借地権が設定された物件においては、時には地主と借地人との間で訴訟に発展するケースもありますが、無数にある借地の問題に一件一件対応するのは、裁判所としても「しんどい作業」と言わざるを得ません。

そこで我が国では、「借地非訟」なる制度が設けられているのですが、実際に借地に住んでおられる方や地主さんでも「詳細は知らない・・・」というのが実情であるようです。

そこで本日は「借地非訟とは?わかりやすく解説いたします!」と題して、地主と借地権者の争いを解決する司法システムについてお話をしてみたいと思います。

借地非訟

 

借地非訟って何?

ではまず最初に、「そもそも借地非訟とは何なのか」という点から解説を進めてまいりましょう。

「非訟」という言葉は耳慣れないものとなりますが、文字からすると「訴訟とは別物」との印象を受けるはずです。

ただ実際は、申し立てが行われるのも裁判所となりますし、期日を迎える度に出廷を求められることになりますから、「非訟とは言うものの、限りなく裁判に近いもの」という解釈が妥当でしょう。

但し、通常の民事裁判とは異なり関係者以外が傍聴することはできませんし、地主と借地人が和解が不能な場合には「判決」ではなく『決定』という形をとっていますから、やはり裁判とは少々趣を異にするものなのです。

そして、借地非訟の最大の特徴が借地問題に特化した司法システムであるという点であり、対象となる事件も

  • 借地条件変更申立事件
  • 増改築許可申立事件
  • 土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件
  • 競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件
  • 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件

のみと定義されており、「発生件数の多い借地問題を短時間で効率良く解決するべく、簡素化された制度」となっているのです。

なお、事件一覧を見て「更新料や地代に関する事件が含まれていない!」とお気付きになった方もおられるかもしれませんが、実は「更新料の支払い」や「地代の値上げや値下げ」に関する問題は借地非訟の対象外となっていますから、これらについて争う場合には「通常の民事裁判」を起こすしかありません。

ちなみに借地非訟は地主側・借地権者どちらからでも申し立てが可能であり、裁判所にて手続きを行えば、概ね2ケ月以内に第1回期日が指定され、裁判官立会いの下に手続きが開始されることになります。

こうしてスタートする借地非訟ですが、問題が複雑な場合や、双方の主張が真っ向から食い違うケースでは第2回、3回と期日を重ねていくことになりますし、状況によっては5回、6回と裁判所に足を運ぶことにもなりかねないのです。

もちろん途中で、当事者同士の意見が歩み寄れれば「和解」という結末を迎えることができますが、どうしても決着が付かない場合には裁判官が「決定」を下すこととなり、これに納得できない者は高等裁判所に控訴することになるでしょうから、その先は借地非訟ではなく通常の裁判となります。

※裁判官も不動産の専門家ではないため、決定に至るまでには不動産鑑定士などの専門家によって構成される鑑定委員会の意見を参考にするなど手続きを経ますので、地主・借地権者のどちらか一方に極端に不利な決定が下されることは少ないようです。

 

借地非訟の流れ

前項にて、借地非訟の概要についてはご理解いただけたことと思いますので、本項では実際に借地非訟を行うための流れについて解説してまいりましょう。

地主や借地権者との交渉が決裂し、「もはや法的な手段に訴えるしかない」という状況になったならば、物件所在地を管轄する地方裁判所にて借地非訟の手続きを開始することとなります。

もちろん弁護士に依頼を行えば「その一切の手続きを任せる」ことができますが、多くの裁判所では借地非訟専門の窓口が用意されていますし、前項でもご説明した通り「扱う事件も定型化されたもの」となりますから、当事者が自力で手続きを行うことも不可能ではありません。

そして裁判所の窓口へ借地非訟の申立書を提出し、これが受理されれば第一段階は終了となりますが、借地権の契約書や土地や建物の評価証明書、登記簿謄本(登記事項証明書)に公図など、様々な資料を用意する必要がありますから、後日不足していた書類などを裁判所に送る作業なども出て来るはずです。

こうして申し立てが完了すれば2ケ月程度の期間を置いて、第1回期日が設定され、いよいよ法廷での審理が始まります。

審理の進捗状況次第で1ケ月程の期間を置いて第2回、3回と期日が重ねられて行き、その過程では鑑定委員会と呼ばれる専門家(弁護士や不動産鑑定士等)たちの意見も参考にしながら、借地非訟は進められて行くことになるでしょう。

ちなみに、どんなに話し合いを尽くしても結論が出ない場合には裁判所が判決に相当する「決定」を下すことになりますが、借地非訟という制度自体が円満な解決を目指したものとなりますから、ここに至るまでには裁判官から何度も和解の提案があるはずです。

そして最終的に決定が下され、これに納得できない当事者は抗告を行うこととなり、争いの舞台は借地非訟から高等裁判所での民事訴訟へとシフトして行くことになるでしょう。

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借地非訟のポイントを解説

これまでの解説により、皆様にも借地非訟のおおよそのイメージが沸いてこられたことと思いますが、ここでもう一段踏み込んだ借地非訟の実態に迫ってみたいと思います。

基本的に決定の方向性は決まっている

借地非訟は「借地の問題をスマートに解決するための制度」である旨は既にお話しいたしましたが、これを裏返せば「堅実な問題解決方法しか引き出せない制度」という側面も持っていることになります。

つまり、借地非訟で扱える事件のメニューは固定されている上、これまで数限りない件数の訴訟を経て判例の蓄積も十分過ぎる程にあるが故に、問題が持ち込まれた段階で「裁判所はおおよその着地点を想定している」ことになり、過去の判例を覆すような革新的な決定が下されることは『まずあり得ない』訳です。

もちろん、過去の例に当てはまるオーソドックスな内容の事件であれば、それでも構いませんが、特殊な事情があるにも係わらず、これを加味せずに決定を下されるのは正直納得がいきませんよね。

裁判官のクオリティーも

前項でお話しした通り、借地非訟は裁判所が扱う事件の中でも少々特異な分野のものとなりますし、地域によっては「年に数件しか申し立てがない」ということも珍しくありません。

よって裁判官的にもあまり面白みのある分野ではないでしょうし、時には経験の浅い裁判官が担当しているケースも少なくない(もちろん、全てという訳ではありませんが)ようですから、審理の方向性に疑問を感じる当事者もおられるはずです。

但し、どんなに納得が行かなくとも「法廷で裁判官にツッコミを入れる」などという芸当は素人には難しいでしょうから、経験豊かな弁護士などに代理人を任せるのが得策であるかと思います。

借地非訟のメニューから外れると別の裁判に

「借地非訟には定型のメニューがある」という旨は繰り返しお伝えしてまいりましたが、争いの内容が込み入っている場合には、審理の途中で様々な分野に話が波及していく可能性もあります。

しかしながら借地非訟で扱える内容は非常に限定的であるため、場合によっては別途通常の民事訴訟を起こさなければならないシーンも出て来るようですから、この点には注意が必要でしょう。

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借地非訟とは?わかりやすくまとめ

さてここまで、借地の問題を迅速に解決できる「借地非訟」について解説を行ってまいりました。

「借地非訟」という仰々しい響きを聞くと、思わず尻込みをしてしまいそうになりますが、こうして整理してみると素人でも十分に活用できる制度であることをご理解いただけたはずです。

また一方で、単純な制度であるからこその難しさ(決定の方向性が決まっている点や、扱える問題が限られている点)も同時に持ち合わせていますから、複雑な事情が絡む案件の申し立てを行う際には、しっかりと専門家のアドバイスを受けながら、慎重な対応をしていただければと思います。

ではこれにて、「借地非訟とは?わかりやすく解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。