不動産を取り扱っていると時折目にするのが既存不適格建物と呼ばれる物件です。
そして、『不適格』という文字が示す通り「売買等においては注意を払うべき物件」となるのですが、その実態についてはあまり知られていないのが実情でしょう。
そこで本日は「既存不適格とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、既存不適格建物や、これに類する違法建築物の概要、そして管理人が実際に経験した既存不適格物件の取引顛末記をお届けしたいと思います。
既存不適格建物とは
では早速、既存不適物件についての解説を始めましょう。
既存不適格建物について
建物を建築するに当たっては建築基準法や都市計画法、そして自治体ごとに定めらた条例など、様々な建築制限(法令上の制限)を受けることになります。
なお、具体的な制限の例を挙げるとすれば、
- 建物の用途(地域によっては「店舗不可」などといった制限が存在)
- 建物の面積(敷地の最低限度や、建築面積、延べ床面積への制限)
- 建物の高さ(高さのみに留まらず、隣地に影を落とす時間等の制限)
などが代表的なものとなるでしょう。
そして、建築を行う以上はこうした制限を全てクリアーした建物を建てなければならないのですが、時の流れと共に「法律が変更される」こともあり、以前は適法だった建物が現状の法律に適格しない状態になってしまうこともあるのです。
つまり、既存不適格建物とは
を指す言葉となります。
違法建築物について
さて、既存不適格建物に似たもので「違法建築物」という建物も存在します。
こちらも「現行法に適合していない」という意味では、既存不適格建物と同様なのですが、その違いは
であるという点です。
なお、故意過失の事例としては
- 建物建築後に土地を切り売りして、法令で定める敷地面積が確保できていない
- 建物面積を増加させるために、許可を得ずに増築している
- 建築確認は取得しているが、意図的に検査済証を取得していない
などといったケースが代表的なものとなるでしょう。
既存不適格建物や違法建築物の売買について
ここまでの解説にて既存不適格建物や違法建築物の概要についてはご理解いただけたことと思いますが、こうした問題を有する建物を売買する際には
- 購入に際して金融機関からの融資が受け辛くなる
- 通常の物件と比べて売買価格が伸び悩む(資産価値が低い)
- 建て替えに際して、現状と同じボリュームの建物が建てられない可能性がある
- 十分な防火性能や耐震性能を備えていない可能性がある
以上の点について注意を払う必要があります。
なお、既存不適格建物と違法建築物とでは「適法でなくなった過程に大きな違い」がありますから、『既存不適格建物の方が取引しやすい』という側面はありますが、通常の物件と比べた場合に「不利な点がある」ことには変わりがありません。
※例えば「違法建築物には一切融資しない金融機関が、既存不適格建物であるならば減額はあるものの融資自体は可能となる」といった扱いの違いが存在します。(銀行により扱いが異なりますのでご注意ください)
また、違法建築物については行政から「改善命令」が出される可能性があり、これに従わない場合には物件所有者が処罰されるケースもあります。
既存不適格建物や違法建築物を見分ける方法
では、こうした既存不適格建物や違法建築物を見分けるには、どのように点に注意すれば良いのでしょうか。
実は役所調査で得られた資料や、仲介業者が作成した重要事項説明書の内容に基づいて、
- 検査済証を取得しているか
- 旧耐震の建物ではないか
- 建物の用途が、用途地域の制限に違反していないか
- 建ぺい率、容積率をオーバーしていないか
- 高さ制限(高度地区、斜線制限、絶対高さの制限、日影規制)に違反していないか
- 違法な増築部分がないか
以上の点をチェックするだけでも、かなりの確率で既存不適格建物や違法建築物を発見できるはずです。
もしも検査済証が取得できていれば、少なくとも建築当時の法令に即した建物であることが確認できますし、検査済証の日付を見れば「旧耐震であるか否か」も一目瞭然でしょう。
そして、自治体に問い合わせて「検査済証取得後に用途地域や建ぺい率、容積率、高さ制限の変更が行われたことがあるか」を確認した上で、建築図面と現在の建物を見比べて「増築等の形跡がないか」を調べれば、先程挙げたチェックポイントを網羅することができるはずです。
ちなみにここからは、より理解を深めていただくために「管理人が実際に経験した既存不適格建物・違法建築物の取引体験記」をお届けしていきたいと思います。
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既存不適格建物・違法建築物の取引体験記
では早速、既存不適格建物・違法建築物取引の顛末を見て行きましょう。
単なるマンション仲介のはずが
今回のお取引の切っ掛けは、「投資用の分譲マンションを買いたい」というお客様の依頼を受け、物件探しを始めたことに端を発します。
いつものようにレインズやアットホーム、そして不動産屋さん仲間のコネクションを駆使して、ご希望条件に合致する利回り8%以上、価格2500万円までという物件情報を集めておりました。
そんな中、不動産業者間の売却情報共有媒体の中で目に留まったのが、価格2200万円、専有面積50㎡という築年の古い分譲マンションでした。
今回のお客様は投資目的ということで、オーナーチェンジ物件(既に賃貸中であり、賃借人付きのまま取引する物件)でも構わないと聞いていましたし、利回りは9%以上回っていますから、これならお探しのご条件にもピッタリのはずです。
そこで早速、お客様にご連絡を入れて物件を下見に行くことにします。
ちなみに今回のお客様は、まだ40代ながらかなりの資産をお持ちの投資家さんであり、これまでにも数件の収益物件をご購入いただいておりました。
なお今回の物件は賃借中であるため、お部屋の中を見ることはできず、お客様と共に外観と共用部分の様子を見て回わるだけとなりますが、古いながらも管理の行き届いたマンションの雰囲気をかなり気に入っていただけたご様子です。
そして流石に当日はお返事を頂けませんでしたが、数日後「是非お話を進めていただきたい」とのご連絡を受けます。
また、購入費用に際しては「全て自己資金で賄う」とのことですから、ローン付けの心配もない気軽な仲介となるはずでした。
『これは楽で美味しい仕事だ』と少々調子に乗り始める管理人でしたが、元付けの不動産業者(売主側の仲介業者)に電話をした瞬間、淡い期待は一気に崩れ去ります。
買付証明を送ろうと電話を掛けたのですが、応対してくれたのは相当にお年を召した感じのおじいさん社長であり、今後の取引きについてご相談をしても、今一つ話が通じません。
「これではトラブルに繋がり兼ねない」と考え、直に買付証明を持参して相手の業者を見定めることにします。
そこで車を飛ばし、元付け業者の事務所を訪問してみますが、そこには錆だらけの看板を掲げ、営業しているどうかも怪しい鄙びた不動産屋さんが待ち構えておりました。
『この会社、大丈夫なのか・・・』と心配しながら扉を開けると、まるで志村けんのコントに出て来そうなお爺さんが、私を迎えてくれます。
そこで一通りの挨拶を済ませ、買付証明書を手渡した後に改めて契約に向けての打ち合わせを始めますが、やはり直接会って話しても意志の疎通がスムーズにはいきません。(かなり耳が遠いご様子)
そして見る限り、他の従業員が在籍している形跡はありませんから、今後の業務を担当されるのはこの社長様自身となるはずです。
以前の記事でも書きましたが、不動産取引において「客付け業者(買主側の業者)」と「元付け業者(売主側の業者)」の2社が入る場合(共同仲介を行う場合)には、『元付け業者』が物件の調査や重要事項説明・売買契約書の作成などを行うのが通常です。
つまり今回の取引では、その大役をこの志村けん爺さんがやることになりますから、これは相当にヤバい事態と言えるでしょう。
『これは絶対にトラブルになる!』、そう直感した私は調査や書類作成を「全て自分がやる」と申し出ます。
すると爺さんは「それはありがたいねぇ・・・パソコン使えないから・・・」と私に手を合わせる始末。
やはり、私がやるしかありません。
既存不適格物件とは
そうと決まれば早速、「重要事項の説明に必要な調査」や「売買契約書の作成」等に取り掛からなければなりません。
まずは、マンションを管理している管理会社に連絡し、組合運営や建物に関する説明書(重要事項に係る調査報告書)の作成を依頼します。
次いで現地調査に役所調査と、必要な作業をサクサクと進めて行きました。
そして、ようやく手元に全ての資料が揃い、重要事項説明書を作成するべくパソコンに向かいます。
登記簿謄本(登記事項証明書)を見ながら、敷地面積や持分、専有部分の面積などを入力。
続いて、役所で入手した建築概要書(建築確認の概要が記された書類)とも、見比べて行きます。
すると・・・、「あれ?」
建物の敷地に供されて土地の形状や面積を示す「地積測量図」と「建築概要書に示されている土地の形状」に違いがある気がして来ました。
「あれ?あれ?」と他の資料も確認してみますが、建築確認を取得した際の土地の形状と、現在の土地の形が違うばかりか、面積までやや小さくなっています。
古い年代の建物なので『そんなこともあるのか?』とも思いましたが、念のため建ぺい率や容積率を計算してみると、ここで「驚愕の事実」が判明しました。
それはこの分譲マンションが、建築基準法における容積率の制限をオーバーしている既存不適格物件、もしくは違法建築物であるという事実だったのです。
ちなみに既存不適格物件とは、新築当時は適法に建てられた建物ではあるものの、その後の法改正などによって現在の法令からは違反状態となってしまっている物件を指す言葉となります。
※都市計画においては、自治体が目指す街作りの方針によって用途地域等を定めますが、時代の流れに合わせてプランが変更となり、過去に適法だった建物が法令に違反した状態になるケースは少なくありません。
これに対して、違反建築物とは意図的に法令を無視するなどして建てられた建物を指す用語となりますから、既存不適格物件と違反建築物ではその意味にかなりの違いがあるのです。
但し、現段階ではこの分譲マンションがこの2つのどちらに当たるかを判断することはできません。
一方、「容積率の規制をオーバーしている状態」とは、都市計画にて定められた容積率(建築面積に対して定められる床面積の制限)を超過した建物の状態を指す言葉で、これは建築基準法における明らかな違反行為です。
なお、この事実に気が付いた当初は『これも都市計画の変更によるパターンかな?』とも思ったのですが、改めて調査を進めてみたところ今回ケースでは「過去にマンションの敷地の一部を売却してしまった」ことが容積率オーバーの原因となっているようです。
地方自治体による都市計画の変更に伴って既存不適格となっているのならば、これは『致し方のないこと』と言えますが、「土地の一部が売られた」となれば、これは只事ではありません。
『これは一大事だ!』と、元付け業者に連絡を入れてみますが、相手は志村お爺ちゃんですから状況を全く理解してもらえません。
そこでやむなく管理会社に連絡を入れて、管理組合へ更に詳しい調査を依頼することにします。
また、売買契約の予定日も間近に迫っていましたので、とりあえずは「延期」することとし、管理会社からの連絡を待つことにしましたが、その結果は「やはり違法建築物でした」とのものでした。
なお売買対象が違法建築物であるという事実は、物件の価値に大きな影響を及ぼす事項となりますから、売主さんにも直接会わせていただき、今後のことを相談することになりました。
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決着、そしてまとめ
志村おじいちゃんの事務所に仲介業者である私と、売主さん・買主さんが集まり、これまでの経緯と今後の対策を話合います。
そして導き出された結論は、2200万円の売買価格を1900万円に減額し、取引を続行するというものでした。
今回、この物件が違法建築物となってしまったのは「ある事情で土地の面積が減少してしまった」ことに起因しており、将来建て替えを行う際には『現在の敷地面積で許可される建物しか建てることができず、マンションの規模が縮小されるのは不可避』となります。
そうとなれば、今回の取引き対象のお部屋も建替え後は専有面積が減少する可能性がありますから、これは資産価値にも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
こうしたリスクが存在するのであれば、売買代金を300万円減額するという処置は妥当な判断と言えるでしょうから、売主・買主共にこの価格にて売買を続行することで合意したという訳です。
※厳密に言えば、行政から改築等の命令が出る可能性や、銀行からの融資が受けられない場合もありますが、今回は投資目的の物件購入ということもあり、買主様もこうしたリスクを覚悟した上で売買の続行を希望されました。
※都市計画等の変更によって違法状態となっている建物については、上記のようなペナルティーが課されることはありません。
なお、買主さんとしてみれば、この減額によって利回りが大幅にアップすることになりますし、売主さん的にも問題が明らかになった以上、多少減額されても物件を始末しておきたかったようですから、双方の利害が一致したとも言えるでしょう。
ちなみにその後、土地の形状と大きさが変わった原因が明らかになったのですが、どうやら30年程前の総会においてマンションの修繕費を捻出するために、敷地の切り売りを行ったことが今回の問題の原因であるようです。
その当時は、管理組合が自力で管理を行う「自主管理」だったため、不動産の知識もない者たちが切り売りを行い、後から管理を任された管理会社もこの事実に気付くことができなかったのでしょう。
また、土地の売却以降もお部屋の売買は何度もあったようですが、どの不動産業者も違法建築物になっている事実に気付かず、取引を終えてしまっていたようです。
『それにしても、ギリギリの所で気が付いて本当に良かった・・・』、無事に取引を終えて心底胸を撫で下ろす管理人なのでした。
以上が私の既存不適格・違法建築物マンションの仲介の顛末となります。
容積率オーバーというトラップに運良く気付けたことを神様に感謝しながら、「既存不適格とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います!