賃貸契約書偽造

 

賃貸物件の管理をしていると実に様々なトラブルに遭遇するものです。

「賃料の滞納」に「住人同士の揉め事」などその枚挙には暇がありませんが、時には驚くべき事態が発生することもありますから、不動産投資家様や地主様には是非ご注意いただければと思います。

なお本日は、私が体験した賃貸管理におけるトラブルの中でも非常にレアなケースとなる「賃貸契約書偽造事件」の顛末についてレポートしてみたいと思います。

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偽造疑惑発生!

この事件が発生したのは、今から数年前の秋頃であったと記憶しています。

私は既に賃貸担当から売買部門へと異動していたのですが、「ある相続絡みの案件」を担当したのがご縁で、オーナー様が所有する賃貸物件の管理を引き受けることになりました。

このオーナー様は70代の女性であり、なかなか大きな土地を持つ地主さんの奥様だったのですが最近になってご主人様を亡くされ、相続が発生することとなってしまいます。

そして、この相続に伴う不動産の売買を私が担当させていただき、売却せず手元に残すこととなったアパートや貸家の物件管理を当社が請け負うことになったという訳です。

ちなみに本来ならば、賃貸部門の担当者に話を振ってしまうところなのですが、私はこのお婆さんに妙に気に入られてしまったらしく、物件担当として指名されてしまいました。

なお今回のトラブルの舞台となる物件は築年30年以上という老朽化した木造の貸家であり、「亡くなられたご主人の友人」と称する方が入居しているとのことです。

また、今のところは賃料の滞納等もなくやや面倒な人物であるという点を除けば『特に問題はない』と思っていたのですが、当社が管理を請け負って早々、この入居者が「退去する」と申し出て来たのです。

そこで退去立会いに臨む当たって、まずは大家さんへ『賃貸借契約書の内容を確認させて欲しい』とのお願いをしますが、「亡くなったお爺さんが契約書を管理していたため、それが何処にあるか判らない」とのお返事が返って来るのでした。

更に能々お話を聞けば、数年前までは別の管理会社さんが物件の管理をしていたものの、その会社が廃業して以降は契約更新も行わずに放置されていたとのことです。

こうした状況では最早打つ手がありませんので、「おそらく入居者さんが契約書を持っていると思いますので、そちらで契約内容を確認することにします」とオーナー様に伝えて、立会いに臨むことにします。

さて物件の中に入ってみれば、それなりに汚れてはいたものの居住年数から考えれば「許容範囲内」といった使用状況であり、敷金は殆ど返すことになりそうです。

入居者についてはご高齢ながら非常に胡散臭い雰囲気の方であり、私が物件内部をチェックしている間も「若い頃の武勇伝」を一人で自慢げに話しておられました。

そして『大家さんの手元に契約書がない』旨を告げると、入居者はカバンの中から一枚の紙切れを取り出して、私に手渡して来ました。

その紙は文房具屋などで以前売られていた「某メーカー製造の賃貸借契約書の雛形」であり、確かに大家さんの亡くなられたご主人と、入居者の署名・捺印がなされています。

しかし問題はその契約内容であり、預かり敷金の額は「10ヶ月分 60万円」と記されていたのです。

ご存知の方も多いと思いますが、居住用物件の敷金相場は通常1~2ヶ月分となり、たとえペット可の物件でも3ヶ月分を超えるものはあまり見掛けません。

その『あまりに高額な敷金』に私が言葉を失っていると、入居者は「いや~、大家さんに多めに敷金入れてくれって言われちゃってさぁ、本当にあの時は困ったよ」などと嘯いています。

この話の流れに『何か釈然としないもの』を感じてはいたのですが、その場で判断することのは難しい状況でしたので、とりあえずは契約書のコピーを取った上で大家さんに相談してみることにしました。

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問題解決!

「立会いどうでした?」と笑顔で迎えてくれた大家さんでしたが、契約書のコピーを見た瞬間、流石に表情が強張っていきます。

その様子を見た私は、「こんなことを申し上げるのはアレなんですが、これ本当にご主人のサインですか?」と水を向けてみたところ、大家さんも判断に困っているようです。

そこで、過去の郵便物などを引っ張り出してもらい二人で「筆跡」を比べてみますが、確かに似てはいるものの何か雰囲気が違うのは一目瞭然であり、おそらくは『原本の上に紙を置き、文字をなぞったもの』だと思われます。

また、印鑑も奥様には見覚えがない印影であるとのことでしたので、これは契約書の偽造が行われた可能性が濃厚でしょう。

「あの野郎!」、普段はとて上品なご婦人である大家さんの口から飛び出した突然の言葉に驚かされましたが、その後ポツリポツリと入居者との関係についてのお話が始まります。

なお、亡くなったご主人の「古くから友人である」と称するこの入居者ですが、実は近所の居酒屋で知り合った単なる飲み仲間という真相であるとのことです。

そして、酒の席にて「住むところがない」とご主人に泣き付き、例の貸家を貸すことになったそうですが、賃料はしっかり払うものの「雨漏りしたから家賃をまけろ」「自分で直したから金をよこせ」などと言われ、これまで散々被害を被って来たご様子です。

また、大家さんがこれらの要求を拒むと近隣住人に悪口を言いふらしたり、嫌がらせをして来るなど、正にモンスターな入居者であったというのです。

こうした話を聞かされ、「それならば弁護士などに相談して、しっかりとした対処をしましょう」と提案してみますが、大家さん的には揉め事に相当うんざりしているご様子であり、『争うぐらいなら払ってしまった方が楽かも・・・』などという気弱な言葉が漏れて来ますが、そこをどうにか説得して私の方で対策を練ってみることにしました。

ただ入居者のタイプを考えれば、証拠もないのに「偽造された契約書だ」などといえば怒り狂うのは目に見えていますから、『どうにか契約書が偽物である証拠を見付けられないものか・・・』と思案していると過去に物件管理をしていた業者さんのお名前が目に飛び込んで来ます。

その業者さんは私も以前に取引をしたことがある「小さな街の不動産屋さん」であり、社長であるご主人が急に亡くなり、奥様だけでは不動産屋さんの仕事ができないとのことで4年程前に廃業しておられるはずです。

但し、会社は自宅の一部を改造した店舗でしたのでもしかすると奥様がまだ2階に住んでおられるかもしれません。

そこでご迷惑を掛けるのを承知で訪問してみることにしますが、予想通り奥様はまだ元気にお住まいになられていました。

早速ことの次第を話してみると、「ああっ!あの入居者には私たちもずいぶん迷惑を掛けられたのよ」と協力的なご様子であり、仕事をしていた時代の資料は全て保存してあるとのことなので、『契約書の控え』を探しておいてくれるとのことです。

そして数日後、待望の『契約書が見付かった』との連絡を頂きましたので、慌てて内容を確認してみれば「敷金2か月」との記載がバッチリとある上、契約の期間も「偽造されたものと全く同じ」ものとなっていますから、これは『動かぬ証拠』となるでしょう。

こうして証拠を手に入れることに成功した私は、まず電話にて入居者に連絡を入れ、「実は別の契約書が発見されたのですが、以前に見せていただいたものは一体何だったのでしょうか?」と揺さぶりを掛けてみます。

すると入居者は全てを悟ったのか、「そうそう、あれは別の物件の契約書だったみたいだ」「こっちも昨日、それに気が付いて電話しようと思っていたところなんだよ!」と悪びれもしない返事が返って来ました。

そして結局は大家さんの希望もあって、これ以上のツッコミも入れないまま2ヶ月分の敷金にて退去時精算を完了し、無事に退去手続きは完了することになったのです。

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契約書偽造まとめ

さて、ここまでが賃貸契約書偽造事件の顛末となります。

書類の偽造など『テレビの中だけのお話』とばかり思っていたのですが、実際にもあるものなのですね。

今回は悪質なケースながらも直ぐに見破ることができるもので助かりましたが、「これからは更に用心深く仕事をしていかねばならない」と痛感させられる事件でした。

このようなトラブルは滅多にないこととは思いますが、皆様も是非お気を付けください。

ではこれにて賃貸契約書偽造事件の顛末をレポートを締め括らせていただきたいと思います。