ方法が成功するとは限りません。それでも、この時に学んだことがあります。
空室対策は「家賃を下げれば終わり」ではありません。物件の弱点と強みを整理し、設備、募集条件、広告、客付けなど複数の対策を組み合わせることが重要です。
空室対策は原因を見つけて順番に手を打つ
長期間空室が続くと、大家さんも不安になります。しかし、焦って家賃を大きく下げたり、高額な工事を始めたりする前に、一度状況を整理してみてください。
私なら、おおよそ次の順番で確認します。
- 賃料は相場に合っているか
- 募集情報は十分に露出しているか
- 問い合わせは来ているか
- 内見は入っているか
- 内見後に決まらない原因は何か
- 共用部分・室内の状態に問題はないか
- 募集条件を変更する必要があるか
- 少額の設備投資で改善できないか
- ADなど募集促進策を検討する
- 必要であれば大規模リフォーム・リノベーションを検討する
この順番で考えれば、「本当は写真を撮り直すだけでよかったのに、100万円のリフォームをしてしまった」といった無駄な投資も防ぎやすくなります。
管理会社の空室対策力も確認したい
空室が長期化している場合には、管理会社がどのような対策を行っているのかも確認してみましょう。
- 周辺相場を調査しているか
- 募集図面を更新しているか
- 写真を撮り直しているか
- 客付け会社へ情報を流しているか
- 問い合わせ数や内見数を把握しているか
- 決まらない理由をオーナーへ報告しているか
- 具体的な改善策を提案しているか
単に「もう少し家賃を下げましょう」と提案するだけではなく、なぜ決まらないのかを分析し、具体的な対策を提案できる管理会社であることが重要です。
管理会社そのものを見直したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
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賃貸物件の空室対策まとめ
今回は、賃貸物件の空室対策について、実務経験をもとに解説してきました。空室が続いているからといって、必ずしも家賃が高いとは限りません。
空室の原因には、募集賃料、募集条件、広告方法、物件写真、管理状態、設備、競合物件、客付け体制など、さまざまなものがあります。
重要なのは、「なぜ決まらないのか」を確認してから対策することです。そして費用を掛けるのであれば、「その費用を何ヶ月、何年で回収できるのか」まで考える必要があります。
私自身、12戸中6戸、つまり建物の半分まで空室が増えた管理物件を担当した経験があります。その時も、単純な賃料値下げだけでは状況を改善できませんでした。
設備を追加し、駐車場という物件の強みを活かし、募集方法を見直し、管理会社側も負担する。いくつもの対策を組み合わせたことで、最終的には満室まで戻すことができました。
空室対策には、「これさえやれば必ず決まる」という万能な方法はありません。だからこそ、物件ごとに原因を見極めながら、一つずつ改善していくことが大切なのだと思います。
賃貸管理についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事一覧もご覧ください。







