不動産に係わる仕事をしていると時折遭遇するのが「カビが生えやすい物件」となります。
もちろん、「掃除が一切行われていない」という環境であるならば驚くこともありませんが、常に掃除を心掛けているにも係わらず『壁にびっしりとカビが生えている・・・』という状況は、決して見逃すことができません。
そこで本日は「壁のカビ対策について解説いたします!」と題して、『普通に生活しているだけなのに壁にカビが生えて困る』というお悩みを抱える方に向けて、カビの原因とその対処法についてお話ししてみたいと思います!
壁にカビが生える理由を解説
ではまず最初に「何故、壁にカビが生えるのか?」という点から解説を行ってまいりましょう。
日常生活でよく目にするカビですが、その正体はキノコなどと同じ「真菌」と呼ばれる微生物の集合体であり、壁などに付着した胞子は水分と栄養を吸収しながら、糸状の組織を伸ばして増殖を繰り返します。
なお、家庭内で見掛ける主なカビの種類としては
- アオカビ
- クロカビ
- コウジカビ
- ススカビ
などが主なものとなるでしょう。
そして、これらのカビはそれぞれに異なる特性を有していますが、増殖するためには
- 適度な温度(20~30度)
- 充分な湿度(70%以上)
- 増殖に必要な栄養素(汚れ)
- 酸素
上記の4つの条件が揃わなければなりません。
よって、水回りにカビが生えると言っても「水道管の中にはカビが生えていることはあり得ない」ですし、「湿気もないのにカビが生える」という事態も考えられない訳です。
こうしたカビの発生条件を踏まえた上で、「壁にカビが発生する理由」を検討していくと
- 生活環境による問題(換気、掃除の不足)
- 日照の悪さ等の部屋の配置の問題
- 結露が発生している
- 雨漏りや漏水
以上の4つの原因が考えられますので、以下で詳しく解説していきましょう。
生活環境による問題(換気、掃除の不足)
生活をする中で「窓は滅多に空けない(空気の入れ替えをしない)」、「あまり掃除をしない」といった環境にあるお部屋については、前述の4つのカビの発生条件が揃ってしまい『壁紙がカビる』という事態が発生する可能性があります。
また、しっかりと掃除をしているつもりでも
- 壁紙を濡れタオルで拭き上げている
- 床の水拭きを頻繁にしている
- 観葉植物を大量に置いている
- 常に洗濯物は部屋干しである
といったケースでは、湿度がカビの発生源となっている場合があるのです。
日照の悪さ等の部屋の配置の問題
お部屋の使い方に問題がなくても「部屋が建物の北側に位置している」、「窓が少ない」など、お部屋の配置や特性の問題でカビが生えやすい状況となっている場合もあります。
もちろん、先程ご紹介した4つの原因が揃わない限りカビは繁殖しませんが、こうしたお部屋は「通常のお部屋以上にカビの発生条件が整いやすい環境」と言えますので注意が必要です。
結露が発生している
お部屋の壁にカビが生える原因として最も多いのが、「結露の発生」となります。
結露は暖かい空気が冷やされることで発生しますから、「冬の寒さで壁がキンキンに冷えた状態の中、暖房器具を使用した」というだけの理由で結露が生じることとなり、その水分がカビの発生源となる訳です。
ちなみに、壁や天井に充分な断熱材が入っていれば結露を軽減させることができますが、「そもそも壁内の断熱材の量が不足している」「断熱材の詰め込み方にムラがある」という場合もありますし、「月日の経過により壁の中の断熱材がカビており、そのカビが室内に侵攻してきている」というケースも少なくありません。
雨漏りや漏水
こちらはあまり多いケースではありませんが、「気付かない間に雨漏りが発生しており、その水分が壁や天井に浸透してカビの原因となっている」というパターンもあります。
また、鉄筋コンクリート造のマンションなどにおいては「上階の配管から発生した漏水が徐々に浸透し、下の階の天井や壁をカビさせている」という事例も存在するのです。
カビの健康被害について
ここまで家の壁にカビが生える原因について解説してまいりましたが、こうしたカビを放置した場合にはどのような健康被害が生じることになるのでしょうか。
カビによる健康被害として挙げられるのが
- アレルギー症状
- 感染症
- カビ毒による被害
以上の3点となります。
カビが生えた部屋で長期間生活していると、アレルギー性鼻炎など様々なアレルギー症状を引き起こすことは有名なお話ですが、粘膜などにカビの胞子が採り付くことで発生する「真菌症」と呼ばれる感染症の危険度も決して低いものではありません。
更に、キッチンなどにカビが生えていれば食べ物がカビに汚染される可能性が高くなりますから、カビの混入した食品を摂取し続ければ「食中毒」を引き起こすことがありますし、カビ毒は「発がん性」があることでも知られています。
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壁のカビ対策をご紹介
ではここからは、具体的なお部屋のカビ対策について解説してまいりましょう。
カビの除去
カビの健康被害の項でもお話しした通り、「カビだらけの部屋での生活」はそれだけでリスクを伴いますから、まずはカビ掃除の基本を押さえておきましょう。
カビ掃除に関しては「中性洗剤」「塩素系洗剤」「アルコール」など、様々な洗剤等を用いることができますが、壁の掃除となるとクロス(壁紙)との相性を充分に考慮する必要があります。
ビニールクロスの場合は原則として水を弾きますからあまり神経質になる必要はありませんが、他の素材の場合は変色等を招く可能性も十分に考えられますし、実際に掃除をしてみたら「ビニールクロスではなかった」というケースも耳にいたします。
よって、カビ掃除に際してはまず目立たない場所で壁紙に洗剤を塗り付けて、「変色等が発生しないかのテスト」をしてみることが重要です。
また、塩素系洗剤は強力な洗浄力を有していますが、酸性の物質と結合することで『塩素ガス』を発生させ、これを吸引すれば生命の危機に陥ることもありますので十分な注意が必要となります。
更に塩素系洗剤は水で洗い流さない限り、壁紙などに付着したままとなるケースが多いため、後日、酸性洗剤を使用することで塩素ガスが発生する可能性がありますので、この点にも是非お気を付けください。
除湿剤
カビを繁殖させる大きな原因には「湿度」が挙げられますので、『除湿剤を利用してお部屋の湿度を下げる』という方法も有効ではあります。
但し、ここで重要なのは「除湿剤の性能」と「お部屋の湿度」のバランスとなります。
常に壁紙がカビているようなお部屋の湿度を、少々の数の除湿剤で下げるのは困難ですから、状況が酷い場合にはおすすめできない方法となるでしょう。
除湿機
近年では高性能な除湿機も登場しているため、これをカビ対策に利用するの一つの方法でしょう。
なお、除湿機の利用に際しては当然ながら電力が必要となるため、ランニングコストがそれなりに発生する点と、除湿した水分を貯めるタンクの水を捨てる手間が掛かる点がデメリットと言えるでしょう。
カビに強いクロスへ張り替える
さて、ここからはリフォーム作業を伴う本格的なカビ対策についてお話ししていきたいと思います。
近年では壁のカビ対策として、様々な防カビ効果が付与された壁紙が発売されており、
以上が主なラインナップとなります。
「光触媒タイプ」の壁紙は、光を浴びることでカビを分解することができますが、光の当たらない場所には効果がないため、家具の裏側などの防カビには不向きです。
また、「湿気排出タイプ」や「珪藻土タイプ」の壁紙は、湿気対策用の石膏ボードと組み合わせることで効果を発揮する代物であり、余分な湿気を壁の中へ逃がすのが特徴となります。
一方、湿気吸収タイプはおむつなどに使用される吸水性ポリマーで「室内の湿度を壁紙自体が吸収して湿度の調整を行う」のが特徴です。
そして、そもそもカビ辛い素材で作られているのが「防カビタイプ」の壁紙であり、『カビが生え辛い』という意味ではこのタイプの壁紙が最も効果を発揮するかと思います。
なお、壁がクロスではなく塗り壁であるという場合には、使用する塗料を防カビ性のものとすることで、カビの繁殖を抑制することが可能です。
但し、壁紙や塗料による対策は「日照の悪さ等の部屋の配置の問題」などでカビが生じている場合が限度であり、結露などの圧倒的な湿気の前ではあまり効果的な対策とは言えないのが現実でしょう。
24時間換気システムによるカビ対策
お部屋の換気を行うことは非常に有効なカビ対策となりますが、キッチンの換気扇を一日作動させておく訳にはいきませんし、そもそも一台の換気扇で家全体の換気が行えるはずもありません。
そこでおすすめとなるのが、24時間換気システムの導入となります。
24時間換気システムは2007年の法改正により新築住宅のシックハウス症候群対策として設置が義務付けられた設備であり、その名の通り24時間自動制御で換気が行えるため、カビ対策としては非常に有効です。
また、24時間換気システムには吸気や排気の方法によっていくつかの方式がありますが、カビ対策としては換気扇自体で吸排気が可能な機器を設置すべきかと思います。
なお、24時間換気システムによるカビ対策はかなり強力なものとなりますので、しっかりと機器を作動させておけば、かなり結露の激しいお部屋でも効果を実感できる可能性が高いでしょう。
但し、常に換気を行っていれば電気代はそれなりに掛かりますし、室内は冬寒く、夏は暑くなりがちですから、この点は是非お気を付けいただきたいところです。
更に換気扇の取り付けに際しては、建物の躯体に穴を空けなくてはなりませんので、鉄筋コンクリート造のマンションなどの場合にはそれなりの費用が発生することになるでしょう。(高層階の取り付けには足場も必要となりますし、分譲マンションの場合には穴を空けること自体が困難です。)
壁に断熱材を埋め込む
さて、「究極の壁に生えるカビ対策」となるのが壁の中に断熱材を埋め込むという方法です。
但し、現在の壁を一度撤去しなければなりませんので、これまでご紹介した対策の中でも最も規模の大きな工事となることは確実でしょう。
工事の工程としては、まず壁を破壊してカビ発生の原因を突き止めることから作業がスタートすることになります。
もしもこの段階で、壁の中にある断熱材が全てカビているようなら「上階からの漏水や雨漏り」、または「断熱材の施工不良による壁内での結露発生」が原因ということになるでしょう。
そして漏水や雨漏りについては、その原因を断つ(修繕する)ことで対策は完了となるでしょうが、断熱材の施工不良の場合は少々厄介なことになる可能性もあります。
断熱材が施工不良であるということは、
- 冬場/部屋の暖かい空気が断熱材を通過して、外気で冷やされた外壁に当たって結露が発生
- 夏場/部屋のエアコンで冷やされた空気が断熱材を通過して、太陽に熱せられた外壁に当たって結露が発生
という状況により、「外壁と断熱材の継ぎ目の部分から、室内に向けてカビが侵攻してきている状態」であるということです。
よって、『断熱材を詰め直して室内の温度が外壁にまで伝わらないように、しっかりとした断熱処理を行わねばならない』のですが、物件によっては
そもそも適切な断熱処理を行うのに必要な壁の厚さが確保されていない
という状況もあり得るでしょう。
こうした状況においては本来の壁の位置を部屋側に移動させなければ(壁をフカさなければ)なりませんので、壁がせり出すことでお部屋の面積が狭くなってしまうことになるのです。
このように断熱材の埋め込み工事は「究極の壁のカビ対策」である反面、
- 想像以上の大工事となる可能性がある
- 工事費用が高額になる可能性がある
- 入居中の工事は至難の業である
- 部屋の面積が減少する可能性がある
というリスクも含んでいるのです。
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壁のカビ対策について解説まとめ
さてここまで、壁のカビ対策について解説を行ってまいりました。
日常生活における「カビ対策」というと掃除をすることくらいしか頭に浮かばないものですが、カビの発生場所が室内の壁となると、本日お話ししてきたように、想像以上の「大事(おおごと)」へと発展する可能性があることをご理解いただけたことと思います。
そして物件の購入やお部屋を借りる際には、こうした物件を選択することのないように細心の注意を払いながら、意思の決定を行っていただくようお願いいたします。
ではこれにて、「壁のカビ対策について解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。