不動産の取引といえば、売買や賃貸を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、土地や建物をお互いに交換する「交換契約」という方法もあります。
私も過去に、姉妹が所有する自宅とアパートを交換する取引を担当したことがありました。当事者双方の希望がうまくかみ合った案件でしたが、準備を進める中で大きな課題となったのが、それぞれの不動産の価格をどう判断するかという問題です。
この記事では、そのときの実体験をもとに、不動産交換契約の流れや価格差の精算、契約前に確認しておきたい注意点を解説します。なお、当時の取引の経緯と、現在の制度に基づく一般的な確認事項を分けてご紹介します。

不動産交換契約とは?売買との違い
不動産交換契約とは、当事者がそれぞれ所有する土地や建物などを、相互に譲り渡す契約です。売買が不動産と金銭を交換する取引であるのに対し、不動産交換では不動産同士を交換することになります。
ただし、双方の不動産が同じ価格とは限りません。価格差を金銭で調整する場合には、その差額を「交換差金」として支払います。
例えば、5,000万円の不動産と3,000万円の不動産を交換し、その価格差を全額精算するのであれば、3,000万円の不動産を渡す側が、相手へ2,000万円を支払う形です。
不動産同士の交換であっても、それぞれの資産を譲り渡し、新たな資産を取得する取引であることに変わりはありません。現金の受け渡しが少ないからといって、税金や諸費用まで少なくなるとは限らない点に注意しましょう。
姉妹の自宅とアパートを交換することになった経緯
私が初めて交換契約を担当したのは、売買部門に配属されて5年目の秋でした。以前、資産運用の相談を受けた姉妹から、改めて話を聞いてほしいと連絡をいただいたことが始まりです。
姉は息子のマイホーム用地を探していた
この姉妹は、親御さんからそれぞれ立地のよい土地を相続され、各々の土地に自宅を建てて暮らしていました。その後、お姉さん夫婦が田舎暮らしを始めることになり、元の自宅をアパートへ建て替えたという経緯があります。
私は、その建て替えに際して建築会社を紹介し、完成後のアパートの賃貸管理も当時所属していた会社で担当していました。そのため、再び相談の連絡をいただいたときには、アパートに何か問題が起きたのだろうかと思ったものです。
ところが、お話を伺うと、今回はお姉さんの息子さんのマイホームに関する相談でした。物件を探していたものの希望に合うものが見つからず、立地や土地の広さを考えた結果、妹さんの自宅が建つ土地が最適だという話になったそうです。
妹は田舎暮らしと家賃収入を希望していた
一方、妹さん夫婦も、お姉さん夫婦の生活を見て田舎暮らしを希望するようになっていました。すでに移住先の土地も購入しており、今の自宅をアパートへ建て替えて、家賃収入を得られるようにしてから移住する計画だったのです。
そこで持ち上がったのが、妹さんの自宅と、お姉さんのアパートを交換する案でした。お姉さんは息子さんのマイホーム用地を確保でき、妹さんは自らアパートを建築することなく、すでに賃貸運用されている物件を取得できます。
双方の希望がうまくかみ合い、その交換取引の仲介を私が担当することになりました。
最大の課題は交換する不動産の価格だった
相談を受けたものの、私にとって交換契約は初めての経験でした。社内にも経験者が見当たらず、司法書士に相談したり、所属する不動産業界団体の契約書式を確認したりしながら、準備を進めていきました。
隣同士で面積が近くても同じ価値とは限らない
今回交換する二つの土地は隣同士で、面積もそれぞれ30坪ほどでした。土地だけを見れば、条件の近い物件だったといえます。
しかし、妹さんの土地に建っていたのは築30年ほどの自宅であり、お姉さんの土地に建っていたのは築3年ほどのアパートです。建物の築年数や利用状況に大きな違いがあるため、土地面積が近いからといって、そのまま同額で交換できるとは考えられません。
特に親族間では「お互いに納得していればよい」と思われがちですが、税務上もその価格が妥当と認められるかは別の問題です。そこで、価格の検討にあたっては、会社の顧問税理士へ相談することにしました。
税理士への相談で2,000万円を超える価格差が判明
税理士からは、今回の検討について5万円ほどの報酬が必要との説明がありました。当事者のお二人にも了承いただき、税務上の取扱いを含めて確認してもらうことにします。
その後届いた検討結果では、二つの不動産に2,000万円を超える価格差が生じていました。建物などの条件が違うため、ある程度の差は予想していたものの、私にとっては想像以上の金額です。
この差額を知ったら交換自体を見直すのではないかとも思いましたが、お二人は差金を精算することで合意されました。こうして、交換契約へ向けた話を具体的に進められることになったのです。
交換の話は、双方の希望が一致すれば順調に進みそうに見えます。しかし、価格を検討した結果、多額の差金が必要になることもあります。契約条件を固める前に、物件価格と税負担、差金を用意できるかを確認することが大切です。
交換契約から決済・登記までの流れ
価格差の精算について合意ができれば、次は契約と引渡しに向けた準備です。交換だから特別な手続きだけを行うというわけではなく、通常の売買と共通する確認も数多くあります。
双方の物件調査と重要事項説明を行う
不動産会社が仲介する交換取引では、交換対象となる双方の不動産を調査し、重要事項説明を行う必要があります。所有者や抵当権などの権利関係、道路、境界、法令上の制限、建物の状態などを確認していきます。
今回の当事者は姉妹であり、お互いの土地や建物を以前からよく知っていました。そのため、説明の内容も、当事者にとっては馴染みのあるものが多かったと思います。
ただし、普段から知っている物件でも、登記や法令上の問題まで把握しているとは限りません。「親族だから」「よく知っている建物だから」という理由で確認を省かず、取引条件を整理する必要があります。
交換価格・差金・引渡し条件を契約書に定める
契約書には、交換する不動産の内容に加え、それぞれの価格、交換差金の金額と支払方法、所有権移転や引渡しの時期などを明記します。双方が不動産を引き渡す立場になるため、どちらが何を、いつまでに行うのかを整理することが重要です。
- 交換対象となる土地・建物と、それぞれの価格
- 交換差金の金額、支払期限、支払方法
- 所有権移転登記と引渡しの時期
- 抵当権などの負担を解消する条件
- 建物・設備の状態や契約不適合責任の取扱い
- 固定資産税、家賃、敷金などの精算方法
- 契約解除の条件、違約金の金額や算定基準
違約金を価格に対する割合で定める場合にも、どちらの物件価格を基準にするのかが曖昧では困ります。使用する契約書式を確認し、当事者双方が同じ理解を持てる内容にしておきましょう。
今回の取引では契約と決済を同日に実施した
今回の案件では、交換差金の準備ができることもあり、契約と決済を同日に行いました。重要事項説明と契約書の読み合わせを行い、差金の精算と司法書士による登記必要書類の確認を進める形です。
私自身は初めての交換取引ということで、かなり気合を入れて臨んでいました。しかし、当日は大きな問題もなく手続きが進み、少し拍子抜けしたことを覚えています。
もっとも、これは価格や条件について事前に整理できていたからこそです。融資の利用、抵当権の抹消、転居などが関係する場合には、それぞれの準備に合わせて契約日と決済日を設定する必要があります。
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不動産交換契約で確認したい注意点
ここからは、今回の体験を踏まえ、これから交換取引を検討する方に向けた一般的な注意点を整理します。価格の合意だけで終わらせず、税務や引渡し後の運用まで確認しておきましょう。
親族間でも価格の根拠を整理する
個人から著しく低い対価で財産を取得した場合には、時価と対価との差額について、贈与を受けたものとみなされることがあります。交換でも、価値に大きな差があるのに差金を精算しないなど、一方が著しく有利になる条件には注意が必要です。
ただし、価格差が少しでもあれば必ず贈与税がかかるというわけではありません。著しく低い対価に当たるかは、個々の事情に基づいて判断されます。
また、不動産の通常の取引価格と、固定資産税評価額や相続税評価額は同じものではありません。評価証明書に記載された金額だけで交換価格を決めず、不動産会社による査定などの資料を整理し、税理士に確認することが大切です。案件によっては、不動産鑑定士への評価依頼も検討します。
譲渡所得と固定資産の交換の特例を確認する
不動産の交換では、金銭で売却していなくても、原則として譲渡所得の検討が必要です。「売買ではないから譲渡所得は関係しない」と考えて進めることはできません。
一方、個人が土地や建物などの固定資産を交換した場合には、一定の要件のもとで、譲渡がなかったものとする「固定資産の交換の特例」があります。主な要件は次のとおりです。
- 交換する資産が、双方とも固定資産であること
- 土地と土地、建物と建物など、同じ種類の資産を交換すること
- 譲り渡す資産を1年以上所有していること
- 取得する資産も相手が1年以上所有し、交換のために取得したものではないこと
- 取得した資産を、譲り渡した資産の交換直前の用途と同じ用途に使用すること
- 双方の時価の差額が、高い方の価額の20%以内であること
特例を受けるには、必要書類を添付した確定申告も必要です。また、特例が適用できる場合でも、受け取った交換差金に対応する部分は譲渡所得の課税対象となります。
土地と建物をまとめて交換する場合には、土地・建物を区分して適用要件を確認する必要があります。なお、用途の判定には税務上の区分があるため、自宅と賃貸住宅という違いだけで適用の可否を決めつけることもできません。
この記事でご紹介した取引について、交換の特例の適用や申告内容までを説明するものではありません。価格差の精算で贈与に関する問題を整理できたとしても、譲渡所得や特例の適用可否は別途確認が必要です。
制度の詳細は、国税庁の「土地建物の交換をしたときの特例」をご確認ください。契約前に、当事者それぞれについて税理士へ相談しておくとよいでしょう。
アパートの賃貸借契約・敷金・家賃精算を確認する
交換する不動産が賃貸中のアパートなどであれば、土地と建物だけでなく、賃貸運営に関する確認も必要です。現在の賃貸借契約や家賃の入金状況、入居者から預かっている敷金などを整理しておかなければなりません。
- 各部屋の賃貸借契約、家賃、契約期間
- 敷金・保証金の承継と当事者間の精算
- 引渡し日を基準とした家賃などの配分
- 滞納、苦情、修繕依頼などの未解決事項
- 管理委託契約や保証会社契約の取扱い
- 入居者への所有者変更・振込先変更の案内
親族間の交換であっても、入居者との契約や対応まで曖昧にしてよいわけではありません。誰がいつから家賃を受け取り、修繕や問い合わせに対応するのかを明確にしておきましょう。
収益物件を取得するときの確認事項については、投資物件購入の流れを解説した記事も参考になります。
登記費用や税金を含めて必要資金を把握する
交換差金を用意できれば、それで資金面の準備が終わるわけではありません。登記に関する登録免許税や司法書士報酬、不動産取得税、仲介を依頼する場合の仲介手数料、紙の契約書に関する印紙税なども確認が必要です。
さらに、譲渡所得に対する税金、税理士への相談費用、測量や建物調査などの費用が生じることもあります。固定資産税の精算金や敷金なども含め、当事者ごとの資金の出入りを一覧にしておくと分かりやすくなります。
特に仲介手数料については、交換差金だけを基準に考えず、どの物件価格を基に算定するのか、依頼前に説明を受けておきましょう。
通常の売買で発生する費用の項目は、不動産売買の諸費用を解説した記事で整理しています。ただし、交換では税率や軽減措置の適用条件などが異なる場合もあるため、今回の契約条件に即して確認してください。
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まとめ|交換契約は価格と税務の確認を先に進める
不動産交換契約は、当事者双方の希望が合えば、資産の組み替えに役立つ取引方法です。私が担当した姉妹の事例でも、息子さんのマイホーム用地を確保したいという希望と、家賃収入を得ながら田舎で暮らしたいという希望を両立できました。
その一方で、隣同士で面積も近い土地であっても、建物などの条件が違えば、2,000万円を超える価格差が生じることもあります。交換することへの合意が先にできていても、差金や税負担を確認すると、計画を見直さなければならない場合もあるでしょう。
交換を検討するときには、まず双方の不動産の価格と税務上の取扱いを整理し、そのうえで契約条件、資金、引渡しの準備を進めることが大切です。不動産会社、税理士、司法書士と早い段階で相談し、当事者双方が納得できる取引にしていきましょう。







