不動産賃貸のお仕事の中で、最も難易度が高いとされるのが「店舗や事務所などの事業用物件の元付け業務」であると言われています。

過去記事「賃貸事業用契約書の書き方と特約について」でも触れましたが、契約対象となる物件で「営業活動を行う」となれば、居住用とは異なる様々な問題が生じる可能性があり、雨漏りなどで仕事ができなくなれば『営業補償を大家に請求する』などといったケースも珍しくありません。

また、契約をする相手方も「法人」となることが多いでしょうから、『誰を保証人にするかという問題』や『如何なる基準で審査を通過させるか』についても頭を悩ませてしまいますよね。(詳細は過去記事「賃貸法人契約書と特約の作り方をご紹介!」参照のこと)

また、本ブログの読者の方からも「事業用物件の仲介について記事を書いて欲しい」とのご要望を頂くことが少なくありませんので、世間の皆様もこの問題には関心が高いように思えます。

そこで本日は、事業用物件の賃貸借契約についてご理解を深めていただくために、私が初めて経験した事業用物件の元付け仕事の概要についての体験記をお届けすることといたしました。

では早速、事業用賃貸借契約の顛末をレポートしてまいりましょう。

事業用賃貸借契約

 

初めての事業用元付け

現在勤めている不動産会社に入社し、賃貸の営業担当として1年が経過した頃、私にとっては初めてとなる「事業用物件の管理業務」が転がり込んで来ます。

既にこの頃には、数件の居住用物件の契約管理を担当しており、こうした管理物件のオーナー様の一人から、「今お願いしているアパートの他にも所有している店舗物件があり、そこに空きが出るので新規募集をお願いしたい」との申し出を受けたのです。

ちなみに客付け業者(他社が管理する物件にお客様をご紹介する業者)という立場では、事業用物件の契約を数件かこなしていたのですが、自分が管理会社として「元付けの仕事」をするのは初めての経験となります。

また、先輩社員が事業用物件の契約に関して「訴訟寸前の状態まで追い込まれいる様」を目の当たりにしていましたので、お仕事を頂いて嬉しい反面、かなり不安な気持ちでもありました。

とはいえ、ここで尻込みをしている訳にも行きませんので、早速オーナー様に会って「新規募集に関する賃料等の条件」を打ち合わせると共に、その足で物件の確認も済ませることにします。

なお、今回ターゲットとなる物件のスペックは、それなりの乗降者数を誇るターミナル駅から徒歩で8分程の場所にある、鉄筋コンクリート造4階建て物件の1階部分(専有部分の面積は100㎡程)です。

店舗物件の場合、前使用者が作った造作などをそのままの状態で新規募集を行う「居抜き物件」も珍しくありませんが、今回はほぼスケルトンの状態で、エアコンや自動ドアのみが残置物として残されていました。(残置物と設備の違いについてはこちらの記事をご参照ください)

また、新規募集用の図面作成に関しては、オーナー様より建築確認のコピーを頂いておりましたので、それ程の手間は掛からなそうです。

そこで手早く募集図面を作成した上で、不動産業者同士の情報共有媒体であるレインズ、アットホームに登録を行い、客付け業者からの反響を待つことにします。

 

困った申込み人

物件の床面積が約30坪(100㎡)と広めであることに加え、そこそこ人気のある立地でもあるために「賃料設定は少々高額」となっていましたから、

『そう簡単には申込みは入らないだろう』と思っていたのですが、募集開始から1週間ほどで客付け業者のご案内が入り、あっと言う間に申込みへと至ることとなりました。

そこで、私の会社の申込書のひな形を送り、客付け業者を介して「必要事項が記入された申込書」が送り返されて来たのですが、その内容は実に悩ましいものだったのです。

申込人は法人であり、職種はリサイクルショップであると記されています。

但し、会社の名前は聞いたこともありませんし、必要事項も殆ど記載されていない状態でした。

『こんな申込みの内容ではオーナー様も判断のしようがない』と思い、客付け会社に連絡して、会社の登記簿謄本や決算書3期分の提出をお願いします。

なお、これらの書類を揃えるのに少々時間が掛かるとのことでしたので、その隙に申込みをして来た法人の内容をリサーチすることにしました。

まずはネットでホームページを探してみますが、非常にしょぼいページが存在するだけです。

ちなみに、どうやら他にも2つ程店舗があるようなのでホームページをプリントアウトし、その後に届いた謄本なども携えて、オーナー様との打合せに臨むことにします。

そして、手渡された申込み書類一式に目を通すオーナー様でしたが、「これはどう判断したものだろうね・・・」とお困りのご様子です。

確かに会社謄本を見ても、非常に資本金が少ないこと以外は取り立てて得られる情報はありませんし、決算書も赤字ではないものの、売上・利益共に非常に寂しい法人さんであることしか判りません。

その上、先方の希望条件は「連帯保証人には会社の社長を」と言って来ていますので、これは確かに判断しずらいものがあります。

そこで止むなく、「審査のお返事は一旦保留」とさせてもらい、私の方で更に詳しい調査をしてみることにいたしました。

ちなみに大手の不動産業者の場合ですと、帝国データバンクなど、企業の経営情報が閲覧できるサービスを利用しているところも少なくありませんが、私の会社がそんな気の利いたものを利用しているはずもありません。(たとえ閲覧できたとしても多分登録はないでしょうし)

そうとなれば、まずは「現在営業中の店舗の様子を見に行く」くらいしか方法はありません。

幸いそれ程遠方ではありませんでしたので、一般客のフリをして店内を視察してみました。

店内は正直「雑多」としか言いようのない様子である上、公道上まで冷蔵庫や洗濯機といった売り物がはみ出して陳列されています。

「これはあんまり質の良い会社じゃなさそうだな・・・」、そんな暗い気持ちで事務所に帰り、決算書の内容を精査し始めました。

そして不慣れな決算書と格闘すること一時間、「計算が合わない箇所がある」ことに気が付くのでした。

慌てて計算機を叩き、当社の経理担当にも内容を見てもらいますが、明らかに売り上げや、利益を水増ししている形跡が見てとれます。

即刻、大家さんに連絡を入れ、結果的には「審査落ち」とすることに決まりました。

 

成約・引渡し

今回の物件への「初めてのお申込み」がこのような結末となっため、『これは何とも幸先の悪いスタートだな・・・』と暗い気持ちになってしまいましたが、その後間もなくして新たな申込みが入ります。

今回は主婦の方が洋服屋さんを始めるために、物件を借り上げるというお話です。

『初めての起業で大丈夫なのか・・・』と心配していましたが、申込書の連帯保証人欄にはご主人のお名前があり、御勤め先は一部上場企業となっています。

また、このお勤め先ですから年収の面でも申し分がありませんでしたので、契約へとお話を進めることとなりました。

しかしながら店舗の契約となると、一筋縄では行かないようで、残置物のエアコンと自動ドアを設備扱いにして欲しいなど様々な注文が付けられます。

なお、この件に関しては「エアコンのみ設備とする」ということで合意に至り、ようやく契約・引き渡しに漕ぎ着けることができました。

但し、引渡し後も「1階の店舗(今回契約した洋服屋さん)が新規に取付けてた看板が、他の階のテナントの看板を見え辛くしている」といったクレームや、反対に「上の階の店舗が流すBGMが五月蠅くて業務妨害だ」など物件の管理は非常に手間の掛かるものとなっています。

なお、こちらの新規入居のテナントさん、その後とんでもないクレーマーへと変貌することになるのですが、これはまた後日お話させていただくことにいたしましょう。

事業用物件契約まとめ

さて、ここまで私が初めて経験した事業用物件の体験記をお送りしてまいりました。

以前に、居住用物件の契約管理・元付け仕事の体験記を書きましたが、そちらと比較してくだされば「如何に事業用物件の管理と契約が難しいものであるか」をご理解いただけることでしょう。

また不動産屋さんの中には、こうした事情から「店舗・事務所は扱わない」というスタンスの会社さんもあるようですが、

お客を選べる立場にない企業様も多いと思いますので、本ブログの記事をご参考にしてトラブルの無い取引を目指していただければ幸いです。

ではこれにて、事業用賃貸借契約の顛末をレポートいたします!(元付け編)を締め括らせていただきたいと思います。