不動産を取り扱っていると時折遭遇するのが「土地を分割する」というシチュエーションです。
元々土地をお持ちの方であれば、土地を切り取って「庭先売りをしたい」というケースもあるでしょうし、「お隣の土地を少し譲ってもらいたい」という希望をお持ちの方もおられるでしょうが、『実際に何をどうすれば土地を分割できるのか』と尋ねられると頭を抱えてしまう人も多いことでしょう。
そこで本日は「土地の分割売却で収益を上げる方法を解説いたします!」と題して、不動産を活用する上で非常に重要となる土地の分筆作業の概要とこれを応用した投資手法をご紹介してみたいと思います!
土地分割と分筆登記
ではまず最初に、土地を分割する上で欠かせない「分筆」についてご説明してまいりましょう。
以前にお届けした「土地の境界線について解説いたします!」の記事においては、『それぞれの土地に境界線が存在する旨』をお話ししましたが、この境界で区切られた個々の土地には「地番」と呼ばれる番号が振られています。(区切られた土地のことを「筆(ふで)」と呼びます)
※地番は「●●区●●町1211-10」「●●区●●町1211-31」といった形式で番号が付けられます。
そして、この地番ごとに登記簿謄本(登記事項証明書)が存在しており、法務局に赴けば各土地ごと(各筆ごと)に所有権や抵当権などの権利関係を調べることができるのです。
通常の不動産取引においては「この筆単位で売買が行われる」ことになりますから、自分の所有する土地を切り売りする場合には筆を切り取る(分割する)作業、つまり「分筆登記」を行う必要がでてきます。
※一見すると一段の大きな土地に見えても法務局(公図)で確認すると、複数の筆が寄り集まった土地であるケースも少なくありません。
ちなみに分筆登記が行われると、元々あった土地が2つに分割されることになり、分筆によって誕生した土地には「新たに地番」が付与されます。
さて、実際に分筆作業を行うとなると
- 土地家屋調査への依頼
- 事前調査
- 現地測量
- 境界標の設置
- 隣接地所有者との筆界確認書の取り交し
- 地積測量図の作成
- 分筆登記申請
以上の手順で作業を進めていくことになります。
なお、相続登記などは当事者が自分で申請を行うことも不可能ではありませんが、分筆登記に関しては図面の作成や境界標の設置といった特殊な作業が必要となりますから、表示登記の専門家である土地家屋調査士への依頼が不可欠となるでしょう。
そして依頼を受けた土地家屋調査士は法務局や現地での事前調査を行った上で測量を行い、分筆によって新たに出来る境界線の目印となる「境界標」を設置します。
その後、対象の土地と接する権利関係者に境界線を確認してもらい、承諾を得ることができたなら「筆界確認書」という証拠書面を取り交わした上で、法務局へ提出する地積測量図を作成すれば分筆登記の準備は完了となり、登記申請をすることで手続きは終了です。
また、分筆登記の申請に際しては、
- 申請地の案内図
- 依頼者からの委任状
- 登記申請書
- 筆界確認書
- 道路境界確認書(公道に接する場合)
- 地積測量図
- 公図
- 登記事項証明書
などの書類が必要となります。
また、ここで注意が必要となるのは、隣接地の権利関係者等から「この境界線の位置では納得できない」と言われ、筆界確認書が取得できない場合には分筆登記は不可能となってしまうという点です。(道路境界確認書も同様です)
よって、分筆が必須となる土地を購入する場合には、土地が接する全ての境界を確定する「確定測量」を事前に行うことが不可欠となります。
ちなみに、分筆登記に際しての登録免許税は一筆につき1,000円と非常に安価ですが、図面の作成や調査費用、筆界確認の立ち会い料なども発生しますので、土地家屋調査士の報酬は最低でも30万円以上となるケースが多いはずです。(分筆対象の土地が大きく、境界標の数が多い場合にはそれに比例して費用が高額になります)
さてここまでの解説において分筆登記の概要はご理解いただけたことと思いますので、次項からはこの分筆を利用した「庭先売り」で収益を上げる不動産投資の手法について解説してまいりましょう。
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庭先売りで収益を上げる
「庭先売り」と聞いても、『いまいちピンッと来ない』という方も多いかもしれません。
この言葉は文字通り「建物の敷地の一部を分割し、売却してしまうこと」を表しており、今回ご紹介する手法においては購入した収益物件の空地(余っている土地)を切り取って、第三者に売却することが「投資の肝」となります。
このようなお話をすると「そんなことが可能なの?」というお声も聞えて来そうですが、既に不動産業界にはこの方法で多くの利益を上げておられる方が多数いらっしゃるのです。
なお、既にお話しした通り、土地の分割作業自体は土地家屋調査士に依頼すれば簡単に分筆が可能ですし、この売却で得た利益を当初の物件購入価格と相殺すれば、元々「大した利回りでなかった物件」を一気に『超高利回りの物件』に変身させることができますよね。
そしてこの手法を上手に用いれば、収益物件の市場に流通しながらも、利回りの低さ故に見向きもされない物件の中から「とんでもない掘り出し物」を見付け出すことも不可能ではありませんから、これは実に夢が膨らむお話です。
ちなみに、実際に市場で「庭先売りが可能となる程の大きな空地がある物件」を探してみると、なかなかこれを発見するのに苦労してしまうケースもあるでしょうが、利回り4%、3%といった普段あまりチェックしない層の物件(利回りに魅力を感じない物件)まで見渡してみることが物件を見付けるコツとなるでしょう。
特に地主系のオーナーなどが建てた物件には、「建物のボリュームに不釣り合いな広い土地がセットになっているケース」も少なくありませんので、こうした物件に狙いを絞って物件探しをするのも有効な手段かと思います。
ところで、ここで気になるのが『分割後の売却先』についてとなりますが、もろもろ融通が利きやすく、契約不適合責任などについてもリスクの少ない建売屋さん(戸建て分譲業者)などに買取りをしてもらうのがベストな選択肢となるでしょう。
また、庭先売りをする土地の面積が小さ過ぎて「分譲業者への売却が困難である場合」にはお隣の方(隣接地の方)に買ってもらったり、トランクルーム・駐車場用地として売却するという出口もあるはずです。
さてここまで収益物件の土地の分割売却についてご説明してきましたが、この手法を行う上で最も大切なポイントとなるのは
「庭先売りで得た収益」と「本来の収益物件購入の価格」を相殺して、『どれだけのメリットを得ることができるか?』を正確に予測できる能力
となります。
もちろん投資である以上は「失敗してしまう可能性」も付き纏いますが、『正しい相場観』と『物件を見極める確かな目』があれば、この分割売却投資法はあなたに莫大な利益をもたらすはずです。
不動産投資の市場に残された「売れ残り物件」を無理して購入するよりも、他の投資家とは異なる目線で物件を仕入れて転売ビジネスに挑戦してみるのも、「投資を成功に導く一つの方法」であるように思います。
分割に当たっての注意点
ここまでの解説にて「庭先売りの概要」についてはある程度ご理解いただけたことと思いますが、本項では分割売却の注意点などについてもう少し詳しく解説していきましょう。
建物が違反建築物にならないように分割する
土地を切り取る分筆の作業は、ある程度自由に行うことができますが、あまりに自分の土地を減らしてしまうと、現在建っている収益物件が建築基準法に違反した建物になってしまう可能性もあります。(建築基準法違反建築物・既存不適格建物)
違反建築物となってしまうと、将来的に収益物件の売却が困難となる場合もありますし、建て替えに際して、極端に小さな建物しか再建築できなくなる可能性もあるので注意が必要でしょう。
また、行政の建築Gメンなどに発見されると「改築の命令」が下ることもあり得ますから、分割に当たっては事前に設計士などの専門家に相談することをお勧めいたします。
確定測量済みの物件を選ぶ
既に解説した通り、土地の分筆ができるのは「隣接する全ての土地との境界線が確定している」という前提があってのこととなります。
※全ての隣接地と境界確定を行う作業を「確定測量」と呼びます。
よって、「お隣りの土地との境界線が未確定」といった土地では分筆ができませんし、購入した後で確定測量を行おうとしても、お隣の方の協力が得られず、境界争いなどに発展してしまうと『半永久的に分筆が不可能となる場合』もありますので是非ご注意ください。(境界トラブルに関する詳細は過去記事「不動産・境界越境問題について」をご参照ください)
なお、「全ての境界」という言葉の中には、行政が管理する『道路・公園・水路』等(これらを「官地」と呼びます)も含まれることになります。
もちろん、それなりの費用と時間を掛ければ官地との境界確定も不可能ではありませんが、対象が公道などの場合には、この道路に接する土地所有者の反対によって『道路の境界確定が不調に終わっているケース』もあり、こうしたパターンでは反対者が存在する限りいつまで経っても確定ができないこともあり得るでしょう。
切り売りした後のことも考える
そしてもう一つ注意したいのが、切り売りを終えた後の状態についてとなります。
例えば、購入したアパートの南側に余分な土地があり、これを戸建て分譲業者に切り売りしたとしましょう。
そして、この売却した土地に3階建ての建売が建築されてしまえば、北側に残されたアパートの日照は著しく阻害され、肝心の収益物件の集客性に大きな影響を及ぼすことになるはずです。
よって、切り売りをしたまでは良いが、結果として自分で自分の首を絞めるような土地の分割は絶対に避けるべきですから、慎重に検討を重ねてから計画を実行に移しましょう。
物件に抵当権が設定されている場合には金融機関へ事前相談を行う
分筆を行う物件に抵当権が設定されている場合には、事前に借入をしている金融機関に「庭先売りを検討している旨」を相談しておくべきです。
分筆登記自体は抵当権者の承諾がなくとも可能ですが、実際に売却を行う場合には抵当権の抹消を行う必要がありますし、分割によって著しく物件の価値が低下する場合などには「借入の一括返済を求められるケース」もありますので、事前相談は必ず行ってください。
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土地の分割売却で収益を上げる方法を解説!まとめ
さて、ここまで「分筆登記の概要」と「土地の分割売却で収益物件の利回りを向上させる手法」を解説してまいりました。
「庭先売り」は少々手間の掛かる投資方法ではあるかもしれませんが、「賃料を稼ぐことだけが不動産投資だ」と考えている方には絶対に生まれてこない発想となりますから、物件探しに苦労されている投資家さんにはお勧めの手法なのではないでしょうか。
但し、この方法を一般の方が何度も繰り返し行うと、宅建業法違反となってしまう可能性がありますのでご注意ください。(不動産業の免許を取れば問題はありません)
また、切り取る土地の面積や地形、売却する相手、売却価格の算定などには慎重を期するべきですから、お付き合いのある不動産屋さんなどに依頼して、相談に乗ってもらうのも一つの方法であるかと思います。
なお、部分売却後に不動産の譲渡所得税が課税されるケースもありますので、しっかりと試算を行った上で、分割に臨んでいただければ幸いです。
ではこれにて、「土地の分割売却で収益を上げる方法を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきます。