これまで本ブログでは不動産業者の仕事内容をご紹介するべく、「売買の流れの解説」や「営業マンの仕事内容のご紹介」などの記事をお届けしてきました。

しかしながら、読者の方からは「もっと実務的な流れがわかる記事を書いて欲しい」とのご要望を多数頂いておりました。

そこで本日は「建売仲介業者の業務をご紹介いたします!初めての客付け体験記!」と題して、私が初めて経験した建売物件の売買客付け仲介の模様を通して、よりリアルに仲介業者の仕事内容をレポートしてみたいと思います。

建売仲介業者

 

私はこうして不動産屋になりました

不動産屋さんになる以前は、そこそこ大手の住宅設備関係の会社にて営業マンとして働いていた管理人。

その会社が学校を卒業して初めての就職先だったのですが、お約束の「会社に馴染めない病」に陥り、2年ほどで転職を決意します。

なお、世間を舐め切っていた私は特に再就職先の当てもないまま退職をしてしまっため、当然ながら求職活動においては『大苦戦』を強いられることとなりました。

そこで「前職の知識が少しでも役立てば!」と不動産会社に狙いを絞り、拾ってもらえたのが現在の職場となります。(結局、過去の経験は殆ど役立ちませんでしたが)

当初は賃貸をメインに仕事をしていたのですが、就職3年目の時、売買担当の先輩が会社を辞めたのを機に、その後任として売買営業マンのポジションを引き継ぐこととなったのです。

ただ、賃貸・売買担当を合わせても社員数6~7人という小ささ会社ながら、これまで売買チームと絡むことは殆どありませんでしたから、転属当初は『何をして良いものやら全く判らない状態』が続いていました。

また以前の記事でも書きましたが、会社の先輩方も親切に指導してくれるタイプの方々ではありませんので、見よう見まねで仕事をするフリをしていたのを覚えています。

初めての売買はこうして始まった

そんな慣れない日々を送る最中、我が社の店舗に体格の良いおば様がご来店します。

その時は他の営業マンが出払っていましたので、私が接客を担当することになったのですが、お話を聞いてみると「マイホームの購入を希望されており、予算5000万円以内で戸建てを探しておられる」とのことでした。

この時点で売買部門に転属してから2週間が経過しておりましたが、売買希望のお客様と接するのは『これが初めて』です。

緊張のあまり早鐘のように脈打つ心臓の鼓動を感じながら、不動産業者の物件情報共有ルールであるレインズやアットホームを駆使して物件情報を検索して行きます。

そして幸いなことに、お客様の希望に合いそう物件情報をいつくか発見することができましたので、早速ご紹介を試みますが、『これらの物件は全てご存じ』の様子であったため、「物件が見付かり次第ご連絡します」というパターンになってしまいました。

お客さんの口ぶりや様子から「かなりの件数の不動産屋を回っている感」は滲み出ていたものの、購入資金には余裕がありそうな雰囲気でしたから、『上手く行けば初めての金星を掴めるかもしれない!』と考え、その後は物件探しに奔走します。

なお一般の方々の多くは、「不動産屋さんの物件探しはネットなどを利用して行うもの」と思われているようですが、本気で物件を探すとなれば「不動産会社同士の物件情報共有媒体等はあまり役に立たない」のが現実です。

もちろん初期接客などに際しては、レインズ等の情報共有媒体を活用してご紹介を行うことも少なくありませんが、そこに意中の物件が掲載されていない場合には、気長に新情報が掲載されるのを待つか、別の手段で情報を得るしかありません。

また対象物件が建売である場合には、分譲主が親しい不動産会社へ優先的に物件情報を流した後、売れ残ったもののみを情報共有媒体に登録することも珍しくありませんから、ネットの情報に頼ってばかりもいられない訳です。

そうとなれば、知り合いの建売屋さんに声を掛けたり、仲間の仲介業者に情報提供を依頼するなどの地道な方法で未公開物件を探すことになりますが、新人の私では力及ばず、時間のみが無駄に流れて行きます。

但しその間も、自分の存在感だけはアピールしておこうと「とりあえずの物件紹介」だけは続けていたのですが、お客様の反応は鈍く、ご案内のアポさえ取付けることができない状態が続いておりました。

遂に物件を発見

そして『どうにかして、お客様に気に入ってもらえる物件を見付けねば・・・』と困り果てながら街を歩いていた際、偶然にも大通りから一本入った道に建築中の建物を発見します。

『あれって、もしや建売?』と現場に駆け寄り、建築確認の表示を確認してみると、「施主」の欄には「●●●不動産」という表示がなされていました。

『これは未公開の建売物件に違いない!』と直感した私は、即座に施主の商号をメモして、ネットで社名を検索してみたところ、見事に建売屋さんのホームページに辿り着くことができました。

こうした形で「未公開の建売物件」を発見したのは初めてのことであったため、少々緊張しながら施主である建売業者さんに電話か掛けてみます。

そして電話に出た事務の女性に「●●町で建築中の現場にお名前があったのでご連絡したのですが、物件にお客様を付けさせていただくことは可能ですか?」と尋ねてみます。

すると「少々お待ちください」としばらく待たされた後に、声の太い社長らしき人物が電話口に登場。

改めて「物件のご紹介をお願いしたい」旨を伝えると、「あの現場は▲▲不動産の紹介で買わせてもらったから、販売の窓口はそっちなんだよね!Sって人が担当だから電話してみてよ」とのお返事が返って来ました。

▲▲不動産(かなりの大手)のSさんと言えば、地元では「仕事ができる」ことと「性格に難がある」ことで評判の営業マンでしたから、この段階で少々嫌な予感はしていたのですが、とりあえずは連絡を取ってみることにします。

「ご担当されている●●町の建売にお客様をご案内したいのですが・・・」、電話口に出たSさんにこれまでの経緯を説明した上で、単刀直入に用向きを伝えたます。

すると、明らかに不機嫌そうな様子ではあったものの、何とか物件の概要を教えていただくことができ、週末にお客様をご案内する約束も取り付けました。

そしてご案内の当日、お客様を物件にお連れすると一目でこの建売を気に入られたご様子で、その場でご購入の意思を固めていただくくことに成功します。

そこで早速「買付証明」にご記入をお願いし、▲▲不動産のSさんに連絡を入れてみたのですが、何と先方からのお返事は『あの物件、さっき決まってしまっんですよ!』という驚愕の内容だったのです。

「そんなバカな!案内する直前に他の話が入っていないことは確認しているのに!」と必死で食い下がりますが、『いや、終わってるものは終ってるし』といった感じで全く話になりません。

押し問答を続けても仕方がないので、お客様とは一旦別れて「追って連絡します」としておきましたが、私的にはどうしても納得がいかずモンモンとするばかりです。

そんな様子を見ていた先輩が「それ、嫌がらせされてるね・・・」と呟きます。

私としては嫌がらせを受ける理由が理解できませんでしたので、先輩に詳細を尋ねてみることにしました。

先輩曰く、仲介業者▲▲不動産のSさんは、事業主である●●●不動産に建売用地として今回の物件の土地を紹介し、現在、土地を卸した見返りに優先的に新築した建売の販売を任されている状態にあります。

そしてSさん的には、「建売用地を卸した手数料」「建売を販売した手数料」「お客様が建売を購入する際の手数料」という3重の儲け(手数料収入)を見越していたのに、私が割り込んで来たために「お客様が建売を購入する際の手数料」が受け取れない可能性が生じた故に、お客を付けさせないよう妨害をしているというのが今回のトラブルの本質であるとのことです。

「そんなことって許されるのですか!?」と声を荒げる私に対して、このやり取りと聞いていた我が社の社長が「Sなら知ってるぞ、オレが口利いてやるよ」と電話を手に取ります。

『もしかして喧嘩になるのでは・・・』とハラハラしながら社長の様子を窺っていましたが、受話器を置いた社長は「契約させてくれるってよ!」と事も無げに言い放つのでした。

そんな社長の姿に『普段はガメツイことばかり言っているのに、こういう時は頼りになるな・・・』と少しだけ尊敬の念を抱いたのを、今でも鮮明に憶えています。(よく考えれば今回もガメツイのですが)

こうして、私の初めての建売仲介はようやく契約へと駒を進めることができたのです。

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初めての売買契約・重要事項説明に向けて

我が社長の活躍により、建売物件への客付けを妨害する▲▲不動産の担当者Sさんを説得し、どうにか売買契約に応じて貰えることとなった管理人は、改めてお客様にご連絡を入れ、売買契約締結に向けての打ち合わせを進めて行きます。

お客様にしてみれば「買います!」と意思表示をしたのにも係らず、元付業者に「物件は売れちゃいました!」と門前払いを喰らった訳ですから、気分が良い訳はないのですが、余程物件が気に入っていたのか『奇跡的にキャンセルが入りまして・・・』という嘘くさい説明にも純粋に喜んでおられるご様子でした。

実際には▲▲不動産のSさんが手数料欲しさに、私の客付けを拒んでいただけなのですが、正直に事情を話す訳にも行きませんので、ここは「嘘も方便」といったところででしょう。

ちなみに急転直下の展開でお話が進んだため、契約の日程が決まっているにも係らず、実は未だに住宅ローンの事前審査も通していない状態でした。

しかし、社長の力で無理やり契約に持ち込んでおきながら「事前審査落ち」なんて結末は絶対に許されませんので、神に祈るような気持ちで結果を待ち続けます。

そして後日、見事に事前審査合格の連絡を銀行から頂きましたので、いよいよ契約に向けての本格的な準備を開始することになります。

なお今回の取引は、私が購入者側の「客付け業者」となり、▲▲不動産のSさんが売主●●●不動産側の「元付け業者」という共同仲介の図式です。

よって、契約書の準備や重要事項の説明は「元付け業者」である▲▲不動産・Sさんの仕事となるのが原則であり、『客付け業者である当社は、軽く元付け業者が作った書類をチェックする程度の立場である』と私は高を括っていました。

ところが、上司からは『Sさんの作った重要事項説明の内容を全て再調査し、チェックし直すこと』との命令が下されます。

ちなみに、物件調査の詳細については過去記事「現地調査」「役所調査」の内容をご参照いただければと思いますが、実はこの調査において大変なことが発覚することになるのです。

最大のピンチ

▲▲不動産のSさんは「できる営業マン」として評判の人物ですし、取引経験も非常に豊富とのことでしたから、新人の私が再調査をしても重要事項説明書などに「問題点」を見い出せるはずもありません。

当然、再調査を命じた上司もそれは充分に承知しており、あくまでも経験を積ませるべく、この作業を命じたことは私にも理解できていました。

しかしながら、そんなトレーニング的な再調査の最中、たまたま物件の近くに住んでいる私の友人から、「実はこの建売物件の裏側のお宅は、ある怖い組織の偉い方の自宅である」との情報を耳にしたのです。

もしもこれが事実であれば大変なことですから、確認をするべく慌てて警察に問い合わせをしますが、「事務所であれば教えられるが、自宅は人権問題になるから回答できない」という何とも酷いお返事が返って来ます。

そこで止む無く近隣の商店などで、さり気なく聞き込みをしてみますがこの情報、地元では結構有名なお話であるようです。

『これはマズイ!』と思い、慌ててSさんに連絡を入れてみますが、何と休暇中とのことで電話に出てくれません。

しかも売買契約は、Sさんの休暇が明ける2日後の夕方に迫っています。

このピンチに、我が社の上司へ相談を持ち掛けてみますが、頭を悩ますばかりで有効な打開策は出てきません。

なお、この問題でまず難しいのが「怖い組織の幹部の自宅が重要事項説明における告知事項にあたるのか?」という点です。

警察も「人権問題」といったワードを口にしていますし、相手が相手だけに、下手に書面を残すことは墓穴を掘る事態になるかもしれません。

だからと言って、黙って売買すれば、後々トラブルに発展するのは自明の理ですし、場合によっては「重要事項の不告知」ということで訴訟に発展する可能性だって充分にあり得るのです。

通常であれば「元付け業者の▲▲不動産」、そして「売主の●●●不動産」と私の会社が共に協議すべき内容なのですが、肝心のSさんが音信不通では動きようがありません。(ちなみにSさんは店舗の最高責任者というポジションですから、その上司も存在しません)

ならば『Sさんを飛ばして、直接売主の●●●不動産と話をすれば』とも思いますが、これを行うことは「業界の慣例的にご法度」ですし、Sさんの性格を考えると「実にヤバそう」です。

『一体どうすれば・・・』、初めての契約にも係らず八方ふさがりの状態となって頭を抱える私に、またまた社長からの天の声が降り注ぎます。

「とりあえず、お客に話してみな。それで契約したくないというのなら、お前がSに謝れば済む話だろ」とのこと。

確かにSさんや売主さんにも「落ち度があるのは明白(事前にこの問題を察知できなかったという意味で)」ですし、お客様に迷惑を掛けるのだけは絶対に避けるべきですから、ここは正直に事情を話すしかありません。

早速、適当な理由を作って、お客様のご自宅へ訪問します。

そして、あまり内容のない世間話をした後、ご訪問する口実に利用した書類に判をいただき、いよいよ本題を切り出します。

手や足の裏、背中にまで大量の汗・汗・汗という状態です。

私「あの・・・、実は物件の裏のお宅なんですけど・・・・」

お客様「?」

私「あの、実は、その、非合法というか、怖い人というか・・・その」

お客様「ああ、○○組の■■ちゃんの家って話?」

■■とは正に怖い組織の幹部の方のお名前!しかも「ちゃん付け」とは?

お客様「知ってるよ。小学校からの同級生だもの。」

セーフ!セーフ!セーフ!正直に話してみるものだ!

こうした顛末を経て今回の取引最大のピンチはサラリと回避されることとなったのです。

休暇明けのSさんにはこれまでの顛末を報告した上で、重要事項説明書にも念のため一言入れさせていただき、無事に売買契約を締結することができました。

※売買契約の流れについては別記事「不動産売買契約の注意点や流れを解説いたします!」をご参照ください。

ちなみに売主・仲介業者が共に今回の問題に気付くことができず、買主もこの事実を知らなかったとなれば、後々重大なトラブルに発展していたのは確実ですから、これ以降、Sさんの私に対する態度は急激に軟化して行ったのでした。

しかし、Sさん程のベテランでもこうしたトラブルを回避するのは難しい(今回の件は完全に運が良いだけ)のですから、この業界は「本当に怖い」と鳥肌が立ったのを未だ鮮明に憶えています。

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決済・引渡し、そしてまとめ

その後も、引渡しに向けての手続きは順調に進んで行き、いよいよ決済の日を迎えます。(不動産売買の流れについては別記事「不動産売買の仕事内容・流れを知ろう」をご参照ください)

決済はお客様が住宅ローンを利用する銀行の応接室にて行われる予定であり、準備も万端に済ませたつもりでしたが、不動産屋さんビギナーの管理人は前日の夜、全く眠ることができませんでした。

「一つでも書類に不備があれば、決済はできない」と先輩方に散々脅かされていたため、寝る前に何度も書類を確認している内にスッカリ脳が覚醒してしまったようです。

結局一睡もできないまま、少し早めに買主のお客様を車でピックアップして、会場へ向かいます。

幸い渋滞もなく、銀行へは約束の時間の5分前に到着しましたが、待合室にはSさんを含め、売主の●●●不動産、司法書士まで全員が集合していたのです。

前日、何度も「決済での客付け業者の動き」についてリハーサルを重ねていたのですが、他のメンバーが先に到着してしまったことで完全にペースを乱され、私の頭の中は完全にパニック状態。

そしてSさんはベテランの余裕でガンガン取引を進めて行き、あっという間に残代金の受渡しも完了し、取引は無事に終了します。(決済の流れについては別記事「不動産決済日の流れについて」をご参照ください)

結局、最後は完全にSさんの独壇場となり、私は単なる傍観者と化してしまいました。(当たり前ですが)

この取引以降は、Sさんと少しだけ仲良くなれましたが、その後は直接取引をする機会もなく、彼は所属する大手仲介会社の中でガンガン出世を続け、今ではスッカリ雲の上の存在となっています。

さて、ここまでが私の初めての建売仲介の体験記となります。

私の経験が、少しでも皆様のお仕事に役立てていただけることを祈りつつ、この体験記を締め括らせていただきたいと思います。