既に不動産業者に勤務して20年以上が経過している管理人ですが、ご年配の方に「不動産屋さんに勤めている」とお話しすると時折、怪訝な顔をされてしまうことがあります。

確かに私もこの業界に入る前には、不動産の仕事をしている方は「油断がならない」というイメージがありましたし、昔は何かと無茶をされた先輩方も多かったようですから、年代によっては「要警戒職種」という印象が抜けないのかもしれません。

ただ現在では様々な法整備が行われ、業界団体でも自主的に厳しいチェックを行っていますので、「悪いことをしている不動産屋さんを見掛けることは殆どない」のが現状です。

ところが、このような状態にあるにも係らずネットを検索していると「詐欺にあった」などの報告も度々目にいたしますので、本日は「不動産賃貸詐欺について考えてみます!」というテーマにて知恵袋をお届けしてみたいと思います。

不動産賃貸詐欺

 

賃貸詐欺と呼ばれる事例

ではまず、ネットなどで「詐欺だ!」と問題視されている事例について見て行くことにしましょう。

礼金積み増し

お部屋探しをしている方が不動産業者を訪れ、紹介された賃貸物件に申込みをしたものの実際に契約しようとしたら「礼金の金額が跳ね上がっていた」というのがこちらのパターンです。

このケースは客付け業者(物件にお客様を紹介する不動産屋さん)が報酬額のアップを狙い、資金に余裕のありそうなお客様に対して「礼金を上乗せして物件紹介」をする際に起こるトラブルとなります。

なお、積み増された礼金は一旦大家さんや管理会社の手に渡り、その後、客付け業者に広告宣伝費として戻って来ることになりますので、「仲介手数料」と「広告宣伝費」の二重取りが可能となる訳です。

なお通常は、最初にお客様に入居者募集図面を渡す段階から「礼金上乗せ済みの資料」を渡すのが一般的なのですが、契約前に礼金が跳ね上がったところをみると「後から上乗せしたくなった」か「上乗せするのを忘れていた」可能性が高いでしょう。

もちろんこうした行為は「不動産屋業者として好ましくない行為」となりますが、実務においては頻繁に行われているのが実情です。

但し、今時はネット検索をすれば「複数の不動産業者がホームページに同じ物件を掲載しているのを発見できるケース」も多いため、礼金の水増しはアッと間に露見してしまう可能性が高いでしょう。

ちなみに似たような手口としては、法人契約で会社が契約金を負担する場合などに、入居希望者と仲介業者が結託して礼金を水増し請求をするケースがあります。

囮(おとり)広告

最近では報道番組などでもこの手口が取り上げられているため、既にご存じの方も多いかもしれませんが、「存在しない物件情報をお客様に提供して集客を行う」のが囮広告のやり口です。

手口の概要としては、条件が良く、直ぐに成約しそうな物件情報を見付けた不動産業者がこれをネット広告として掲載し、たとえ物件が成約済みとなっても広告を取り下げることなく放置を続けます。

そして実際にお客様から問い合わせがあった際には「是非一緒に物件を見に行きましょう」とご案内のアポイントメントを取るのですが、当日業者に来店すると「こめんなさい、物件の募集状況を確認したところ既に成約してしまったようなので、別の物件を見に行きましょう」といった具合に、文字通り『囮の物件でお客様を誘い出し、他の物件に誘導していく手口』です。

なお、こちらの手口は不動産業界内でも「業界全体の信頼性を損ねる行為」として強く問題視されており、囮広告撲滅のために業界団体などでも自主的な取り締まりを強化している模様です。

ちなみに囮広告に引っ掛からないようにするためには、案内の当日、来店前に電話で仲介業者に物件の募集状況についての確認を行う方法が有効でしょう。

また、ここまでしても来店した際に「決まってしまいました」などと言って来る業者は非常に悪質ですからキッパリと案内を拒否して、別の不動産業者に物件探しの依頼をするべきです。

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不動産屋さんも騙されている

さて、ここまでは「お客様が不動産業者に騙されるケース」をご紹介してまいりましたが、近年では不動産屋さん自体も詐欺の被害に遭ってしまうパターンも増えて来ているようです。

そこでこちらの項では、私の知り合いの不動産業者が実際に引っ掛かってしまった不動産賃貸詐欺の手口をご紹介いたしましょう。

賃貸物件の入居者募集においては、大家さんから物件の管理を任されている「管理会社」と、物件に入居希望者をご案内して成約を目指す「客付け業者」の2種類の業者が取引に介在します。

そして「客付け業者」は管理会社に連絡の上、鍵の在処を聞き出し、お客様を物件へとお連れして入居の申し込みを入れるまでが仕事となりますが、これ以降は「管理会社」が重要事項の説明から賃貸借契約、引渡しまでを取り仕切るのが通常です。

ちなみに、この詐欺の手口においてはこの管理会社と客付け会社のシステムを巧妙に利用しているのが特徴となります。

さて具体的な詐欺手口としては、まず詐欺会社がレインズ(不動産業者同士の物件情報共有媒体)などで「複数の会社が管理を行っている(入居者募集を行っている)賃貸物件」について『管理会社のフリ』をして客付け業者に入居者募集の広告活動を行うところから全てが始まります。

なお、何も知らない客付け会社はこの広告を見て「物件の問い合わせ」を詐欺会社に行い、物件へのお客様のご案内やお申し込みをしてしまうのです。

また先程も申し上げた通り、ここまでくれば客付け会社の仕事はほぼ完了となりますから、後は管理会社との契約の段取りを整えるだけとなりますが、ここで詐欺会社は客付け会社に対して「契約金を事前に指定口座に振り込んで欲しい」との依頼を掛けて来ます。

ちなみに、「事前に契約金を振込むこと」自体は業界内ではよくあるパターンなので、客付け会社は何の疑いもなく指定口座へ振込みを行った上で、管理会社へ契約に向かうようにお客様へ指示を出してしまうことになるでしょう。

しかしながら、契約するためにお客様が管理会社を訪ねると事務所はもぬけの殻となっており、まんまと契約金を詐欺会社に騙し取られてしまうという訳なのです。

そして、このような事態になってしまえば「お客様の怒りの矛先」は当然客付け会社に向けられる(契約金の返還を求められる)こととなりますから、結局は「不動産屋さんが最大の被害者」となってしまうのです。

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賃貸詐欺まとめ

このように現在では、お客様ばかりか不動産屋さんまでもが詐欺のターゲットにされてしまう時代となっています。

もちろん不動産業界としては「お客様に対しての詐欺行為の撲滅」はもちろん、前項でご紹介したような「不動産屋狙いの犯罪」に対しても、目を光らせていかねばなりません。

特に詐欺管理会社の件については、事前に「取引の相手方の素性についての調査」をしていればトラブルを回避できた可能性が充分にありますから、これは大いに反省するべきであると思います。

また、今回の記事では賃貸における詐欺の手口について解説いたしましたが、近年では売買においても地面師による事件が頻発していますので、不動産業者はこれまで以上に緊張感っを持って業務に臨むべきでしょう。

私たち不動産業者は皆様の大切な資産をお預かりする立場であるが故に、誰よりも「誠実」に、そして誰よりも「抜かりのない」存在であり続ける必要があるのかもしれません。

そして私も微力ながら、今後も業界全体のレベルアップに少しでも貢献できるように頑張って行きたいと思います。

ではこれにて、不動産賃貸詐欺について考える知恵袋を閉じさせていただきます。