不動産業を営む者に「取引を経験する件数が最も多い売買物件は?」と尋ねれば、多くの方が『分譲マンションである』と答えるはずです。

また私の知る売買営業マンの中には「分譲マンションの仲介は賃貸並みに簡単!」などという者もおりますが、これは少々言い過ぎかもしれません。

確かに分譲マンションの仲介は建物の躯体に関する部分が管理組合の管轄となっている上、管理会社が発行する重要事項調査報告書(不動産業者が行う重要事項説明書とは異なる、管理組合の運営状況などが記された書面)などの資料もありますから、全てを自分で調べ上げる「戸建ての仲介」に比べて手間が掛からないものではあります。

しかしながら、『分譲マンションならではの落とし穴』も意外に多くあるものですから、仲介に着手する際には充分な注意が必要となるはずです。

そこで本日は「マンション調査の注意点をご紹介いたします!」と題して、区分所有マンションの物件調査について解説してみたいと思います。

マンション調査

 

分譲マンション調査のポイントを解説

では早速、具体的に分譲マンションの物件調査のポイントを解説してまいりましょう。

専有部分に関する調査

マンションの物件調査にあたって、まず着目すべきは最もメインの売り物である専有部分に関する事項となるでしょう。

さて、このようにお話しすると「専有部分なんて見たままでしょ」などというお声も聞えて来そうですが、実はここにも危険なポイントが多数隠されているのです。

リフォーム工事に関する事項

皆様もご存知の通り中古マンションの売買では、「前所有者が住んでいたままの状態」で引渡しが行われることも珍しくはありません。

よって、引渡し完了後は買主の手によってリフォームが行われることとなりますが、ここでトラブルが発生するケースが意外に多いのです。

例えば、管理規約において「床の張り替えなどの工事については、下階の所有者の承諾が必要」という場合もあるでしょうし、「工事に際しては施工内容を1ヶ月以上前に管理組合に届け出て許可を得ること」といったルールがあるマンションも少なくありません。(中にはフローリング禁止というマンションも存在します)

特に物件購入者が買い換えで物件を取得している場合などは、リフォーム工事の遅れにより仮住いを余儀なくされることも考えられますから、充分な注意が必要となるでしょう。

間取りに関して

「間取りなど見れば判るだろう」という気も致しますが、意外にもトラブルが多いのが現実です。

当然、売買契約を締結する前に買主はお部屋の内部を見ているはずですが、細かい部分にまで注意を払っていない方も多いため後になって「販売図面と間取りが違っていた」などというクレームが入るケースは少なくありません。

そしてこうした事態となれば買主の怒りの矛先は仲介業者に向けられることとなりますから、販売図面にパンフレットの図面をそのまま貼り付けている場合などには要注意となります。(客付け業者の立場である場合は一層の注意が必要)

もちろん販売図面には「図面と現況が異なる場合には現況を優先します」というお約束の文言も入っているでしょうが、

余計なトラブルを避けるためにも物件調査に際しては「図面と異なる点が存在していないの確認」をした上、変更された箇所があれば必ず説明するよう心掛けたいところです。(特に柱や梁の位置は要注意です)

設備について

分譲マンションの専有部分には給湯器や食洗機、インターフォンなどの設備が数多く存在しています。

そして売買に際しては、売主に設備状況報告書を作成してもらうことになるでしょうが、その内容を鵜呑みにするのは少々危険です。

よって引渡し前には必ず自分の目で設備の状況(本当に設置されているか?故障していないか?等)を確認しておくべきでしょう。

また、たとえ故障がなくとも激しい汚損などが生じている箇所を見付けた場合には、設備状況報告書に書き加えてもらうことも重要です。

専有部分の配管について

専有部分と言えば「お部屋の中」というイメージが強いかと思いますが、実際には「建物の躯体の内側は全て専有部分」ということになりますから、天井裏や床下などもこれに含まれることになります。

よって、そこを走る水道や下水、ガスなどの配管に、電気の配線なども売買対象の一部ということになるのです。

そして、特に注意しなければならないのが水道管についてであり、「引渡し後に錆水が止まらない」といったトラブルを回避するために、築年数が古いマンションでは『如何なる材質の配管が使用されているか』『更新工事が行われたことがあるか』などの点をチェックする必要があるでしょう。

雨漏りや建物の傾きについて

冒頭にて、分譲マンションにおける雨漏りや建物の傾きは「管理組合が対処すべき問題である」とお話ししましたが、売買契約の段階でこうした問題が発生しているのであれば、これを無視して良い訳がありません。

よって、「室内に雨漏りの跡などがないか」「建物の傾きが生じている気配がないか」などをしっかりと確認する必要がありますし、売主様へのヒアリング調査も徹底するべきでしょう。

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共有部分や建物全体についての調査

さて、専有部分に関する調査が完了したならば、続いては建物全体や共有部分に関する調査を始めましょう。

管理規約・組合に関する調査

分譲マンションの取引後のトラブルとして意外に多いのが、管理規約や組合との関係で生じる問題となります。

そして特に多いパターンが「既に管理費や修繕積立金の値上げが総会で決議されているにも係らず、これを説明していない」「日照等に重大な影響を及ぼす大規模修繕の予定を告知していない」といったケースになるでしょう。

また、ここで注意していただきたいのが「未だ決定していなくとも総会にて議題に上がっている事項」についても説明を怠らないことです。

先に挙げた管理費の値上げや大規模修繕はもちろんですが、「ペットの飼育を許可する議案が審議中」であったというケースも実際にありましたので、是非ご注意いただければと思います。

一方、管理会社から取り寄せることができる「長期修繕計画書」に目を通しておくことも重要です。

その名の通り、この報告書には今後予定されている修繕の計画が記されていますから、現在の修繕積立金の総額と比較しながら見て行けば、管理組合のおおよその財務状況を把握することが可能となります。

但し、「予定はあくまでも予定」ですから計画通りに運営が進められている管理組合はむしろ珍しいくらいですし、長期修繕計画書を見ただけで管理組合の未来を予測できる訳ではありませんが、売買契約締結前にこうした資料を買主様に提示することは非常に大きな意味があるはずです。

近隣トラブル

また、近隣関係のトラブルも注意するべき調査事項となります。

マンションは壁や床、天井一枚を挟んで様々な人間が暮らしていますから、戸建て以上に近隣トラブルに発展しやすい環境と言えるでしょう。

よって騒音や悪臭を発生させたり、やたらと音に敏感な居住者と隣接する住宅を説明もなしに仲介してしまえば、クレームとなることは必至です。

こうした事態を避けるためには「売主と近隣への聞き込み」が一番重要となりますが、総会の議事録を確認することでマンション内の揉め事を察知できる可能性もあります。

なお、原則として議事録では「個人名や部屋番号などが伏されいる」のが通常ですが、大きな問題となっていれば何かしらの痕跡が残されている可能性が高いので、過去のものにもしかっりと目を通して重要事項の説明書を作成するべきです。

法令・登記に関する調査

戸建ての物件調査でも同様ですが、法令上の制限や登記に関する事項も大切な確認ポイントとなります。

用途地域高さ制限、そして道路計画などの都市計画施設に関する調査から、物件に対して「差押」などの登記がされていないかといった確認は必ず行うべきですが、分譲マンションの中には「集会場等を区分所有者全員が持分で持ち合っている(規約共用部分となっている)ケース」も多いですから、こうしたものが「売買対象から漏れる」ことのないように注意しましょう。

また、特殊な注意点としては下記の2つが該当するかと思います。

違法建築や既存不適格について

中古の一戸建てですと常に注意を払う点なのですが、分譲マンションとなると油断しがちなのが、違法建築や既存不適格建物の問題です。

このようなお話をすると「マンションでそんな物件があるの?」というお声も聞えて来そうですが、私も実際にこうした物件と遭遇した経験があります。(詳細は過去記事「既存不適格マンションの仲介体験記をご紹介!」をご参照ください)

なお具体的には、マンションが建築された時には適法だったにも係わらず「用途地域の変更などで既存不適格建物となってしまっている」というケースも多いですし、私が体験したように管理組合が土地を売ってしまったことにより「違反建築物となっているパターン」もあるものです。

そして既存不適格はまだしも、違反建築物となれば物件の資産価値を著しく下落させる結果となりますので、仲介の前には必ず確認しておきたい事項となるでしょう。

要除却認定

聞き慣れないワードであるかと思いますが、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)」にて規定されている認定制度の名称となります。

この制度については別記事「要除却認定マンションとは?という疑問にお答えします!」にて詳細な解説をしておりますが、この「要除却認定マンション」に指定された場合には、

敷地に対して容積率などの優遇が受けられる代わりに、建替えに関して様々な行政の関与が行われることになります。

あくまで、老朽化したマンションの建て替えを促進する制度の一端ですから、行政から一方的に要除却認定マンションに指定されることはありませんが、

建替えに反対する住人などがいる場合には、この認定を受けた方が円滑に計画が進められるため管理組合が自ら「要除却認定」を申請するケースがあるのです。

新たに物件を購入する方にすれば「要除却認定マンションの認定を知らなかった」というのは大問題でしょうから、事前にしっかりとした説明が必要になります。

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分譲マンション調査まとめ

さてここまで、分譲マンションの仲介に当たって注意すべき調査ポイントをご説明してまいりました。

取引経験が豊富な売買営業マンの方でも、一つくらいは「これは知らなかった」という項目があったのではないでしょうか。

また、これから自分がマンションを購入するというユーザー様におかれましては、物件選びのヒントとして今回の記事をご活用いただければ幸いです。

ではこれにて、「マンション調査の注意点をご紹介いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。