不動産業を営む者に「取引を経験する件数が最も多い売買物件は?」と尋ねれば、多くの方が『分譲マンションである』と答えるはずです。

また私の知る売買営業マンの中には「分譲マンションの仲介は賃貸並みに簡単!」などという者もおりますが、マンションの取引を舐めてかかると酷い目に遭うことも少なくないものです。

そこで本日は「マンション調査の注意点について解説いたします!」と題して、区分所有マンションの物件調査のポイントについてお話ししてみたいと思います。

マンション調査

 

専有部分に関する調査

マンションの物件調査にあたって、まず着目すべきは最もメインの売り物である専有部分に関する事項となるでしょう。

さて、このようにお話しすると「専有部分なんて見たままでしょ」などというお声も聞えて来そうですが、実はここにも危険なポイントが多数隠されているのです。

専有部分内の配管について

専有部分と言えば「お部屋の中」というイメージが強いかと思いますが、実際には「建物の躯体の内側は全て専有部分」ということになるので、天井裏や床下なども専有部分に含まれることになります。

よって、そこに敷設されている水道や下水、ガスなどの配管に、電気の配線などの設備も売買対象の一部ということになるのです。

そして、これらの設備の中でも特に注意しなければならないのが水道管であり、「引渡し後に錆水が止まらない」といったトラブルを回避するために、築年数が古いマンションにおいては、

  • 漏水事故の履歴があるか
  • 配管の更新工事が行われたことがあるか
  • 如何なる材質の配管が使用されているか(特に鉛管には要注意)

などの点をチェックする必要があるでしょう。

なお、下水管についても築年数が古く「鉄管」が使用されている物件においては漏水のリスクが高まりますので注意が必要となります。

壁のカビやアスベストについて

前項においては床下の配管について注意点を解説いたしましたが、分譲マンションにおいては天井裏や壁の中にもリスクは潜んでいるものです。

例えば壁や天井にカビが生えている場合には、

断熱材の量の不足や、施工不良によって外壁と断熱材の間に結露が発生し、これによって生じたカビが室内まで到達している可能性

があります。

そして、この状態で引き渡しが行われれば「リフォームに際して壁を壊してみたら、中の断熱材がカビまみれ」という状況に陥りますので、これは取引上のトラブルに発展すること必至でしょう。

また、築年数の古い物件では

断熱材として吹き付けアスベストが使用されているケース

もあり、こちらも取引後にその事実が明らかになれ紛争への発展が不可避となりますので、事前に十分な調査が必要となります。

設備について

分譲マンションの専有部分には給湯器や食洗機、インターフォンなどの設備が数多く存在しています。

そして売買に際しては、売主に設備状況報告書を作成してもらうことになるでしょうが、売主の申告内容を鵜呑みにするのは少々危険です。

よって引渡し前には

必ず自分自身の目で設備の状況(本当に設置されているか?故障していないか?等)を確認しておく

べきでしょう。

また、たとえ故障がなくとも激しい汚損などが生じている箇所を見付けた場合には、設備状況報告書に書き加えてもらいましょう。

ちなみに、2020年の民法改正以降は売買契約書に「設備についての契約不適合責任は免責とする」という記載をしても、売主がその責任を逃れられない可能性が高いと考えられます。

これは契約不適合責任の「売主が知っていた不具合については特約があっても免責にならない」という特性によるものとなりますから、

たとえ付帯設備の不具合を免責をする特約を加えていたとしても、敢えて付帯設備表を作成して不具合の有無をはっきりと買主に伝えることが重要

となるでしょう。

リフォームと管理規約に関わる事項

既にお話ししてきた通り、分譲マンションでは引渡し完了後に買主の手によってリフォームが行われることも少なくありませんが、ここで管理規約との問題でトラブルが発生するケースも少なくありません。

具体的な例を挙げるとすれば

  • 管理規約において「床の張り替えなどの工事については、下階の所有者の承諾が必要」と定められている
  • 「工事に際しては施工内容を1ヶ月以上前に管理組合に届け出て許可を得ること」という定めがある
  • 床をフローリングへ変更する工事が禁止されている

といった少々珍しいルールがあるマンションも存在しているものです。

特に物件購入者が買い換えで物件を取得している場合などは、リフォーム工事の遅れにより仮住いを余儀なくされることも考えられますから、充分な注意が必要となるでしょう。

雨漏りや建物の傾きについて

分譲マンションにおける雨漏りや建物の傾きは「管理組合が対処すべき問題」となるため、売主がこれらの問題について買主に対して責任を負うケースは限定的ですが、売買契約の段階でこうした問題が発生しているのであれば、これを無視して良い訳がありませんよね。

よって、「室内に雨漏りの跡などがないか」「建物の傾きが生じている気配がないか」などをしっかりと確認する必要がありますし、売主様へのヒアリング調査も徹底するべきでしょう。

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共有部分や建物全体についての調査

さて、専有部分に関する調査が完了したならば、続いては建物全体や共有部分に関する調査を始めましょう。

管理規約・組合に関する調査

分譲マンションの取引後のトラブルとして意外に多いのが、管理規約や組合との関係で生じる問題となります。

先程もリフォーム工事に関する事例を挙げましたが、その他にも

  • 既に管理費や修繕積立金の値上げが総会で決議されているにも係らず、これを説明していない
  • 日照等に重大な影響を及ぼす大規模修繕の予定を告知していない
  • ペットの飼育を許可する議案が可決されたことを告知しなかった

といったケースもあるしょう。

また、ここで注意していただきたいのが「未だ決定していなくとも総会にて議題に上がっている事項」について説明を怠らないことです。

そして、こうした情報を把握するためには

管理組合の過去の「総会議事録」にも目を通しておくことが重要

であり、そうすることでマンション内で発生してる諸問題(近隣トラブルや共用部分の不具合など)を取引前に察知することが可能となります。

一方、管理会社から取り寄せることができる「長期修繕計画書」に目を通しておくのがおすすめです。

その名の通り、この報告書には今後予定されている修繕の計画が記されていますから、

現状の修繕積立金の総額と比較しながら見て行けば、「管理組合のおおよその財務状況」を把握することが可能となります

ので、この点もチェックしておくべきでしょう。

但し、「予定はあくまでも予定」ですから計画通りに運営が進められている管理組合はむしろ珍しいくらいですし、長期修繕計画書を見ただけで管理組合の未来を予測できる訳ではありませんが、売買契約締結前にこうした資料を買主様に提示することは非常に大きな意味があるはずです。

近隣トラブル

また、近隣関係のトラブルも注意するべき調査事項となります。

マンションは壁や床、天井一枚を挟んで様々な人間が暮らしていますから、戸建て以上に近隣トラブルに発展しやすい環境と言えるでしょう。

よって騒音や悪臭を発生させたり、やたらと音に敏感な居住者と隣接する住宅を説明もなしに仲介してしまえば、クレームとなることは必至です。

こうした事態を避けるためには

  • 売主と近隣への聞き込み調査
  • 上下、隣室の状況を共用部分から観察する
  • 過去の総会議事録の確認

などを行うことが重要です。

売主や近隣住民への聞き込みは基本中の基本ですが、廊下やバルコニー側から取引対象のお部屋の隣室や上下階の様子を窺うことで、おおよその家族構成を把握したり、ゴミ屋敷(部屋?)等の危険な住人の兆候を発見できることもあるでしょう。

なお、総会議事録については基本的に「個人名や部屋番号などが伏されいる」のが通常ですが、大きな問題となっていれば何かしらの痕跡が残されている可能性が高いので、過去のものにもしかっりと目を通して重要事項の説明書を作成するべきです。

法令・登記に関する調査

戸建ての物件調査でも同様ですが、法令上の制限や登記に関する事項も大切な確認ポイントとなります。

用途地域高さ制限、そして道路計画などの都市計画施設に関する調査から、物件に対して「差押」などの登記がされていないかといった確認は必ず行うべきですが、分譲マンションの中には「集会場等を区分所有者全員が持分で持ち合っている(規約共用部分となっている)ケース」も多いですから、こうしたものが「売買対象から漏れる」ことのないように注意しましょう。

また、特殊な注意点としては下記の2つが該当するかと思います。

違法建築や既存不適格について

中古の一戸建てですと常に注意を払う点なのですが、分譲マンションとなると油断しがちなのが、違法建築や既存不適格建物の問題です。

このようなお話をすると「マンションでそんな物件があるの?」というお声も聞えて来そうですが、私も実際にこうした物件と遭遇した経験があります。(詳細は過去記事「既存不適格とは?わかりやすく解説いたします!」をご参照ください)

なお具体的には、マンションが建築された時には適法だったにも係わらず「用途地域の変更などで既存不適格建物となってしまっている」というケースも多いですし、私が体験したように管理組合が土地を売ってしまったことにより「違反建築物となっているパターン」もあるものです。

そして既存不適格はまだしも、違反建築物となれば物件の資産価値を著しく下落させる結果となりますので、仲介の前には必ず確認しておきたい事項となるでしょう。

要除却認定

聞き慣れないワードであるかと思いますが、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)」にて規定されている認定制度の名称となります。

この制度については別記事「要除却認定マンションとは?という疑問にお答えします!」にて詳細な解説をしておりますが、この「要除却認定マンション」に指定された場合には、

敷地に対して容積率などの優遇が受けられる代わりに、建替えに関して様々な行政の関与が行われることになります。

あくまで、老朽化したマンションの建て替えを促進する制度の一端ですから、行政から一方的に要除却認定マンションに指定されることはありませんが、

建替えに反対する住人などがいる場合には、この認定を受けた方が円滑に計画が進められるため管理組合が自ら「要除却認定」を申請するケースがあるのです。

新たに物件を購入する方にすれば「要除却認定マンションの認定を知らなかった」というのは大問題でしょうから、事前にしっかりとした説明が必要になります。

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分譲マンション調査まとめ

さてここまで、分譲マンションの仲介に当たって注意すべき調査ポイントをご説明してまいりました。

分譲マンションの仲介は建物の躯体に関する部分が管理組合の管轄となっている上、管理会社が発行する重要事項調査報告書(不動産業者が行う重要事項説明書とは異なる、管理組合の運営状況などが記された書面)などの資料もありますから、全てを自分で調べ上げる「戸建ての仲介」に比べて手間が掛からないものではあります。

しかしながら、『分譲マンションならではの落とし穴』も意外に多くあるものですから、仲介に着手する際には充分な注意が必要となるはずです。

また、これから自分がマンションを購入するというユーザー様におかれましては、物件選びのヒントとして今回の記事をご活用いただければ幸いです。

ではこれにて、「マンション調査の注意点をご紹介いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。