不動産をお持ちの方にとって、常に気になるのが税金の問題ですよね。

ご先祖様から代々土地を相続されている地主さんや、多くの収益物件を保有する不動産投資家様はもちろんのこと、都心部にお住いならマイホームの固定資産税等の支払いもバカにならない金額となるでしょうから、「税金のことを考えると夜も眠れない」という方も多いはずです。

また、こうした「不動産と税金」という問題の中でも、特に多くの方が疑問をお持ちなのが不動産を売却した際の譲渡所得税に関するものとなるのではないでしょうか。

ちなみに譲渡所得税とは、不動産を売却した際に利益(所得)が生じた場合に収める税金のことを指し、納付に際しては数種類の減税制度が用意されていますので「これらを上手に活用することが重要」となりますが、その内容は非常に難解であり各制度の概要を正確に把握するのはなかなか難しいのが現実です。

そこで今回は「不動産譲渡時の税金控除をまとめてみます!」と題して、不動産売却時の所得税に係る優遇措置についてお話ししてみたいと思います。

なお、相続税に関しては、過去記事「不動産相続の注意点を解説いたします!」をご参照いただければと思います。

不動産譲渡時の税金控除

 

様々な種類がある譲渡所得税の優遇

冒頭でも申し上げた通り、我が国では不動産を売却して利益を上げた方に対して譲渡所得税を徴収しています。

なお税の対象となるのは不動産を売却した場合の譲渡益となりますから、その物件を買った際の「購入価格(購入価格が不明な際は売れた価格の5%を取得価格とする)」や「不動産義業者に支払った仲介手数料などの諸経費」等を差し引いたものが『課税対象』です。

また税率については保有期間により変動がありますが、最も税率の低い5年以上の長期保有でも「20%(住民税を含む)」となりますから、仮に2000万円で購入した土地を8000万円で売却した場合には「(売却価格8000万-購入価格2000万)×20%=1200万円」もの所得税を収めなけばならないことになるでしょう。(5年未満の短期保有の場合は更に税率「39%(住民税を含む)」が適用されます)

※但し、2037年までは復興特別所得税が課税されるため、長期保有で税率20.315%、短期保有で税率39.63%が適用されます。

そして、「これではあまりに納税者の負担が大きくなり過ぎてしまう」ということで、国としてもいくつかの税制優遇制度を設けることにしました。

但し一口に減税制度と言っても「直接税率が下がる」ものもあれば、ある制度では「売却益からの直接控除」、またある制度では「取得価格をアップさせる」など様々な方式のものが存在しており、その結果として『一般の方には非常にわかり辛い』という状況になってしまっている訳です。

そこで以下では各減税制度の詳細な解説ではなく、「徹底的にわかり易さを重視した解説」を行ってまいりたいと思います。

①居住用財産(マイホーム)売却時の3,000万円控除

不動産を譲渡した際の最もポピュラーな減税制度がこちらの3000万円控除であり、売却による譲渡益から3000万円を丸々控除することが可能となります。

例えば今住んでいる自宅を売却して5000万円で売却した場合、通常であれば取得価格と必要経費を差し引いた譲渡益に対して課税されることとなりますから、取得価格等が1500万円なら5000万円-1500万円=3500万円(譲渡益)に対して税金が掛かって来るのが通常です。

しかしここで3000万円控除を利用すれば、5000万円(売却金額)-1500万円(取得価格等)-3000万円(控除)=500万円(譲渡益)という税制優遇を受けることができるのです。

ちなみにこの制度、マイホームとして使用していた不動産にのみ利用することが可能となりますが、住まなくなった日から3年間は有効という非常にありがたいものとなっています。

更に「物件を夫婦で共有している場合」には各々が個別にこの控除を受けることが可能(3000万円控除×2人=6000万円控除)となりますので、自宅の売却においては絶大な節税効果を発揮することになるでしょう。

②マイホーム売却時の軽減税率

こちらも非常に有名且つ、効果の高い減税制度となります。

冒頭でお話しした通常の不動産売却に対する譲渡所得税の税率20%(住民税込み・長期保有の場合)を「14%(住民税込み)」まで引き下げてくれる制度となります。

※但し、2037年までは復興特別所得税が課税されるため、長期保有で税率20.315%、軽減税率利用時で税率14.21%が適用されます。

なお、譲渡益が6000万円を超える部分についてには、税率20%(住民税込み・復興特別所得税加算時は20.315%)にて課税されることになるのです。

但し、軽減税率の適用を受けるためには「所有期間が10年を越えていること」や「生計を共にする親族への売却でないこと」などの制限もあります。

ちなみにこの制度、次項でご紹介する③買い換え特例との併用は不可となりますが、①居住用財産売却時の3,000万円控除とは併用が可能ですから、これは実にありがいですよね。

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③特定のマイホームを買い換えたときの特例(買い換え特例)

次にご紹介する減税制度も「マイホーム売却のケースのみに適用」となりますが、①や②との違いは、「買い換えであること」が要件になっているという点です。

また、この減税制度は所有するマイホームの買い換えにおいて、現在住んでいる物件を売って得た利益よりも、新たに買う物件での支出が大きかった場合にのみ利用できるものとなります。

では仮に1000万円で買った物件を4000万円で売却し、6000万円の物件に買い換えたとしましょう。

そして本来ならば、売却価格4000万円-取得価格1000万円=譲渡益3000万円が課税対象になるはずですが、買い換えた物件が6000万円と高額なため、この譲渡益への課税が免除されるという訳なのです。

但し、完全に免除される訳ではなく、次に6000万円で買った物件を売却した際に利益が出れば、前回免除された譲渡益(今回のケースなら3000万円)が後から課税されるというシステムとなります。(課税の繰り延べ)

よって先程の例に当てはめるならば、6000万円で買い換えた物件が将来的に8000万円で売れた場合には、本来は2000万円が課税対象となるはずですが、

前回売買の繰り延べした3000万円が残っていますから、今回譲渡益2000万円+前回繰り延べ分3000万円=5000万円が譲渡益と見なされる訳です。

さて、このようなお話をすると『結局課税されるのか・・・』とお思いになるかもしれませんが、一生の間にそう何度もマイホームを売買する方は少ないでしょうから、使い方によっては非常に有効な手段となることはご理解いただるでしょう。

ちなみに、この③買い換え特例と「①居住用財産売却時の3,000万円控除」及び「②マイホーム売却時の軽減税率」との併用は不可となりますから、①②をセットで利用するか、③のみを利用するかの選択を迫られることとなります。

また、この特例を利用するには、買い替える物件が築25年以内の建物であることや、売却先が親子や夫婦でないことも要件となる点にご注意ください。

④相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

この優遇制度は、相続時専用の特例となります。

例えば1億円の財産価値のある物件を相続し、2500万円の相続税を課税されたとしましょう。

この相続税を現金で支払うことができれば問題はありませんが、これが不可能な場合には慌てて相続するはずだった不動産を売却して(現金化して)税金の納付に充てることになるはずです。

そして売れた金額が2500万円だったとすると、既にご説明した通り売却益から取得費用等を差し引いた上で所得税が課税されることになりますが、相続においては対象の土地等を「当初いくらで購入したかがわからないケース」も多く、こうした場合の取得価格は売却価格の5%とするのがルールです。

よって、売却価格2500万×5%=取得価格125万円となり、売却価格2500万円-取得価格125万円=2375万円が譲渡所得税の対象となりますが、相続税2500万円を支払うために売却したにも係らず、譲渡所得税までしっかりと払わされるのはあまりにも「酷いお話」ですよね。

そこで導入されたのが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」であり、この減税制度を利用すれば相続税額と同額の2500万円を取得価格として申告することが可能なのです。

つまり、売却益2500万円-取得価格2500万円=譲渡所得0円となり、所得税は免除されることとなります。

ちなみに、相続財産の中に借金(債務)などがある場合には少々計算が変わって来ますから、その点には注意が必要です。

⑤空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除

①居住用財産売却時の3,000万円控除と似ていますが、その内容は全くの別物であり、近年問題となっている空き家対策用に2016年に導入された新たな減税制度です。

なおザックリとご説明するならば、以前親などが住んでいた家が空き家になったものを売却する際に3000万円の譲渡所得控除が受けられるという制度となりますが、

少々仕組みが複雑となりますので、別記事「空き家3000万円控除(所得税控除)の概要を判り易く解説!」にて詳細をご説明させていただきます。

⑥売却時に損失が出た場合の特例

こちらは譲渡所得税の優遇とは少々異なりますが、マイホームの売却価格が購入時の価格を下回る際などに利用可能な減税制度となります。

ちなみに制度の内容としては「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の2本立てとなっており、

前者はマイホーム買い換えに際して損失が出た場合、後者は買い換えでなくとも良いのですが、売却した価格よりも住宅ローンの残額が上回る際にそれぞれ適用されるものです。

効果としては両者共に、売却が行われた年の所得税から損失分を控除できる上、引ききれなかった分についてはその後3年に渡って控除が可能(繰越控除)となっていますから、売却により損失が出た場合には是非お勧めしたい特例となります。

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譲渡時の税金控除をまとめ

さてここまで、不動産売却時の譲渡所得に関する減税制度のあれこれを見てまいりました。

既に多くのサイトで紹介されている内容となりますが、その殆どが「細かく解説し過ぎていて、解り辛い」とのご意見を耳に致しましたので、『わかり易さ重視』で解説してみました。

なお、「より詳しいことが知りたい」という方については国税庁などのページでご確認いただければと思いますが、「自分がどんな減税措置を受けられそうか?」については、この記事で充分に判断が付くはずです。

マイホームの売却は人生の一大イベントですから、後から「失敗した!」などということにならないように十分ご注意いただければと思います。

ではこれにて、「不動産譲渡時の税金控除をまとめてみます!」の知恵袋を閉じさせていただきます。