ひと昔前までは当たり前に使用されていた「薬剤」などが、後になって「実は健康上問題がある!」などといった指摘を受けることがあるものです。
なお、建築や不動産の業界においては「シックハウス症候群」を引き起すホルムアルデヒドなどが記憶に新しいでしょうが、最も世間を騒がせた問題と言えばアスベスト(石綿)による健康被害となるでしょう。
そこで本日は「アスベストの見分け方や、使用物件を見抜くコツをお教えします!」と題して、建築年代や現地調査での簡易的な石綿の判別法から、本格的な調査手順や対策工事の種類などについてお話ししてみたいと思います。
アスベストとは?
近年何かと耳にすることの多い「アスベスト」や「石綿」などといった言葉ですが、その正体や性質について詳しくご存じの方は意外と少ないと思われますので、まずはこの点からご説明を始めさせていただきましょう。
さて、アスベストが人体に害をなす物質であるということは誰でもご存じでしょうが、「有害物質」という言葉を聞くと『化学物質』をイメージされる方も多いことと思われます。
しかしながらアスベストは元々自然界に存在している物質であり、その正体は蛇紋石や角閃石といった鉱物から採取される繊維状の物質のことです。
「鉱物なのに繊維状」というのは非常に不思議な感じも致しますが、先に挙げた鉱石を割った際にはその断面に非常に目の細かな糸状のものが顔を覗かせるといいますから、『自然の作り出す神秘的な物質』としか言いようがありません。
そしてこのアスベスト、繊維状でありながらも高い耐火性能と耐久性を兼ね備えており、古来より「燃えない不思議な繊維」として人々から珍重されて来たのです。
やがて時代は下り、近代に入るとこのアスベストは電気製品の材料や建築部材の原料として利用されるようになり、我が国でも一時期は「アスベストを使用していないと建築の許可が下りない」という種類の建物まで存在していたといいます。
ちなみに、アスベストにはいくつかの種類が存在し、
- クリソタイル(白石綿)
- アモサイト(茶石綿)
- クロシドライト(青石綿)
- アクチノライト
- トレモライト
- アンソフィライト
以上、6種類が主なものとなります。
こうして世間で広く使用されるようになっていた石綿でしたが、その繁栄の歴史に大きな影を落とす事件が発生します。
それは1973年にアメリカで起こされたアスベストメーカーに対する訴訟であり、裁判所はアスベストの健康被害を認定し、メーカー側に損害の賠償を命じたのです。
この事件を切っ掛けにアスベストショックとも言うべき訴訟ラッシュが起こり、日本もこのトレンドに巻き込まれていくこととなります。
なお具体的なアスベストの危険性については、
空気中に漂う飛散繊維を吸い込むことで「肺がん」などを発症させる
というものであり、我が国でも時代の流れと共に何度かアスベスト使用に関する法改正がなされて行ったのです。
年代である程度の予想を
ここまでお話しして来たアスベストの解説を聞けば、この物質の恐ろしさを改めて認識させられるのと同時に「果たして自分が住んでいる家は大丈夫なのか?」、「この前購入した投資物件には使用されていないのだろうか?」という不安が湧き上がって来ますよね。
こうした不安を解消する第一歩としてご紹介したいのが、「アスベストの使われ方」と「使用に係る法規制」のお話となります。
既にお話ししたように、アスベストは飛散した細かな繊維を肺に吸い込むことにより、健康被害を生じさせる危険物質です。
また実は過去には、「水道水の中に大量のアスベストが溶け込んでいた」という事件もあったのですが、口から食道、胃や腸を通過しても『人体に害はない』との判定がなされており、警戒するべきは「肺に吸い込む」という一点のみとなります。
よって、アスベストは「空気中に飛散さえしなければ過度に恐れる必要はない物質」ということになりますから、これを念頭に建築工事とアスベストの係わりを見て行きましょう。
さて、建築におけるアスベストの使われ方を見てみると、大きく分けて
- 建物への直接吹き付け
- 建材への混ぜ込み
の2つの方法が主流となっており、それぞれの使用方法に対して段階的な法律上の規制が行われて来ました。
まず最初に行われたのが、
最も危険性が高いとされる「吹き付けアスベスト」について、クリソタイル(白石綿)含有量が5%超の建材の使用禁止措置
という内容の法規制となります。
なお、この規制から20年後の法改正では
- 「吹き付けアスベスト」について含有量1%超の建材の使用禁止へ規制が強化
- アモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)を規制対象へ追加
という内容が盛り込まれることになりました。
一方、比較的危険性が低い(破損しなければ飛散しない)とされる「建材への混ぜ込み」についても
0.1%以上のアスベストを混ぜ込んだ建材等の製造禁止
という規制がなされたのを皮切りに、
アスベスト含有製品が原則として製造禁止
という措置がとられることとなりました。
そして、この法規制の歴史から読み取れるのが、1975年以前(昭和50年)の建物は飛散の危険性が高い「吹き付け」が行われた物件も数多く、アスベストのリスクが最も高いということです。
ちなみに1976年(昭和51年)以降も含有料5%未満の吹き付け工事は行われていましたが、1989年(平成元年)には吹き付け材が全面的に製造中止となりましたから、1975年(昭和50年)~1989年(平成元年)までは「吹き付け」に注意が必要ということになります。
そして1990年(平成2年)以降は、石膏ボードやサイディングなどに混ぜ込まれたアスベストのみが心配ということになりますが、こうした状態の石綿は解体工事などで破壊される以外に飛散の恐れは少ないですから、少々安心感が出て来ますよね。
更に2006年(平成18年)以降であれば、最早アスベストは不使用(0.1%以下)とも言える状態となりますから、全く問題がないということになります。
よって1990年(平成2年)以降の建物であれば、住んでいるだけで健康被害が出ることは「まず無い」と言えるでしょう。
ただ、アスベストを含んだ部材が使用された建物を解体する場合には飛散を避けるために様々な措置を行う必要がある上、
吹き付けアスベストの撤去ともなれば費用も膨大となりますから、中古物件を買う際にはこうした年代によるリスク判定と並行して、専門家による鑑定も行うのが賢明です。
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吹き付けアスベストの見分け方
さてここからは、素人でもできるアスベストの簡易鑑定方法をご紹介してまいりましょう。
まず申し上げたいのは、部材に混ぜ込まれたアスベストについては、外見からの判断は非常に難しいという点です。
アスベストの繊維は意外に大きいため、砕いた部材の断面を顕微鏡などでみれば「アスベスト特有の束状になった繊維」を確認できることもありますが、これだけで判断するのはかなり危険な行為となります。
よって確実な判定をしたいならば、部材の品番等を基にメーカーなどに確認するのが賢明でしょう。
ちなみに、アスベスト含有建材が使用されている可能性が高いとされているのが
- スレート(屋根材)
- サイディング(外壁材)
- 石膏ボード(室内の壁)
- クッションフロアー(室内の床材)
上記の部材となりますので、築年数の古い物件については注意が必要となります。
これに対して、「吹き付けアスベスト」については素人でもある程度の判断が可能です。
但し、ここでご紹介する方法はあくまでも簡易的な判定法となりますから、参考程度に考えていただくようにお願いいたします。
実はここまでお話しして来た吹き付けアスベストには「非常に良く似た物質」が存在しており、こちらについては健康被害が確認されていないため、今でも多くの建物に利用されています。
そしてその物質というのが「ロックウール」と呼ばれるもので、アスベストと同様に鉄骨などへ吹き付けることで耐火性を高めたり、断熱材としても利用されているのです。
ただ、この「ロックウール」と「アスベスト」の吹き付けは、見た目には殆ど区別が付かず、「ロックウールだと思ったらアスベストだった!」などというトラブルも少なくありません。
このような際に便利なのが、これからご紹介する2つの方法です。
指で砕いてみる
まず最初にご紹介する判定法は、吹き付けられた綿を指で剥ぎ取り、指先でコロコロと転がしてみるという方法です。
ロックウールの場合は、粉々に砕けてパラパラと粒状になりますが、アスベストの場合はあまり変化がなく、繊維の状態を維持します。
酢を掛けてみる
こちらも指でサンプルを取るまでは一緒ですが、これに酢を掛けてみるという方法です。
ロックウールの場合には酢の酸によって溶け始めますが、アスベストの場合は溶けることなく、酢を吸収してゲル状に変化します。
さて以上2つの方法が、その場で簡易的に行えるアスベストの判定方法です。
投資物件の下見に行った際などに、怪しい吹付を見付けたら是非試してみてください。
但し、指でサンプルを取った際に粉塵を吸い込む危険性もありますので、この点には充分にご注意いただきたいのと、あくまで簡易的なテストである点をご理解願えれば幸いです。
なお、吹き付けアスベストが使用されている可能性が高い箇所としては、
- 鉄骨造の建物の柱・梁
- ボイラー室やEV機械室の壁・天井
- 配管周り
- 駐車場の天井 等
が挙げられるでしょう。
ちなみに、ロックウールとアスベストを混合したものを吹き付けていた時代もありましたので、今回ご紹介した簡易検査法と年代予想でも確証が得られない場合には、迷わず検査機関にアスベスト使用の判定を依頼するべきだと思います。
本格的なアスベストの調査
ここまで解説して来た方法を用いれば「購入を検討している物件にアスベストが使用されているか否か」について、おおよその判断が可能となるはずですが、「たとえアスベストが使用されている可能性があっても、物件を買いたい」ということになれば、次に行うべきは専門家による本格的な調査となります。
アスベスト調査を行う者の資格については明確な定義がある訳ではありませんが、建築物石綿含有建材調査者や石綿作業主任者などを擁する業者に調査依頼を行うのが無難でしょう。
なお、実際の調査は建物の設計図などを基にした「資料による調査」と「現地調査」の2本立てで行われるのが通常であり、その分析結果によって『今後の対策の方向性』が示されることになります。
ちなみにアスベストの使用状況については、その程度によってレベル1~3までのランク付けがなされており、
- レベル1/建物本体にアスベストが吹付けられた状態であり、飛散リスクが最も高い状態
- レベル2/建物に固定されては(吹付けられては)いないものの、断熱材などとして使用されている状況(飛散する可能性は高い)
- レベル3/建材にアスベストが練り込まれている状態となりますから、手作業で撤去を行えば、それ程飛散リスクは高くない状態
以上のような区分となっています。
アスベスト対策工事の種類
そして調査の結果を受けて、「アスベストの対策が必要」となった場合にはどのような作業が待っているのでしょう。
実はアスベスト対策には大きく分けて3つの工法があります。
アスベストの除去工法
文字通り、建物に使用されているアスベストを根こそぎ除去してしまう工法となります。
但し、吹付けアスベスト等を撤去する場合には有害な粉塵が大量に発生しますので、作業員の健康や周辺の環境に悪影響を及ぼさないよう、建物を保護シートで覆った上、集塵機を稼働させながらの作業となるため、工事の規模・費用共にボリュームの大きなものとなるでしょう。
アスベストの封じ込め工法
続いてご紹介するのは、アスベストに特殊な薬剤を噴霧して、飛散しないように固めてしまう工法となります。
この方法であれば作業に際して粉塵が舞うリスクは低く、集塵機等の設置は原則不要となりますので、「アスベストの除去工法」に比べて費用は安価なものとなるでしょう。
但し、飛散するリスクは下がるものの、アスベスト自体は建物に残置されることになりますから、将来的には解体工事などに際して、再びアスベストの問題と向き合う必要が生じます。
囲い込み工法
そして最後にご説明するのが「囲い込み工法」となります。
先程ご紹介した「封じ込め工法」と同様にアスベストを建物に残す手法となりますが、薬剤は使用せずに、建材にて露出したアスベストを囲い込んでしまう(建材を箱状に組んで隔離する)工法です。
「封じ込め工法」と大きな差はありませんが、アスベストが使用されている箇所の状況によっては「囲い込み工法」による対策がより効率的なケースもあります。
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アスベストの見分け方まとめ
さてここまで、アスベスト被害の概要や、簡易的な見分け方、調査方法や対策工事の種類などについてお話ししてまいりました。
これまで解説して来たように、アスベストは不動産取引における重大な脅威となりますから、築年数の古い中古戸建てや、収益物件の購入を考えている方は、是非ともアスベストに対する知識を身に付けていただきたいところです。
なお、改めて年代別の判定法を整理してみますと、
- 1975年(昭和50年)以前の建物/アスベストのリスクが非常に高い (吹き付けアスベスト)
- 1989年(平成元年)までの建物/アスベストのリスクは中程度(部材に含まれたものは解体しない限り飛散しないが、一部で含有量の低い吹付が存在する可能性が有り)
- 1990年(平成2年)〜2005年(平成17年)までの建物/アスベストのリスクは低い(吹き付けはまず無く、部材の含有量も低い)
- 2006年(平成18年)以降の建物/アスベストについてはリスクなし
ということになります。
ちなみに、これは「確実に」とは言えませんが、私の経験上アスベストが使用されている可能性が最も高いのが鉄骨造の建物であり、続いて多いのがRC造(鉄筋コンクリート造)の建物です。
そして最も確率が低いのが木造住宅となりますから、こうした傾向も覚えておくと便利かもしれません。
アスベストに対して正しい知識を身に付け、リスクのない不動産売買や管理を行いたいものですよね。
ではこれにて、「アスベストの見分け方や、使用物件を見抜くコツをお教えします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。
出典 ロックウール工業会HP