近年、「不動産業界」や「中古住宅の市場」に大きな影響を及ぼすこととなったのが『インスペクション』なるものです。

インスペクションの概要につきましては、過去記事「インスペクションとは?不動産取引の新たな潮流を解説します!」にてご説明いたしましたが、簡単に申せば『中古住宅の検査制度』を指す言葉となります。

当然のことながら、これまでも不動産の市場には多くの中古住宅が流通していましたが、売買完了後に「雨漏り」や「シロアリの被害」などが発覚して『取引上のトラブルへと発展するケース』も少なくありませんでした。

そこで国土交通省はこうした状況を打破するべくインスペクションと呼ばれる売買前の建物検査を世に広めて行くこととしたのです。

そして2016年には「宅地建物取引業法」の改正が行われ、『中古住宅の売却に際して、不動産業者は売主へインスペクションを勧めなければならない』という条項が盛り込まれることになったのです。

こうした始まった「インスペクション普及のムーブメント」は確実にその効果を現しはじめ、多くの中古物件取引において建物検査が実施されるようになりましたが、これだけではまだまだ「取引の安全性が確保された」とは言い難いでしょう。

そこでインスペクションと共に整備されることとなったのが中古住宅用の瑕疵保険制度なのです。

そこで本日は「インスペクションと瑕疵保険について解説いたします!」と題して、この保険制度の詳細を解説してみたいと思います。

インスペクションと瑕疵保険

 

中古住宅瑕疵保険の必要性

冒頭でも申し上げた通り、中古戸建ての売買は他の物件に比べて、雨漏り等の瑕疵(見えない建物のキズ)に関して大きなリスクを抱えた取引となります。

なお、これが中古の分譲マンションともなれば躯体や外壁、基礎など殆どの部分が共用部分(管理組合が管轄する部分)となるため、問題が発生しても「責任は管理組合にある!」と言えるのですが、戸建ての場合はその全てを売主が負担しなければなりません。

またマイホームを売却したからといって、誰もが大金を手にできる訳ではありませんから、瑕疵担保責任による補修費用の負担は売主にとっても非常にリスキーなものとなりますし、

買主にとっても一生に一度の大きな買い物に「欠陥があった」となれば、これはあらゆる面で非常に大きなストレスとなるのは確実でしょう。

こうように中古戸建てには「潜在的な危険性」ともいうべき問題点が潜んでいるのですが、実はインスペクションが叫ばれる以前からこうしたリスクに備えるための「中古住宅を対象とした瑕疵保険」は存在していました。

ただ、「保険の加入にはそれなりの費用が掛かる」などの理由からこの制度は殆ど一般の方に普及しておらず、「不動産会社が中古物件の転売に際して加入する保険」という位置付けになっていたのです。

しかし今回の国土交通省のアクションにより、全ての不動産業者が売主に対してインスペクションを勧めるようになれば「中古住宅にインスペクションは当たり前」の時代が到来し、「インスペクションを受けていない住宅は購入しない」という住宅購入希望者も増えて来るのは確実でしょう。

そして、こうした時代が到来すれば当然この中古住宅向けの瑕疵保険へのニーズも高まって来るはずから、これに合わせて保険制度についても大規模な整備が行われることになったのです。

そこで次項では、現在運用されている中古住宅瑕疵保険の概要について解説をしていくことにいたしましょう。

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中古住宅瑕疵保険の概要

ここまでの説明でもお判りの通り、この保険の最大の特徴は中古物件の売買に際して「雨漏り等のトラブルが発生した場合に保険金が支払われるという点」です。

なお保険業務を行うのは、住宅瑕疵担保責任保険法人と呼ばれる以下の6つの法人(2020年現在)となり、そのどれもが国土交通大臣の指定を受けた身元のしっかりとした組織となります。

  • 株式会社住宅あんしん保証
  • 住宅保証機構株式会社
  • 株式会社日本住宅保証検査機構
  • 株式会社ハウスジーメン
  • ハウスプラス住宅保証株式会社
  • 住宅保証支援機構

また保険の申請窓口は、建築確認の審査などを請け負う民間の検査機関がこれに当たっており、ここを通して6つの法人のどれかと保険契約を結ぶことになるのです。

ちなみに、保険料については法人ごとに若干異なりますが、保険料と現場検査(インスペクション)を含め10万円以下となっている商品が多いでしょう。

一方、「保険の申込み」については原則として物件の売主が手続きを行うシステムとなっており、基本構造部分(構造耐力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分)に瑕疵が発見された場合には、買主に対して保険料が支払われます。

さて、支払われる保険金に関してはと言えば1000万円が上限となっており、「補修費用」はもちろんのこと「調査費用」「工事中の仮住い費用」までもカバーする手厚さが魅力と言えるでしょう。(保険金の上限を500万円とするプランもあります)

ただ、ここで注意したいのが「この保険はあくまで基本構造部分の瑕疵保険」であり、配管の故障やシロアリの被害などについては保証の対象外になってしまうという点です。

そしてこの弱点をフォローするべく、各保険法人は様々な特約商品(配管保障特約・シロアリ保証特約)を取り揃えていますから、「基本構造部分のみの保険では心配」という方は追加費用を支払って保険をカスタマイズする必要があるでしょう。

 

様々な税制優遇

中古住宅の瑕疵保険制度の概要については、ここまでのご説明でおおよそご理解いただけたことと思いますが、行政はこの保険制度を利用してもらうために様々な「メリット」も用意してくれています。

この本項では、その主だった優遇措置について解説してまいりましょう。

登録免許税

登録免許税とは不動産を登記する際に課税される税金となります。

通常ですと建物の所有権移転登記に課税される税率は2%、抵当権の設定には0.4%となりますが、中古住宅の瑕疵保険に加入していれば所有権移転が0.3%、抵当権の設定が0.1%へと優遇されるのです。(築20年以内の木造建築物、新耐震基準適合の建物でも同様の優遇が可能)

築年数の古い建物でも住宅ローン控除

住宅ローン控除住宅の取得にローンを利用した場合に、最長で13年間・最大で650万円の控除を受けられる制度ですが、木造の中古戸建てを購入する際には築20年以内の建物に限定されてしまいます。(但し新耐震基準適合の建物は例外)

しかし中古住宅の瑕疵保険に加入すれば、築年数の限度が免除されますから、これは非常に有り難いですよね。

その他の優遇

先に挙げた2つ優遇以外にも、不動産取得税、すまい給付金、譲渡所得の買い替え特例、贈与税の非課税制度などにおいて、瑕疵保険加入住宅には多くのメリットが用意されています。

こうした優遇の豊富さからも「国が如何にこの制度を広め、定着させて行きたいか」が伝わって来ますよね。

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インスペクションと瑕疵保険制度まとめ

さてここまで、インスペクションと瑕疵保険制度の概要についてご説明してまいりました。

マイホームを探しておられる方々の間では「中古戸建ての購入は非常にリスキー」という認識があるかと思いますが、この保険制度が普及すればこうした問題も解決されるはずです。

また、この保険制度は原則として売主が申込みを行う必要がありますので「保険が適用されない物件(売主が保険の加入を拒んでいる等)」も存在していますが、

こうしたケースでは購入申込み時に「瑕疵保険への加入を買付けの条件とする」という方法もありますし、状況次第では「インスペクションの費用や保険料は買主が負担するので、保険加入の申込みだけはお願いしたい」と申し出るのも有効な方法となるでしょう。

なお中古住宅の売買とは少々異なりますが、今回ご紹介の瑕疵保険制度はリフォームの分野での活用も注目を集めています。

ニュース番組などを見ていると「悪質リフォーム業者に騙された」などといったお話を耳にいたしますが、瑕疵保険の商品の中には「リフォーム瑕疵保険」というものが用意されており、この商品においては施工不良等のトラブルに対しても保険金が支払われるのです。

もっとも、工事に当たっては「保険法人指定の業者」を利用しなければなりませんのでそもそも怪しげな業者が工事を担当することはないでしょうが、優秀な施工業者でもミスはあるものですから、この保険によって得られる安心感は非常に大きなものとなるでしょう。

このように建物の瑕疵に備えた保険の内容は非常に充実したものとなっておりますので、現在マイホーム探しの真っ最中という方におかれましては、改めて中古戸建ての購入を視野に入れてみるの一つの方法なのではないでしょうか。

ではこれにて、「インスペクションと瑕疵保険について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。