本ブログでは以前に、中古アパートを対象にした収益物件購入の流れ等を解説する記事をお届けいたしました。

しかしながら同じ投資用物件であっても、その対象が賃貸マンションのような大型物件となった場合には、小型物件とは異なる様々な問題が発生してくるものです。

そこで本日は「一棟マンション購入のポイントと注意点を解説いたします!」と題して、大型物件ならではの特色や問題点、そして私が実際に経験した大型収益物件購入の顛末記をお届けしたいと思います。

一棟マンション投資

 

一棟マンション購入のポイントと問題点

冒頭でもお話しした通り、大型収益物件の購入に際しては小型物件の購入とは異なる以下のような特色や問題点が存在します。

  • 資金計画のハードルが高い
  • エレベーター、高架水槽等、小型物件にはない特殊な設備が存在する
  • 世帯数が多い故に発生する管理上の問題点
  • 世帯数が多い故に発生する財務的な問題点
  • 建物の修繕、メンテナンスにおける問題点

不動産投資を行う方々の中には「いつかは大型賃貸マンションのオーナーになってみたい」といった夢をお持ちの方も多いことと思います。

確かに小ぶりの物件を数多く所有していると「管理にそれなりの手間」が掛かりますから、『一つの物件で大きな収益を上げる方が効率的である』のは間違いありません。

そして大型物件の購入に際して最初のハードルとなるのが、如何にして資金計画を立てるかという点になります。

収益物件の購入で融資を利用するのであれば、それなりに自己資金が必要になりますが、これが5億、10億円という価格の物件となれば、膨大な額の自己資金を用意しなければなりません。

もちろん、金融機関と長年良好な関係を築いていれば、僅かな自己資金で多額の融資を受けられるケースもありますが、そうでない場合には「これまで買い集めて来た他の収益物件を担保に入れる」といった方法を選択せざるを得ないのが実情でしょう。

ちなみに、大型物件の場合には敷地面積に余裕がある場合も多いですから、金融機関に提出する事業計画において「購入後に敷地の一部を売却して、繰上げ返済を行う(土地面積が減少しても現在の建物が不適格建物とならないことが必須)」といった内容を盛り込むのも一つの方法でしょう。

また、大型賃貸マンションなどにおいては、

  • エレベーター
  • 受水槽、高価水槽
  • キュービクル(変圧設備)
  • 機械式駐車場

といった、アパートなどでは決して目にしない設備が設置されていることも珍しくありません。

こうした設備の維持管理には特別なノウハウと費用が発生しますし、老朽化によって更新工事を行う場合には、当初の資金計画を揺るがす程の経費が発生する可能性もありますので、事前にしっかりと設備状況を調査を行うことが重要です。

なお物件が大型化すれば、そこに収容される人員の数も増えるのが道理です。

そうとなれば、

  • 発生するクレームの件数の増加
  • 契約更新等の事務作業件数の増加
  • 入退去発生率の増加

が見込まれますし、これに伴い

  • 修繕費や原状回復工事費の増加
  • 新規募集時に支払う広告料の増加
  • 管理会社へ支払う管理費の増加

も不可避となり、「費用の面でも大きな負担が発生する」ことになるでしょう。

更に、外壁や屋上の修繕工事など定期的なメンテナンスについても、施工面積や足場の設置費用などの増加に伴い多額のコストが発生することになります。

ちなみに、鉄筋コンクリート造(RC造)の建物で雨漏りが発生した場合には、その原因究明にかなりの手間と時間を要することが珍しくありません。

木造建築物の場合などには、屋根や外壁の破損など原因特定が容易なケースが多いの対して、RC造の建物では原因と思われる箇所に何度も散水などを繰り返してながら、一つ一つ怪しい箇所を潰していく地道な作業を強いられることになるのです。

このように賃貸マンションにおいては、大型物件ならではの問題等が存在することをご理解いただけたことと思いますので、ここからは管理人が実際に経験した大型収益物件の購入体験記をお届けしていきたいと思います。

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一棟マンション購入体験記

では早速、私が初めて大型収益物件の購入にチャレンジした際の顛末記をお届けしてまいりましょう。

初めての大型物件購入

以前にお届けした記事でも触れましたが、私が勤める不動産会社ではある時期から『収益物件の買取』に力を入れておりました。

また、不動産会社が投資物件を購入する場合には、多くの企業が転売を目的にしているものですが、私の会社は購入した物件の内、半分を転売、もう半分を長期保有するという少々珍しいスタイルでしたから、

必然的に「転売ビジネス」と「不動産管理」という両面から不動産投資を勉強することが可能となり、これは非常にスキルアップに繋がったように思えます。(その分、苦労も多いようにも感じますが)

なお、こうした転売と保有をバランス良く行っていくことで、我が社が購入できる物件のグレードも徐々に向上していき、数年前からは10億レベルの一棟マンションやビルも購入の対象となっていました。

もちろん私も、仕入れ担当の営業マンとして様々な収益物件の購入に携わって来ましたが、未だに大規模収益物件の取引を経験する機会は訪れず、そのチャンスを常に窺う毎日を過ごしていたのです。

そんなある日、遂に絶好のチャンスカードが私の下に転がり込んで来ました。

その切っ掛けは、数年前に行われた不動産屋さん同士の飲み会で名刺交換をしたSさんという方から、突然電話が入ったことに始まります。

見覚えのない着信番号に少々怯えながら電話応対をしますが、名前を聞いても社名を聞いても相手が思い出せず、飲み会で出会った記憶が蘇って来たのは、要件も中盤に差し掛かってのことでした。

ちなみにその飲み会の夜はかなり酔っぱらっており、気が大きくなった私は「仕事の話もかなり見栄を張ってしまった記憶」があります。

そして案の定、Aさんからは「10億以上の物件をバンバン買っていると話しておられたので、ちょっと物足りない物件かもしれませんが・・・」などという前置きのお言葉を頂いた上で、物件のご紹介を受けることになりました。

確かに10億以上の物件も買えるようになって来たのは事実ですが、「バンバン」は明らかにウソです。

『もの凄い高い物件だったらどうしよう』とドキドキしている私に、Aさんは物件の概要を説明して行きます。

さて、今回紹介していただく物件はといえば、1979年築の大型一棟ものマンションであり、世帯数は50戸の鉄筋コンクリート造5階建て、価格は5億円前後となるようです。

『おおっ、5億くらいなら何とかなるかも!』と少々ホッとしながらも、私にとっては初めての高額案件なので少々興奮しながら社長の判断を仰ぎます。

また実際に物件を見に行ったところ、築年数こそ古いものの、なかなか手入れが行き届いている物件であり、5億での想定利回りは14%にも達する計算です。

なお、このようなお話をすると「そんな美味しい話があるのか?」と思われるかもしれませんが、その激安価格のタネは「建物の築年」にありました。

実は1981年に建築基準法の大幅な改正が行われており、これ以降の建物は「新耐震基準」と呼ばれる厳しい耐震基準が適用されます。

これに対して、1981年以前の建物には旧耐震基準に基づいた建物となり、その耐震性には大きな差があるのです。

よって金融機関においては新耐震基準と旧耐震基準の建物では融資の限度額に大きな差を設けているところも多い上、そもそも「旧耐震基準の建物は融資の対象外」という銀行まで存在しています。

更に、今回の建物は建築確認は取得しているものの完了検査(建築確認の通り施工が行われているかの検査)が未実施となっており、殆どの金融機関で融資の取り扱いができない物件だったのです。

そして、このような条件となれば転売目的で本物件を購入できる不動産屋さんは極端に数が減りますし、「地震に弱い」と聞けば一般の方もなかなか手が出し辛いはずです。

その点、私の会社は長期の保有が可能ですし、旧耐震、検査済み未取得でも融資を組んでくれる銀行とお付き合いがありますので、正に「我が社のためにあるような物件」ということができるでしょう。

当然ながら、こうしたポイントは我が社の社長もしっかり把握しておりますので、「話を進めよ!」との指示を頂くこととなりました。

アパートとは異なる大変さが!

さて、社長の鶴の一声によって前向きにお話を進めることとなりましたが、やはり不動産購入にはしっかりとした調査をしなければなりません。

そこでまずは、以前の記事でも書いたとおり、建物の外観から「入居者の暮らしぶり」などの情報収集、そして現地調査に勤しみます。

また、法令上の制限などについての役所調査についても万全を期さねばなりません。

ちなみに、ここで一つ注意が必要なのは先に述べた「建築確認は取得しているが、検査済証は取得していない」という点についてです。

詳しくは「建築確認・確認済証等について知っておくべきこと」の記事をご参照いただきたいと思いますが、建築確認は行政に対して「建てる建物が建築基準法の内容に適合しているか否かの確認をしてもらうこと」を意味します。

そして『検査済証』は「建築確認の通りに工事が完了しているかを検査(完了検査)してもらい、その結果として頂ける合格証」ということになる訳です。

更に、現在では考えられないことですが、以前は建築確認のみを取得し、後は勝手に建物をカスタマイズして検査を受けずにいる建物も数多く存在していました。

当然、今ではこうした行為は罰則の対象となりますが、当時は当たり前のようにこうした行為が行われていた上、行政も黙認していたというのが実情なのです。

もちろん過去に行われたことについて遡って罰せられる可能性は低いのですが、現状立っている建物が著しく建築基準法に違反しているのは大問題ですし、

建て替えに際して、「現在の半分の大きさの建物しか再建築できない」といった悲惨な状態に陥るのは避けたいですから、建築確認と実際の建物の差をチェックして行きます。

なお調査の結果、大きな問題点は発見されませんでしたから、この点についてはとりあえず一安心です。

しかしながらここで、収益物件の取引経験が豊かな先輩からある指摘を頂きます。

それは「エレベーターと水道の設備状況は大型物件の要注意項目であるから、しっかりと確認をせよ」との内容でした。

エレベーターに関しては、故障などで交換が必要となると2000万円程度はざらに費用が掛かることもあるので、型が古い場合には状態をしっかりチェックした上、交換も視野に入れて購入価格を決定しなければなりません。

また水道については、水圧で直接各階に水を引き込んでいる「直結式」であれば問題はありませんが、

一度タンクに水を溜める「受水槽式」等の場合には、タンクの清掃などのメンテナンス費用に加え、ポンプの交換費用、直結式への改修費用などについても考慮しておく必要があると言います。

普段は全くアドバイスをくれない先輩ですが、やはりこの規模の物件となると様々な不安が過るようなので、ここはありがたく忠告に従うことにしました。

更に、その他もろもろの現地調査を行いますが、これといった問題はなさそうですので、社内で価格を改めて協議した上で売主側に価格の打診を行います。

その後、紆余曲折を経ながらも、どうにか売主さんから金額面での合意を頂くことができ契約・決済へとお話は進んで行きます。

なお、大きな建物の契約となると『書類作りもさぞかし大変なのだろう』と考えていましが、その内容は「一棟ものアパートと殆ど変らない」ものでした。

そしてトントン拍子にお話は進んで契約も滞りなく完了し、遂に引渡しの日を迎えることになります。

決済当日は残代金の受け渡しに、所有権の移転、最後に「大量過ぎる鍵の束」と「膨大な建築図面」、そして「分厚い賃貸借契約書のファイル」を渡されて取引は完了です。

ちなみに、ここまでの流れは順調そのものでしたが「投資物件は引渡し後が厄介」なのがお約束となりますから、決して気は抜けません。

また「厄介さの度合い」も物件の大きさに比例して増大していく気がしていましたので、今回はかなりの覚悟が必要そうです。

大型物件ならではの悩み

さて、無事に引渡しも完了いたしましたので、いよいよ実際に物件の運用を始める段階に入ります。

既にお話しした通り、今回の物件は1981年以降に採用された新耐震基準を満たしていない上、建築確認の検査済証も取得していませんので、転売ではなく「長期の保有」で収益を上げて行く計画です。

また幸い、以前のオーナー様が細目に建物のメンテナンスをしてくれていたお蔭で、外壁塗装や屋上防水など「お金が掛かりそうな工事」はしばらく行わずに済むでしょう。

但し、前所有者もあくまで一般の方ですからメンテナンスが行き届いていない点も多く、各部屋の排水口の高圧洗浄や消防点検などは早めに手配しておく必要がありそうです。

そこでまずは高圧洗浄の手配を行ったのですが、世帯数50戸ということでその料金は想像以上にお高いものとなってしまいます。

そして高額な請求書を目の当たりにして、早くも大型物件ならではの問題点を痛感させられるのでした。

なお実際の高圧洗浄作業においては、とにかく「在宅している部屋の少なさ」に悩まされます。

ちなみにこの問題については「住んでいる方々の属性にもよるところ」も大きいのでしょうが、結果的に洗浄を行えたのは全世帯の僅か半分程度となりました。

当然、入居者が不在でも工事費用が安くなる訳ではありませんし、再度洗浄を手配するにも経費が高く付きますから、これは実に頭の痛い問題です。(消防点検もしなければなりませんし)

その上、更なる「大型マンションならではの厄介事」が頭をもたげ始めます。

それは常に入居者の入れ替えが発生するという問題です。

確かに50戸も世帯数があれば「それなりに入退去はあるだろう」と覚悟はしていたのですが、1部屋埋まったと思えば、1部屋が退去するといった具合に常に空室を抱えてしまう状態が続きます。

また更に困るのが、退去したお部屋のリフォーム費用の問題です。

当然、クリーニング程度で済むお部屋もありますが、中にはクロス全交換や、ユニットバス交換が必要というお部屋もあり、50万円クラスの原状回復工事を行うことも珍しくはありません。

これまで『一度はビルオーナーの気持ちを味わいたい』と大型物件の仕入れに力を入れて来ましたが、「大きな収益をあげれば、維持管理の手間や出費も比例して増えていく」という当たり前のことを、改めて思い知らされるのでした。

古い建物は問題がいっぱい!

さて、その後も頑張って物件の運用を続けて行きますが、築年数が古い建物ならではの問題が数多く顔を覗かせ始めます。

まず最初に起こったトラブルは、いくつかのお部屋でネズミの被害が発生するという事態でした。

入居者から「キッチンに置いてあったパンが齧られた」「子供のが噛まれそうになった」等の苦情が続々入って来ます。

慌てて害虫駆除業者に連絡して対処を行いますが、原因はどうやら「パイプスペースの壁にある隙間から、室内へネズミが浸入したものと思われる」とのことでしたので、被害が出ていないお部屋も含め全室をチェックし、空いている穴を埋めてもらいました。

また次に発生したのが、雨漏りの問題です。

報告があったのは幸い1部屋だけでしたが、建物全体に係る問題なので早速調査に乗り出します。

ちなみに今回の物件に関しては、契約上、契約不適合責任(雨漏りや建物の傾きなど建物の傷に対して売主が負う責任)は『免責』の扱いとなっているため、前所有者に費用の請求を行うことはできません。

そして、「外壁や屋上の塗装も新しいのに何故?」と首を傾げながら、いつもお世話になっている工務店の社長Aさんと現地を確認します。

なお結果的に判ったことは、外壁や屋上の塗装自体は新しいものの「防水性のある塗料は使われていない」というショッキングな内容でした。

その上、コンクリートのひび割れについても適切な処理がなされておらせず、上から塗装を覆い被せているだけなので、塗装の内部では鉄筋の腐食が進行し続けているというのです。

但し、それでも雨漏りが生じている箇所は少ないため、「数年以内に適切な工事を行えば、何とかなる」とのアドバイスを頂き、少しだけホッとします。

それでも、この事実を社長に報告しない訳には行きませんから、後のことを考えると胃がキリキリと痛み出しますが、クレームが来ているお部屋の雨漏りを一刻も早く止めなければなりませんので、落ち込んでいる暇などありません。

そこでまずは、雨漏りの原因とおぼしき箇所にホースで水を掛け、水の侵入箇所を探して行きます。

しかし、かなりの長時間水を掛けて続けてもお部屋に水は浸み出して来る気配はありませんので、やむなく「ここが怪しい」という箇所に防水処理をして様子を見ることにしました。

ちなみに建築屋さんの話では、コンクリートの雨漏りは木造等に比べて原因究明が非常に困難であり、「原因はここであろう」という補修を繰り返して行くしか方法は無いとのことです。

そして建物によっては、数年間かけても雨漏りが止まらないケースもあると言いますから、これは正に悪夢としか言いようがありません。

なお一番の解決策は、やはり「大規模修繕を行い、全体的にひび割れの補修と防水塗装を行うこと」との辛辣なアドバイスを頂き、ガックリうな垂れながら会社に戻ったのを憶えています。(大規模修繕には数千万円の費用が掛かる)

ただ、幸いなことに今回の雨漏りについては次の工事で水の侵入を防ぐこと成功しましたので、これは非常にありがたかったです。

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投資用マンションまとめ

さてここまでが、私が初めて購入した投資用一棟マンションの顛末記となります。

ちなみに、この物件は現在も会社で保有し続けていますので現在進行形のお話ともなりますが、購入から7年後にどうにか社長を説得することに成功し、大規模修繕を行うことができました。

また、大規模修繕以降は建物に関するトラブルも激減して、かなり扱いやすい物件となっていますが、修繕の際にも「様々な出来事」がありましたので、その詳細については「マンション外壁塗装工事の流れや注意点を解説いたします!」という記事にてお話しさせいただくつもりです。

なお、この記事を通して「大型物件は上がって来る収益も大きい代わりに、様々な問題が発生する可能性がある」ことをご理解いただけたことと思います。

そして、目先の利回りばかりに心を奪われ、築年数の古い物件を購入することのリスクを実感していただければ、管理人としては望外の喜びです。

ではこれにて、「一棟マンション購入のポイントと注意点を解説いたします!」の記事を締め括らせていただきます。