不動産の取引において、非常に重要なプロセスとされるのが「契約」というイベントであり、賃貸の取引においては契約後何年にも渡って契約関係が継続することもありますから、契約書の作成には万全を尽くしたいところです。

そして、契約書の内容について打ち合わせを行っている際に時折耳にするのが「公正証書による賃貸借契約」というワードになります。

そこで本日は「公正証書の賃貸借契約を解説いたします!」と題して、知っていそうで知らない公正証書と不動産契約についてお話しさせていただきたいと思います。

公正証書の賃貸借契約

 

公正証書とは何か?

ではまず最初に、「そもそも公正証書って何だろう?」という点から、お話をスタートさせましょう。

公正証書とは、大きな街でしばしば見かける公証役場において作成される「文書」を指す言葉となります。

※公証役場は法務局が管轄する公的な機関であり、全国に300ヶ所以上設置されています。

そして公証役場には「公証人」と呼ばれる元裁判官、元検事といった経歴を持つ公務員が在籍しており、一定の手数料を支払うことで、高い信頼性と法的効果を有する「公正証書」と呼ばれる公文書を作成してくれるのです。

つまり公正証書とは

社会的な信用が高く、法律のプロフェッショナルである公証人立会いの下で作成される、証拠能力と執行力を兼ね備えた公文書

ということになります。

よって、公正証書で定めらて内容に関しては「そのような約束をした覚えはない!」「当事者間で文書の内容の解釈に違いが生じた!」などの疑義を挟む余地は存在しませんので、これを契約などに用いることで『取引上のトラブルを効果的に回避するができる制度』となっているのです。

公正証書の作り方

では実際に公正証書を作成する場合には、一体どのような手順を踏むこととなるのでしょうか。

まず最初に行うべきは、契約などを結ぶ当事者同士が揃って公証役場を訪れ、交わしたい文書の内容を公証人へ申請するという作業となります。

なお公証人は持ち込まれた文書の内容に目を通し、「明らかに違法性がある内容」などが含まれていないかのチェックを行い、時には文書の一部に修正を加えてこともあるでしょう。

但し、あくまでもこのチェックは「法律家としての目線で確認を行うだけ」ですから、文書の内容自体に意見をすることはありません。

そしてこの確認作業が完了したなら、数日間の文書作成期間を経て申請した内容がそのまま公正証書に仕立てられることになるのです。

こうして公正証書が完成した後は、当事者が再び公証役場に出向いて公証人立会いの下、実印・印鑑証明書添付で署名・捺印を行い、契約は終了となります。

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公正証書の効力

さて、ここで気になるのが「こうして作成された公正証書には、一体どのような効力があるのか?」という点であるかと思いますが、先程も申し上げた通り公正証書の最大の特徴は「高い証拠能力」と「執行力」の2点です。

まず証拠能力に関しては、契約に際してありがちな、

  • 契約内容に関する解釈の相違
  • 契約内容に対する説明の不足
  • 契約書が捏造されたものである等の主張

などに対して、公証人が立ち会うことで異議を挟む余地をなくすることが可能となります。

また一般的には、契約書に定めらてた事項に違反があり、相手側がそれに伴う賠償金の支払いなどを拒んだ場合には、訴訟を提起して争う必要が生じます。

これに対して公正証書で契約を行っていた場合には、契約に強力な「執行力」が付加されることになりますから、裁判を行うことなくして「強制執行の判決と同等の効力」を得ることができるのです。

なお、こうしたご説明をすると「公正証書さえあれば何の手続きをせずに強制執行が行える」ように聞こえてしまうかもしれませんが、実務上は公証人に対して「契約違反があった旨」を申し出て執行文の作成を依頼し、その執行文を裁判所に持ち込むことで初めて強制執行が可能となります。

執行文の提出という手間は掛かりますが、改めて訴訟を提起するよりは、はるかに迅速な強制執行が可能となりますから、重要な契約などにおいては公正証書が用いられることが多いのです。

公正証書による賃貸契約について

ここまでの解説にて、公正証書が如何に強い効力を持つ文書であるかがご理解いただけたことと思いますが、これが「不動産の契約において」となった場合にはどうなるのでしょう。

まず不動産の契約というと売買契約が真っ先に頭に浮かびますが、

多くの売買契約は契約から決済までの期間が短い上、手付金や中間金の授受などによって「取引上の事故防止措置」を手厚く行っているため、わざわざ公正証書を利用しなければならないケースが意外に少ない

のが現実となります。

これに対して賃貸借契約

契約期間も長く、滞納などの「契約上の事故」が発生するリスクも高いため、公正証書が用いられるケースが多い

のです。

但し、ここで注意が必要なのは「公正証書に強制執行力がある」とはいっても、それはあくまで『金銭に係ることのみである』という点となります。

つまり、公正証書で行った賃貸借契約で滞納が発生して強制執行が行われたとしても、

「物件内にある物品や借主が所有する財産を差し押さえる」というだけのことであり、物件の明け渡しを行う目的での強制執行は行うことができない

ということになるのです。

そして当然ながら、賃料も払えない賃借人が多くの財産を保有しているケースは多くないはずですから、強制執行を行っても充分な債権の回収ができる可能性はそれ程高くないことになるでしょう。

こうして考えてみると、公正証書を利用しての賃貸借契約は「契約内容に関する異議を生じさせない」「契約自体に重みを持たせる」程度の意味合いしか期待できない可能性も大いにあるのです。

但し、事業用の定期借地権などの契約においては、公正証書による契約が義務付けられていますので、こうしたシーンでは欠かすことのできない制度となるでしょう。(詳しくは「定期借地権とは?という疑問にお答えします!」の記事をご参照ください)

不動産取引における公正証書、公証人役場の活用

ここまで不動産取引と公正証書の係りについて解説してまいりましたが、「不動産の契約においてはあまり公正証書はその能力を発揮できないのでは・・・」という感想を持たれた方も多いことと思います。

確かにこうした感想も全く的を射ていない訳ではありませんが、契約内容の中に「後々トラブルに発展しそうな要素」が含まれている場合などには、公正証書による契約は非常に有効な手法となる場合もあるのです。

例えば、借主に極端に不利な内容の特約などを賃貸借契約書に盛り込むと、後々消費者契約法の規定によって「無効」との判断が下される恐れがありますが、こうしたシーンで公証人に相談をすれば状況に応じた適切なアドバイスをしてもらうことができるでしょう。

また、不動産売買を前に『権利証や登記識別情報を失くしてしまった』といった場合には公証人役場で本人確認を行うことができますので、こちらもかなり便利な制度であるかと思います。

※本人確認は司法書士が職権で行うこともできますが、費用が高額となるケース多く、これに対して公証人の本人確認であれば非常に安価に手続きを行うことが可能です。

このように公証役場や公正証書の制度の特性を正しく理解し、必要に応じて賢く利用すれば不動産取引を有利に進めることも可能となりますので、この機会に是非知識を深めていただければ幸いです。

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公正証書の賃貸借契約を解説まとめ

さてここまで、不動産の契約と公正証書についてお話ししてまいりました。

公証人役場で公正証書を作成するとなると「なんだか敷居が高い」「手続きが面倒だ」といった印象を持たれるかもしれませんが、公証人の多くは非常に気さくで親切な方が多い印象です。

また、記事の中でもお話ししたように不動産取引において「どうしても公正証書が必要」というケースは少ないですが、非常に安価な費用で法律の専門家に文書を作成してもらえるサービスは非常にありがたいですから、この機会に是非公証人役場をご活用されてみては如何でしょう。

ではこれにて、「公正証書の賃貸借契約を解説いたします!」の知恵袋を閉じさせていただきたいと思います。