不動産の取引を行うに当たって、非常に重要となってくるのが物件調査となります。
また、一口に物件調査と言っても「登記事項に関する権利関係の調査」から、「法令上の制限」に至るまで、その範囲は多岐に及びますが『後々トラブルを引き起こす可能性が高い』という意味で埋設管調査は非常に大きなウェイトを占めるはずです。
なお、本ブログでは以前に「地中配管調査の方法について!(不動産売買重要事項説明用)」という記事にて、埋設管調査について解説を行いましたが、読者の方から『更に詳しい記事を読みたい』とのご意見を多数いただいておりました。
そこで本日は「水道の埋設管調査について解説いたします!」と題して、上水道における配管調査を可能な限り詳細にご説明していきたいと思います。
水道の埋設管調査とは
ではまず最初に、「そもそも水道の埋設管調査とは如何なるものであるか」という点からお話を始めてまいりましょう。
ご存知の通り、水道は私たちの生活を支える重要なライフラインの一つとなります。
ただ、当然ながら水道管は地中に埋設されているため『目視で確認するのが困難』ですから、マイホームを購入した後に「地中で漏水が発生した」、「敷地を掘ってみたら、他人の水道管が敷地を通過している事実が発覚した」といったトラブルを引き起こす可能性があるのです。
そこで不動産の取引に当たっては、水道についての調査を行って「道路内を通過している本管の管種や管径」、「本管から分岐して各家に引き込まれている引込管の管種や管径」、そして「本管や引込管の経路(位置)」などを明らかにした上で、重要事項として説明を行うルールとなっています。
なお、水道の埋設管調査においては水道局などの行政機関で行う「行政調査」と、物件の所在地で行う「現地調査」が主なものとなりますので、以下ではこの2つの調査の方法やコツについて解説していくことにいたしましょう。
行政機関における調査
前項でもお話しした通り、水道管を目視で確認することはできませんので水道局等で行う行政調査においては、配管図を確認するのが目的となります。
ではここで、一般的な水道配管図の見方をご説明しておきましょう。
管の種類(管種)については図面上「VLGP」や「HIVP」などの略語で記されていますが、調査窓口の担当者の方に尋ねれば、丁寧にその意味を教えてくれるはずです。
ちなみに代表的な管種としては、
- VP(硬質ビニール管)
- HIVP(耐衝撃性硬質ビニール管)
- VLGP(ビニールライニング鋼管)
- DIP(ダクタイル管)
- GP(鉄管)
- SUS(ステンレス管)
などがあり、こうした略語の横に書かれた数字(100、200)が配管の管径(mm)となります。
なお、近年ではインターネット上で配管図を公開している地方自治体も増えていますが、本管から分岐する引込管は個人の所有物であり、これに関する情報は個人情報として扱われるため、水道局等に出向いて情報を閲覧することになるケースが殆どでしょう。
さてここで、本管と引込管という言葉が出てまいりましたので、以下ではこの2種類の配管についての解説と、調査のポイントについてお話ししておきましょう。
本管について
当然のことながら、水道水は浄水場等の供給施設から、私たちが暮らす個々の住宅まで水道管を通って運ばれて来ることになります。
よって、道路の地下などには「本管」と呼ばれる水道管がまるで血管のように張り巡らされており、更にこの本管から分岐した「引込管」を通して、各家庭に水が届けられるのです。
さて、この本管ですが、実は行政が管理する「公設本管」と、民間が管理を行う「私設本管」という2つの種類が存在しています。
公設本管は行政がその管理を行っていますので、配管の破裂等のトラブルが発生した場合でも、地方自治体等がその対処に当たることになります。
一方、私設本管はその名の通り、民間所有の本管となりますので配管が破損した場合はもちろん、老朽化した水道管の交換工事なども全て配管所有者の負担で行わなければならないのです。
ちなみに私道においては、その多くで私設本管が利用されていますから、私道に面した物件の売買に際しては「本管の維持管理を民間人が行っている旨」を必ず説明する必要がありますし、私設本管には所有者が定められていますから、その所有者についても調査しておく必要があるでしょう。
※多くの場合、私設本管は敷設されている私道の権利関係者の所有物となっていますが、時には全くの第三者が所有していることもあり、「その者の許可なしには水道工事ができない」というケースもありますので注意が必要です。
※私道の場合には、配管工事を行う際の「道路の掘削」にも私道権利関係者の承諾を要します。
※私設本管は民間人が管理を行っているため、「ボロボロの鉄管が長年使用され続けている」といった場合も少なくありませんので、古い配管の場合には漏水等のリスクについても説明しておくべきです。
※水道局等に備えられている配管図には、本管が「公設本管であるか、私設本管であるか」についても記載されています。
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引込管について
一方、道路の下を走る本管から、個々の住宅に向かって分岐している引込管については私設管・公設管の区別はなく、引込管の所有者は「原則として民間人」ということになります。
なお、本管から引込管が分岐するのは道路の地下となりますから、公道に面する物件においては、民間人の所有する引込管が公道を横切って、私有地に引き込まれている状態となっているのです。
そして、ここで気になるのが「万が一公道内の引込管が破裂した場合、その補修費用を全て民間人が負担するのか?」という点なのではないでしょうか。
引込管はあくまでも民間の所有物となりますから修繕費用を個人が負担するのは理解できますが、公道を掘削するには「行政の許可」と「それなりの費用」を要しますから、その手間と費用を全て負担するのは厳しいものがありますよね。
こうした事情から、公道内の引込管のメンテナンスについては「事実上、行政が費用の負担を行っている」という地域が少なくありませんが、買主様への説明においては『あくまでも民間人が工事費用を負担する』と伝えるのが望ましいでしょう。
一方、私道の引込管については、当然ながら民間人が工事費用を全額負担することになりますが、私道においてはそもそも私設本管が敷設されておらず、公道の公設本管から分岐した引込管が私道を通過して、各宅地に引き込まれているケースもありますので、この場合は先程解説した「公道からの引込管分岐」と同様の扱いとなります。
さて、引込管についてはその「管種」や「管径」についても注意が必要となります。
まず管種についてですが、古い鉄管が使用されている場合などは重要事項の説明において「老朽化により破損が生じる可能性があり、修繕には費用が発生する」旨を記しておく必要があるでしょう。
※ライニング鋼管と呼ばれる、鉄管の内部をビニールコーティングした配管も継ぎ目は錆びますので、鉄管と同様の扱いとなります。
更に、現在は健康上の問題で使用が禁止されている「鉛管」が使用されているケースもありますので、この点には注意が必要です。
また、管径については13mmという細い引込管が使用されている物件も存在します。(築年数の古い物件が建っていた土地に多い)
そして、この細い引込管では「水道の容量不足」が懸念されるため、建替えなどに際して行政から「20mm管(一戸建てでの推奨サイズ)に変更せよ」との指導が入ることもありますので、13mm管が引き込まれている物件の売買では買主への説明が必須となるでしょう。
行政調査におけるポイント
さて、本管・引込管の調査についてご理解いただいたところで、その他の行政調査のポイントについてお話ししておきましょう。
本管については配管図を発行してくれる地方自治体も少なくありませんが、引込管に関しては「窓口の担当者が口頭で管径や管種の説明をするだけ」という地域が圧倒的に多いはずです。
よって、担当者の説明を正確に記録すると共に、担当者の氏名、調査を行った日時までメモを取っておくようにしましょう。
また、配管の経路についても可能な限り詳細に記録を残しておくべきです。(道路と物件の位置の概略図を描いて、配管の位置を書き留めておく等)
更に「隣地の配管が調査対象地に越境している可能性」や「調査対象地の配管が隣地を通過している可能性」などについても確認するべきですし、敷地内の配管(敷地内の切り回し配管や水道メーターの周り配管、建物内部の配管)についても「鉛管などが使用されていないか」を念押ししておきましょう。
現地で調査すべきこと
前項の行政調査において図面上の調査は完了していますので、「改めて現地で調べることなど、無いのでは?」とお考えの方もおられるでしょうが、まだ確認すべきことはあります。
この現地調査においては「行政で入手した図面」を基に、現地の配管の状況をチェックしていきましょう。
もちろん、地中に埋まった配管を目視することはできませんが、水道メーターや止水栓の位置を確認すれば、図面がどの程度正確に描かれているかが判るはずです。
そして、図面に記されていないメーターなどが存在する場合には「隣地からの埋設管越境の可能性」が疑われますので、こうした事実が判明した場合には売主様・近隣住民へのヒヤリングや、水道業者への調査依頼が必要となるケースもあるでしょう。
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水道の埋設管調査まとめ
さてここまで、水道に関する埋設管調査をテーマに記事をお届けしてまいりました。
経験豊かな不動産屋さんであれば「これくらいは当たり前にやっている!」という方もいらっしゃるでしょうが、『この点はノーチェックだった!』という項目が見付かった方は、是非ご注意いただければと思います。
なお、調査を行って「水道管の越境が見付かった」という場合には、『現在の建物を解体する際に、配管越境を解消する』といった内容の覚書を権利関係者と取り交わすのが一般的な対応となりますが、配管経路の変更が容易な場合には、工事を行って越境自体を解消してしまう方が無難でしょう。
覚書の取り交わしは確かに効果的な方法ですが、未来のことは誰にも予測できませんから、「できることは済ませてしまう」という方がスッキリと取引を終えられるはずです。
ではこれにて、「水道の埋設管調査について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。