今回も前回の記事に引続き、私が初めて経験した建売物件の仲介業務の流れをレポートして行きたいと思います。
なお、前回の記事は「建売仲介のお仕事レポート(初めての客付け・前編)」となりますので、まだ前編をお読みでない方は是非ご覧になった上で本記事をお楽しみください。
では「建売仲介業者の業務をご紹介!(初めての客付け・後編)」をスタートさせましょう。

初めての売買契約・重要事項説明に向けて
我が社長の活躍により、建売物件への客付けを妨害する▲▲不動産の担当者Sさんを説得し、どうにか売買契約に応じて貰えることとなった管理人は、改めてお客様にご連絡を入れ、売買契約締結に向けての打ち合わせを進めて行きます。
お客様にしてみれば「買います!」と意思表示をしたのにも係らず、元付業者に「物件は売れちゃいました!」と門前払いを喰らった訳ですから、気分が良い訳はないのですが、余程物件が気に入っていたのか『奇跡的にキャンセルが入りまして・・・』という嘘くさい説明にも純粋に喜んでおられるご様子でした。
実際には▲▲不動産のSさんが手数料欲しさに、私の客付けを拒んでいただけなのですが、正直に事情を話す訳にも行きませんので、ここは「嘘も方便」といったところででしょう。
ちなみに急転直下の展開でお話が進んだため、契約の日程が決まっているにも係らず、実は未だに住宅ローンの事前審査も通していない状態でした。
しかし、社長の力で無理やり契約に持ち込んでおきながら「事前審査落ち」なんて結末は絶対に許されませんので、神に祈るような気持ちで結果を待ち続けます。
そして後日、見事に事前審査合格の連絡を銀行から頂きましたので、いよいよ契約に向けての本格的な準備を開始することになります。
なお今回の取引は、私が購入者側の「客付け業者」となり、▲▲不動産のSさんが売主●●●不動産側の「元付け業者」という共同仲介の図式です。
よって、契約書の準備や重要事項の説明は「元付け業者」である▲▲不動産・Sさんの仕事となるのが原則であり、『客付け業者である当社は、軽く元付け業者が作った書類をチェックする程度の立場である』と私は高を括っていました。
ところが、上司からは『Sさんの作った重要事項説明の内容を全て再調査し、チェックし直すこと』との命令が下されます。
ちなみに、物件調査の詳細については過去記事「現地調査」と「行政調査」の内容をご参照いただければと思いますが、実はこの調査において大変なことが発覚することになるのです。
最大のピンチ
▲▲不動産のSさんは「できる営業マン」として評判の人物ですし、取引経験も非常に豊富とのことでしたから、新人の私が再調査をしても重要事項説明書などに「問題点」を見い出せるはずもありません。
当然、再調査を命じた上司もそれは充分に承知しており、あくまでも経験を積ませるべく、この作業を命じたことは私にも理解できていました。
しかしながら、そんなトレーニング的な再調査の最中、たまたま物件の近くに住んでいる私の友人から、「実はこの建売物件の裏側のお宅は、ある怖い組織の偉い方の自宅である」との情報を耳にしたのです。
もしもこれが事実であれば大変なことですから、確認をするべく慌てて警察に問い合わせをしますが、「事務所であれば教えられるが、自宅は人権問題になるから回答できない」という何とも酷いお返事が返って来ます。
そこで止む無く近隣の商店などで、さり気なく聞き込みをしてみますがこの情報、地元では結構有名なお話であるようです。
『これはマズイ!』と思い、慌ててSさんに連絡を入れてみますが、何と休暇中とのことで電話に出てくれません。
しかも売買契約は、Sさんの休暇が明ける2日後の夕方に迫っています。
このピンチに、我が社の上司へ相談を持ち掛けてみますが、頭を悩ますばかりで有効な打開策は出てきません。
なお、この問題でまず難しいのが「怖い組織の幹部の自宅が重要事項説明における告知事項にあたるのか?」という点です。
警察も「人権問題」といったワードを口にしていますし、相手が相手だけに、下手に書面を残すことは墓穴を掘る事態になるかもしれません。
だからと言って、黙って売買すれば、後々トラブルに発展するのは自明の理ですし、場合によっては「重要事項の不告知」ということで訴訟に発展する可能性だって充分にあり得るのです。
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通常であれば「元付け業者の▲▲不動産」、そして「売主の●●●不動産」と私の会社が共に協議すべき内容なのですが、肝心のSさんが音信不通では動きようがありません。(ちなみにSさんは店舗の最高責任者というポジションですから、その上司も存在しません)
ならば『Sさんを飛ばして、直接売主の●●●不動産と話をすれば』とも思いますが、これを行うことは「業界の慣例的にご法度」ですし、Sさんの性格を考えると「実にヤバそう」です。
『一体どうすれば・・・』、初めての契約にも係らず八方ふさがりの状態となって頭を抱える私に、またまた社長からの天の声が降り注ぎます。
「とりあえず、お客に話してみな。それで契約したくないというのなら、お前がSに謝れば済む話だろ」とのこと。
確かにSさんや売主さんにも「落ち度があるのは明白(事前にこの問題を察知できなかったという意味で)」ですし、お客様に迷惑掛けるのだけは絶対に避けるべきですから、ここは正直に事情を話すしかありません。
早速、適当な理由を作って、お客様のご自宅へ訪問します。
そして、あまり内容のない世間話をした後、ご訪問する口実に利用した書類に判をいただき、いよいよ本題を切り出します。
手や足の裏、背中にまで大量の汗・汗・汗という状態です。
私「あの・・・、実は物件の裏のお宅なんですけど・・・・」
お客様「?」
私「あの、実は、その、非合法というか、怖い人というか・・・その」
お客様「ああ、○○組の■■ちゃんの家って話?」
■■とは正に怖い組織の幹部の方のお名前!しかも「ちゃん付け」とは?
お客様「知ってるよ。小学校からの同級生だもの。」
セーフ!セーフ!セーフ!正直に話してみるものだ!
こうした顛末を経て今回の取引最大のピンチはサラリと回避されることとなったのです。
休暇明けのSさんにはこれまでの顛末を報告した上で、重要事項説明書にも念のため一言入れさせていただき、無事に売買契約を締結することができました。
※売買契約の流れについては別記事「不動産契約の注意点を解説します!(建売売買編)」をご参照ください。
ちなみに売主・仲介業者が共に今回の問題に気付くことができず、買主もこの事実を知らなかったとなれば、後々重大なトラブルに発展していたのは確実ですから、これ以降、Sさんの私に対する態度は急激に軟化して行ったのでした。
しかし、Sさん程のベテランでもこうしたトラブルを回避するのは難しい(今回の件は完全に運が良いだけ)のですから、この業界は「本当に怖い」と鳥肌が立ったのを未だ鮮明に憶えています。
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決済・引渡し、そしてまとめ
その後も、引渡しに向けての手続きは順調に進んで行き、いよいよ決済の日を迎えます。(不動産売買の流れについては別記事「不動産売買の仕事内容・流れを知ろう」をご参照ください)
決済はお客様が住宅ローンを利用する銀行の応接室にて行われる予定であり、準備も万端に済ませたつもりでしたが、不動産屋さんビギナーの管理人は前日の夜、全く眠ることができませんでした。
「一つでも書類に不備があれば、決済はできない」と先輩方に散々脅かされていたため、寝る前に何度も書類を確認している内にスッカリ脳が覚醒してしまったようです。
結局一睡もできないまま、少し早めに買主のお客様を車でピックアップして、会場へ向かいます。
幸い渋滞もなく、銀行へは約束の時間の5分前に到着しましたが、待合室にはSさんを含め、売主の●●●不動産、司法書士まで全員が集合していたのです。
前日、何度も「決済での客付け業者の動き」についてリハーサルを重ねていたのですが、他のメンバーが先に到着してしまったことで完全にペースを乱され、私の頭の中は完全にパニック状態。
そしてSさんはベテランの余裕でガンガン取引を進めて行き、あっという間に残代金の受渡しも完了し、取引は無事に終了します。(決済の流れについては別記事「不動産決済日の流れについて」をご参照ください)
結局、最後は完全にSさんの独壇場となり、私は単なる傍観者と化してしまいました。(当たり前ですが)
この取引以降は、Sさんと少しだけ仲良くなれましたが、その後は直接取引をする機会もなく、彼は所属する大手仲介会社の中でガンガン出世を続け、今ではスッカリ雲の上の存在となっています。
さて、ここまでが私の初めての建売仲介の体験記となります。
私の経験が、少しでも皆様のお仕事に役立てていただけることを祈りつつ、この体験記を締め括らせていただきたいと思います。